月光の賢者〈スターマプラワンピ〉
天水晴那 AP2200 VS 葉鳥朔真 AP450
「フ、フフ、気にくわないね。新作とはいえ、私の愛した〈ハオマネクト〉が、どこぞの馬の骨ブランドにしてやられてしまうなんて」
再度ターンが回った【紫智天】だが、こんな状況に何か思うことがあるのか、魔導書をなくした片手で両目を覆いながら頭を垂れた。
「誰の作ったブランドが馬の骨だって!」
元パートナーの作ったブランドを貶されてつい熱くなったビャコが、その拍子に余計なことを吐く前にモニター部を手のひらで覆って黙らせる。
効果による制約のせいで、お互いにラストターンを強いられる状況は免れた。
だが、そのおかげでこちらは伏せカード一枚を準備できた上にフルコーデのAP2200。
対して【紫智天】は同じくフルコーデとはいえAP450という雀の涙に加えて、効果を無効化されて反撃の術がない。
しかも、本人のデッキコンセプト上、アクシデントカードを入れずにミュージックを主体においた二種構成。
端から見たら、状況は天水晴那の方が有利なのは明確だった。
「でも、こればっかりは敬意として認めなくちゃいけないね。流石は【黄黙天】を負かせて神姫殺しの名を得たアイドル。刹那を討てたのは、存外マグレではなかったようだ」
酔いが覚めたのか、顔を覆っていた手を剥がして【紫智天】が改まって天水晴那と向き合う。
その顔には人を見下す嘲笑の笑みは消え、確実に私を倒すための闘志を込めた瞳を向けていた。
「私のターン! ドロー!」
輝く満月の光をスポットライトに、【紫智天】はおどけた道化のふりを止め、力強い開始宣言を叫びながらカードを引く。
ディーヴァス神姫が一天――【紫智天】の本気が来る。
私は改めて身構えた。
「私は手札からミュージック発動! 〈アルテミ・ストラ〈ネヴァン〉〉!」
魔導書がなくなったことで、【紫智天】が自ら手札のカードを読込板に乗せる姿を見せた。
「このカードは自分が同じレアリティのコスチュームを着ている場合にのみ発動できる! 今着ているコスチューム三着を全て脱ぎ、そのレアリティが一つ高いコスチュームを同じ枚数だけ追加コーデできる!」
「んげぇ! このタイミングでお色直しかよ!」
随分と強引で豪快な衣装チェンジだが、今まで苦しめたのが公開したての新作だったのも事実。
現時点で、まだ【紫智天】の象徴でもあるエースコスチュームも、そして切り札であるカードもまだお披露目されていないのだ。
「さぁ、メイクアップの時間だ!」
真上で見守るように輝く月に向かって手のひらを開くと、五本指の爪が親指から順に輝きだした。
そこから【紫智天】が虹みたいなマーブル色のシルエットに全身が染まってゆくと、紫色に光る梵字が胸部、脚、そして頭部と順番に出現し、それぞれがワンピース、シューズ、ヘアアクセを出現させて【紫智天】に着せてゆく。
「決勝の相手がお邪魔な魔法少女だったなら、本命は月の代理仕置き人ってところかしら」
「セーラー服でも着てくれれば脱がしがいがあったのに。いや、ダメだ。我慢するしかねぇ」
着替えというか変身を終えて、【紫智天】が見事なポーズを決める。
随分と古いがどっかでみたことがあるような着替え行程を経て、ようやく【紫智天】のエースコスチューム――〈ハオマネクト スターマプラ〉シリーズが披露された。
会見時に見せた私服の元デザインとも言うべきファンタジー世界でいう職業:賢者っぽさがより強くなった衣装。
白艶の生地に紫のラインが入ったベレット帽。同じ配色のブーツに加えて股まで覆ったニーハイ。
そして主力のワンピースは菫色のリブニットワンピースと地味だが、その方にはジャケットがかけられ、マントのように飾っていた。
まさしく【紫智天】葉鳥朔真専用の正装でもある〈ハオマネクト〉最高傑作。
そのはずだが、肝心の合計APは――
「合計APが0!?」
表示される数値をみてビャコが驚愕の声を上げる。
あのレアリティや施された装飾と気合いの籠もったデザインをしながら、三着揃って魅力0なのは普通ありえない。
だが、逆にいえば数値を犠牲にしなければならない性能を持っているとも捉えられる。
「それと……なんだ、あの翼――梵字でできてるのか?」
カード側のイラストには描かれていないが、三着同名シリーズを着た影響なのか、エースコスチュームを纏った【紫智天】の背中から紫色に輝く光の翼が生えていた。
衣装から直接生えているわけではなさそうだが、妖精の薄羽を彷彿とさせる楕円型のそれは、よく見ると梵字を羽型に引き延ばしたような不思議な模様をしていた。
効果を無効にされた衣装と入れ替えたものの、依然数値面では余計に不利になっているはずだが、【紫智天】はなおも余裕を見せる。
これで再び効果が使えると言わんばかりに、更に装飾がグレードアップした魔導書を出現させて手に取った。
「さらに私は〈アルテミ・ストラ〈モクシャ〉〉の効果を発動!」
改めて出した新しい魔導書を小脇に抱えながら、次なるカードを読取板に運んだ。
「このカードは、自分の手札を全て捨てることで、デッキ・ランドリーから別の〈アルテミ・ストラ〉を手札に加える! 私が手札に加えるのは〈アルテミ・ストラ〈オン〉〉!」
「ん? 妙だなぁ、せっかく魔導書が戻ったのに手札からカードを使ってる上に、一枚のカードを得るためだけに貴重な手札を全部捨てるなんて。奴は一体何を狙うつもりなんだ?」
【紫智天】らしくない。
ビャコがそう怪しむ通り、さっきまでの【紫智天】が繰り出してきた戦術から予測されるはずのプレイングを、あえてしない行動が返って異様さを覚えさせた。
しかし、【紫智天】はこちらの様子などお構いなしに、三枚もあった手札を豪快にもランドリーに捨てて、任意の一枚を手に取った。
「さて、私もここでスキルを発動させてもらうとしよう」
ここで【紫智天】がスキルを発動させると、スタンド型マイクの中腹部におかれた捨て場である黒い装置から碧色の光が吹き出した。
「スキル発動! 〈詠唱破棄〉! 私のランドリーにあるミュージックカードは、全て発動された扱いになる!」
「ランドリーに置かれたミュージックカードを、発動された扱いにする? どういうことだ?」
勝手にモニター上に【紫智天】のスキルを文字化して詳細を確認しながら、ビャコが疑問を口にする。
「【紫智天】のランドリーにはたくさんのミュージックカードがある。だけど、ほとんどはコストにして捨てるか、トップスの効果として発動させたから、正式に発動されたものとして扱われない」
「確かにそれなら、奴が手札から正規に発動させたカードは実際にはランドリーの半分くらいの枚数だ。でも、そんな意味のない効果を発動させて何になるんだ?」
「正規発動でないといけないという厳しい制約を代償に、強大な力を持ったカードを発動させるためよ」
脱退される前、昇格戦などで【紫智天】と対戦した時には、相手ターン中に問答無用で発動させる厄介な〈アルテミ・ストラ〉の効果に翻弄されて、何もできずに負けてばかりだった。
故に【紫智天】がスキルを使う時は、本気を出さねばならないディーヴァス神姫同士との戦いの時のみ。
そして、そのスキルを使って強引に条件を整えたことで、強大な展開を引き起こす一枚の発動が可能となった。
「手札からミュージックカード〈アルテミ・ストラ〈オン〉〉を発動!」
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