犯人はナガタマホ?
「ついでに、もう一つ聞きたいの。ナガタマホというアイドルについて」
勇作P達アクアクラウンがもっとも必要としていた情報の収穫が進んだことろで、今度は肝心の私自身に関する情報を朔真に求めた。
「元ランク9でキミの師であった艶井鼎が、運営から推薦を強要された相手のことか」
「オーディションや昇格戦すら経由せずに、澄香が抜けた直後に元ランク9の推薦状一枚でランク9入りが決定している新参者って聞いたぞ」
ビャコが付け加え、提供者である刹那が「話したのは自分だ」と言わんばかりに笑顔でピースする。
「その件については艶井君から相談を受けた際に、我々も不振に思っていたところだ。天水晴那のついでだが、もちろん一緒に探らせてもらったよ。だが、残念ながらナガタマホという名前も、運営どころか協会のデータベースにすら引っかからなかった。SNSやブログすら経歴なし。粟久Pがどこでどう見つけたのかわからない、今のキミと同じ完全に謎の人物だ」
モデルアイドルの件とは違って、こちらは【紫智天】という辞典を持ってしても収集が滞っているらしい。
「カナ先輩は、もうナガタマホに会ったの?」
「それはわからないね」
「なんでカナ先輩が、こんなことに巻き込まれて……」
「卒業したとはいえ、影響力や残したモノが大きい偉大な先輩だからねぇ。それに加えて、OGというだけで接触しやすい相手だったのだろう」
鼎先輩は私にランク9を継承して卒業した後、アイドルとしての目標を達成した後の夢として、念願だったらしいコーヒーショップを開店して自由になれたが、自分のせいで不可思議な出来事にまた縛られるなんて、後輩としてあまりにも自分が情けなかった。
「空席ランクを埋めるために新メンバーの加入や補充は珍しくない。なのに、どうして粟久はそいつのランク9入りを決定事項にしたんだろう」
「何よりもOGの艶井鼎にだけ、その話が極秘に舞い込んできたのかが余計に不思議だなぁ」
腕を組みながら口元を手で覆うほど朔真も深く考える。
「加入や補充、そして昇格。これら全てをイベントとしてメンバーの向上心やファンの応援を煽り、エンターテイメントにしているのがQ-key.333独自のセールスポイントのはずよ」
「かといって課程を見せないで発表するサプライズは悪手だぜ。手順を踏まない高ランク認定は、既存メンバーが昇格をかけて戦う様を応援したいファンから余計な反感を買っちまう」
部外だが同じ業界人であるエマさんについでビャコも考察に加わる。
粟久を筆頭にアートマンストラが確立させた〈エンプリス〉によるアイドル同士の格差付けは、応援の中に勝負という概念を入れることでファンをより熱中させることに成功した、斬新ながらも見事なセールスポイントとなったシステム。
そんな見せ場を、わざわざ隠匿することで犠牲にしてしまう理由がわからない。
「――考えられることは一つ。ナガタマホの存在は、逆に顔や素性を極秘にしておかないといけない奴だから」
突然、唯一悩んでいなかった刹那がスパっと言い切った。
「顔や素性を隠す必要?」
「それだけじゃない、そもそも焦点になっているランク9は『ディーヴァス神姫』に及ばなくても数字だけを見れば一桁級。生半可な腕前で居座れるランクじゃないのは、すみっぺが一番よく知っているはずだよ。普通それくらいの実力があるなら推薦状なんて必要ない。でも、それすら公開させないということは、ナガタマホの実力はランク9にすら届かないほど、お粗末なんだろうね」
「顔や素性、そして実力まで伏せる。さらに推薦状をかかせてまでランク9にしないといけないなんて、まるで運営は誰よりもナガタマホの全てを最初から知っているようだね」
「全てを最初から知っているって……まさか!」
刹那の推理に朔真が合いの手を入れたことで、私の中で冷水の滴が背筋を流れるように悪い予感が神経を駆け巡った。
