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楽曲をかけた大勝負の舞台へ

【この楽曲および楽曲を内蔵されたカードは、独立行政法人プリズム協会の申立により、レコード制作者の権利侵害として利用が停止されました】



「利用停止だって?」


「権利侵害って、この曲無許可で使ったってこと?」


「たしか、この曲を作った人って、あの草薙亮だよね?」


「まさか草薙亮の作った曲を無断で賞品にしたってことか!?」



 さっきまで祝いの言葉と黄色い声しか上げていなかった観客達が楽しい夢から醒めるように、それぞれがこの事態への不振を口にしてゆく。



「なにこれ、どういうこと? 利用停止って、どうなってるのよ!」



 この騒ぎに一番の疑問を抱いているのは、勝者として受け取ったしおりだろう。


 今の今まで金メダルを受け取っていた気分から、まるで偽物をつかまされたかのように、手に入れたカードを睨み付けた。


 不審と猜疑。


 さっきまでお祭りムードだったアリーナの空気が、一気に不味いものへと換気されてゆく。



「あらら。え~っと、ちょっとシステムトラブルが発生したみたいですね。ただいま、確認いたしますので――」



 赤い眼鏡の司会者が、機材トラブルを理由に場の空気を変えようと舞台の舵を切り始めた。



(そろそろ。オジャマしてもいいんじゃねぇか?)


(うん、いくよビャコ!)


(おうよ!)



 十分な頃合いだ。


 Q-key.333への愛が疑惑へと変わりつつあるこの不味い雰囲気を狙って、私はビャコを肩に乗せてその場から一気に駆けだした。


 観客席の遠方――密集する観客達を押し退けて、私はステージに向かって一直線に駆けぬけた。


 海を割るモーゼの如く、集う観客の群を二分させ、ステージと客席の狭間に立つフェンスを跨ぐどころか、踏み台にして高く飛び上がった。


 着地先は、しおりがいるステージの上へ。


 階段を無視して飛び乗ってきた私の靴を、リノリウムの床が受け止めた。


 その予期していない飛び入りを目の前で見てしまった司会者は、不意をつかれた拍子にマイクから手を離してしまった。


 落ちたマイクが床にぶつかり、耳を被いたくなるほどのハウリング音が増幅器経て反響した途端、さっきまで不穏と不信にまみれて騒がしかったアリーナがより一層静まりかえった。


 ほんの数秒でアリーナにいる全ての人間の視線が集中していることを感じながらも、私はすっと立ち上がってしおりと向き合った。



「だ、だれ?」



 乱入者と目が合ってしまったしおりが、ここにいる全ての者を代表して尋ねた。


 私は足下に落ちていたマイクの端を勢いよく踏みつけ、強引に宙に舞わせたマイク手にとって声を入れた。



「私の名は、天水晴那(あまみはるな)



 名乗りと同時に、私は頭に被っていたパーカーのフードを脱いで前に出る。


 それに併せて肩からするりと手の中に着地したビャコが、一瞬だけ光の玉に姿を変えたかと思うと、はじけるように纏っていた光をはがしてマイク型スキャナーへと変形した。


 白虎の面影がある白地に黒の虎模様が施されたそのスキャナーを、しおりに見せつけるように掲げる。



「あんた達が欲しがっている楽曲のデータはこのスキャナーの中にある」


「え、ええぇえ!?」



 乱入に次いで放った衝撃の真実に、しおりを始め、周りまで同様にどよめき始める。



「Q-key.333の運営が無断で使用しようとしたこの楽曲の音源は、プリズム協会によって差し押さえられた。でも、こちらの持っている音源は協会と著作者直々に受け取った本物。当然、入手したあとで好き放題できる権利も集約されている。手に入れたいなら、こいつの腹をかっさばくか、私にエンプリスで勝つしかない!」


