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決勝前のインターバル ~ビャコと勇作P~

 六時間に及ぶ激闘の末。


 かれこれ十数にも及ぶ試合を重ねて、私はようやく決勝戦の舞台に辿り着いた。


 ここまでの激闘の記録は全然味気なかったので詳細は省略させてもらうが、強いて言うなら開始前にビャコが嘘の設定で勝手に飾った一二人の乙女達とは全く戦うことなく、知らぬ間に敗退していた。



「ついに決勝戦か。もちろんここまで来たからには、目指すは優勝。だが、決勝で相手となるやつは邪神の作り出した衣装に操られ、効果を発動するたびに何人もの対戦者や観客達の魂を生け贄にする恐ろしい邪悪の化身! これはもうオーディションに受かるとか、単に勝ちをもぎ取るだけのスケールじゃない。ここで奴を止めないと、人類は全て奴に食われちまう!」



 控え室として用意された楽屋で決勝の出番を待つ私に、ビャコはテーブルの上をうろちょろと歩き回りながら語りかけてきた。



「全人類が食われる前に、あんた私の分の弁当食べたでしょ」



 合計二人分の弁当を平らげたというのに、このマスコットは満腹だろうと眠くならないどころか余計興奮して落ち着きがなかった。



「ホント、オーディション参加者が聞いて呆れるぜ。お前がベルトコンベア作業みたいに対戦者をホイホイと瞬殺しちまうもんから、片方のブロックから決勝戦の相手が決まるまで、かれこれ五時間が経過! 腹も減っちまうよ!」


「そういえば、私が勝つたびに、アーティスト席がずいぶんと荒れていたね」



 自販機で買った缶ジュースで昼飯を食い損ねた小腹を満たしながら、私はふと帝都体育館で見守っていた勇作Pと草薙さんの座っていた席の様子を思い出していた。


 勇作Pや草薙さんが怪しまれず、なおかつ顔パスで観客席に入れたのは、アーティスト特権という制度のおかげ。


 〈エンプリス〉はもはや女の子用カードゲームの域を越えた、アイドル同士が自分達の見せ場をかけて戦うための武器。


 そして勇作P達デザイナーや草薙さん達作曲家は、その武器であるカードを作成できる職人。


 その職人達が実際に自分たちの作り出したカードを顧客であるアイドル達に使わせて、自作物の性能を検証したり、ライバル達の作り出した商品を視察したりする機会を設けることで、さらなる発展に協力するというQ-key.333運営による配慮によって生まれた制度らしい。



「そりゃあ、誰が作ったのかわからないブランドに、自分たち自慢の衣装があっさり負けるなんて、デザイナーどもにとっちゃあ気が狂うほどの不祥事だからな。本来は株価とか流通問題に関わるくらいマジで大事なんだが、お前の使う〈RDティアーズ〉は、打倒Q-key.333用に白波勇作が作った極秘のブランドだ。あいつが作った衣装が既存ブランドより優れるようになったってのは、元パートナーとして誇らしことなんだが、大声で自慢できないのが歯がゆいぜ」



 勇作Pの話になると、ビャコはいつも自分の事の様に誇らしげになって語る。


 あることよりないことの方を多く喋るせいで勇作から訂正の一発がしょっちゅう飛んでくるが、それでもビャコは勇作Pの話題になると、法螺話や笑えない冗談を吐くよりも活き活きとしていた。



「なんだかんだで仲いいのね、あんた達」


「あたぼうよ! オレと勇作のコンビ歴は、お前や璃玖より長いんだぜ。あいつが流行に負けて引退するって言ったときはちょっとショックだったけど、デザイナーに転向して璃玖に引き継いでからは、あいつの作った衣装を実体化するなんて感慨深いなって思ってたりもしたさ」



