艶井鼎の継承者?
天水晴那 AP750 VS 福山美祿 AP2800
火力は十分だが、備えは盤石ではない。
七枚も手札を補強できたのにも関わらず、アクシデントまでは都合よく引けなかったのか、美祿のコスチュームカードゾーン以外の場はガラ開きのまま。
「あんなに勢いよくエースを揃えたのに、伏せてこないなんてなぁ……」
流石のビャコも、この明け渡し方に何か思うところがあったようだ。
「せっかく出した二着のエースコスチューム達はかなりの火力貢献ができても、肝心の防御効果はからっきしだぞ」
「強引といっても完全防御効果付きで三着も揃えた私のコスチュームがあるから、あえてスタンバイを宣言していないところを見ると、それなりに警戒はしている様だけど」
「守りが手薄なのは、そういうデッキ構築だからなのか、それともそういう作戦なのか」
相手は本場の世界を知らない素人だという偏見を覚える一方で、時折見せる天才的な戦略を見せつけられては、こちらも次なる戦略に迷いがでてしまう。
「ここは一つ、別のアプローチを仕掛けてみるか。こっちには、ワンピ系のエースがもう一着あることだしな」
「なるほど、アプローチって、そういうことね」
「そういうこと! それにあいつ等のおかげでこちらの手札は十分! オレの言いたいことわかる?」
「こんな密閉した所でできるの?」
「ああ、できるさ! オレ達マスコットの手にかかれば、プリズムストリームは思いのままよ!」
こんな狭い所であの竜巻を起こす気なのかと問いつめたつもりが、「防音設備で空気の流れが遮断されているのにプリズムストリームを集められるか否か」と勝手に解釈したビャコが許可を得ることなく円形モニターを輝かせてスキルを発動あせる。
空調設備やコンセントの穴、非常口や扉の隙間など空気が流れる箇所ならどこからでもと言わんばかりに、ほの暗く狭いスタジオに虹色の風が集まり始めた。
流石にいつもアリーナ級のステージで巻き起こす規模までは成せなかったらしく、出来上がった竜巻の中心はアパレルショップの試着室よりも狭かった。それほど規模は狭く小さくなっても、相変わらず虹色の風の向こうが見えないほど濃いプリズムストーンが私の周りを駆けめぐっている。
「早く発動させないと窒息しちまうぞ」
「もう! わかったわよ、スキル発動!」
いろいろ言いたいことはあるが、早めにスキルを発動しきったほうが良さそうだ。
鼻先まで風の壁が近いこともあって、いつものようにうんと手を伸ばす必要はなく、ボディーブローを決めるが如く風の中に拳をつっこむ。
「希望を描け! 天水晴那!」
「――はああああッ!」
プリズムストリームがカードを形成するには、私の中で伝えたい思いを強く込めなければならない。
風の中で握った拳を開き、心から強く願う気持ちや思いを掌の中に伝わらせる。
私が美祿に対して強く伝えたい思い、いや言葉にしない代わりに誓うことが三つある。
一つ、美祿がアイドルになるきっかけになるほど推して憧れていた遊生澄香の潔白を証明させること。
二つ、美祿がなりたい自分になってもらう彼女の自由のために、私たちの復讐に巻き込ませないこと。
三つ、私たちが必ずアートマンストラの闇を暴いて、美祿が安全にアイドルになれる芸能世界に浄化させること。
虹色の風に当てた掌の中で、徐々にカードが出来上がりつつあるが、今まで憎しみや怒りだけを込めて生成していた時と違って、今の願いを素に生成されるカードはとても優しく、甘いお菓子を作るように柔らかな光で形成されつつあった。
「完成だ!」
「〈プリズムドロー〉!」
完成を告げるビャコの合図に併せて出来上がったカードを掴み、そのまま切り払って役目を終えた虹色の竜巻をかき消した。
今の私は靴を残して他の着物は全て泡だけという非常に危ない格好だが、所詮は立体映像による演出なのか強風に当てられても泡の水着が剥がれることはなかった。
暴風が晴れたスタジオの中。やはり規模が小さくても竜巻なのか、真正面から強風を受けた美祿は、ひどく乱れた髪を整えず何が起きたのかわからない顔のまま立ち尽くしていた。
今回は間近で私の対決を見られたついでにプリズムドローを至近で拝めたプロデューサー陣のうち、草薙さんはスーツのポケットに入れていた櫛を取り出していそいそと髪を直していたが、一方の勇作Pと幸神Pに至っては、乱れまくった服と髪に動じることなく、むしろ何事もなかったかのように仁王立ちのまま。
ついでに設置していたスタジオの設備にも被害が及び、マイクスタンドまでもが倒れ、天井にぶら下がっている電灯が不安になるほど大きく揺れ回っていた。
「私のターン!」
ドローフェイズを〈プリズムドロー〉で迎え、ターンの開始を宣言すると、美祿はここでやっと正気に戻って構え直した。
「〈ヴァルナーガシューズ〉の効果! 煌方陣展開!」
持ち上げた靴で床をならし、つま先から再び煌めく方陣がスタジオいっぱいに広がる。
「私は〈RDティアーズ〉ブランドとなった〈バブルトークン〉を素材にリンケージコーデ!」
時間が経とうとも強風にあおられようとも片時も頭や体からはがされなかった白泡達が、素材に指定されたことで活性化したのか、改まって私の体に合う服として形をなすほど自ら泡の量を増やしてゆく。
「現れろ! レアリティPR〈RDティアーズ ヴァルナーガコーラルワンピ〉!」
弾けて消えた泡の下から、赤珊瑚の色を持つもう一つの〈ヴァルナーガ〉シリーズを冠したワンピースが姿を現した。