「ちょっとぉ! もうちょっとマシな言い方はなかったのかよ!」



 物騒なことを言われて腹に悪寒が走ったと訴えんばかりに、マイクになってもなお口を挟むビャコ。



「天水晴那……まさかあんたはっ!」



 観客の前で果たし状を叩き付けられたしおりだが、人質にされた音源よりも私のもう一つの名前から思い出したようだ。



「天水晴那って、最近巷で噂になっているあの?」


「Q-key.333狩りと証してメンバーをボコボコにしている様子を撮影して動画にアップしてる悪趣味な奴でしょ? 変態よりも質の悪いのが乱入してきたな」


「あいつのせいで、オレの推しがデビュー前に脱退されたんだけど」


「マジで信じらんねぇ。どころか、こんな所にまで乱入してくるなんて調子に乗りすぎだろ」


「あの楽曲が使えなくなったのも嘘くさい。一体どんな手を使ったのかしら」



 賞品として贈呈された曲がまさかの無許可だった騒ぎから天水晴那が乱入したことで一転。


 すっかりステージは忌まわしき悪役登場という不愉快に満ちたものへと変わった。


 不穏な空気がより悪く変わったのは観客席だけじゃない。


 本来なら授賞式への参列としてしおりと同じ舞台に再び立ったメンバーにも、恐怖や義憤、悲壮など様々な感情を込めた目で私を睨み付けてくる。



「天水晴那……わたし達の仲間を狩るだけじゃあ飽きたらず、大事な曲まで奪うなんて!」



 もちろん勝負を挑まれた登坂しおりも、目の前に宿敵が現れたことで顔も険しくなった。



「おぉいッ! そもそも草薙の曲を奪ったのはそっちだろ! 無名アイドル相手にボコボコに負かされたのも、そっちの力不足が原因だろが」



 事実関係はビャコの言う通りだが、しおりは問答無用と言わんばかりに天水晴那の挑戦を受けてスキャナーを構え直した。



「そんな正論がまともに通じる状況じゃないし、今は曲の所有権の件は二の次!」



 正式に勝負を受ける気になったしおりに応戦するかのように、ビャコも同様に体内のプリズムストリームを巡らせて虹色の読込プレートを噴出させた。


 歓声によって震える熱い空気を清める様に、ほんのりと虹色を帯びた気流が、一陣の風となってステージ上に薄く渦を巻く。



「おぉっと! これはなんということでしょう! オーディション戦を制して優勝したはずの登坂しおりちゃんの前に、巷で大暴れしている無名アイドル天水晴那が曲を人質に勝負を挑んできた!」



 急なアクシデントに見舞われた割にはずいぶんとなれたテンションで舞台を煽る赤眼鏡の司会者。


 この事態を美味しい名場面と判断したのかカメラまで回し始め、舞台裏方側も併せてアリーナ中のモニターを切り替えてゆく。



「〈エンプリス〉とは、様々なデザインを施された衣装が描かれたカードを着ることで、それぞれ設定された数字――アピールポイントの高さを競い合うとい、とってもお淑やかな競い合い展開が特徴です。

 ルールはとっても簡単。プレイヤーはデッキという用意された山札の中から、交互に一枚ずつコスチュームカードを出してアピールポイントをあげます。

 ただし、アピールポイントの合計が3000を越えたら負けとなってしまいます。

 つまり、プレイヤーは限られた範囲の中でアピール力を競い合うしかありません。

 その他にも、プレイヤーを助ける能力を持っているミュージックカードや、相手を妨害するアクシデントカードなど、一見シンプルなようで、とても知的な戦略が求められているともいえます」



 矢継ぎ早な宣伝と解説を終えた赤眼鏡の司会者がレンズ前から颯爽と交代し、カメラを白熱しているアイドル同士の舞台へと返す。



 準備が整ったところで、対峙する二人のアイドルが号令を叫ぶ。



「「――オンステージ!」」



天水晴那 AP0 VS 登坂しおり AP0


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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