意味深な「殿堂入り」
「まぁ、無理に感動の再会をしなくても、今こいつらから得られた情報はかなり貴重だな。さすがは元【紫智天】様ってところかな?」
私から求めていた答えを絞り出したが、いまいち盛り上がらずに鈍重になって静まりかえる中、ビャコが気まずくなった暗い空気を入れ換えるつもりで、無理矢理だがこの話題を締めた。
「もう元をつけるのかい? 君のマスコット、ずいぶんといい度胸だね」
「でしょ? このシロネコくん、ボクのときもそうだったよ」
貶しながら賞賛するビャコの洗礼を受けた葉鳥朔真が皮肉っぽく笑い、それに釣られて雨羅刹那もいつものようにケタケタと笑った。
辛気くさく湿った空気が嫌いな二人と一匹の話が弾んだことで、狭いヘリの中が一気に明るい雰囲気になった。
張りつめた空気が抜けて私の気分も楽になったのか、つい欠伸がでてしまった。
「ところでよ、エマの所に移籍したところで、お二人さんはこれからどうするつもりなんだ?」
話したことで今までの不機嫌が晴れたのか、ビャコは私の膝から降りていつもの調子で二人に今後を尋ねた。
それには、エマさんが座席からひょこり顔を出して答えた。
「そりゃあ、もちろん二人ともウチのモデルアイドルとして活躍してもらうわ。なにより、元ディーヴァス神姫を二人もお迎えできるなんて! 〈ハオマネクト〉ブランドは、お仕事よりどりみどりで今後の注目株になるわ!」
座席で体が隠れようとも、踊り出しそうなほど歓喜しているのが解るくらいエマさんは上機嫌だった。
「確かに移籍の後で協会に申請すると、改めてスキャナーが貰える。けどねぇ……」
「いくらQ-key.333上位にいた『ディーヴァス神姫』がフリーになったところで、殿堂入りしている以上は他企業との仕事は向こうからお断りされる身だ。たまたま名ブランドを立ち上げた身内がいるだけでも、私たちは運がいい方だよ」
SNSゲームのガチャで素引きした最高レアのようにお迎えを歓迎された二人は、雇い主のテンションと反対に浮かない顔で互いを見つめ合う。
やっぱりか、と声を出さない代わりに、私はへの字になった口で移籍後の未来をもう憂う元ディーヴァス神姫を見る。
「事実上、他所属のアイドルというQ-key.333の天敵になったからといっても、肝心のアイドル活動の大部分が殿堂入りのせいで封じられたから、Q-key.333と正攻法で衝突ができなくなっているのよね。あんた達は顔が割れてるから、私みたいに無茶な強襲も難しそうだし」
パルクールの如く華麗で素早い移籍を決めたとしても、アートマンストラが彼女たちに架せられた足かせのせいで、親元から離れても仲間どころか遊軍としての戦力は期待できそうになかった。
「なぁなぁ、お嬢ちゃん達。ちょっといいか?」
「なによ?」
さすがに朝から晩までぶっ通しで戦い続け、その後でディーヴァス神姫戦で疲れがでたのか、よく出てしまう欠伸を一つだして私は答える。
「そもそも、その殿堂入りってなんだよ?」
ビャコの唐突な発言は、このヘリに座る三人の元Q-key.333のアイドルの目を丸くさせた。
自分の質問でここまで仰天された事に、ビャコもまた驚いていた。
「君、マスコットとはいえ業界人なのに、そんなことも知らないのかい?」
また、いつものさぼり癖による弊害かと思い、私は情けなくため息をついた。
「気にしないで、こいつゴシップ以外ろくに聞き耳立てないから」
「おいおいおーい! そういう言い方はないだろ!」
「――私も気になるわ。あなた達の言う「殿堂入り」について」
騒ぎ出すビャコの文句に耳を塞ごうと思った最中、今度はエマさんの台詞が二滴目の冷や水となって会話に割り込んできた。
「一応質問するけど、殿堂入りの本来の意味は知っているのよね?」
「義理の妹を舐めないでもらいたいね。本来、殿堂入りというのは大衆の目が集う博物館のような場所に納め、後世に語り継ぐほど非常に偉大な功績そのものの比喩表現だろう?」
「そんなの分かってるよ。ボクらは、とても栄誉のあることだって、プロデューサーや劇場支配人達からそう言われたんだ」