「あ! 昨日、朔真ちゃんとの戦いで着ていた新作だ!」
先日の決戦でフィニッシュを決める瞬間だけに登場した新作だが、美祿はしっかり見ていたのか、友達に新しい玩具を自慢された子供のような反応をする。
「〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉の効果! 一ターンに一度だけ、自分コスチュームに〈シェルベッコ・チャーム・トークン〉を一つつけることができる!」
コスチュームが持つ本来の色よりも濃いショッキングピンクのオーラを纏ったワンピが効果を発動したことで、首元に鼈甲のチャームがぶら下げられた。
「そして手札からトゥルーワードミュージック〈無垢なる真海クリアオーシャン〉を発動!」
スキルで生成したカードをビャコに読みとらせると、スキャナー内部のプリズムストリームが反応し、狭いスタジオを一瞬で熱帯の海中に変化させる。明かりが乏しくほの暗かったのが、水上に差し込む偽の太陽光が差し込んで、昼間の海に着ているよう。
「すっごーい! なにこれ? 本当に海の中にいるみたい!」
初めて体験するトゥルーワードミュージックの演出に、美祿はテーマパークでアトラクションを堪能しているかのようにはしゃいでいた。
「驚いた……。画面越しや遠方から見ているだけでもすごいと思っていたが、こうして間近で味わってみると、たった一枚のカードだけでこんな演出できるなんてな……。プリズムストリームって奴はすごいんだな」
自分に寄ってくる色鮮やかな熱帯魚の群に指先だけで戯れながら、改めて自らの感覚で体験できた草薙さんが関心の声を漏らした。
「強い思いや伝えたい願いを具現化するプリズムストリーム……」
「心の煌めきを持つ者が、相手の心により伝わらせる表現の結晶……」
海中に放り込まれようが小魚達にからかわれようが、相変わらず仁王立ちで仏頂面のまま私たちをみる勇作Pと幸神P。
しかし、演出の域を越えたプリズムストリームの体感に何か思うところがあったのか、お互いにプリズムストリームとは何かを言葉にして確かめていた。
こうしている間にも、誰よりもこの空間を楽しんでいた美祿や、そんな彼女を眺めていた私の元にいつものウミガメの群が通り過ぎ、お互いの服にお揃いのチャームがつけられる。
着ているコスチュームにチャームを一つずつ付けるという効果の処理が終わり役目を終えたカードが場を離れたことで、この場は元のほの暗いスタジオへと戻っていった。
「おもしろかったね、リユ!」
「言ってる場合かよ! お前に色が一つ増えちまったぞ!」
心の底から楽しんでもらえたのかニコニコしている美祿とは対照的に、感想を求められたリユが緊張を引き戻すように警戒を叫ぶ。
「あれ? 確かにAPが100ポイントあがってる……」
盤面の状況では美祿のAPは2900にあがっている。
もしかしなくても〈シェルベッコ・チャーム〉が元々持っている金色が、ワンピの効果によってAPに加算されたからだ。
「えっと、〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉の効果って確か……」
改めて自分の服と靴に相手から送られた鼈甲のチャームを見つけると、美祿は苦くはにかみながら、〈RDティアーズ〉の最新作が持つ性能を思い出そうとしていた。
「〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉の効果! このコスチュームを着ている限り、互いの着ている〈RDティアーズ〉ブランドのAPは100ポイントアップする!」
「トークン2個ついたことで、AP2900のお前さんにもうAP200プラスでバーストだ!」
「――やばッ!」
「――美祿!」
相手が高APの競争からバースト狙いに切り替えてきたことでさすがの美祿も笑顔が消える。
しかし、今更危機感を持ったところでもう遅い。
「これでフィニッシュよ! 〈ヴァルナーガコーラルワンピ〉の効果! コーラルガーデン!」
遅れて発動した本来の永続効果が機動したことで、私の着ている〈RDティアーズ〉はさらなる輝きを得る。
その一方で、強引に美祿の服へつけられた〈RDティアーズ〉製のチャームは、不穏な振動をたてながら爆ぜる一歩手前まで膨張を始めつつあった。
いよいよ爆発する寸前、美祿が手札の一枚をつまみ上げた。
「相手が自分に対してAPをあげる効果を発動させたとき、手札のアクセサリーカード〈艶井鼎特製 スマイルパステルミサンガ〉を捨てて効果を発動!」
本来は捨てる行為自体は場に出ることなくランドリーの中で直行するはずだが、演出の関係なのか美祿の手首に手作り感のあるパステルカラーの細いミサンガが巻かれた。
「なにッ!」
「なんだって!?」
「この効果が発動した時、相手から上げられるAPは全て、次の相手のメインフェイズまで0になる!」
割り込んで出現したミサンガが柔らかなオーラを放つと、これから爆発しようと荒ぶっていたはずのチャーム達が徐々に沈められてしまった。
着者を守る役目を終えたミサンガは自ら千切れ、手首から落ちながら消えていった。
「おあーッ! 防がれちまったぁッ!」
「――ッ。私は最後にカードを二枚伏せて、ターンをチェンジする」
天水晴那 AP2280 VS 福山美祿 AP2900
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