福山美祿に押しつけられた闇
天水晴那 AP2280 VS 福山美祿 AP2900
「危ない所だったね、リユ」
「間一髪だった……肝が冷えたぞ。一時しのぎとはいえナイス判断だ、美祿!」
冷や汗で湿った額を拭いながら悪い息を吐いて安堵する美祿とリユ。
「一部のアクセサリーには手札から誘発して効果を発動できるのもあるが、まさか奴の手に握られていたとは。こりゃあ、伏せてなかったのも案外作戦だったのかもな」
あと一歩のところでゲームエンドだったのが既の所で防がれたことにビャコが惜しそうに話しかけてくるが、今の私にはそれをまともに聞いている余裕はなかった。
福山美祿が相殺に使ったカード。
そのブランド名には、確かに艶井鼎の名前があった。
それは紛れもない、敬愛する艶井鼎が作ったアクセサリーがカードになったもの。
そして、いつも鼎先輩が説くアイドルが本来持つべき武器である「笑顔」の魔法の一つだ。
「あんた、艶井鼎に会ったのね」
「わかっちゃった? えへへ、実はそうなんだ~」
美祿は道端でばったり有名人と出会ったという話をするかのように、照れくさそうに頬を掻いて答えた。
「新しいカードを買いに、〈ニールフラワー〉って複合ブランドショップに行ったとき、併設されたコーヒーショップに寄ったら会えたんだ!」
なるほど、卒業して念願のカフェ店員になった時に出会えたのか。
「それでね、今度Q-key.333のオーディションのために買い物しにきたって言ったら、絶対に受かる魔法をかけたラッキーカードだって、あのカードを貰ったんだ!」
いろいろ端折っているようだが、恐らく遊生澄香に憧れてQ-key.333のオーディションを受けるとまで喋ったのだろう。
自分を倒した愛弟子に、さらに憧れてアイドルを目指す美祿に、何かを感じたのか、応援として笑顔になる魔法をかけて上げるなんてカナ先輩らしい。
「あたしね、遊生澄香ちゃんに憧れてアイドルを目指すようになったんだ。どんな状況に追い込まれても、決してあきらめずに挑み続ける。そんなアニメの主人公みたいに戦い抜いた澄香ちゃんみたいなカッコイイアイドルになりたくて!」
目の前で聞かせているのが本人だとわからずに、おくびにも出さず語る美祿の話を聞いて思わずこそばゆくなったが、それと同時に虚しさと悲しさがすぐに被さった。
美祿が嬉々として聞かせてくれる話は、語り草になっていたあの艶井鼎卒業決戦の時。
あの卒業戦以来、今までランクこそあったが話題にあがらなかった遊生澄香が、一躍有名になったのは今でも覚えている。
「熱弁してるところ申し訳ないけど。その遊生澄香は不正を理由に追放されたわよ。それでもまだ、あんたは彼女を憧れだといえるの?」
我ながら自虐とはいえ、ずいぶんと意地悪な質問を挟んだ。
「憧れだっていえるもん! あたし、Q-key.333やアートマンストラのことは信じられないけど、澄香ちゃんだけは信じてるから! 不正をするような人が、あんな熱いバトルができるわけないし、そもそも澄香ちゃんがやってないって言ってるから絶対にやってないもん!」
安直だが全力な否定。
美祿は剥きにはなっているが激怒というよりは、むしろ真剣に説得するような表情になって即答した。
かつての私の栄光を高らかに語る以上に熱意をこもって遊生澄香の不正を、ファンの口から全力で否定してくれたのは目頭が熱くなるほど嬉しかった。
だが、そんな嬉しい不正の全力否定の中に、逆にQ-key.333やアートマンストラが信じられないという言葉が妙に引っかかった。
「ん? ということは、お前は総一郎に会う前にQ-key.333の採用オーディションまで受けていたのか? 幸神にプロデュースされたってことは、オーディション落ちたのか?」
自慢話や反論から聞き逃さなかったビャコが割り込んだ上に傷を抉るように軽い口調で訊くと、それまで笑顔だった美祿の顔からふっと光が消えた。
「オーディション戦は優勝したんだ。でも、採用してくれなかったんだ……」
「優勝したのに採用されなかった?」
