私の復讐は間違っていない!
天水晴那 AP1900 VS 葉鳥朔真 AP2800
ついに【紫智天】葉鳥朔真が誇るエースコスチューム達のお披露目と切り札を登場され、ドームの中が別の興奮で盛り上がっていた。
誰もがこの布陣を見るだけで、天水晴那の負けを確信している。憎き敵が墜ちる。聳え立つ物が派手に倒れる瞬間を待つドミノ倒し開始前の期待が、私に注がれつつあった。
「あんな完璧布陣、どうやって突破すればいいんだよ。こっちは頼みのスキルも使い切った上に、おまけに手札までゼロ」
「相手はご親切にチェンジで明け渡してくれたけど、このターンで何とか確実な決定打を与えないと、テンポをとられ続けて一方的に負ける」
スキャナーに備えられた円形モニターに指を走らせながら、【紫智天】が場に並べたカード達のテキストを凝視する。
自分の知識にない未知の無名ブランドに一本取られたぐらいで【紫智天】がキレるわけだ。
まさに自慢するほどの隙のない布陣だ。
だからといって、こちらにも覆せる手段がないわけではない。
どちらにしても、このドローに全てをかけるしかない。
「私のター……くっ!」
デッキに手を伸ばしかけたとき、右腕が動いた拍子に衣擦れした梵字型の火傷が再び疼痛を起こした。
「今更、全てを運命に委ねたところで無駄だよ。延び白がある腕の良いデザイナーが拵えた新しいブランドを味方に付けたようだが、私の誇る〈ハオマネクト〉の前では無謀も同然! その程度の性能でQ-key.333に挑むなんて死に急ぎすぎたんじゃあないのかい!」
無謀。
そんなこと、天水晴那を名乗ってから全て承知の上。
そもそも世界中から愛された巨大アイドルグループを相手に、ぽっと出の無名アイドル一人がゼロのまま立ち向かうなんて、これを無謀といわずして何という。
既に天水晴那の正体や目的を知っている【紫智天】にとっては、なにもかもが不十分のまま挑む私達の戦力を無謀だと揶揄しているつもりだろう。
身の程を知らぬ無礼者への罰。
それを暗示するように体に焼き押された烙印に手が止まった私の姿を見て、【紫智天】の言葉に扇動されたギャラリー達から嘲笑の笑いが起こった。
「無謀だの、馬の骨だの! ただ作ってもらった衣装を人一倍着こなせただけの消費者の分際で粋がってんじゃねえ!」
スキャナーからビャコの怒声が放たれた瞬間、アリーナ全体がぴたりと静まりかえった。
「お前にとっちゃ、その程度にしか見えないんだろうけどな、この衣装達を作ったデザイナーは、お前達Q-key.333を破滅させて、こいつと自分の無念を晴らすために、命を削って作り上げたんだ!」
一番のパートナーが想いを込めて手がけたブランドを貶されたことで、さすがのビャコも義憤の声を張り上げた。
そうだ。
私達は目立ちたいから戦っているわけじゃない。
それほどの無謀というリスクを背負ってまで立ち向かわないと、救えない人がいる。
一人目、運営によってあらぬ罪を着せられた私自身。
二人目、大事な人を奪われた挙句、滅茶苦茶にされる様を見せつけられた白波勇作。
三人目、勇作プロデューサーを騙してアートマンストラに浚われた大葉璃玖。
「私は勝たないといけない! 私を信じて、全てを託してくれたあの人達のためにも――」
今の居場所――〈アクアクラウン〉に帰って、飾られた写真を見る度に胸が痛む。
自分の知らないところで、あんな悲惨な出来事が起きていたことに。
だからこそ天水晴那としてかつての仲間を討つことに、後ろめたい感情など微塵もない。
私の復讐は間違っていない。
「「負けるわけにはいかないんだよ!」」
火傷となって反撃の手を止める【紫智天】の呪いなどかまうことなく、私は改めてビャコに備えたデッキの一番上に指をのせる。
私達の切実な願いに導かれたのか、うっすらと虹色を帯びた微風が頬を撫でた。
「――希望を描け! 天水晴那!」
「私のターン! ドロー!」
使い切った〈プリズムドロー〉で希望を引くようにビャコが鼓舞し、私は運命の一枚を引く。
最後の手札として加わったカードを捲って表柄を確認する。
来てくれたのは、自分のランドリーからコスチュームを一着だけ復活させるミュージックカード〈シンデレラリトライ〉。
この手札なら行ける。
「〈ヴァルナーガパンツ〉の効果発動! 〈ヴァルナーガジャケット〉に〈シェルベッコ・チャーム・トークン〉をつける! この効果でチャームをつけられたコスチュームは、相手の効果によってランドリーにおくられない!」
「やはりそうせざるを得ない。だが!」
オーラを纏いながら封印効果を持つチャームをホットパンツが完成させる隙に、【紫智天】が素早く魔導書を開いた。
「〈スターマプラワンピ〉の効果! フラグメント・プラナ!」
「やっぱり対抗してフラグメント・プラナを発動させるか!」
「当然の抵抗だろう? おおかた、完全防御を付与して安全に私のエースを封じにきているのだろうが、見え透いた戦略だ! ちなみにコスチュームの効果で発動させた〈マドネ〉には、効果の無効化に加えて、相手コスチュームを全てランドリーに送る効果を持つぞ!」
