極彩色のブランド〈グラフィティーキャンパス〉
天水晴那 AP2280 VS 福山美祿 AP0
「初っぱなからエースを揃えて構えてくるとはな。舐めプかましてくるとは思っていたが、案外勝負には実直な奴みたいだな」
「天水晴那ちゃん。もしかしたら、本気を出してくれているのかも!」
世間から冷たい目で見られているとはいえ、話題の有名人がこうして真剣に相手をしていることに、アイドルの卵とはいえ美祿はことある度に好意的な解釈をしながら可愛く喜ぶ。
「気をつけろよ、相手は迎撃用のアクシデントを伏せていないとはいえ、〈ヴァルナーガワンピ〉という攻守に優れたエースを出している。容易な妨害は逆手に取られてしまうぞ」
「〈ヴァルナーガワンピ〉は、確か相手がコスチュームを脱がす効果を発動した時、同じブランドのカードを脱ぎ捨てることで効果を無効にして返り討ちにするんだよね」
「その通り。わざわざ手札から一枚伏せて防御するアクシデントよりも遙かにコスパがいい。牽制としては十分に働いている」
ターンを迎えてドローフェイズに入る前に、美祿のパートナーであるリユが丁寧にパートナーである美祿へ盤面の説明をしている。
「あの幸神を惚れさせた実力がどれほどのものか見せてもらおう!」
「そうね。見極めさせてもらうわ」
「んお? 珍しい、普段なら興味ないって吐き捨ててんのに。ひょっとして、こいつを気にかける理由でも抱えてんの?」
妙なところで吐き出すビャコの勘の鋭い余計な一言が言い切られる前に、私は急いでモニター部を手で覆って黙らせた。
真面目なリユとは対照的だとは思っていたが、こっちのマスコットときたら口を開けば冗談や煽りとろくでもないことばかり。
AIではなく生き物として意思や感情もとい個性があるとはいえ、ここまで性格の違いがあることに私は何ともいえない気持ちから、思わずため息が出た。
「あたしのターン!」
同じくドローフェイズを迎え、美祿もデッキからカードを1枚ドローする。
「あたしは、〈グラフィティーキャンバス ツインカラーペンシルワンピ〉をコーデ!」
美祿が先手で出したのは、赤色と青色の二つの色が交互に配色された、まるで文房具の赤青鉛筆がモチーフであると言わんばかりにデザインされたワンピースだった。
「〈グラフィティーキャンバス〉か」
「少し前に放送されたアニメの主役が使っていたブランドだな。タイアップ用のブランドだが、玩具とはいえないほどあなどれない性能があるぜ」
落書き用の壁画という名の通り、己という筆と衣装という絵の具を持って世界というキャンバスを彩ってみんな笑顔にするという信念を掲げていたアニメの主役の性格とマッチさせるためにデザインされたブランド。
そのアニメ自体は一〇年前に終わったが、根強い人気もあって今でもブランド側から新作がちょこちょこでている。
アニメの様なかっこいい対決を望む美祿らしいブランドチョイスだ。
「〈ツインカラーペンシルワンピ〉の効果! このカードを脱ぎ捨てることで、デッキから色の異なるノーマルコスチュームを二着まで追加コーデすることができる!」
着て早々に赤青ワンピが光の粒子となって脱衣される。
「この効果で呼び出すのは〈ピーチピンクトップス〉と〈イエローエールスカート〉!」
着主の命に従い、デッキから代わりとなる二着の衣装が美祿の体にまとわれていた。
美祿が呼び出した二着の衣装は、分類上ノーマルコスチュームと呼ばれる衣装。
現在のエンプリスの主力となっている「効果を持つ」コスチュームはマジカルコスチュームと呼ばれている一方で、ノーマルは文字通り効果を持たない。
盤上を支える魔法がない故に、一見は劣化版にも見えるかもしれない。
だが、効果がない分高いAPを持ち、さらにはノーマルにのみ適用される専用サポートまで豊富に揃っている。
実際にその特徴を生かし、数あるブランドの中には、あえてノーマルを主力としているブランドだってある。
「更に! 色の違うコスチューム二着をコストとして脱ぎ捨てることで、手札の〈グラデールペンシルシューズ〉を、追加でコーデできる!」
