要注意ブランド〈ウィッチドール〉
天水晴那 AP0 VS 如月梢 AP0
「先攻はあたし! ドロー!」
ついに始まった決勝戦の第一ターン。
口火を切ったのは梢から。
「先手必勝! スキル〈一斉洗濯〉を発動!」
覇者だが無所属で無名である梢の手には、運営がオーディション用として貸し出ししたハンディマイク型のスキャナーが握られている。
仮だが持ち主である梢が命じた時、スキャナーはコアを光らせて発動に応じた。
「え? もう発動させちゃうの!」
ゲームである以上多種多様な戦略があるためこれといって正解である攻め方はない。
だが、特に盤上すら固まることなく初っぱなから貴重なスキルを使うのは、ビャコほどではないが私も少し驚いた。
「このスキルは、自分の手札を任意の枚数だけランドリーに捨てる。その後、同じ枚数だけデッキからドローできる! ただし、このスキルを使った次のターンはドローフェイズが来てもドローできなくなるけどね」
任意の枚数と言っていたが、梢は手札を全てランドリーに送り、改めて五枚のカードをデッキから引いた。
「初っぱなから引き直しとはなぁ。デッキも緊張して手札が事故ったのか?」
自身の戦略にあわせて好みのスキルを作成して設定できるのは、Q-key.333に正式にメンバー入りを果たしてから。
それまでオーディション戦で使えるスキルは、運営があらかじめ用意したいくつかの汎用的スキルの中から一つを選択して発動できる。
特に〈一斉洗濯〉は運営が用意した中で最も使いやすいスキルとして、出会う参加者のほとんどが設定していた。
「あたしは〈ウィッチドール ボルジョイントップス〉をコーデ!」
ようやく梢のスキャナーに一枚のカードが置かれ、それまで一般的だった平服から一変。
ブランド名のとおり西洋の魔女の着る黒いローブをモチーフにしたミステリアスなトップスが登場した。
「んげげッ! 〈ウィッチドール〉? 〈ウィッチドール〉ブランドって言えば――」
「ええ、嫌な予感がするわ」
「だよなぁ~~」
相手に心理を悟られないように、なるべく無表情を保っている私でも、そのブランド名を聞いた途端、思わず顔をしかめた。
「決勝に辿り着いたのは〈ウィッチドール〉ブランドか。かなり厄介だねぇ」
しれっと実況解説の役に就いた【紫智天】も、それを理解しているのか、戦うのは自分ではないことをいいことに他人事のように吐露する。
さすがは覇者というべきか、梢の愛用するカードは、毎回警告というかろくでもない感想しか言わないビャコが、珍しく奇声まで発するレベルのブランドを携えて挑んできた。
「コーデされた〈ヴォルジョイントップス〉のコスチューム効果! デッキもしくはランドリーから〈ウィッチドール ジョインタクト〉を呼んで、このトップスに飾る!」
紫色のオーラを放ってトップスが効果を起動させると、ブランド特有のエフェクトなのか小脇から魔法陣が出現し、両端に瘤のついた一本のタクトが飛び出した。
「なにあれ、チアリーディング用のタクト?」
〈ウィッチドール〉が特に警戒しなければならないブランドなのは周知の事実だが、今出現したのは私も始めてみる小物だ。
モチーフ元が魔法使いというファンタジーというかインドア派なデザインと意匠が施されているブランドだったはずだが、ずいぶんと体育会系な小物を作っていたのは以外だった。
「〈ウィッチドール〉ブランドの新作か? 始めてみるな。タクトっていうかダンベルみたいだな。しかし、薄橙色とはどうにも不気味だな」
薄橙色。
つまり人間の皮膚の色とほぼ同じ色。
そんな得体の知れない物体がアクセサリーとして飾られているどころか、まるで幽霊に持上げられているかのように、梢の側をふよふよと浮いていた。
「自分が〈ジョインタクト〉を持った状態で〈ウィッチドール〉ブランドを着ている時、ミュージックカード〈鼓隊ドールパレード〉を奏でることができる!」
最近一部の物好きの間ではやっているらしい、フルカスタムが売りのドールに鼓笛隊の衣装を着せて並べた美しさと不気味さを兼ね備えたジャケットイラストのカードを発動させる。
「このカードが発動した時、私はデッキまたはランドリーから、まだ着ていない種類の〈ヴォルジョイン〉シリーズを手札に加える!」
浮いている肌色のステッキを杖の用に振るうと、魔法のように虚空から出現した魔法陣からカードが飛び出してきた。
「そして、最初に出た〈ジョインタクト〉の特殊効果発動!」
先端に紫色の光を纏、梢がもう一度ステッキを振るって、魔法のように効果を発動させる。
「〈ジョインタクト〉が場に出ているコスチュームに飾られた時、別の〈ヴォルタクト〉シリーズを追加でコーデできる! 現れろ! 〈ヴォルタクトスカート〉!」
あれが、あの人肌色のタクトが本来もつ魔法の力なのだろうか、トップスに続いてスカートが梢の腰に纏われた。
「ずいぶんと段取りが悪い魔女っ娘の変身だな」
「魔法少女への変身は確かに楽しいけどね」
「えぇ? ジョイってそういう意味なのか?」
上半身ときて下半身とパーツが着実に揃う度に、梢の格好が魔女というか、二十世紀に日曜朝のテレビで放送されていたアニメに出てくる魔法少女っぽい格好へと変わってゆく。
「そしてコーデされた〈ヴォルジョインスカート〉の効果! トップスと同じく手札・デッキ・ランドリーから〈ジョインタクト〉をスカートに飾る!」
トップス登場の時と同じく、虚空から二本目のステッキが出現して腰の側で宙に浮いた。
「ジョイ、ジョインタクト、ジョインt……あーっ! そう言うことか! あのステッキは楽しい魔法使いの杖じゃない! ジョイント……つまり関節だ! 肌色なのは人形の四肢を繋げる関節パーツだからか!」
連呼しているうちに何かに気がついたビャコが、今になって梢の着るブランドのコンセプトデザインの意味を悟って叫んだ。
「今頃気づいた? でももう遅い!」
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