月神の呪文をBGMに
「手札からミュージックカード〈アルテミ・ストラ〈オン〉〉を発動!」
スタンド型マイクのプレートに一枚のカードを叩き付けると、空から照らす月の光がより一層濃くなり始めた。
夜空から延びる光の柱が【紫智天】に降り注ぐと、やがて方陣に囲まれた巨大な緑色の梵字が背景となって空中に出現した。
「このカードは発動し終えた〈アルテミ・ストラ〉の〈センダ〉〈ヤラ〉〈ソワカ〉の三枚がランドリーある場合に発動させることができる!」
「あのスキルは、そのカードを発動させるためだったのか!」
「それにより、〈オン〉を含む四枚の〈アルテミ・ストラ〉を、BGMカードとして表側のままミュージックゾーンに置き、封印された更なる効果を発動させることができる!」
バックグラウンドミュージックカード。
通称BGMカードは、効果を発動させた後はランドリーに行ってしまう使い捨てのカードとは違って、表向きのままミュージック・アクシデントカードの場に置くことで永続的に効果を発動させる効果を持つ、まさに背景で流れ続ける音楽カード。
四枚しか置けないミュージック・アクシデントカードゾーンを一枚につき一枠使用し続けるわけだから、限界まで敷き詰めればその分アクシデントを伏せる余裕も、手札から新たにミュージックの発動ができなくなってしまう。
そんな欠点もあるが、一度発動させてしまうと効果によって剥がすまでは場に留まり続ける厄介なカードとなる。
今、【紫智天】が〈オン〉を発動させたことにより、碧色の梵字がより一層輝きを増す。
それを起点に、更に【紫智天】の頭上に形が異なる梵字が三つ出現する。
それはまるで術者を守る守護方陣というよりも、宵闇の街道に描かれたネオンアートのように【紫智天】の周りを彩った。
「四枚のBGM……。ミュージック・アクシデントカードゾーンを全部埋めたってことは、ここで勝負を決めるみたいね」
一枚、二枚ならさして珍しいことではないが、四枚全てとなると、もう手札からミュージックを使うこともアクシデントによる迎撃も放棄したと同じこと。
もっとも、【紫智天】にはアクシデントなど一枚も入れてなければ、あのワンピさえ着続けてさえいれば、ゾーンなんて不要なのだろう。
「フフフ、まさかキミみたいな鼈ごときにこの布陣を出さざるを得なくなるとは。いや、成長したとほめてあげるべきか……」
「……ッ!」
「あいつまさか気付いたのか?」
初対面の敵相手に成長したとう言葉をかけるということは、やはり【紫智天】も【黄黙天】と同様にこの戦いを通して感づき始めたらしい。
だが、当の星を付いた張本人は、私達の顰めた面を眺めるなりなにも言わず、いつもの人を食ったような憎たらしくはにかみながら、被っているベレット帽を指でつつき始めた。
「〈スターマプラベレットハット〉の効果。一ターンに一度、自分ランドリーに置かれたミュージックカード三枚をデッキに戻し、その後カードを一枚ドローする!」
スタンドマイクに装置として備わったカード捨て場から、三枚のカードが土穴から這い出た羽虫の如く納入口から飛び上がり、巣穴へ潜るように魔導書の中へと帰って行った。
「そして、〈ハオマネクト〉ブランドのコスチューム効果が発動したことにより、BGMとなった〈アルテミ・ストラ〈センダ〉〉の永続効果も発動!」
真後ろに聳えるBGMの一つを【紫智天】が手の甲で叩いたことで、梵字が光って起動する。
「〈センダ〉がBGMとして奏で続ける限り、私がミュージック・コスチューム効果を発動する度に、相手のAPを150ポイント下げる!」
「なにッ!」
ビャコが思わず声を上げるほど驚愕した途端、私の右腕が突然焼けるような痛みが発した。
「――ぐッ! こ、これはッ!」
思わず袖を捲ると、肘から先の肌に梵字の焦げ後が疎らに刻まれていた。
まるで焼き印のつもりなのか、素肌の上から直に焼き付いた文字から白煙が上る。
主力であるコスチュームの魅力を下げるのに汚したり破いたりする表現を用いるように、プレイヤーの魅力を直接下げる手法や演出も数多く存在する。
だが、まさかよりによって焼き印を用いてくるとはかなり悪趣味だ。
「さて、そろそろ仕上げといこうかな」
ここでようやく【紫智天】が、改めて魔導書を手に取ってページを開いた。
「魔導書を使うってことは、まかさ!」
「ご名答、そもそもフラグメント・プラナは本来〈スターマプラワンピ〉本来の効果だからね! 〈アブソーマトップス〉はその一部分が継承されただけにすぎないのさ!」
継承された〈アブソーマトップス〉の起源である〈スターマプラワンピ〉の効果。
それはデッキにあるミュージックカードを捨てることで、その効果を衣装が得るコピー効果。
