空への招待状
天水晴那 AP730 VS 葉鳥朔真 AP3100→BURST
三つもあったチャームが最後の輝きと共に炸裂し、【紫智天】が最後に叫んだ悲鳴をかき消すほどの爆音を三度も轟かせながら、特撮さながらの見事な大爆発演出を起こした。
まるで必殺技を決められた悪役怪人のようなやられっぷりを舞台の上で派手に見せた【紫智天】の散り様から、誰の目から見ても敗北を確信した。
「ふぃー! やっぱり『ディーヴァス神姫』が相手だと一筋縄ではいかないなぁ」
この激闘の決着はシステム上でも完全にプログラム上でも認識され、プリズムストリームによる演出で出していた物や状態は全てリセットされる。
それによって、私の肌を蝕んでいた火傷も無事に消えた。
「まったくお互いに酷い目にあったなぁ。火傷、跡になってない?」
「大丈夫みたい。おかげで、これであんたと妥協結婚する必要性もなくなったわ」
「そこまで嫌がらなくても……。そういえば、【紫智天】はどうした? あいつにはまだ聞きたいことが山ほどあるってのに!」
演出で形成されたプリズムストリームが消えて爆発が越した黒煙はすっかり消えているはず。
しかし、その消えた爆発跡に目を向けると、そこにいるはずの【紫智天】は、自決プログラムによって全部の機能が死んだスタンドマイク型スキャナーを残していなくなっていた。
「いない?」
「なああ! あいつ逃げやったのか!」
「逃げただなんて人聞きが悪いなぁ!」
やけに遠い場所から返事を叫ぶ【紫智天】の声がどこからか聞こえてきた。
本人が逃げてないと言うからには、近くにいるのだろうが、辺りを見渡しても姿がない。
その時、思わず顔を覆ってしまうほどの激しい突風とともに断続して何かが回転するローター音が喧しく鼓膜を叩いた。
今は夜だが、満月のスポットライトを塞ぐ何かが自分たちの真上にやってきていた。
閉じかける目を半分までこじ開けて見上げると、満月の光を背にしたヘリコプターが逆にこちらを見下ろしていた。
搭乗席の扉から垂れた縄梯子が延び、そこには探していた【紫智天】の葉鳥朔真が優雅なポーズでぶら下がっていた。
「見事だったよ、天水晴那くん。本気の私を倒すとは恐れ入った!」
まるで予告した物を盗みきって警備の群から脱出する怪盗の様な佇まいで、浮かぶヘリから延びる梯子を握りながら、私に向けてやけにセリフがかった賛辞を送ってきた。
「ヘリコプター!? 知識至上のデータキャラのくせに、何から何まで無茶苦茶な奴だな!」
もはや私もどっから突っ込めばいいのか解らなくなってきた。
そのとき、ヘリの方から妙に視線を感じて機体にも目を向けると、その窓には身覚えのある顔が、こちらに向かって笑顔で手を振っているのが見えた。
「――雨羅刹那!?」
「はいぃ? なんであいつまでヘリに乗ってるの?」
一週間前の戦いで既にQ-key.333のメンバーでなくなった雨羅刹那が同席しているということは、このヘリを用意したのはどう考えてもQ-key.333運営するアートマンストラではない。
「葉鳥朔真は、自分が負ける可能性も想定して、こんな豪快な保険も立てていたってこと?」
「ご明察だ! まさか念の為に用意した準備を使うことになるとは気の進まぬ話だが、運命がこの結果を選んでしまった以上は仕方がない。諸君、いきなりで申し訳ないが、葉鳥朔真は天水晴那に敗北したこの瞬間を以て、アートマンストラとは別の組織へ移籍させてもらおう!」
「念のための準備が移籍先の確保ってことか? 抜け目ねぇ奴だ!」
私とビャコが冷静に葉鳥朔真の馬鹿げた脱走劇を静観している一方で、それ以外の面々はまるでこのドームに爆弾が仕掛けられているかのような騒ぎを起こしていた。
ただでさえ【紫智天】が敗北して強制脱退が確定しただけでも騒ぎなのに、ヘリコプターまで乱入させてからの移籍宣言まで重なった途端、ギャラリーどころかドームの管理スタッフ、そしてQ-key.333の運営陣までもが混乱して阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。
「さて、天水晴那! 私に勝てた約束として、一ついいことを教えてあげよう! この日本中に存在していたはずのモデルアイドルたちだが、実はアートマンストラの謀略によって全員消されてしまったのさ!」
「な、なんだと!」
敗退から移籍と連騰される爆弾発言に次いで、衝撃の問題発言までもが投下される。
この発言はヘリにかき消されることなくスピーカーを経由され、離れているマスコミ陣や運営陣、そして勇作Pと草薙さんがいるアーティスト陣にまで行き届いていた。
その証拠に、【紫智天】が脱退されたことで頭を抱えた運営陣達の顔がより一層青くなり、元【紫智天】の暴露を止めさせんとこちらに向かって走ろうとする。
しかし、何も知らないスポンサー陣やアーティスト陣に止められ、その場を凌ぐための言訳を苦しそうに捻出していた。
「詳しく聞きたければ、この縄梯子を掴んで共にくるといい! 夜空の上で月を肴に優雅な女子会へとしゃれ込もうじゃないか!」
ヘリコプターが少し上昇すると、確かに垂れている縄梯子の端には、もう一人分ぐらい掴む余裕があるほど長く垂れ下がっていた。
お誘いの通り、葉鳥朔真や同乗している雨羅刹那、そしてこのヘリをチャーターした人物は明らかに私が乗ることを期待しているようだ。
「くそう! 一番聞かなくちゃいけない情報なのに! オレはどうしたらいいんだよ!」
葉鳥朔真の提示する誘いの信憑性の確認よりも、このまま従順に誘いに乗ったことで勇作Pや草薙さんですら知らない場所へ連れて行かれるかもしれない危険性を取るべきか。
それとも、この絶好の機会を逃してしまったことで、貴重な手がかりがもう手に入れられなくなってしまう危険性を取るべきか。
一番に情報を欲しがっているはずの勇作Pや草薙さんから指示を仰ごうにも、アーティスト特権席にいる勇作Pや草薙さんがここにくるまで時間がかかる。
どちらの可能性を信じるべきか、ビャコは頭を抱えて唸った。
「仕方ないわ、行きましょう。プロデューサーや草薙さんなら、迷わずに行くはずよ」
「どこに連れて行かれるかも分かんねぇのに、元敵と相乗りするってのか!」
「雨羅刹那が同乗している時点で、私の正体はとっくにばれているうえに、結果次第で仲良く裏切る方にシフトしていた可能性があるわ。それに、いくらあの二人でも、流石に高層ビルより高い場所から落っことす真似はしないでしょ」
「あーもう! わかった、行こう! もしもの時はオレが守ってやる!」
「そこは当てにしてるわ、相棒!」
相談している間にも、ヘリは徐々に高度を上げ、やがて縄梯子の端が地表から離れる。
覚悟を決めた私はビャコを抱えて駆け出し、縄梯子が手に届かなくなる前に横さんを掴んだ。
私たちの乗客を察し、ヘリは改めて上昇するスピードを上げて、この絵に描いたような地獄絵図が広がる帝都体育館から逃げ出した。
我ながら、色んな意味で危ない梯子を上る羽目になったが、少なくともあの混沌地獄と化した帝都体育館の渦中を掻い潜って脱出する心配がなくなったことに、とりあえず安心した。
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