「「なにッ!」」
トップスとボトムスのどちらを発動させても相手はワンピの効果で何かしらの抵抗をしてくるのは予測していたが、まさか豪快にも全破壊でくるのは予想外だった。
割り込んで効果を発動させた【紫智天】が魔導書の一ページを燃やし終えた時には、私の胸、腰、脚の順番に、例の黒い梵字が術を唱えるように陣を描いてゆく。
「アクシデント発生〈グレート・バリア・リリーフ〉! 相手がコスチュームを脱がす効果を発動させた時、一着だけ免れる! さらに自分のコスチューム一着のAPを半分にすることで、その効果を全コスチュームに及ばせる!」
「キミはさっきまで何のために盤上を眺めていたのだね! BGM〈アルテミ・ストラ〈ソワカ〉〉の効果!」
苦肉の策で立ち上げたアクシデントに反応して、【紫智天】の頭上に並ぶ梵字達の中で一番右端に浮かぶ文字が呼応して輝いた。
「一ターンに一度だけ、相手がこちらの発動させた効果に対してカードを使用した時、その効果を無効にしてランドリーに送る!」
それによって説明通り、盾となるべく立ち上がったアクシデントカードと、それによって相手の発動させたワンピの効果を許してしまったことで、私の着ているコスチューム達がシューズを残して霧散してしまった。
「まったくキミという奴は。一ターン前に私が説明したのをもう忘れたのかね!」
今まで覆っていた服のおかげで隠していたが、脱がされてしまったことで、さきほど焼き刻まれた火傷の生々しい傷が人目に晒された。
「私がせっかく説明したことを完全に無視する悪い子には月に代わって折檻だ! BGM〈アルテミ・ストラ〈センダ〉〉の永続効果を食らって反省するがいい!」
今度は左から二番目に浮かんでいる梵字が動き始めたが、効果を発動させるための眩い光ではなく、何かを唱えるようにドス黒い色を纏った禍々しいオーラを放ちはじめた。
「私が発動させたのはワンピと〈ソワカ〉の二枚! すなわち合計三〇〇ポイント、キミ自身のAPを削らせてもらうよ!」
呪詛のような何かを唱え終えた〈センダ〉の方陣が、溜め込んだオーラを盛大に吐き出す。
その直後、今度は右腿とスキャナーを握る左腕を狙って、文字を描きつつ肌を焼き始めた。
「――くぅッ!」
腕だけではなくついに脚にまで火傷が及んでしまい、私は思わず膝を崩してうめいた。
「ほげええ! 熱い! あっついねん! 何で俺まで!」
確かにスキャナーを握っているのは左腕だが、どういうわけだか私の手を伝ってビャコにも火傷の呪いが伝染してしまった。
元が自称白虎だから、今更黒い模様が増えたところで何か代わったようには見えないが、動物の毛皮を直火で炙ったような独特な臭いが、私の焼ける肌のにおいと混じる。
「大事なお肌に黒々と書かれた経文とは、まるで耳無し芳一だな」
直接APを減らされた回数は四回。数値に表すと合計六〇〇ポイントもマイナスになっている。
かろうじて守りきった〈ヴァルナーガシューズ〉を含めると、今の私のAPはわずか150ポイントだ。
「今度こそ勝負は付いたようだね、天水晴那。これでキミの伏せカードはなし。スキルで得たトゥルーワードミュージックも使用済み。たとえ、最後の手札を使ってなにかしらのコスチュームを呼びだそうにも、肝心のエースコスチューム達は全て冷たい洗濯籠の中。仮にシューズでデッキからリンケージ・コーデをしようとも、今のキミの戦力では、あれほど削られた君自身の損失分までカバーできるほどの性能をもった衣装はもうない!」
悔しいが、客観的にみれば【紫智天】が説明するとおり。
今の私の手札には、何でも蘇らせることが出来る〈シンデレラリトライ〉がある。
でも、〈ヴァルナーガワンピ〉を出しても、〈RDティアーズ〉が足りない。
他のエースコスチュームも出したところで総合APが追いつかない。
おまけに【紫智天】が読むとおり、唯一無事であるシューズによってリンケージ・コーデをしようにも、デッキの中には【紫智天】の積み上げた2800ポイントに競り勝つための効果やバカみたいに高い数値を持つコスチュームない。
「ここで潔くスタンバイを宣言するなら、キミには特別に私のランクをあげよう。ついでに、キミのせいでせっかくのオーディションをふいにされた子達のメンバー入りの話を復活させようじゃないか。そして私は抜けてしまった刹那の意思を継いでランク5を貰うとしよう。その方が、みんなの為になる。そう思わないかね?」
ここまで戦い抜いた健闘のつもりなのか、【紫智天】が待遇の話を持ちかける。
オーディション結果の復活と聞いて、それまで絶望と暴走ムードだったギャラリー達に、一気に希望が戻る。
さっきまで魔女裁判よろしく処刑コールの嵐だったのが、現金にも優しくあきらめを促す謎の声援が送られるようになった。
「それはどうかな」
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