もう一人のイケメンP「幸神総一郎」
御瀬露ジャンクション。
飲み屋や料理店、そして雑居ビルやらが並ぶ歓楽街の中で、紛れるように備えられた小さなライブハウス。
無名同然のインディーズバンドや全国を渡り歩くバンドのツアーライブ、そしてQ-key.333の中でもかなり下の方のランクの子達のライブ会場としても使われていた。
Q-key.333に入ったばかりの遊生澄香の始まりである人生初のライブもここで行われ、そして天水晴那がQ-key.333を初めて襲撃した場所もここで行われた。
「プロデューサー!」
階段を数段飛ばしで駆け上がり、スタジオへつながる扉に突進するかの如く押し開ける。
客も主役もいないスタジオは何度見ても薄暗く、そしてただ広いだけの殺風景な空間だった。
管理人の手が行き届いているとも言うべきか、アンプから貸し出し用のドラムセットやキーボードですら見えないように、舞台の端に隠すように毛布まで掛けられて片づけられている。
黄昏色のスポットライトでかろうじて照らされたステージは空っぽのまま。複数の人影が固まっているのは観客席の方だ。
一声と同時にスタジオに突入した私を、出迎えたのは、ただ広い観客席の中央で向かい合っている二人の男性と、その足下で屈んでいる学生服をきた少女、そして達磨みたいに四肢を捕縛された猫型生物の視線だった。
「どういう状況?」
ほの暗いスタジオの中で、まず肝心の白波勇作の姿が確認できた。
勇作Pは特に何もされていない様だが、一方でその足下には体どころか口まで猿ぐつわでグルグル巻きにされたビャコのあられもない姿が見えた。
勇作Pの様子を見る限り、ビャコの場合は五月蠅いという理由で後から縛られたのだろう。
その勇作Pの向かいには、同じ背丈の男性がたたずんでいた。
おそらくそいつが勇作Pをここまで浚い、草薙さんに私をここへ呼ぶよう脅迫メールを送った犯人なのだろう。
だが、改めて犯人の顔を拝見すると、思わぬ人物が私を指名していた。
「――幸神総一郎?」
ぽつりとその男の名前を口にする。
幸神総一郎。この男はかつて草薙亮にプロデュースされ、白波勇作と共に一世を風靡した男性アイドルグループ『サーキット・トライブ」のメンバーの一人にして、週刊誌や特集での紹介では、白波勇作の永遠のライバルだとも。
二人ともクールなイケメン顔で人気を博していたが、勇作Pが干渉を嫌うドライならば、幸神は他者を見下す傲慢さが顔にでている。
プロフでは勇作Pと幸神総一郎とは年齢どころか身長や体重、スリーサイズもほとんど違いはないスリムなスタイルであったが、Q-key.333に流行と実力で敗北して解散した後で独立して自ら新しい芸能プロダクションを建てて露出しなくなった今でも、同じく裏方に回った勇作Pと並んでも全盛期から崩れている様子はない。
「ええええええ! プロデューサーが会わせてくれるって言ってた有名人って、まさか天水晴那ちゃんのこと!?」
二人の足下で屈んでいた少女が私をみるなり、文字通りバネがはねるように飛び上がり、喧しいほど驚いた声を発する。
自前のパーカーを羽織っているが、その下に着ている学生服は遊生澄香が通っていた学校の制服。
すなわち同い年か一つ違い。
顔立ちは化粧をするにはまだ早そうなほど童顔で無垢な瞳が綺麗に見えるほど大きくぱっちりとした目。
悔しいがスタイルは私よりも良く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる理想型。
何よりも猫耳を模したようなお団子が頭に乗ったふわふわな赤髪がチャームポイントとして目立っていた。
既視感と言うべきか、その顔立ちに見覚えがあった。
というか、どこかで確実に会ったことがある。
「やっぱりお前だったか、総一郎」
遅れてスタジオに入ってきた草薙さんが幸神を見るなり、少し呆れたように話しかけた。
どうやら草薙さんは、既に誘拐の犯人が元担当であった幸神総一郎だと分かっていたようだ。
よくよく考えたら、草薙さん達の間でしか通用しない暗号メールを作成して送っているのだから、そもそも知り合いによる紛らわしいお招きだと考えるべきだったのか。
「久しぶりだな。草薙さん」
幸神よりも先に草薙さんに挨拶を返したのは、女の子の小さい肩に乗っている、ビャコと似た二頭身の生き物からだった。
「オリジナルマスコット?」
深海の様に青い鱗を生やした爬虫類型のようだが、ビャコと同じオリジナルマスコットであることは察しがついた。
「あいつはリユ。幸神のパートナーとして組んでいた青龍型のマスコットだ」
草薙さんが説明するとおりなら、今のビャコが勇作からリク、そして私へとパートナーを引き継がれた様に、リユと行動を共にしているその女の子は、幸神からかつての相棒であったオリジナルマスコットを継承されたアイドルのようだ。
「まだ勇作のお守りをしているそうだな」
友好的なマスコットとは対照的に、相棒の幸神総一郎の方は、久しぶりに会うはずの草薙さんを見るなり、ずいぶんと辛辣な挨拶で返した。
「勇作と、何を話していたんだ?」
「正確には情報提供だな。お前たち〈アクアクラウン〉が、いや〈アクアクラウン〉が匿っている天水晴那にとって最も欲しがっている情報をな」
幸神の鋭い目が草薙さんから私へと移った途端、私は息を呑んだ。
飲み込んだ固唾は、何もかもを見透かされているような相貌で睨まれた図星で出たものではなく、私にとって必要な情報を彼が持っていることについての。
「私の……ナガタマホ絡みの件ね!」
「そういうことだ」
詰め寄る私の言葉に動じることなく、常に冷静を保っている幸神はそう返しながら、スーツのポケットからUSBメモリーを取り出し、それを勇作に手渡した。
貴重な情報をいきなり手渡されても勇作は驚かずに流れるように受け取ったということは、すでに勇作Pとは話がすんでいるようだった。
脅迫文の相手が草薙さんの知り合いで、しかも当の勇作Pの様子を見る限りでは本当の誘拐劇ではなさそうでだいぶ安心した。
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