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天水晴那のエンターテイメント論

 天水晴那 AP0 VS 如月梢 AP2750



「見事に完封されちゃったねぇ。さぁどうする? 天水晴那くぅん」



 こんな状態からターンの開始を強いられる天水晴那の顔をまじまじと見ながら、【紫智天】が煽るようにねっとりとした口調で尋ねてくる。


 ただでさえ味方のマスコットが五月蠅いのに、敵側から余計な賑やかしが増えてしまったのが、手も足も封じられたこの状況よりも苦痛だった。


 そんな酔っ払った実況者の一方で、壊れた人形の団子になった私の状態を、梢は滑稽としてではなく反撃すらできないであろうと勝ちを確信している笑みを見せつける。



「ホントにどうする気なん? 晴那さんよぉ」


「打つ手はある」



 心配そうに尋ねるビャコに、私は改めて自分の手札を見てからあっさりと答える。



「ほほぅ?」


「つ、強がりを!」



 その返事を聞いた途端、【紫智天】は顎を撫でながら頷き、一方の梢からは笑顔が消えた。


 抱きついた人形のせいで動きにくい中で、なんとかビャコに手を伸ばしてデッキからカードを一枚ドローする。



「――私はカードを一枚準備してターンをチェンジする!」



 天水晴那 AP0 VS 如月梢 AP2750



 完璧に封じたはずなのに、相手は動じないどころか打つ手があると軽く返した。その発言や私の表情から梢は相当動揺しているのか、顔から汗が滝のように流れていた。



「あ、あたしのターン!」


『発動したスキルの効果により、ドローフェイズにデッキからカードを引くことができません』


「う、うるさい! どのみち相手はもう衣装を着ることができないんだ!」



 相手が反撃できないままターンを返したという理想の状況であるにも拘わらず、焦って気が動転しているのか、梢はせっかくスキルの制約を丁寧に説明しているAIに八つ当たりする。



「あ、あたしはこれでスタンバイだ!」



 天水晴那 AP0 VS 如月梢 AP2750



 当然、宣言されるスタンバイ。


 状況は圧倒的に不利。下手すれば反撃の隙すら与えられていない。


 しかし、顔に笑顔を浮かべられない代わりに、私は「ふん」とため息混じりに軽く鼻で笑った。


 こんな壊れた人形ごときで、私を封じるなどおかしな話だ。



「ビャコ、いくよ!」


「おう! ありったけのプリズムストリームをかき集めてやるぜ!」



 握りしめるスキャナーの円形画面が輝き、帝都体育館の開いた天井から、私を中心に虹色の風が集まってゆく。



「あれが濃縮されたプリズムストリーム。オリジナルマスコットによって誘われた虹色の風か」



 自分の頭上で垂れ幕のごとく流れる虹色の気流を見上げた【紫智天】が感嘆の声を漏らす。


 竜巻ではなく濁流の様に流れる風の川が頭上を駆けめぐる。五体を縛り付ける人形がそれをさせまいとよりいっそう強く抱きしめるが、それにあらがうようになんとか右手を伸ばす。



「動けないんだから、もう少しこっちに寄せて!」


「おっとごめんよ」



 虹色が色濃くなるほど集まった気流が徐々に迫り、やっと右手全部が風の中に浸かる。


 広げた手のひらが剛風にあたることで、その振動が私の腕を伝って抱きつく人形達をカタカタと震えていた。



「希望を描け! 天水晴那!」



 プリズムストリームに思い描く希望は一つ。


 このふざけた戦いに勝って自分のデッキを取り戻すこと。


 切実にその希望を胸に抱き、強く願う度に手の中でカードができあがってゆく。



「完成だ!」


「〈プリズムドロー〉!」



 願いの結晶となったカードを握りしめると、役目を終えた虹色の風がぱったりと止んだ。



「私のターン!」


「い、いまさらスキルを発動させたところで、あんたはもうなにも着れない。この人形達は自分で脱ぐことはできないんだから!」


「デッキに収納することはね」



 そう返しながら、私は今手に入れたカードを手札に加え、代わりに最初から手札に握っていた四枚のカードを指に挟むように持った。



「ミュージックカード〈薄荷パイプの娘〉発動!」



 どうにも動きにくいので、仕方なしに私は使うカードの一枚を投げ、スキャナーから延びる読取盤の上へとなんとか乗せた。



「自分の手札にあるコスチュームカード1枚を相手に見せて、自分ステージのコスチュームカードをランドリーに送る! そして、見せたコスチュームがクール属性だった場合、私自身のAPを200ポイントアップさせる」



