福山美祿とリユの〈プリズムドロー〉
「美祿、ドローフェイズを迎える前に、オレの口から改めて状況を説明させてくれ」
ターンを迎えてデッキトップに指を乗せようとした美祿に、リユが待ったをかけた。
「今のお前の総APは、艶井鼎から貰ったカードの効果で、晴那からのAP上昇効果を0にしたが完全に打ち消したわけじゃない。奴のきている〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉のアップ効果は、きている限り発動し続ける永続効果。そして、艶井鼎から貰ったカードの効果は、次の相手のメインフェイズの開始によって切れる」
「つまり、また晴那ちゃんのターンになったら、0にした数値が元に戻って、今度こそバーストしちゃうってことだね」
「その通り。回避こそは上手かったが、結果的にはその場凌ぎにしかすぎない。このターン中に上昇数値が戻ってもバーストしないAPに調整しないといけないってことだ」
美祿はここで改めて自身が着ているコスチュームと持っている手札を交互にみる。
APがオーバーするなら「ストア」によって脱衣することができるが、それをした後で勝利につなぐキーカードがない。
美祿はポーカーフェイズが苦手なのか、苦いコーヒーを飲んだような顔をすれば、口に出さなくても対戦相手に伝わってくる。
「次のドローで、なんとか危機脱出からのAPキープの二つができるカードを引かないといけないってことか。デッキにお願いしないと!」
「いや、祈ったり運命に委ねる必要はない。今のお前の助けになる効果を持ったカードを、この場で作ってしまえばいいんだ!」
「作るって……あたし、デザイナーでもミュージシャンでもないのに!」
「いや、卓越した才能や専門性なんて必要ない! オレがパートナーである限り、お前の強い意志と願いさえあれば、なんだってできるさ!」
状況説明から精神論に訴える応援をしたかと思えば、スキャナー形態のリユに備わった円形モニターから目映い閃光が放たれた。
その発光は呼び水になっているのか、スタジオに設置されたエアコンからではない場所から、中にまた微かな風がながれ始めた。
「これはプリズムストリーム?」
首筋から頬を撫でる風に虹色が帯びている。
吹いているのは追い風だが、状況は順風ではないといいたげにそよ風で背筋を撫でてきた。
「そういえば、あいつらまだドローしてないな? おいおい、確かにあいつらにもスキルを発動できる権利は与えられているけれども……」
リユが放つ光の既視感。
あれはビャコがスキルを発動の準備としてプリズムストリームをかき集めるのに放つ輝きに似ていた。
「確か、あんたと美祿のマスコットって、性格は違ってもスペックは同じなのよね」
「そ、そうだけどぉ……」
どうにも認めたくない部分があるのか、ビャコの肯定は苦しそうだった。
そうこうしている間にも、このスタジオに吹き込む風の色が再び濃くなってゆく。
「さて、オレが組んだアルゴリズムは正しく機能するかな?」
プリズムストリームを呼び寄せた源であるリユが、初めて使うであろうスキルの発動に期待と不安の籠もった一言を吐露した頃には、美祿ごと虹色の竜巻の中へと飲まれていった。
この狭いスタジオの中に、二度目の竜巻が聳え立つ。
しかも、今度は自分が渦巻く風の外から見る側に回って。
嵐の目の中に立っていた時もかなりの強風に煽られていたが、こうして真っ向から対面されると、【紫智天】が災害レベルといっていたのも皮肉や過言ではないレベルの風圧だった。
「だが! これがもしオレが組んだのと同じ〈プリズムドロー〉だとしても、ただ闇雲にプリズムストリームをかき集めるだけじゃ意味がない! 肝心なのは、プレイヤーであるアイドルが、他人に対して最も表現して伝えたい思いがなければ、形には――」
「できるわ」
「なにえ!」
「確かに美祿には、成りたかったアイドルになる夢やアイドルになった後の目標を掲げる度に悉くへし折られ続けていた。でも、それでも彼女は自分がなんの為に舞台に立つのか、誰のために衣装を着て歌うのかをすでに見つけていた。相手にそれを歌やダンスを通して伝えたい思いになるくらいに」
その証拠に、と私の言葉を代弁するかの様に、目の前に渦を巻いて聳える風の柱から、小さな青白い光が発していた。
恐らく、あの虹色の嵐の中で、初めてスキルを使用した私の時のように、美祿もリユからプリズムストリームの本質と自身が発動できるスキルの説明を受けているのだろう。
そして私の予想通り、美祿の胸に抱いていた思いは、あの突風の中で徐々にカードという形に成ろうとしていた。
「〈プリズムドロー〉!」
吹き荒れる轟風が、音すらかき消すほどうなる中で、発動したスキルによって完成したカードを手に取った美祿の声がはっきりと聞こえた。
その威勢の良い一声が、轟風を突き抜けてスタジオ中に響いた途端、あれほど荒れ狂っていた風の柱が嘘みたいにぱったりと消えた。
「――っ! 〈プリズムドロー〉だと!」
「あの子も同じスキルを!」
草薙さんと勇作Pが、再び強風にやられて乱された身にかまわず驚愕の声をあげた。
「リユの奴、私の知らぬ間にあのようなスキルを構築していたとは。だが、良き煌めきだ!」
天水晴那の師でありライバルであった白波勇作の愛用していたビャコが編み出したのと同じスキルを、かつてのパートナーが秘密裏に作っていたことは幸神Pも知らなかったようだが、美祿に利点を与えることに成功した結果を見て満足そうに呟いていた。
「リユ! テメェ、オレの十八番をッ!」
「残念だったな、ビャコ! お前にできることがオレにできないわけがないんだよ!」
天水晴那の売りにしてビャコのお株でもあったスキルが、リユの手によって唯一無二でなくなった。
開発者と模倣者の関係みたいになった二本のマイクが、握っているアイドルそっちのけで激怒しては煽り返すという典型的な喧嘩を始めた。
「見ててね、プロデューサー! リユと一緒に、この勝負に勝ってみせるよ!」
手の中のマスコット同士が醜い口喧嘩をしている最中に、美祿は幸神Pに向かって純粋でまぶしいくらい勝ち気な笑顔を向けていた。
「バックグラウンドミュージック〈ミュージカル・ミューラル・ミュージアム〉!」
スキルの発動によってドローフェイズを終えて、改めてメインフェイズを迎えた美祿が、早速手にしたカードをリユに読み込ませた。
「トゥルーワードミュージックじゃない?」
スキルで編み出したのは、私が使う使い捨てタイプのミュージックカードと同じトゥルーワードではなく、【紫智天】が切り札として使ったことがある、「表向きに残り続ける代わりに、永続的に効果を発動し続けるミュージックカード」であるバクグラウンドミュージックだった。
ミューラル――すなわち壁画を意味するが、その言葉を冠したBGMが発動した途端、真っ黒で質素だったスタジオが、一変してカード名の通り裏路地で描かれた壁画ストリートアートのような、妙に芸術的な落書きだらけになっていた。この変わりようは、私が使用しているトゥルーワードとよく似ていた。
「行くよ、晴那ちゃん! これがあたしの新しい切り札だ! BGM〈ミュージカル・ミューラル・ミュージアム〉の効果発動!」
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