一着を着てはすぐ脱いで二着に増やしたかと思えばそれを脱いで、一足のシューズを出した。
両足に履かれたシューズのデザインは、インクボトルをモチーフにしたようなずんぐりとした靴だが、グラデーションと名前が付いているとおり、コストにしたコスチュームと同じ二色の色が互いに混ざり合わせないように配色されていた。
「この方法で〈グラデーションペンシルシューズ〉が追加コーデされたとき、手札にある〈グラフィティーキャンバス〉ブランドのコスチュームを二着追加コーデできる!」
特殊なコーデ方法によって新たなる効果の発動を許されたシューズがオーラをまとい、それに従って美祿の手札から二着のカードがスキャナーのプレートに乗せられた。
「あたしはこの効果で〈ハイライトップス ブレイズレッド〉と〈ハイライトスカート メルトオレンジ〉を追加コーデする!」
キュートな王道デザインの桃色トップスとチアガールみたいな黄色いスカートの後で現れた上下は、まるで名前の通り半透明な蛍光ペンの容器をあしらったのか、とてつもなくシンプルなデザインとトップスとスカート。
だが、完全に着た直後に服の表面に罅が走り決壊し、砕けた穴からそれぞれの服の名前の後ろにつけられた染料が鮮血のごとく流れ始めていた。
トップスから漏れ出た赤色の染料は燃えさかる紅蓮の炎へと代わり、オレンジを帯びたスカートは融解された鉄を垂らしているかの様に黒煙を上らせる橙色の液体を垂らしていた。
「あらら、あれこれ着回したかと思えば一気に三着揃えられちゃったよ!」
「確かにこの回転は〈グラティティーキャンバス〉の特徴。でも、きつい単色の衣装をグルグル着替えられちゃ目が痛いわ」
しかし、そんな手間をかけて三着揃えたところで、肝心の合計APは1680と、やっと限界の半分を越えた程度。
「〈ハイライトップス ブレイズレッド〉と〈ハイライトスカート メルトオレンジ〉の効果! 一ターンに一度、相手のコスチュームに衣装と同じ色を追加させる!」
トップスとボトムスに開けられた亀裂から流れる染料を手に掬う。
水をかけるように浴びせるのかと思ったが、空を切るように勢いよく腕を二度も振るい、色付きの斬撃となって私に淀んだ染料を浴びせた。
効果の対象になったのは〈ヴァルナーガワンピ〉。
元々の主色が黒の衣装の上に、ペンキ缶でもぶっかけられたかのように赤とオレンジの塗料が付け加えられた。
「そしてまずは〈ブレイズレッド〉の効果! あたしがこのコスチュームを着ている限り、二色以上ある相手コスチュームのAPは追加された色一色につき200ポイント下がる!」
ブレイズと名の付く通り、燃えるような赤色で焦がすイメージらしいが、この演出ではどっちかというとペンキをぶっかけられて魅力が下がったという方が正しいかも。
「さらに〈メルトオレンジ〉にも同じ効果があって、それで200ポイントさらにダウン! ついでに、この衣装を着ている限り、効果でAPが0になった衣装はランドリーに送られる!」
ブレイズときてメルトの名前を冠するとおりの効果だが、それによって更にワンピのAPが下げられ、最終的に私の総合APは1680まで下げられる。
なるほど、あれだけ手間をかけて無理矢理三着を並べたのはこれを狙っていたからか。
驚異的な効果を持つコスチュームを駆使して無双していたディーヴァス神姫とは違って、玩具レベルのブランドをここまで使いこなして堅実に攻めてくるとは、美祿は予想通りできる子のようだ。
「うーん、それでもAPは晴那ちゃんの方がちょっぴり上かぁ。しょうがない、あたしはこれでターンをチェンジ!」
とはいえ、あれだけカードの消費が激しいあまり、残りの手札は一枚のみ。
しかも、妨害用のアクシデントではなかったらしく、美祿は丸腰のままこちらにターンを明け渡した。
天水晴那 AP1680VS 福山美祿 AP1650
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