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天水晴那が選ぶ運命の選択肢

 オーディション戦、決着。



 試合の終了を告げるブザーが、けたたましくドーム中に響きわたる。


 この優勝者を決める決闘の舞台に立つまで、何人もの敗者という屍を越え、何時間という時間をかけたにも関わらず、費やしたターンはわずか四ターン。


 あまりにも短く、あまりにも呆気なく終わってしまった運命の大勝負。


 そんな決勝戦の行く末を見守っていたギャラリーからは歓声があげるどころか、ポカンと沈黙したまま。


 または、自分達の今後を左右する運命の決定権を抱えさせられた天水晴那(あまみはるな)が勝利したことで、その選んだ答えを待たされる生殺しのような緊張によって静まりかえっているのか。


 どちらにしても、このドーム内の雰囲気がお祝いムードではないのは確かだ。



「ふむ、瞬殺とは恐れ入った」



 決勝ステージから一段上の場から見下ろしながら冷淡に呟いていた。



「オーディション戦、ついに決着です! 優勝した天水晴那さんは、こちらへどうぞ」



 赤い眼鏡のスタッフが張り付いた笑顔のまま、優勝者である私を表彰台へと誘導する。


 改めて大きく息を吸う。


 イベントの山場を越えた達成感よりも、時間ばかりをとる面倒な仕事を片づけたという疲労感のほうが強かった。


 この段差を昇った先には【紫智天(しちてん)】が――いや、Q-key(クーカイ).333(トリプルスリー)の運営によって捕らわれた私のデッキがある。


 それを贈呈という形で正式に取り返すために、私は【紫智天】のいる表彰台を目指した。



「あ、ははは、まさか、あんなに頑張ったのにこんなにもあっさりやられるなんて。やっぱり、あんたはすごい奴だよ」



 一歩踏み出した丁度その時、如月梢(きさらぎこずえ)がむくりと半身を起こしながら私に声をかけた。


 勝敗がついて気圧す重圧が晴れたのか、試合前とは違って流暢な語勢になっていた。



「完敗だよ。天水晴那、その腕があればきっとQ-key.333に入っても十分にやっていけるよ。ランク1も夢じゃないかもね」



 未だ緊張で足が竦んでいるのかフラフラになりながらも立ち上がる梢が、プリズムストリームで繕われた衣装が解けて、元に戻った服についた埃を払いながらこちらに歩み寄ってくる。



「オーディションには負けちゃったけど、アイドルになりたいっていう夢と気持ちはまだ負けてないから! それは、この場にいる皆も同じ気持ちだよ。あたし達の夢、あんたに託すわ!」



 健闘を尽くした相手への敬意として握手を求める如月梢。


 手を差し伸べるその目は、あの頃の自分を見ているようで、とても真っ直ぐで曇りがないほど澄んでいた。


 憧れと友好、期待と希望が込められたその瞳は、今の自分ではまともに目を合わせるには億劫だった。



「悪いな、お嬢ちゃん」



 口にしない私の代わりにビャコが答え、私は最後まで梢と顔を合わせることなく、【紫智天】が待つ表彰台を目指した。



「あのトゥルーワードミュージックはお見事だよ。素敵なウミガメのショーだったよ、でもウミガメは、鼈のキミみたいに噛み付かないのだがねぇ」



 辿り着いた表彰台の前で改めて目が合うなり、【紫智天】は挨拶代わりに鼈呼びしてくる。



「さて、天水晴那くん。まずは優勝おめでとう。君は数万も集った参加者達の中で勝ち抜き、ついに最後の一人になるまで戦い抜いた。元々君の強さは評価していたが――この場を以て、改めて【紫智天】・葉鳥朔真がQ-key.333を代表して、君の栄誉を称えよう!」



 表彰の意を込めて【紫智天】と赤い眼鏡のスタッフが拍手を送る。


 それに併せて、観客席側からも徐々に拍手が鳴り始める。



「君には、このオーディショントーナメントの優勝トロフィーとして、受け取ってもらいたいものが……」


「――その前に、副賞の方を先に貰いたいわ。たしか副賞は〈ハーシーパドマ〉の〈ウォルターリリー〉シリーズよね? そっちの方を先に渡してもらおうかしら」



 セレモニー用なのか妙に作った声で司会を進行する【紫智天】の謝辞を、私は要望で強引に遮った。


 授与される賞品の順序変更に、【紫智天】はきょとんとしたまま硬直する。


 そして数秒間の沈黙を経て、結論が出たのかなぜか目線を横に逸らしてから口を開けた。



「そういえば、君がこのオーディションに参加した大本の目的はこれのようだね。しかし、未知のブランドを駆使する天水晴那が、今更既存カードのコレクトとは珍しい趣味だねぇ」



 側にいる赤眼鏡のスタッフに手を掲げて命じながら、【紫智天】はこちらの要求通り渋々と賞品の贈呈する順番を変えた。



「それでは先に、こちらが副賞の〈ハーシーパドマ〉ブランドの〈ウォルターリリー〉シリーズデッキです。どうぞ、受け取ってください」



 主催者である【紫智天】の側に立っていた赤眼鏡のスタッフが歩み寄り、賞品を丁重に乗せている赤い艶のあるサテンのクッションごと私に差し出す。


 まるで緩衝用の台座におかれた宝石のように扱われたカードの束を手に取り、改めてそのデッキを開いて中身をみる。


 共に歩んできたお気に入りの衣装、遊生澄香の持ち歌。カードの手触りやすれた傷、白掛け、手垢の位置まで全てが奪われる前のまま。


 このデッキは正真正銘、遊生澄香のデッキ――故郷のみんなの思いや今までの思い出や功績が詰まった大事な宝物。


 もう取り返すことは不可能だと諦めていたのに。


 それが、ちゃんとこの手で握りしめることができたと実感したとき涙が出そうになる。



「それでは今度こそ、肝心の優勝トロフィーを受け取ってもらおうか」



 順序を遮られた仕返しなのか、感動の対面すらまともにさせてもらえず、結局私はぐっと瞼を強く瞑ってこらえ、取り返したデッキを腰に下げた空のホルダーにそれをしまった。


 空になったクッションを持って私に背中を見せて表彰台から退いた赤眼鏡のスタッフとは別人のようだが、顔立ちどころか眼鏡の色までそっくりのスタッフが、同じくクッションを手にこちらへ賞品を差し出した。



