運命の決勝戦!
決勝戦に到達する頃には、あれだけ派手な予選会場という城はいつのまにかきれいに撤去され、いつものライブ用の舞台セッティングになっていた。
今回は正規メンバー同士の戦いだったQ-ky.333登坂しおり強襲時と比べると控えめといえるほど集まっていない観客と、それに加えて途中敗退した参加者やその関係者がギャラリーとして残っていた。
「参加者諸君、長時間に及ぶオーディション戦、本当にご苦労だった。そして観客の諸君もずいぶん待たせたね。何万人も訪れた女の子達の夢を駆けた激闘もついに終盤。そう、ついに決勝戦だ。今宵、諸君らは泥の海から咲いて現れた神姫の誕生という歴史的瞬間を目の当たりにするだろう!」
今度は本物の姿を晒した【紫智天】が、マイクを片手に観客へ向かって声を放つ。
今宵は満月。
二つに割れたドームの天井から降り注ぐ月光を浴びて、酔っているのか既にテンションが無駄に昂揚している【紫智天】が芝居掛かった口調で決勝戦の開幕を告げた。
「それでは両ブロックを勝ち抜いた二人の覇者よ! いざ、決勝の舞台へ!」
「もう来てますよ」
「ああ、もう来てたのか」
既視感がある赤い眼鏡をかけた補佐役から言下に声をかけられ、【紫智天】は今になってとっくにステージに上がっていた私たち決勝出場者に気がついて顔を向けた。
「あの赤い眼鏡のスタッフ、登坂しおりとの戦いの時にもいたような?」
「他人の空似だ。それよりも、せめて向くなら対戦者の顔を見てやれよ」
そういえば万単位で集っていた参加者のうち半分を私が退けたとはいえ、残り半分でもかなりいたはずの人数を同様に蹴散らした猛者もここにいるらしいが、誰なのかまだ知らなかった。
横目で隣に立つ人物を見ると、緊張のあまり直立不動のまま顔も体も強張ったままの、明らかに場慣れしていない普通の女の子がいた。
優秀な才能を持った素人を捜すためのオーディションなのだから大物的オーラがないのは仕方がないが、幾多の屍の上に立った猛者の割には、特に異彩の籠もった雰囲気も出ていない完全な素人。
顔立ちは中の上。
笑えばかわいいだろう元の素質もある。
服装もオーディション用として多少は凝っているのだが、逆に際だった個性がない普通の女の子。
「こ、こいつはッ! まさか!」
「知ってるの?」
「いや全然。無名のパンピーだな」
「パンピーって……」
緊張感など無いと言わんばかりに人を冗談で驚かせられるビャコの図太さを、隣にいる彼女に見習わせたい。
「あっハハハハハ! 君のマスコット、本当に面白くないねぇ!」
ビャコの冗談を聞いていた【紫智天】が、腹を抱えて大爆笑している割には、堂々と面白くないと貶した。
本気で酔っ払ってるのか、逆に何でそんなに笑えるのか聞き返したいくらい。
「笑われながら言われると余計傷つくなぁ!」
「そこで粋な返しができないから面白くないのよ」
「そういう話なの!?」
「――くぉら! こっちを無視するなぁ!」
売れないピン芸人よりも笑えない冗談を発したせいで【紫智天】の関心も全部天水晴那に持ってかれてしまい、すっかり萱の外になってしまった対戦者が怒りの声を上げた。
「おお、そうだった。数万人も集まってくれたアイドル候補生達の中から見事ここまで勝ち抜いたもう一人の猛者――如月梢くんのことを忘れていたよ」
相手は先に彼女だと言わんばかりに、【紫智天】が不適な笑みを浮かべて、改めて如月梢を私に注目させた。
「天水晴那……やっぱり、あんたが決勝戦のお相手とはね」
勇気を持って注目させたはいいが、改めて対戦相手、しかもあの天水晴那が相手になるため余計に緊張しているのか、挨拶代わりに駆ける声が震えていた。
とりあえず噛みつこうとしているのは十分に伝わったが、まるで大型犬にキャンキャンと吠えて絡む小型犬のようだった。
「確かにあいつの言うとおり、相手は無名の一般人だ。だが、勝ち上がってきた数が段違いだ。油断するなよ」
「大事なデッキがかかってるの。この勝負、絶対に負けられない」
対決準備の催促がでる前に、私はビャコをスキャナーに変形させて梢と真剣に向き合った。
油断もしなければ容赦はしない。
その気持ちがプリズムストリームに触れたのか、虹の色を帯びた一陣の風がこのアリーナに吹き荒れる。
例え相手がただ強いだけのズブの素人であっても、いつも通り目の前のアイドルを狩る気構えで梢の挑戦を待った。
「ほぉう、喜べ梢くん。Q-key.333だけを目の敵にしていた神姫殺しが、どうやら本気で君と戦ってくれるみたいだ。いい機会だし、君の今の気持ちも彼女に聞かせてあげてくれないか?」
吹き荒れる虹色の風に帽子を飛ばされないように押さえながら、【紫智天】が梢にインタビュー形式で煽った。
「あいつからアイドルが出しちゃダメな気迫をもろに感じる」
まさか相手がここまで本気で挑んでくるとは思っていなかったのか、すっかり獅子ににらまれたウサギのように気圧された梢が、棒立ちになって正直に今の気持ちを吐露した。
「まさに殺気立ってるね。でも、ここであの神姫殺しに君が勝てば、メンバー入りどころか『ディーヴァス神姫』の仲間入りだ。天水晴那くんはそうだなぁ、ランク9ってところかなぁ」
酔っ払いのごとくフラフラとした足取りで対峙する私たちの間を行き来してうちに、私の側まで来た【紫智天】が耳元でそう言った。
わざとランク9の件を強調させた【紫智天】の囁きが耳朶に触れたとき、張りつめていた私の意識に氷柱のような冷たい一突きが割り込むように刺さる。
「うぅ……やっぱりばれてる?」
「どうかな。この際、どっちでもいいけど、おかげで少し冷静になれたわ」
集中していた私の精神が塞き止められたことで、いつのまにか感情に呼応して吹いていた虹色の風がぴたりと止んでいた。
今ので私の気迫が緩くなったのを梢も肌身で感じたのか、相手も少しだけ緊張が落ち着いたようで、バチンと自分の両頬を叩いて気合いを入れ直した。
「二人とも、頼もしい意気込みをありがとう。では赤井くん、開始の合図を頼むよ!」
前座を切り上げ、【紫智天】は赤い眼鏡の補佐役に開戦を告げる号令を委託する。
「それでは! アイドル――」
「「オンステージ!」」
天水晴那 AP0 VS 如月梢 AP0
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