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天水晴那と12人の注目株(嘘)

 そして一週間後のオーディション当日。


 受付となる会場は、主催者の宣告通り新帝都競技場。


 そこは数年前に開催された東京オリンピック用として新しく拵えた全く新しい国際競技場であり、オリッピックが終わってから数年経った今でも踏みしめる地表や周り囲う設備の真新しさがまだ残っている。


 本来は競技場とあるとおり、スポーツ選手が鎬を削りあう体育会系にとっての神聖な場所ではあるのだが、今日は大胆なことにQ-key.333という世界最大のアイドルグループのメンバー入りを果たせるオーディション会場に使われている。


 一週間の猶予は随分と急ではあったが、採用希望者にとっては大した問題ではなかったのか、受付開始から一時間も経たないうちに、あの新帝都競技場が全国からやってきた女の子達で見事に埋め尽くされていた。



「夢を追い 集う戦場 散る桜」



 社会的距離なんて知るかと言わんばかりに、名前も顔も知らない女の子達と密接寸前まで囲まれている私の現状を見て、ビャコが皮肉を込めた謎の一句を読んだ。



「意味わかんない、0点」


「ぐほぉ! 厳しいなぁ!」



 ビャコも私も、こんな鮨詰めになるほどのオーディションへの参加は初めてではないが、これだけ無駄口を叩いても喧噪に埋もれてしまうほど、周りはもっと騒がしくなっていた。


 参加者の中に、余裕がなくなるほど万感の思いを背負ってきている連中ばかりなのか、被ったフードで頭を隠しているとはいえ、今話題にしてこのオーディションを開く要員となった天水晴那とほぼ密接状態になっていても誰も一人気づくことはなかった。



「オーディション開催なんて臨時で急遽決まったことなのに、ずいぶんと志願者が集まってんなぁ。下手すりゃあ、エンプレスシリーズ大会と同じくらい集まってんじゃあないか?」


「それほど、こんなにもアイドルに憧れている子がいるってことよ。私だって、こんなオーディション戦を経て、入ったことがあるんだから」



 どこもかしこも人の顔ばかりで目のやり場に迷うが、参加している子の顔を見る度に、真面目に夢を追いかけようと瞳をキラキラさせているのが余計眩しく感じた。



「オーディションに勝たせてくれたデッキを取り返すために、オーディション戦に出るなんて、皮肉な運命だな」


「デッキといえば、プロデューサーは? 今回はアーティスト特権で、他のアーティストに混じってなんとか見に行けるっていってたけど」



 少し背伸びをして観客席側を見回す。


 保護者なのか身内がきているのか、まだ受付段階なのに垂れ幕とか看板とかをもって盛大に応援している客がちらほら見える。



「ああ。あの二人なら、すぐ隣の帝都体育館に案内されたぞ」



 ビャコの言う帝都体育館は、この競技場と比べるとだいぶ面積が狭いが、ドームによって天が覆われているアリーナ型の会場のこと。



「帝都体育館? ということは、流石にこの場所は予選会場ってところか」


「急にどうした? 孤高の天水晴那様が、親に見てもらいたいお遊戯会待ちの子供みたい勇作達を探してるなんて」


「見てもらいたいってわけじゃあない。でも、二人とも身バレ防止のために、いつも自分たちの目で応援してやれないって歯がゆい思いをしていたから」



 いつも単身で乗り込む時に送り出す勇作Pや草薙さんの切ない顔が思い出される。


 それが今回はやっと肉眼で見守れるとなると、もう自責の念にとらわれなくて済むだろうと思った。



「もしかして、お前緊張してるぅ?」


「してるわよ。流石に初のオーディションほどじゃないけどね」



 むしろこんな状況でもパートナーをちゃかせるほどの余裕があり余っているマスコットの方が問題だと思うが。



「まぁ、ついこの前ランク5を討った今のお前なら、誰の目から見てもQ-key.333どころか一気に『ディーヴァス神姫』入りは確定だろうな。だが気をつけろよ。このオーディション、そう一筋縄ではいかせてくれない連中まで参加していやがるぜ。たとえば、目の前にいる奴!」



 ビャコが私のすぐ目の前にいる黒いポニーテールの女の子に前足を指した。



「まさかわざわざ都心部にまで来ているとはな。あいつは山陰では名の知れたローカルアイドル輪島千春だ。ローカルブランド〈トリプルクローズ〉のデザイナーの娘で、実家の宣伝をしているウチに山陰最強の称号を得た天才。猛禽類をモチーフにした衣装を使うが、性能は鳥云々よりも猛禽類の脚に注目されたデザインで、その性能はまさに見えぬところからの狩猟。慎重に慎重を重ねたところで、その奇襲性能にはお手上げかもな」