 右手の指だけを動かして〈ヴァルナーガワンピ〉を梢に見せたことで、私の足にからみついていた一体の人形がようやく姿を消した。成仏というかターコイズ色の粒子になって舞い上がったそれは、どこかミントみたいな臭いがした。 



「続けてミュージックカード〈ウォータークラウン~セラの祈り~〉を発動!」


「こいつは新曲だ!」



 このオーディション戦に勝つために、わざわざ草薙さんが少ない期間で作曲してくれた新しい曲をこの場で披露した。



「手札の〈RDティアーズ〉ブランドを一枚デッキに戻し、その後デッキから別の〈RDティアーズ〉ブランドのコスチュームを手札に加える! 私は〈ヴァルナーガワンピ〉をデッキに戻し、〈ヴァルナーガシューズ〉を手札に加える!」



 手裏剣の様に手札のカードをデッキ目掛けてピッと投げると、ビャコが上手く動いてデッキに納める。


 そしてこちらが宣言したカードを吐き出して、私の右手に投げてよこした。



「そして〈RDティアーズ ヴァルナーガシューズ〉をコーデ!」



 紆余曲折を経てようやく自由になった両足に、やっと自前の衣装を着せることができた。



「あのシューズは?」



 流石に仲間が散りゆく様を分析するために何度も見てきたせいか、〈ヴァルナーガシューズ〉が出た途端、【紫智天】の目が変わった。



「ジャンクを払って、やっと一着着れたようね。あんたの履いた〈ヴァルナーガシューズ〉は、今着ているコスチュームを二着素材にすることで、別の衣装を呼べる、あんたのデッキのエンジンを担う要。だけど、それは同じブランドでないとできないはずよ!」



 梢の言うとおり、いくら苦労して展開の要であるシューズを出したところで、ブランド限定という制約効果によって、邪魔な人形達をコストとして除去することはできない。



「よく勉強したわね。正解よ。今ここであんたの用意したジャンクを消すには、このジャンクのブランドを〈RDティアーズ〉にしないといけないわ。――こんな風にね!」



 使う手札がなくなって空になった右手ぐっとあげて糸を引くように、足下に準備したカードを起こした。



「アクシデント発生! 〈ブランドフェイク〉!」


「このカードは一ターンだけ、自分ステージ上のコスチュームを任意のブランドに変えることができる!」


「〈ジャンク・トークン〉のブランドを〈ウィッチドール〉から〈RDティアーズ〉に変更!」



 ブランドが変わったからとはいえ、この不気味な人形が別に白波勇作デザインになるわけではないが、これで条件は整った。



「ブ、ブランドが変わったってことは……」


「〈ヴァルナーガシューズ〉の効果発動!」



 効果発動の起動として舞台を強く蹴る。踏みしめた足下から青白い魔方陣が展開され、その光に顔を照らされた【紫智天】が恍惚とした表情でリンケージコーデの課程を観察し始めた。



