星空の中での会合
勢いで生まれて初めて乗り込んだヘリコプターの内部は、案外快適な内装をしていた。
救助用とかリポート用などの座席が平行したタイプのしか見たことがなかったが、葉鳥朔真がよこしたタイプは、どっかの観光用なのか飛行機みたいな手触りのよい材質の座席で、まさかの五人まで相席で座れる豪華な内装だった。
「やーやー、またあったねぇ!」
三人掛けのシートを独占している真正面、ちょうど操縦席と背中合わせになっている席に移った雨羅刹那が、相変わらず緩い挨拶で出迎えた。
「お招きに応えてくれて感謝するよ、天水晴那くん。いや、元ランク9遊生澄香くん」
そして、その隣には私達の欲しい情報を餌に空まで招き入れた張本人である葉鳥朔真が、つい数分前に敗北によって強制脱退させられたとは思えないほどのんびりと座っていた。
「やっぱりバレてたのか。そこにいる雨羅刹那がリークしたのか?」
いつもなら空の遊覧といった珍しい経験になると、つい目的を忘れてはしゃぐはずのビャコだが、今回はかなり深刻な会合であることを承知しているのか、珍しく私の隣で胡座をかいてまでおとなしくしていた。
「二割正解かな。それまではお互いにそれぞれ目星を立てていたからね。実際に彼女と再会したのは、記者会見から三日後で、単なる答え合わせになったというだけさ」
勘の鋭い雨羅刹那に対して、知識と情報による精密な推測で正体に目星をつけたという、勇作Pの推測は大当たりだったというわけだ。
「移籍するっていってたわね。ということは、このヘリを用意したのも、その移籍先の会社が?」
「ええ、そうよ!」
ここで朔真の真後ろ――助手席というか副操縦席の方から、私の質問に答えた大人の女性の声が割り込んできた。
「可愛くて、強くて、おまけに賢い義理の妹が正式にウチに来てくれるから、経理に無理言ってお迎え用に大奮発しちゃった!」
「義理の?」
「妹?」
「チャオ! ビャコくん」
座席からひょっこり顔を見せたのは、艶美な声と顔立ちがマッチした女性。
このアイドルだった少女達だけが集う空間の中で、場違いなほど大人の雰囲気が出たお姉さんとも言うべき人がこの会合に加わった。
「あー! お前は芦屋エマ!」
「もう結婚して葉鳥エマだけどね。改めてよろしく! パートナーの遊生澄香ちゃん。勇作君や草薙さんとは昔からの知り合いで、〈ハオマネクト〉ブランドのデザイナーをやってるわ」
ビャコと面識があったらしいエマという女性は、わざわざ婚約指輪を薬指にはめた手を振って私とビャコに挨拶を送る。
移籍の段取りが順調すぎる理由の説明がこれで付くわけだ。
ということは、葉鳥朔真や雨羅刹那の移籍先は、身内でありブランド使用の協力関係にあった〈ハオマネクト〉というわけだ。
「おやおや、エマ姉さんが澄香くんのマスコットと知り合いだとは初耳だな」
「ビャコくんはね、元々〈アクアクラウン〉のデザイナーになったあの白波勇作くんとパートナーだったマスコットなのよ」
「あの伝説の男性アイドルグループ『サーキット・トライヴ』の白波勇作と? あのドライな白波勇作が、こんな冗談が面白くないのを相棒にしていたなんて、とても信じられないなぁ」
「でも、今のすみっぺを見ていると、案外お似合いのコンビだったんじゃない?」
自身の進退をかけて激闘を繰り広げた相手のパートナーが伝説の相方だと初めて聞かされ、二人は改まってビャコを見つめていた。
「そんな事より、約束通りここまでちゃんと付いてきたんだから教えてもらおうか! モデルアイドル達がアートマンストラによって全滅させられたってのはどういうことだ!」
全身の毛が逆立つほど苛々しているのか、ビャコは虎らしく鋭い牙を見せつけて威嚇しながら朔真を問いつめた。
「言葉通りの意味だよ。潰されたモデルアイドルは、君たち〈アクアクラウン〉だけじゃない。Q-key.333への協力を拒みながら、同等の実力を持ったアイドルをモデルとして独自に活躍をしていたブランドのお抱えモデル達は、アートマンストラによって摘み取られていたのさ」
「どこでそんな情報を?」
「えっとね、まずボクが君から聞いた大葉璃玖の名前を朔真に言った」
先に刹那が答えて朔真に指を指した。
「そして私がプリムス協会やアートマンストラのデータベースにちょっと忍び込んで検索させてもらったよ」
パソコンを使ってと表現するように、朔真は両手の指をこれ見よがしにパラパラと動かす。
「プリズム協会にアイドルのデータがあるの?」
「ああ。〈エンプリス〉のおかげで、今じゃあアイドル活動業もエンタメを超えた立派な産業の一つだからな。それ故にアイドル個人の権利を手厚く守るために、行政機関としてプリズム協会が立てられたのは知っているよな?
お前はQ-key.333という運営もグループ規模も超大型の組織に所属していたから、肝心だけど面倒な手続きを運営にやってもらっていただろうから知らないのも無理はない。本来なら協会によって設立を公認された芸能事務所を通じて、所属するアイドルとの契約が決まると、協会は正式にアイドルになった証としてスキャナーを提供するんだ」
「弁護士が日弁連に入っているようなもんだね」
一端の業界人として解説をしてくれるビャコに刹那がわかりやすい例えで要約した。
「スキャナーの提供。ということは、あんた達オリジナルマスコットは、元々協会から配属されたってこと?」
「まぁ、そういうことだ。でももうオレの身と心は全部勇作のもんさ」
オリジナルマスコットが貴重ながら不思議な存在であることは聞かされていたが、実際にどこからどうやってアイドルに手渡されるのかの経緯までは普通に知らなかった。
「ちなみに聞くけど、私の登録情報はどうなってるの?」
「遊生澄香としては登録が完全に抹消されている。一方で天水晴那に関しては登録がされていない。だから私も、君の正体を探るのにすごく手間取ったんだ」
「心配すんな。登録されて無いままアイドル活動をしても別に違法じゃない。ただ、ヘアメイクやネイルの手入れを全額自腹で払わされるくらいだ」
「診察前に病院に提示する保険証みたいね」
アートマンストラに所属していた時に、いきつけの美容院やネイルショップで表示価格よりやすく利用できたのは、別にサービスだったからじゃなかったようだ。
「そもそもプリズム協会は、我々アイドルやクリエイターが事務所から不当な扱いを受けないよう管理するために設立された組織だ。当然、保護対象であるアイドルの細かなデータも残っているとも。ただし、日弁連の弁護士紹介とは違って、公にされているわけじゃないからね」
「ハッキングしたの?」
「大声では言えないけどね。ただ、行政機関が扱うデータベースにしてはずいぶんとセキュリティが甘々だったよ」
「でも、今更そんな公共の機関にあるデータを見て何が判明したっていうの?」
「プリズム協会に記載されたデータには、そのアイドルの現所属企業も記載されている。入社はもちろん、移籍したときや独立した場合、その都度所属状況を更新しないといけない」
その件は特別な話ではない。
大人が就職する時に、様々な機関に自分の勤め先やらを提出することと何も違いはない。
プリズム協会という特別な機関が別個にあるだけで、私たちがアイドルという職についているだけのこと。
「それで大葉璃玖について検索した結果は?」
ビャコが喰い気味に尋ねる。
「君たちの言うとおり所属はアートマンストラ名義になっていた。もちろん、アートマンストラのデータベースにも、所属メンバーとして彼女の名前があった」
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