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旧知と因縁のブランド〈ハオマネクト〉

 天水晴那 AP0 VS 葉鳥朔真 AP0



「先攻は私だ。まずはドロー」



 開始一ターン目。


【紫智天】がスタンドマイクの拾音部に備わったデッキの上から一枚を抜き取る。



「このご時世に、スタンドマイク型のスキャナーか。懐かしい代物だが、そんな骨董品を復刻させてまで使うなんて珍しい奴だな。マスコットでそれに変形できる奴なんて、引退しているどころか大半が墓場にいってるぞ」



 マスコットの間で存在する墓場の概念が少し気になるが、マスコットにしてマイク型スキャナーになっているビャコが【紫智天】のマイクについて語る。


 一般的な歌唱用マイクならば、曲などの状況に応じてマイクを手に持つかどうかは歌手が選んで使えるのだが、《エンプリス》でカードを読みとる場合になるとそうはいかない。


 いつでもどこでも起動できて、携帯もできるし場所もとらない上に選ばない。


 それが売りのハンディマイク型スキャナーが、現代エンプリス環境の主流。


 そのはずだが、【紫智天】には妙なこだわりがあるのか、デビューからずっと音声ガイダンスをつけてない特注であろうスタンドマイク型のスキャナーを愛用していた。



「私は〈ハオマネクト アブソーマスカート〉を通常コーデ!」



 手札から抜き取ったカードを手に、まるで液晶パネルに触れるようにカードを読取盤にセットすると、骨董品と揶揄したそれが最新型のそれと同じくらいの処理速度で【紫智天】の腰に一瞬で衣装を着替えさせた。


 名前の通り紫色のショートパンツを軸にマントのようなベージュ色のカバースカートに囲われた少々レトロチックなデザイン。


 カバースカート側にはアクセントなのか、妙な文字が模様となって並んでいるダークブラウンの帯が走っている。



「始めてみるシリーズね」



 久しぶりに【紫智天】と合間見えるが、あの名前を冠したシリーズは見たことがなかった。



「おそらく新作だな。こちらが常に新戦力を追加しているように、当然相手も天水晴那を警戒して新しいカードを投入しているはずだ」


「相手なりに分析対策をしていたってわけね」


「それに、使用ブランドがあの〈ハオマネクト〉か……」



【紫智天】の使用ブランドを口にしたビャコが、苦虫を噛みつぶしたように唸った。



「どうしたの?」


「璃玖とコンビを組んだ時から、あのブランドにあまりいい思い出がないんだ。それに加えて奴の頭の切れ様といい、おそらくブランドテーマと確実にマッチした戦略でくる。【紫智天】のランクが【黄黙天】よりも一つ低いからって油断するなよ」



 使用するブランドを聞いて改まって忠告するビャコ。


 ブランドもさることながら、相手は【黄黙天】と同様『ディーヴァス神姫』の一天。


 当然、勝ったことが一回もない上位ランクが相手なのだから慢心などできるものか。



「続けて私はミュージックカード〈アルテミ・ストラ〈メイス〉〉を発動!」



 続けて発動させたミュージックカードは、今まで色んな対戦相手が見せたカードとは少し様式が異なっていた。


 本来は曲のイメージを伝わらせるCDケースを飾るジャケットが描かれているはずだが、【紫智天】が出したミュージックは、緑色の円の中に謎の文字一つだけという、ジャケットというにはあまりにも素朴なカードだった。



「〈アルテミ・ストラ〈メイス〉〉は、ミュージックカードが出るまでデッキをめくり、そのカードをランドリーに送る」



 演算機能どころかデッキ操作機構まで最新の性能らしく、お利口なスタンドマイクはプレイヤーの手を煩わせることなくミュージックカードを自動で抜き出して手渡し、効果の処理として残りのカードはデッキに戻してシャッフルするところまでやってくれた。