思わず反芻する私。
エンプリス至上主義という現代のアイドル界隈を象徴するQ-key.333。
当然、オーディションの内容は面接や技能審査ではなく、エンプリスの腕前だけで決まる。
最たる例としては、先日潰した【紫智天】こと葉鳥朔真が開催していたあの大規模なオーディション。
あのオーディションは最終局面で天敵である天水晴那に全ての合否を委ねるというトンでも裁量を設けていたが、一方で課程次第で多数の採用を認めるというかなりの寛容さを見せていた。
すなわち、本来はオーディションという勝ち残り戦で最後の一人に成らなければ採用されないのだ。
一見は狭き門のように見えるが、エンプリスが芸能界に導入されるまでは、どんなに優れた才能を持っていたとしても、芸能事務所側の裁量だけで左右される故に、アイドルになること事態が最難関大学に入るよりも遙かに難しい試験と言われるほどだった。
しかし、エンプリスが導入されてからはアイドルに関する全ての認識が変わった。
余計なしがらみや芸能事務所側の思惑に左右されず、カードゲームという自分で揃えた実力を存分に発揮するだけで、望みの結果を得られる。つまり確実に自分の努力だけで、なりたい自分になれる。
それが現代アイドル界の定めだった。
なによりも、今一番にエンプリス最強のアイドルグループの称号を掲げていたはずのQ-key.333を運営するアートマンストラが、優勝者というもっともメンバーにふさわしい才能を持った子の採用を自ら見送るなんて。
「あのオーディション戦で、確かに美祿は優勝した。だが、審査員の狸どもは美祿ではなく決勝で美祿に負けた方の出場者を出迎えた」
幸神Pがいかにも自分もその場で見ていたかのように美祿の話に補足を入れた。
「準優勝の子を?」
「なんでだ?」
補足されても話が理解できず、私とビャコが思わず口を挟む。
「意図は知らん。だが、あの狸共が優勝したはずの美祿を強引に落としたのは、美祿自身の個性がビジネスに相応しくないと一方的に判断されたからだそうだ」
「売れるか売れないかの判断で優勝者を失格にしたというのか?」
「た、確かにエンプリスがまだ導入されてない一昔前なら、個人の売りとなる素質がビジネスと直結できるかの有無が普通に判断基準となっていた。だが、今はエンプリス環境の時代だぞ! 今更そんな理由で、しかも土壇場で採用条件をひっくり返して落とすか!?」
辛い表情のまま佇む美祿に代わって幸神Pが憧れのグループに入れなかった理由を語るその横で勇作Pや草薙さんが思わず驚愕していた。
「そ、それに、今は誰しもが発言に力を持てるようになった情報社会の時代だぞ。仮にそれが本当なら奴らのやっていることは信義則に反する不正行為だ。被害者が受けた不当や苦痛をネットの海に放流すれば、立場や評判が悪くなるのは自分たちのはずだ!」
「双方の立場が対等であるならな」
明らかに酷いことをされたのなら、誰でもいい誰かの目や耳に入るように吐き出せばいいとあたりまえを説く草薙さんだが、それには冷淡だがどこか辛そうな声でリユが一蹴した。
「仮に、美祿が自身の受けた不当を世間に訴えた所で、Q-key.333の生みの親という地位と名誉を持ったアートマンストラがすぐさま事実を否定したのなら、事件の経緯を直接見ていない聴衆はどちらを信じるか。アートマンストラの評判しか知らない連中からしてみれば、結果的にオーディションに選ばれなかった美祿の訴えは、ただの負け惜しみにしかとらえられない。アートマンストラの無罪主張を覆せる決定的な証拠がない限り、福山美祿はオーディションに落ちた腹いせに不満を垂れた嘘つきとして逆に非難されてしまう」
名前の大きさとそれに伴う社会的信頼という分銅を持つ相手と天秤に掛けられたことで、正義から蔑ろにされたあげく助けてもらえなかった経験がある勇作Pが割り込み、幸神Pは頷く代わりに横目で一瞥した。
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