「これが煌方陣。〈RDティアーズ〉ブランドだけが持つリンケージコーデの起動サインか」


「コスチューム・ディゾリューション! リンケージコーデ! 現れろ、レアリティPR 〈RDティアーズ ヴァルナーガワンピ〉!」



 胸と腰に絡み付いていた壊れた人形が液状となって一つになり、エースコスチューム〈RDティアーズ ヴァルナーガワンピ〉へと姿を変えた。


 縛る不気味な人形がなくなったことで、ようやく自由になった私は一回柔軟して変に固められた体をほぐした。



「そ、そんな! こんな土壇場でッ!」



 〈ウィッチドール〉が得意とする如月梢の完璧なロック戦術は、砂上の楼閣となって押し寄せる波に打たれて崩れてしまった。



「手札の〈ヴァルナーガカチューシャ〉は、自分が〈RDティアーズ〉を着ている場合、追加でコーデされる!」



 自由に服が着られるようになったからといってもAPは相手の方がまだ高い。


 私は手札に残っている戦力をありったけ投入して追いかける。



「そして〈ヴァルナーガワンピ〉の効果! 一ターンに一度、ステージ上のコスチュームに対して〈シェルベッコ・チャーム〉を生成する。私は〈ヴァルナーガワンピ〉に〈シェルベッコ・チャーム〉をつける」



 相手の動きを一方的にロックすることに注力しすぎたことで、逆に相手から身を守る術は如月梢の手札やステージにはない。


 それは梢自身がとっくに理解しているのか、すでに逆転敗北の結末を悟ったことで戦意まで失ったことで放心状態のまま私と向き合っていた。



「これでフィニッシュだ!」


「トゥルーワードミュージック〈因果の常海マリンパニッシュメント〉発動!」



 最後の一枚――トゥルーワードミュージックをビャコに読みとらせて発動させた途端、私の足下から立体映像の海水が間欠泉となって吹き出した。


 水の柱となったそれは徐々にこの帝都体育館を透き通った海水で満たし、瞬く間に鮮やかな海底景色へと生まれ変わった。



「ふえ? ここどこ? いつの間に海の中に?」



 流石に目の前の場面が一変してしまっては放心状態を保てなかったのか、すっかり目が覚めた梢がトゥルーワードミュージックによって彩られた映像に驚いていた。


 それは他のギャラリーや、観客席に座るアーティスト達にも届いていた。


 それまで決勝戦という一大イベントで興奮していた帝都体育館が、まるで水族館の水槽の中に入っているかのようなテーマパークを味わっている雰囲気に変わる。



「ほぉう、これが天水晴那のスキルによって生み出されたカード――トゥルーワードミュージックが見せる演出か。確かに我々のスキャナーで表現することはできないな」



 すぐ近くで観戦していた【紫智天】にも演出の影響が及び、周りを泳ぐ魚達を指でつつきながら堪能していた。



「〈因果の常海マリンパニッシュメント〉は、相手コスチューム全てに〈シェルベッコ・チャーム・トークン〉を一つずつつける!」



 トゥルーワードミュージックによる演出は、この場を海底にするためだけじゃない。


 効果の通り相手の衣装全てに鼈甲のチャームをつけるまでが演出だ。


 今まさに、海面に映る満月が歪んでみえる天井から、ウミガメの大群が旋回しながらこのステージへと舞い泳いでくる。



「え? ちょっ、こっちに来てる!?」



 広い体育館の中を優雅に泳ぐウミガメ達が自分に向かってくることに気がついた梢が、思わず両腕で顔を覆って身を守った。



「そして〈ヴァルナーガワンピ〉は、ステージ上の〈RDティアーズ〉一着につき、APが100ポイントアップする! トゥルーワードミュージックによって、あんたの衣装にも〈RDティアーズ〉ブランドの衣装がつけられたことで、私の合計APは――」



 天水晴那 AP2930 VS 如月梢 AP2750



 やがて、押し寄せるウミガメだらけの荒波に梢が押し負け、全身に鼈甲のチャームを無理矢理つけられながら大群に飲まれていった。



「これで私もスタンバイ!」



 ウミガメの大群に浚われた梢から目を背けるように踵を返して、私も終わりを宣言する。


 ゲームが終わり、プリズムストリームによる演出が途切れ、熱帯魚や亀が泳ぐ美しい海底の風景は消え、元のバカでかいドームへと戻った。



「華のない戦術をするアイドル志望者に、プロの方から何か一言を!」


「ノーコメント」



 立体映像とはいえウミガメ達の突進に押し飛ばされ、大の字になってステージ上に仰向ける如月梢を横目で見ながら、私はそれだけ答えた。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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