「私のワンピが発動させるのは〈アルテミ・ストラ〈ダルマ〉〉!」
お色直しと一緒に新調した魔導書の一ページを豪快に破り、それを生け贄として紫の炎に燃やさせる。
「〈アルテミ・ストラ〈ダルマ〉〉が発動した時、自分の来ている衣装のAPを自分ランドリーに置かれたミュージックカード一枚につき400ポイントアップさせる! その対象は当然、〈スターマプラワンピ〉!」
「あーッ! そういうことかッ!」
ここに来てビャコが疑問に浮かんでいた【紫智天】のプレイングに合点が行った。
わざわざ便利なコスチュームがあるのに手札からミュージックを発動させ、なおかつ貯まっていた手札ごと全部捨てるという大きなコストを遠慮なく支払っていた理由。
それは全て【紫智天】の着る〈スターマプラ〉シリーズのAPが全て0であることに起因する。
「今、【紫智天】のランドリーにあるミュージックカードは七枚!」
「一枚につき400ポイントだから、今の奴の合計APは2800!?」
直接APを減らされただけではなく、カード1枚であっさりとAP差まで逆転された。
全ては、完璧な布陣を整えつつ最後に今までの使用したミュージックカードをAPに変換するための布石だったのだ。
「そして〈ハオマネクト〉ブランドが効果を発動させたことにより、再び〈センダ〉の効果を発動! 君自身のAPをさらに150ポイント下げる!」
「――ああぁ!」
次に焼き印が刻まれたのは左の首筋。
そこから頬をめがけてジワジワと浸食してくる。
立体映像によるものなのに、肌の焼ける嫌な臭いが鼻に入ってくる。
これ自体がただの演出のはずなのに、焼き印の浸食が収まってもなお、字になった焼け跡がチリチリと痛み、集中を削いでくる。
「おい! 晴那、しっかりしろ! もしもの時は俺が嫁にもらってやるから!」
「ありがと。あんたの寒い冗談のおかげで火傷がちょっと治まったわ」
肌の火傷は一時的に引いても、こちらの盤面状況も火事場のように酷い有様だ。
三着のコスチュームには傷一つすら付いていないが、肝心の着者であるプレイヤー本人のAPが直に減らされたことで、すでに2000を下回ってしまった。
対して、相手は限界スレスレのAP2800。
そして場には下手なアクシデントよりも厄介な永続効果持ちのミュージックカードが四枚。
幸いなのは、【紫智天】の手札がコスチュームだろうがミュージックだろうが、まったく出すことのできない無駄札であることぐらい。
「ふふ、これだけ追いつめられた状況であるにも関わらず、なおも噛み付いてくるとは。さすがに鼈と呼ばれただけはあるな」
勝手にそう呼んだのはそっちでしょうが。
と口に出さない代わりに私はきつく睨み返した。
「だが、いくらキミとてこれを詰みと言わずしてなんという? キミの衣装は全て無傷だが、君自身の損失で実際の数値はAP1900。そして手札はゼロ。次に来る君のターンで1枚引けるが、頼みのエースはそこで棒立ちしているか、すでにランドリーで眠ったままだ!」
空になった手の先まで嘗めるように私の全身を観察し終えると、次は足下に伏せられたカードへと目を移す。
「伏せカードが一枚あるようだが、それが私への妨害であるなら無駄だよ。仮にそれが私の衣装を脱がす効果なら、〈ヤラ〉よって相手効果によるランドリー行きから完全に守られる。または、こちらの効果に反応して妨害が発動するものなら、一ターンに一度だけ〈ソワカ〉の効果によって打ち消される。もしくは意表を突いて私のミュージックカードに影響を及ぼすようなら、それは〈オン〉の効果によって一度だけランドリー行きを免れる! キミが一体なにを仕掛けようとも、キミは私に指一本ふれることはできないのさ!」
これ以上の抵抗は無駄だ、勝負あった。
そんな短く済ませられるセリフを、わざわざ状況を丁寧に改めさせて【紫智天】は回りくどく諦念を促す。
「悪いけど、私の耳にベラベラと余計な講釈を垂れる役は間に合ってるの」
そして、私の前で長話を許しているのはビャコだけ。
それを押し伝えるようにスキャナーをこれ見よがしに差し出した後で、私はなんとか平常通り【紫智天】と対峙し直す。
負けを催促されたところで、私の闘志は誰かの言葉ごときで簡単に揺るがない。
そして私自身が諦めない限り、負けているとも言わせない。
「やれやれ、鼈は一度噛みついたら雷が鳴るまではなさないと聞くが……。その図太い精神も尊敬に値するよ。私はあえてチェンジを宣言させてもらおう」
天水晴那 AP1900 VS 葉鳥朔真 AP2800
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