ベテランとド素人の攻防戦
期待した通りとはいえ、あれほどの差を付けたのに、まさかこんな方法で本当に私を全裸にして逆転できるとは。
脱衣は予想していなかったと言えば嘘になるが、もしもの保険と相手へのブラフとして伏せていたあのカードを私は立ち上げることにした。
「この瞬間! アクシデント発生〈洗濯忍法 泡蝉の術〉!」
忍術で泡をいっぱいに沸かせた忍者のイラストが描かれたアクシデントカードを起立させると、まるでこの場を洗うようにカードのイラスト欄から本物の泡が吹き出し始めた。
「相手のターン中、自分の着ていた衣装が三着以上ランドリーに送られた場合、そのうち一着だけをランドリーから追加コーデさせる! 綺麗になって戻れ! 〈ヴァルナーガシューズ〉!」
カードから吹き出した泡が私の両足を膝まで覆うと、消えゆく泡の下からまだ水気を帯びた〈ヴァルナーガシューズ〉が姿を現した。
「そして〈洗濯忍法 泡蝉の術〉には、もう一つの効果がある!」
ビャコが合いの手を入れるとおり、衣装の復活という活躍をしたカードは、洗剤を入れずぎた洗濯機のように、なおも泡を吹き出し続ける。
「〈洗濯忍法 泡蝉の術〉が対象のコスチュームを復活させた後、他にランドリーに送られた衣装と同じカテゴリーとブランド名を持つ〈バブルトークン〉を追加コーデさせる! 私は〈バブルトークン〉をワンピとヘアアクセとして追加コーデ!」
カードから吹き出し続ける泡が私の体にまで浸食し、前にヘアアクセがあったこめかみ部に泡の塊がちょこんと乗る。
一方、失われたワンピの代わりとして体を包み始めた泡は、ワンピースの代用になるほど量が出せないのか、まるでお色気マンガの入浴シーンみたいに、隠すべきところは絶対に隠し通すレベルの泡を全身に塗りたくった。
「う、うわぁ……けっこう大胆……」
自分が脱がせた対戦相手がきわどい水着みたいに泡に着がえた姿を見せつけられ、美祿は顔を赤らめて引いていた。
「この効果で追加コーデされたコスチュームは、相手のターンから数えて三ターンの間、相手からいかなる効果を受けない!」
せっかくクリーニングしたのにまた汚されてはたまったもんじゃない。
あくまで復活して早々の出落ちを防ぐ優秀な防御効果が付与された演出なのか、唯一の衣装である〈ヴァルナーガシューズ〉には、ワックスでもかけられたかのような艶が帯びていた。
「は、恥ずかしがってる場合じゃない! 奴の戦術の要になる靴が復活した上に、素材になるトークンまで揃った! おまけに効果でこちらからはがすことができない! このまま放置してると次のターンで反撃されちまうぞ!」
性格が真面目なところがあるのか、リユはスキャナーになってもわかるくらい赤くなりながらも、美祿に的確な助言を伝えていた。
「わ、わかってる!」
返しながら美祿が最後の一枚をつまみ上げて、それをリユに読み込ませた。
「あたしは手札からミュージックカード〈おニューの色鉛筆〉を発動!」
元から手札に残っていた方のカードの正体は、全ての色の鉛筆達が、未使用のまま箱の中できれいに並んでいる写真を使用したジャケットのミュージックカードだった。
「自分が着ているコスチュームを脱ぎ捨てることで、そのコスチュームの持つ色の数だけカードをドローできる! あたしは〈ハイライトスカート メルトオレンジ〉を脱衣!」
「〈メルトオレンジ〉の色は橙色。だが、さっきの〈色彩爆発:レインボークレイモア〉の効果によって色が追加されて七色! つまり合計7枚のドローだ!」
暴発した塗料爆弾によって無理矢理色づけされたスカートがやっと洗濯籠に送られたことで、美祿の空っぽになったはずの手に七枚ものカードが豪快に加わった。
「偉いぞ、美祿! 七枚もあればアドバンテージとしては御の字だ!」