 ただ、その効果は手札に加えるのではなく、あくまでランドリーに送る効果。


【紫智天】はせっかく手札に加えたそれを、スタンドマイクの中腹部に備えられたランドリーであろう、小さい箱型の装置に流し込んだ。



「そしてデッキまたは手札からミュージックカードが送られたことで、〈アブソーマスカート〉の効果発動。デッキから〈ハオマネクト〉ブランド一枚を手札に加える」



 ランドリーにカードが一枚入ったことで、それに反応してデッキが、手渡すように新たな一枚を吐き出した。



「そしてこのターン中にランドリーに送られたミュージックカードが存在するとき、今手札に加えた〈ハオマネクト アブソーマシューズ〉は追加でコーデされる」



【紫智天】が二着目となる衣装を纏う。


 今度はスカートと同じ意匠が施されたシューズが足に履かされた。



「そして追加コーデされた〈アブソーマシューズ〉の効果。デッキから〈ハオマネクト アブソーマトップス〉を追加でコーデする!」



 スカート、シューズと来てついにトップスの三種類が【紫智天】の体に集った。


 私服の時点で少々賢者っぽい格好だったのが、統一されることを前提にデザインされた衣装によって、よりファンタジー世界の賢者らしいコスプレに見えなくもなかった。


 ミュージックカードを絡ませた特殊効果を駆使して開幕からフルコーデを揃えた新作は、いかにも〈ハオマネクト〉らしい戦略。


 しかし、三着を一気に揃えた時の肝心の合計APは――



「合計APがたったの450? レアリティSR一着分よりも低いぞ!」



 ビャコが大げさに驚いて叫ぶと、そのリアクションを楽しんでいるかの様に【紫智天】がニヤニヤと笑みを浮かべてこちらをみる。



「まぁ落ち着きたまえよ、白猫くん」


「俺は虎だぞ」


「どっちみち猫科でしょ」


「身も蓋もねぇ」



 ビャコはそう不満を漏らすが、ここでお喋りがすぎる二人のどうでもいい会話を切っておかないと勝負が永遠に進まない。



「まだ発動させるわけではないが、トップスは同名シリーズが三種類全てそろったことでフルコーデ効果の使用が可能となった。それだけは先に伝えておくよ」



 こちらが目くじらを立てて警戒しているにも関わらず、【紫智天】はわざと手を明かすように、トップスの状態を説明した。


 それの裏付けなのか、虚空から突然やたら装飾が派手なハードカバーの分厚い本が現れ、【紫智天】の手に納められた。



「なんだ、あの本? アクセサリーの一種か?」


「いいや、あの本そのものが【紫智天】の着ているトップスの効果の源よ」



 表と裏表紙の四方に金具が打ち込まれ、表紙に描かれた魔方陣の中央には拳大の宝石が埋め込まれ、裏表紙には三日月のイラストがある百科事典並の厚さと大きさを持つ本。


 それは一言で言い表すなら魔導書そのものだ。



「カードゲームにおいて、幾多も種類が存在するカード達を、ルール上決められた枚数まで選りすぐって束にしたものをデッキと言う。その由来は、古いオランダ語で「被せる」意味を持つdekkenから来ているようだ」



 見た目がすごく重そうな魔導書だが、所詮は虚像でできた小物のようで、【紫智天】は蘊蓄を交えて片手で弄んでいた。



「へん! そんなこと知ってるよ! 英語では「包む」という意味を含むようになって、やがて「ゲーム用に一纏めにされたカードの束」の名称をデッキというようになったんだろ」



 雑学に妙な対抗心を抱いたのか、何故かビャコがむきになって蘊蓄の結末を先に言った。



「日本語では山札、英語ではデッキと呼んでいるが、世界で初めて誕生したカードゲームでは、プレイヤーがそもそも魔法使いという設定のため、デッキのことを多数の呪文書であるカードがおかれた書庫を意味してライブラリーと呼んでいた。今日、戦略におけるデッキ切れのことを俗にライブラリアウトと呼ぶのはこれが由来なんだそうな」



 昔話を語るようにゆったりと語る蘊蓄の中で、【紫智天】はデッキのことを魔導書の集めた書庫と呼ぶ話を聞いて、私は何かに感づいた。



「知ってるか? 〈エンプリス〉も本来デッキのことを衣装や小物を備えているから、昔はクローゼットと呼んでたんだ。でも、これ作った奴が表記や説明がだんだん面倒になって――」


「無駄話が長くなったね。私はこれでターンをチェンジさせてもらうよ」



 ビャコの蘊蓄返しを無駄話と言い切って遮り、【紫智天】は三着も衣装を揃えてもびっくりするほど低いAPで放置するどころか、罠であるアクシデントを伏せることなくこちらにターンを明け渡した。


 その代わり不自然にも出現させた魔導書の存在感が際だっているおかげで、こちらの抱く不信感はより強まっているわけだが。



 天水晴那 AP0 VS 葉鳥朔真 AP450

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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