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ロック戦術――地雷デッキ

「今頃気づいた? でももう遅い!」



 効果を使いきった一本目のタクトを宙に放り、新たに出した2本目のタクトを振り回して同様の効果を発動させる。



「最後に〈ヴォルジョインシューズ〉を追加でコーデし、その効果で最後の〈ジョインタクト〉を呼び出す!」



 ずいぶんと手間と時間とカードの消費コストがかかったようが、これでやっと魔法少女梢の変身が完了したらしい。



「プリチーウィッチ梢っちのおでましか!」


「まさか、魔法少女にわすれちゃいけない象徴ともいえる衣装を忘れているわよ!」



 足下に呼び出した三本目のタクトを振るい、梢が三度目の魔法を起こす。


 魔法の杖の如く振るう関節パーツの先端に纏う色は、紫ではなく緑色に変わっていたが。



「あたしが三種類のウィッチドールを着た時、〈ウィッチハット〉はフルコーデ効果によってランドリーから追加でコーデされる!」



 三本目にして変身を締める衣装として、梢の頭に西洋の魔女が被るつばの広い皺だらけの黒い帽子が被せられた。



「アクセサリー含めて四種類揃った上に、三着の衣装には個別の小物までついたことで、あいつの総合APは2750。あの〈ウィッチドール〉ブランドにしてはかなり早い展開速度だ!」



 テレビアニメみたいに数十秒でお着替え完了とはいかなくても、現状はまだ1ターン目。


 開幕から全て揃った上に、合計APが2500以上もあるのはなかなかに手強い。


 だが、〈ウィッチドール〉ブランドの真の恐ろしさは、開幕からフルコーデができる展開速度の方ではない。



「〈ウィッチハット〉の更なる効果! このカードがフルコーデ効果によって追加コーデされた時、あたしは好きな枚数だけ手札を捨てて、その枚数だけ相手の体に〈ジャンク・トークン〉を着せる!」


「「「やっぱりか」」」



 不本意ながらビャコと、ついでにのんびりと傍観している【紫智天】ともぴったり声が合ってしまうほど予想していた展開――〈ウィッチドール〉ブランドを特に警戒しなければならない理由となる効果が発動した。


 先端が垂れ下がった魔女帽子が揺れ、梢が残る三枚の手札を容赦なく捨てる。


 それを起動に、今度は私の上半身、下半身、脚部の側にずいぶんと毒々しい色をまとった魔法陣が私の体を狙うように虚空に描かれる。


 肌色のタクトを出した様に、黒いオーラを纏った紫の魔法陣から、痛々しい罅が表皮に走るほど劣化した人形の腕が、私を目がけて這い寄ってきた。



「ひえぇええ! 来たぁ!」


「相変らず慣れない演出ね」



 色褪せて汚れた肌に所々罅が入って指まで欠けているそれが、私の腕や首、足を握りしめる。


 触れる獲物の手応えを腕で感じると、それを皮切りに、狭い魔法陣から腕の持ち主である不気味に壊れた人形がズルリと姿を現した。


 どこに目を背けても、壊れ方がそれぞれ異なる人形が私を凝視してくる。


 それどころか、まるで人肌に飢えているかのように、私の体を抱き締めて離さない。


 立体映像とはいえ、密着されれば冷たい上に重たい感覚が体を縛り付ける。



「怖えぇえ! この前サブスクで見たA級の予算と俳優で作った中身Z級のホラー映画より遙かに怖えぇ! 悪霊退散! 妖魔降伏! リリカル・トカレフ・キルゼムオール! ピーリカピリララポポリナペーペルト!」



 悲鳴を上げながらも謎の呪文を連呼して除霊するビャコだが、所詮はプリズムストリームによるカード効果の演出。


 客観的には単に怨霊に呪われている様に見えているかもしれないが、ゲーム上で今の私の状態は〈ジャンク・トークン〉――つまり壊れた人形をトップス・ボトムス・シューズとして着ていることになっている。



「決勝戦の相手がまさか厄介者のロックデッキの使い手とはね」



 ロック。


 カードゲームには、カードを出して果敢に攻める戦略がある一方で、相手の動きを封じる状態に陥れるという逆の戦略がある。それを固定するという意味を込めてロックと呼ぶ。


 他のカードゲームでは、相手の行動を封じつつ自分が一方的に有利になるよう盤上を整えたり、相手がなにもできないことをいいことにジワリジワリとダメージを与えるという、時間を要する上に派手さもない内向的でありながらも、立派な戦略として確立されている。


 しかし、〈エンプリス〉になるとそうはいかない。


 このゲームは、自分の場が良好なら一方的にゲームエンドを宣言できるルールがある。


 つまり、他のカードゲーム以上に相手になにもさせず、隙を与えるまもなく勝利をすることができる。


 今まさに、私の全身に壊れた人形を着せられたことで、本来の衣装が着れなくなっている。



「天水晴那く~ん、知っているとは思うけど、この人形達は効果のせいで、デッキへの収納はできないことになっているぞ~ん」



 ちゃっかり浪波とブランデーグラスに注がれた葡萄ジュースを片手に持った【紫智天】が、梢の出した厄介なトークンの解説を煽るようにささやいた。



「そぉんなん、わかっとるわ!」



 このビャコが自棄になって答える通り、〈ウィッチドール〉ブランドは、この戦術に特化しており、多くのプレイヤーから敵にしたくないデッキ――通称地雷デッキとして認知されていた。



「〈ウィッチドール〉のロック戦術は、一度決まると手強い。だけど、ここまで確実に揃えられるほど簡単に扱えるデッキじゃないのだがね。ましてや、汎用スキルだけでここまで追いつめてくるなんて、梢くんはやっぱり決勝の舞台に立つだけはあるなぁ」



 人形に首を絞められて自由が利かない中、神姫殺しの二つ名を持つ天水晴那が追いつめられる様を見て【紫智天】が梢を持ち上げる実況をする。


 オーディションの主催者であり『ディーヴァス神姫』によって名指しで褒め称えられ、その声をアンプから聞いたギャラリーから歓声と拍手が喝采された。


 運命をかけた決勝での戦いがまさかのネガティブデッキだったから大ブーイングの嵐になるかと思ったが、『ディーヴァス神姫』の【紫智天】が機転を利かせて賞賛したおかげなのか、気まずい空気にならずに決勝が進んでゆく。



「ありがとう! あたし、みんなのために絶対に勝つよ!」



 ここで私が負ければ有無を言わさず採用される。まさにその瞬間にリーチをかけた如月梢は、負けてしまった参加者達から応援を受け、それに答えるように手を振り替えしていた。



「とはいえ、先攻はスタンバイを宣言できないからね。あたしはこれでターンをチェンジする」



 天水晴那 AP0 VS 如月梢 AP2750

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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