 年寄りみたいに思い出を感慨深く語りながら、ビャコは仁王立ちのまま胸を張る。


 でも、その自慢である思い出の一時から時間が進むにつれ、あんなに反るほど張っていたビャコが急に猫背になる。



「あの頃は本当に楽しかったんだ。Q-key.333に落選したところをたまたま拾った璃玖も、天職ようにモデルアイドルを楽しんでいたし、何よりも自分が作った衣装を着て頑張っていた璃玖を見守っていた勇作も笑っていた。はぁ~」



 緊張感が必要な時だろうと無駄に明るいはずのビャコが、珍しく溜息をはいて落ち込む姿を私に見せた。


 普段はだらけて、不真面目で堅物の勇作Pの元パートナーかと疑うほど正反対の性格をしているが、やっぱり大事な人が誘拐された挙句、辱められた様を見せられ、そのせいでズタボロにされた相棒が落ち込んでしまうと、ビャコなりにくるものがあったのだろう。



「まさかあんたの冗談が面白くないのって、その空元気のせい?」


「キッツ! いや、あんなことがあっても、オレは一応まだ「まとも」でいるつもりだぜ。オレはお前と一緒に復讐の最前線にいる。だから、マスコットのオレだけでも、早く立ち直って平常運転でいないと、お前らがダメになっちまうからな」


「ビャコ……」



 まとも。


 この言葉を聞いた時、私はふと目を伏せた。


 確かに今の自分は、誰がどう見てもまともな精神状態じゃない。


 それぞれが拭いたい汚名や果たしたい宿命、取り返したい人を駆けて、一線を越えることすら躊躇いも後悔もなくなっている。


 人はそれを暴走という。


 ビャコが自分のことをまともと言ったのは、そんな暴走する私を鎮める役を担っていると言いたいからだろう。


 マスコットであるビャコの使命は、パートナーであるアイドルのサポート。


 今度こそパートナーであるアイドルを守りきる。


 そんな意志と勇作P達との約束を、ビャコは守り続けているのだ。



「ということは、普段から面白くない奴だったってことね」


「お前キツいなぁ! 今のはそういう話じゃあないだろ!」



 今まで茶化された分、茶化し返したがビャコの言いたいことは十分に伝わっている。


 Q-key.333のランク9遊生澄香には親愛なる先輩も仲間もいた。


 だが、いざ舞台の上で戦うときはどうしても常に一人ぼっちになる。


 だけど、今は一人じゃない。


 試合中は騒がしいけど心細くないし、抱き枕にして寝るともう悪夢を見なくなってちゃんと休めることもできる。


 肝心なところでダメなところばかり目立つけど、辛いときにはいつも傍にいてくれるのは素直に褒めるべきところだと思う。



「この復讐が果たせるまでは難しいとは思うが、オレとしては、お前に少しでも笑顔が戻ればいいなって思ってるよ。どんな時でも愛想笑いすらできないって、女の子には相当酷だぜ」


「少なくともあんたの冗談では到底笑顔にはなれないわ」


「あとそのキツいセリフをはける辛辣な性格もな!」



 退屈を紛らわせる会話から随分と花が咲ききった頃、楽屋に備えられたテレビに写る映像――オーディションの生中継を放送している番組内でようやくトーナメントに動きがあった。



「決まりました! Bブロック代表戦ついに決着です! 長きにわたる戦いの末、ついにこのオーディション戦の決勝戦に臨む二名のアイドルがそろいました!」



 やっと出番か。


 私は気合いのスイッチ代わりに、手の中の空き缶を握りつぶした。



「さぁ、時間だ! 決勝を勝ち抜いたら、次は『ディーヴァス神姫』のランク6が相手だ! なぁに、ついこの前一つ上を倒したんだから、今のお前なら楽勝だろうよ!」


「まずは大事なデッキを取り戻す! 誰であろうと全力で行くわ!」



 退屈で鈍った体をうんと背伸びをしてほぐしたビャコを肩に乗せ、私は楽屋のドアを開けた。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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