「それはどう――」「それはどうかな?」
パートナーの機転をほめるリユに水を差すように私が言い掛けたが、ビャコにかぶせられてしまった。
折角のセリフを取られてやるせないが、切り替えて伏せていたカードに指示を送る。
「アクシデント発生! 〈均衡の謝肉祭〉!」
「このカードは、相手がドローした時、こっちも同じ数だけドローできるのさ!」
こちらも発動できればラッキーなくらいの感覚でブラフとして伏せていたが、まさかの手札増強は好都合。
前のターンでこっちも手札も丁度ゼロになったから、同じく七枚のカードを手札として加えることができた。
「まだまだ!」
美祿のプレイはまだ止まらない。
「あたしは〈グラフィティーキャンバス フルカラースプレッドシューズ〉をコーデ!」
ミュージックのコストとして靴を失った裸足に履かせたのは、名前の通りスプレーを模したシューズ。
ただ、ブランド名のとおり壁に落書きをするための缶スプレーではなく、プラモデルで使う塗装に使うエアスプレーのほう。
靴の形に落とし込むなら、そっちのほうが作りやすいのかもしれない。
〈グラフィティーキャンバス〉は色を巧みに扱う効果が売りのブランド。
それ故に、その効果を持たせるのにふさわしい衣装として、文房具がデザインのモチーフになっている。
エアスプレーみたいな靴とはまた安直なアイデアだが、その銀色の持つ靴のレアリティは最高級のGR。
APも750と〈ヴァルナーガシューズ〉と同等の数値を持っていた。
効果による追加コーデではない方法で靴を出した美祿にはもう通常のコーデはできない。
だが、その靴が出た時、私の頬を虹色の風がなでた。
まるで、これからもっとすごい何かがくるぞと伝えてくるかのように。
「更にミュージックカード〈ススメ! シグナルライフ〉を発動!」
次いで発動させたのは、三色のランプが全てついた信号機のイラストが描かれたジャケットのミュージックカードだ。
「自分の着ている衣装を三色以上になるように脱ぎ捨てることで、手札・デッキから〈グラフィティーキャンバス〉ブランドコスチュームを追加コーデできる!」
美祿の場には銀色のシューズと、複数の色の塗料でベタベタにされたトップスがある。
発動の条件として必要なのは衣装の数よりも色の数。
すなわち、コストにするためにはトップス一枚だけでことたりるということだ。
「〈ハイライトップス ブレイズレッド〉をテイクオフ!」
長い間空気に触れたことで、トップスを覆っていた塗料はすっかり乾いて固形になったのか、退場を命じられた瞬間、表面に罅が走った。
その亀裂の隙間から、目の前にいる私どころかスタジオにいた全員が目を覆うほど目映い黄金の光が放たれた。
「十人十色の個性を筆に、聳える壁に煌めきの虹橋を描け! 〈グラフィティーキャンバス フルカラーペンシルワンピ〉!」
ガチガチに固まった塗料を卵の殻の如く破って登場したのは銀色のワンピース。
デザインはフリルを使った可愛らしいキュートな衣装だが、色彩に至ってはまるで鋳型から取り出された金物細工の様に銀色一色のみという名前に違うカラーの衣装。
だが、聞き覚えのある口上と共に出てきたのは紛れもなく、美祿や私が見ていたアニメの主役が使い、そして最後まで支えてきたエースコスチュームでもあった。
「〈グラフィティーキャンバス フルカラーペンシルワンピ〉。彼女のエースみたいね」
「手札二枚でシューズとセットで呼び寄せるとはな。幸神が気に入るとおりできる奴みたいだな。だが、それでも合計APは2000。ちょっと頼りなさ過ぎじゃない?」
「「それはどうかな!」」
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