紅蓮に燃え、橙色に溶ける
天水晴那 AP2530 VS 福山美祿 AP1650
「くぅ、AP2530か! あいつめ、こっちが〈ブレイズレッド〉と〈メルトオレンジ〉を脱ぎ捨ててもバーストしないように数値を調整してきたな」
「へへぇ~んだ! 『ディーヴァス神姫』を二人も葬った神姫殺しが、そんな甘いプレイをするかよ!」
状況の観察から悔しがるリユに対して、こちらのビャコは堂々と煽り返していた。
相手が元同僚で同じオリジナルマスコットだからか、ビャコのおしゃべりが余計に増している。
とりあえずスポーツマンシップに則らない発言は見逃すとして、時々勢い余ってこちらの正体をばらさないか心配になった。
「〈ハイライト〉シリーズの減少効果は着続けることで発動し続ける永続効果。逆にその2着が脱がされると、下げた400ポイントが戻ってくる」
「仮にお前がその2着を他の衣装に交換しても、こっちのAPは2930! 残念だったな!」
「それはどうかな! 勝負はまだまだこれからだよ!」
盤面状況もさることながら、今の美祿の手札も今から迎えるターンで得られるドローでの一枚を含めても残り2枚。
そんな劣勢に追い込まれながらも、美祿は同じ状況に立たされたアニメの主人公が余裕を見せる時に決まって言う台詞を返した。
「そうこなくちゃ」
そんな焦りも諦念もなく自信満々な顔で帰ってきたその言葉を聞いて、私は思わず返した。
常に仕事獲得の責任に追われていたランク9だったアイドル時代や、決して負けることが許されないQ-key.333狩りをしている時には、その少ない手札に逆転の一手が紛れていないことばかりを切望していた。
でも、今は勝敗の結果に価値がないただの勝負。
そして自分を目標にアイドルを目指してくれた美祿が相手になると、彼女はここからどんな風に挑んでくるのか見物だという感情が心の中に不思議とわいた。
「あたしのターン!」
スキャナーに備えられた山札の一番上からカードを引き、美祿はその表面を確かめる。
「来た! あたしは手札からミュージックカード〈色彩爆発:レインボークレイモア〉を発動!」
手札に加えて早々に読み込ませたカードは、イラスト欄が埋まるほど色とりどりの塗料がぶちまけられたカラフルポップなジャケットのミュージックカードだった。
「このカードは自分の着ている〈グラフィティーキャンバス〉コスチュームを脱ぎ捨てることで、互いの着ている衣装全てに七色になるよう色を付け加える!」
「一気に色を複数も追加させる効果……」
コスチュームを構成するステータスの一つであるカラーを、あそこまで大胆に直接操作できるブランドは少ない。
それこそが〈グラフィティーキャンパス〉の特徴ともいえる戦術だ。
使用者の隣で立て看板のごとく佇むカードが起動を合図に白く輝く。
その直後に等身大の巨大なカードから、ジャケットイラストと同じ模様をしたサッカーボールサイズの球体へと形を変えて美祿の足下に転がった。
どうみても空気じゃない何かが入っているほど表面がタプタプと揺れ動いているそれを、美祿は思いっきり足で踏みつける。
女の子一人分の体重をかけられたボールは圧がかかったスライムの如く歪に変形したかと思うと、限界がすぐにきたのか一気に膜が破裂した。
案の定ボールいっぱいにぎっしり詰まっていたのは、さらに小さいサイズのカラーボール。
まるで破裂した胎から放たれた生き物の卵みたいに飛び出したボール達の膜は更に薄いのか、ちょっとでも物とぶつかると破れては、対象を塗料で染め上げる。
反射的にビャコを盾に顔を防ぐが、おかげで衣装どころか顔や髪、おまけにスキャナーにまで余計な塗料がついてベトベトになってしまった。
地雷の一種類と同じ名前であるクレイモアとはよく言ったもので、本来は人を殺すために鉄球がつまっている代わりに、人をペンキ染めにするための小さいカラーボールが込められ、それが爆発したことで小さいスタジオの中が鮮やかなペンキまみれに。
これが立体映像による演出でなければ、膨大な後かたづけを前に音を上げたくなるところだった。
無論、それは傍観者である勇作Pや幸神P、そして草薙さんにまで塗料暴発の爆風が及んでいたが、演出であろうとも高いスーツが汚れたことに悲鳴を上げている草薙さんとは対照的に、若きプロデューサーの二人はせっかくの美顔いっぱいに塗料が塗られようともびくともせず、仁王立ちになったまま勝負を見守っていた。
「そして、晴那ちゃんの衣装に色が追加されたことで〈ハイライト〉シリーズの〈ブレイズレッド〉と〈メルトオレンジ〉の効果!」
色彩爆発の爆心地にいたことで、誰よりも濃く塗料まみれになっていた美祿が、効果の発動を宣言すると、彼女の着ていたトップスとスカートが自身の本来の持つ色を素調するかのように、それぞれの色を帯びたオーラを放つ。
「相手コスチュームに色が追加される度に、AP200ポイントダウンするんだったな!」
「さっき発動させたミュージックカードの効果で、私の着ているコスチュームは七色が追加され、それぞれが合計で2800ポイント下がる」
衣装が汚されて下がるイメージのようだが、今の衣装をみる限りでは、原液ともいうべきか粘度がある塗料まみれになってもはや原型をとどめていないと表現するほうが正しいか。
「おおっと、それに加えて〈メルトオレンジ〉のさらなる効果を忘れてもらってはこまるぜ!」
ビャコと同じくらいペンキまみれになっているリユが、元気よく追い打ちをかけてくる。
「あたしが〈メルトオレンジ〉を着続けている限り、全てのコスチュームはAPが0以下になると自動的にランドリーに送られる!」
「おっと、そういう効果があったな。でも、破壊してくれるなら好都合! 晴那の〈ヴァルナーガワンピ〉の効果を使えば逆に洗濯籠送りだぜ!」
「悪いが、それはできないぜ!」
さらにリユがビャコの言葉に反駁する。
「美祿が〈ブレイズレッド〉を着続けている限り、相手の着ている衣装が三色以上ある場合、その効果は封じられる!」
「効果の無効化だって!?」
ビャコが驚愕したその言下、反撃の能力を失ったことで効果の発動を許された〈メルトオレンジ〉から放たれるオーラがよい一層濃くなる。
メルトと冠された名前の通り、あのスカートから本当に熱でも放射しているのか、乾ききらずに未だに滴を落とし続ける塗料に混じって衣装が溶け始めた。
炎に炙られる蝋燭のごとく、私の着ていた衣装は全て溶けて、スタジオの床にカラフルな水たまりをなした。
「やった! 晴那ちゃんからエースを脱がせたよ!」
「いいぞ、美祿! 形勢逆転だ!」
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