「このオーディション戦の優勝によって得られるのはQ-key.333にメンバーとして加入できる権利だ。そしてトロフィーはその証であるQ-key.333の正式ユニフォーム。このコスチュームカードを今この場で着ることによって、君は晴れてQ-key.333のメンバーとなるのだ」



 運ばれたクッションの上には、一枚のカードが荘厳として鎮座されている。


 臙脂色混じりの銀色をメインにした正統派アイドルらしい衣装。


 ブランドはQ-key.333と完全にオリジナルで、年末年始や周年イベントでQ-key.333のメンバーが一同に集うライブでよく着るまさにユニフォーム。


 遊生澄香の時に着ていたものよりもずいぶんとマイナーチェンジしているようだ。


 眺めていたカードから顔を上げて【紫智天】に目を移すと、何かに期待するようにこくりと笑顔で頷く。


 ついでに後ろにも振り返ると、如月梢を含む敗退してもメンバー入りが確定している予定の参加者達が、身を乗り出すほどステージに接近していた。


 私にそのユニフォームをはやく着ろと言わんばかりに鼻を膨らませて、キラキラと期待のこもった眼差しを送ってくる。


 Q-key.333ユニフォームを手に取る。


 ここで私がこのユニフォームが描かれたカードを着ることで、晴れてQ-key.333のメンバーとなり、Q-key.333に憧れてこのオーディションに挑んだ彼女たちの夢も叶う。


 しかし、拒否をすれば、このオーディションの全て無駄になる。


 彼女達がアイドルになれるかどうかの最終決断は私――天水晴那の手に委ねられている。


 私の背中を今か今かと見つめる少女達の努力を報うか、それとも無慈悲に踏みにじるかは、全て私次第と言うことだ。


 答えは既に決まっている。


 私はそのカードを、掌の中で容赦なく握りつぶした。


 くしゃりと厚紙の潰れる音をマイクが拾う。


【紫智天】の目が丸くなる。


 ドーム中に戦慄が駆けめぐる。


 息を呑む余り、声にならない嫌な沈黙が空気を凍らせる。


 何が描かれても、どんな価値をつけられようとも、握り潰せばただの紙きれ。


 ぎゅっと圧し潰してから手を開くと、ユニフォームはただの小さい紙の塊に成り下がっていた。


 勲章から哀れなほど不格好な玉になったそれを手から零すように床へ落とし、最後はそれを足で踏み潰した。


 まるで砕かれたガラス片にも似たような脆い音を立てて、トロフィーは靴底の下で無惨にも潰れていった。


 当然、祝賀の雰囲気は真っ青に一変。


 悲鳴と慟哭、そして憤怒。絶望からでる負の感情が空気に混じり、帝都体育館に充満した。



「次は、あんたの首をもらう」



 オーディションに参加した本来の目的を達成する締め括りとして、私は約束通り【紫智天】の首を貰わんと葉鳥朔真(はとりさくま)に向かって指をさす。


 天水晴那の選択によって、オーディションの全てが徒労に終わってしまった。


 だが、主催者である【紫智天】はこの結末に顔を顰めるどころか、この展開になることを予想していたかのように澄ましていた。



「どうやら君の目的は、自己顕示欲を満たす豪華な名誉よりも、Q-key.333そのものに仇なすことのようだな!」


「こっちの宣戦布告がお前達にちゃんと伝わったようで何よりだよ!」



 私の肩から頭に飛び移ったビャコが、どこからかピンと伸ばした中指の絵が描かれたプラカードを二本も取り出して挑発を重ねた。



「いいだろう、『ディーヴァス神姫』が一天【紫智天】の名に駆けて、この場で君を討つ!」



 表彰式をぶち壊したこれまでの流れで、こちらの敵対する意思と挑発を受け取った【紫智天】が一度私を素通りして、決勝戦の舞台にしていた下段へと飛び降りていった。


 それに続けて私も飛び降りて、【紫智天】と対峙する。



「デッキは取り返したが、気を抜くなよ!」


「わかってる!」



 着地と同時に頭から降りたビャコが忠告しながらスキャナーに変形する。


 握りしめたマイクの拾音部にデッキをセットすることで、翼型の柄からプリズムストリームが噴射し、扇の形をした虹色のプレートとなって現れた。


 対する【紫智天】も、赤眼鏡のスタッフが運んできたマイクスタンド型のスキャナーを自身の前に置く。


 私達が持つハンディタイプと同じく拾音部がデッキホルダーになっているが、その少し下がった部分には、まるで楽譜台のような枠があり、その枠を余すことなく満たすようにプリズムストリームが敷き詰められて広い読み取り盤となっていた。



「「アイドル――オンステージ!」」



 天水晴那 AP0 VS 葉鳥朔真 AP0

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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