「もっとも、今では長い間不動の人気をとり続けている者を別格扱いにするための意味の方が強いがね。そうだな、私たちで例えるなら、強すぎてオーディションに出るだけで望む仕事をぺろっと得られる『ディーヴァス神姫』の一強ではメンバー間で不平等が生じるから、格下の子達にもチャンスを与えるための口実ともいえるかな」
自分達が強すぎる。
良い意味でも悪い意味でも、強さを認められて持ち上げられていることに、案外悪い気がしていないのか、ついこの前まで黄黙天や紫智天と呼ばれていたハイレベルのアイドル二名が、思い出を苦笑いで語りながらわざとらしく肩をすくめていた。
そんな殿堂入りとなった二人と、隣で何度も欠伸が出ているパートナーを見たビャコは、呆れ果ててボリボリと頭を掻いた。
「こりゃあ、殿堂入りって勲章っぽい言葉に惑わされてるな」
「何が言いたいのだね?」
「殿堂入りしたってことに納得するのは結構だが、それがおかしいって思わないのか?」
「おかしい?」
未だに発言の意図が分かっていない朔真や刹那が顔を顰めながら代わる代わる聞き返す。
ついでに私も揃ってビャコをみる。
「この芸能世界、特にお前達は〈エンプリス〉という競技のおかげで、不自然で強引なセールスや面倒なコネクション、企業の規模や名声の偏見に影響されず、自分たちの実力だけで仕事を得ることができるシステムになっている。強すぎて仕事を選べないなんて、そんなの今のシステムに真っ向から否定しているようなもんだ!」
「殿堂入りなんて彼らは聞こえの良い言葉を使っているようだけど、特に事情をしらない私たちの耳には「干された」っていわれているようなもんよ」
干された。
つまり、上層部が意図して仕事を与えられないように手を回されてしまった状態のこと。
特に芸能人にとっては、テレビにすら出させてもらえない致命的な処遇。
エマさんの口からストレートな解釈によって改めて真の意味が伝わり、刹那と朔真が知らぬ間に自分達が干された状態に追いやられていたことにショックを受けていた。
盲点だった。
私達は自分達が今まで何について語り合っていたのか、完全に忘れてしまうほどに。
今の今まで、Q-key.333が〈エンプリス〉による実力主義社会の縮図であることを確かめ合い、そのシステムに反して加入しようとしている奴を犯人だと目星をつけていたのに。
「そもそも強すぎて殿堂入りなんて、既存のカード達に適用するならともかく、Q-key.333の、特に『ティーヴァス神姫』という最高のドル箱に適用させるなんておかしいだろ。売れどきが短命なアイドルの貴重な寿命を無駄遣いさせるなんて、最強のアイドルグループがやる運営じゃあないな」
「殿堂入りが事実上の閑職なら、私達にそれをする意味は?」
「恐らくだけど、あなた達『ディーヴァス神姫』という最強のアイドルに、敵に回ってほしくないからかもね。殿堂入りという耳障りの言い勲章をあげて持ち上げることで、永遠に自分たちの監視下におくために。仮に真意に気づいて組織を抜けたとしても、オーディションで鉢合わせて敵対させないために」
強ければ強いほど好きな仕事を選んで得られる。
まさにそれを体現している『ディーヴァス神姫』は彼らの最高傑作にして、世間が認めるトップアイドルの集団。
ところが、運営は何を血迷ったのか彼女たちが目障りになったらしい。
だが、愛想を尽かされて脱退されるとまず残ったメンバーでは勝てないので、運営側は自分達が勝手に作った勲章を与えていい気分にさせて残らせ続けていたようだった。
「でも、カナッペはグループを抜けたよ」
唯一アートマンストラと円満で卒業を迎えられたカナ先輩の名前を刹那が引き合いに出すが、それには私が答えた。
「確かに元一桁台のカナ先輩は『ディーヴァス神姫』に匹敵するほどの実力をもっていた。でも、先輩は卒業した後、芸能界との関わりも絶った。メディアの前でそう宣言しながら卒業したんだから、敵に回る心配をしなかったのかも」
現状一番ランクが高く実力も高かった卒業生が艶井鼎だっただけで、同じく抜けた元メンバーの中でなかなかに手強い子もいた。
しかし、どれの子も芸能界に関わることがないことを前提で抜けていたため、運営の敵視から外されていた。
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