「ランク9の称号はすみっぺを追い出した報酬。そして運営がカナッペにナガタマホをランク9と数字入りの推薦するよう持ちかけたタイミングは、すみっぺが脱退した直後。状況証拠だけなら、ナガタマホは完璧にクロだね」
自分を冤罪で追い出したのが運営だという黒幕が判明した次は、運営をバックにしていた下手人の目星がついた。
なんだか真相が分かる順序がバラバラになっている気がしたが、今まで闇雲に強襲するしかなかった中で、ようやく狙うべき敵を絞り込むことに至ったのは大きい。
「そいつの顔を真っ先に拝みたいのであれば、推薦状の執筆を頼まれた艶井鼎に直接聞いてみるほうが一番だね。ただ、不自然な抜け方をした愛弟子から正体不明の後釜を継がせることに、どうにもきなくさくて断っている可能性が高いが、近況報告がてらに合うだけでも違うぞ」
「それは遠慮しとく」
朔真は再会を勧めるが、私はつい目を背けて断った。
機窓から夜景の上を駆ける珍しい景色が流れているようだが、今の私には後ろめたさで頭が一杯になってそれが見えなかった。
「どうしてだい? 彼女は誰よりも君の無実を信じている上に、ひょっとしたら力になってくれるかもしれないのだぞ?」
「わかってる。でも……」
「信じているかも」ではなく「信じている」と断言してくれたことで、私の心は今までで一番救われた。
私自身ももしかしたらカナ先輩に無罪だと訴えれば理解してくれると信じていた。
それが、本人から直接聞かなくても、他人の口からカナ先輩も私の無実を信じていると伝えられれば、顔に出せないのが悔やまれるくらい嬉しかった。
「でも、カナ先輩には、こんな姿を見せたくない」
私はもう艶井鼎が知っている遊生澄香じゃない。
冤罪とはいえファンを裏切る羽目になり、自分の潔白の為に本当に仲間を裏切り、そしてカナ先輩からの教えてもらったことも全て裏切った。
なによりも、カナ先輩が得意な笑顔の魔法が、もう自分に利かないことが再会を拒絶させる。
自分の意志と笑顔を受け継いだ一番弟子の遊生澄香が、己の潔白を晴らすという自分勝手な目的で同胞を潰すことに躊躇いのない冷酷無情の天水晴那になっている今、どの面を下げてあの人に会えばいいのだ。
「や、やっぱり、俺たちと手を組んだこと後悔してる?」
膝の上でしおらしくなったビャコが、伺いを立てるように恐る恐る尋ねた。
耳が畳まれるほど悲しげな目で見つめられて、私は自分がとっさに言ったことをさらに悔やんだ。
「違うよ、ビャコ。あんたやプロデューサーを否定してるわけじゃないの。私は自分がしていることは間違いだとも思ってない。璃玖さんを救うという目的だってある。だけど……」
言葉が続かなかった。
勇作Pや草薙さんという奇跡のような恩人との出会いを、今の自分の成れ果てた姿の原因にしたくはなかっただけなのに。
次に鼎先輩に会うときは、返り血も心に闇もなくきれいな姿で出会いたかった、とか。
これは個人の問題で先輩には巻き込まれてほしくない、とか。
どんな理由であれ変わってしまった姿を見て失望されるのがいや、とか。
あれこれ会いたくない言い訳がぽつぽつと浮かんだが、どれも今抱いている気分を説明するのにしっくりこなかった。
一番に不安があるのは確かなようで、先輩のことを考える度に気分が優れなくなってきた。
「まぁ、気持ちはわかるよ。でも、せめてメッセージの一通くらいは送っといた方がいいよ。カナッペ、キミのことかなり心配していたから」
気の毒なあまり笑みが消えた顔で、刹那まで突実にカナ先輩との再会を促してくる。
「会う勇気が出たら考える」
このまま駄々をこねると、決心が付くまでしつこく促されそうだと感じた私は、わざとらしく鼻でため息をついて答えた。
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