勇作プロデューサーが浚われた!
「ん? このメールアドレスは……」
届いたメールに何か覚えがあるのか、スマホからデスクトップ画面に顔を移した草薙さんが、怪訝そうに画面を睨み始めた。
「どうしたの、草薙さん?」
じっと顔を潜めて画面から離れない草薙さんに声をかけながら、私もPC画面をのぞく。
その画面に映るウィンドウには一通のメールが開かれているが、メッセージ欄に並べられた文字は日本語どころか英語ですらない文字で埋まっていた。
最初は文字化けかとも思ったが、どうもそれはPCテキストで使われている文字ではなく、まるで一文字ごとに筆で殴り書きでもしたような、でもどこか見覚えのある記号だった。
「ウィルスメール?」
「いや、梵字を使った暗号メールだ」
梵字。
そうだ、この文字は〈ヴァルナーガシューズ〉が効果を発動するときに演出として展開する煌方陣に描かれた文字そのものだ。
さらには【紫智天】葉鳥朔真との戦いでもイヤと言うほど見てきた実在する古代文字の一種。
古代インドで使われたサンスクリット語を日本語として漢訳表記するために生まれた文字。
日本では空海というお坊さんが説いた仏教の一つ真言宗のお経で使われている文字だと、毎晩抱き枕にしていたビャコが、子守歌代わりに垂れた蘊蓄でそういっていたのを思い出した。
「草薙さん、読めるの?」
「読めるというか解読だな。こいつは五十音を梵字に当てはめただけの普通の日本語だ。俺たちの間でしか伝わらない、れっきとした暗号だよ」
「それで、なんて書いてあるの?」
草薙さんはデスクの引き出しから早見表らしき一枚のシートを取り出して、メールとシートを交互に見ながら暗号を解読してゆく。
「なになに? 白波勇作と白虎型マスコットは預かった。返してほしくば、天水晴那を連れて御瀬露ジャンクションまでこい」
「――なっ!」
草薙さんが淡々と解読した暗号を読み終えたのと同時に、私は思わず声を挙げた。
「これって、脅迫メールじゃないの!」
「ま、まぁ、どっからどうみてもそうだよな……この文面だと……」
大事なパートナーとマスコットが浚われたというのに、草薙さんはどこか気まずそうに目をそらしながらそんな所感を述べる。
いったい誰が、なぜ、どうやって私と勇作Pの関係を探り当てたのか、いろいろ気になる点が頭に浮かぶ。
だが、今までのように慎重を優先してじっと考えている余裕はない。
「御瀬露ジャンクションっていったら、歓楽街付近のライブハウスよね。ここからそう遠くないはず!」
誘拐犯の目的を冷静に推測するよりも、まずは勇作Pとビャコを必ず連れ返す。
二人とも私にとってなくてはならない大事な人たちだから。
脅迫文の記した通り、要求の目的が天水晴那の来訪ということは、恐らくエンプリスでの戦闘は避けられないだろう。
武器を手に取る代わりに、コートハンガーにかけられた新しいデッキホルダー付きのベルトを腰に巻く。
このベルトもユニフォームの一部らしく、青色に染まった合成皮のデッキホルダーには、〈RDティアーズ〉のブランドロゴが刻まれていた。
律儀に化粧をしている間はない。
一刻も早く助けに向かうべく一足先に準備を完了させた私はバックヤードの扉を開けかかったが、一方の草薙さんはいっこうにデスクから腰を上げずにいた。
「草薙さん! ぼさっとしてる場合じゃないでしょ! 早くプロデューサーを助けに行かないと!」
「あ、ああ、済まない。すぐに車を出す」
せかされてからやっと草薙さんが腰を上げて車のキーを握りしめる音を耳で聞いた直後、私はバックヤードのドアを蹴り開けた。
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