 そんで、と繋げながら、今度はサングラスをかけたクールな女の子に向かって前足を指す。



「その隣も侮れないぞ。森泉、またの名を黒い追跡者。鬼ごっこ系バラエティーで追跡者の役が着るブランドを決める採用試験で〈ホーミングキューピッド13〉ブランドを選抜させた勝因。えらく物静かだが、一度目を合わせると自分の手に捕まるまで追跡をやめない、うんざりするほどの戦略は、まさに追跡者だ」



 確かにこの会場でサングラスにスーツはだいぶ浮いているなと思っていると、ビャコはさらに指し示す前足の向きを変える。



「そして、あそこの眼帯娘! やっぱり来ると思ってたぜ。女海賊、村上綾子。町おこしの一環で瀬戸内の歴史にあやかって女海賊をモチーフに活動していたが、だんだん流し得ていくウチにマジな海賊みたいになっちまったあぶねー奴。〈ムービックエフェクション〉はそんな奴の要望に応えやすい一般ブランドだが、海賊モチーフの衣装は数が少ない上に扱いが厳しい。そんな衣装の愛用者の名が知れてるってことは、カードタクティクスは侮れない」



 スーツ黒一色から、随分と色物っぽい子が参加しているようだ。


 というかあの海賊衣装と眼帯はカードじゃなくて自前なのか?


「まさか見間違いじゃないだろうな、もし俺の目に狂いがなければあいつは新谷知美。某交響楽団に所属する現役の名フルート奏者。新しい音楽の道を極めるべく、この〈エンプリス〉の世界に入った新参者。日は浅く専用のブランドもないが、音楽面では無類の強さを誇り、自らが作曲した曲をデッキにいれることで、いかなる衣装に花を添えることができるミュージックカードの覇者。こいつは草薙が頑張らねぇと勝てないかもな」



 足下に黒いトランクがあるが、フルートってあんな楽器ケースに入れるのか。それともデッキケースも兼用しているのか。


 というか、まず草薙さんに匹敵するほどの実力を持ったミュージシャンが、今更アイドルになってどうするんだろうか。



「あいつ、こっちの大会に出る余裕あるのか? 大坪内理恵まで来てるぞ。たしかにスポーティー系ブランドの〈アテネメダリオン〉の愛用者なのは有名だが、どっちかっていうとバレーボールの選手として有名だぞ。肝心のコスチューム性能もバレーボールにあやかった彼女らしいものだが、まさか今回のオーディションを受ける為にブランド側がブラッシュアップしたのか? 元の性能より変化している可能性があるから気をつけろよ」



 一瞬だけ、競技場に迷い込んだアスリートかと思ったら、腰にはデッキホルダー。


 手にはオーディション用に配布された専用スキャナーをもってストレッチをしているところをみると、彼女もまた立派な参加者のようだ。



「どういう風の吹き回しで参加しにきたんだろうな、西川姉妹。中部地方で最大の植物公園と〈エンプリス〉試合場、ついでに乙女の花園を兼ねる〈リリーガーデン〉の管理をしている双子姉妹だ。あの双子、見えない神経で繋がってんじゃないくらいお互いの五感が共有されてるって噂だ。タッグで出られる公式試合が少ないから、こういったイベントに好んで出るような奴らじゃなかったはずだが、試合場の管理者という役職についている故に腕前は並じゃないのは確かだ。タッグ戦で無敵だが、単体の性能はどうかな。勝つのはどっちかなのに、白昼堂々人前でいちゃいちゃしちゃって、やな感じがするよ」



 満員電車よろしく詰め合っている状況をうまく利用しているのか、鼻先をくっつけて微笑みあう美人姉妹が周りなどお構いなしに自分たちだけの世界を展開して艶美な雰囲気を醸し出している。


 隣接している人間はドン引きできずにいるのか、気の毒なほど青い顔をしている。



「そしてあっちには……いつ退院できたんだ、躍牙弘子。一時期、某パンクゴシック系アンダーアイドルユニットの筆頭で、自身の精神が不安定になるたびにコスチュームが謎の狂気を帯びて強くなるやっかいな戦術を得意とする。その狂乱ぶりは一時期役作りかと思われたが、どうも元ファンの恋人との偏愛によってマジで狂わされていたようで、対戦中に流血沙汰になったとか。あの様子だと、狂気の度合いがさらに増しているようだぜ」



 百合空間とは別の意味でかなり近づきにくい雰囲気をだしている人形の様な白い肌を持ったゴスロリ少女がいた。


 腫れ物を通り越して接触爆弾が側にあると思っているのか、こいつの周りだけ異様な距離が保たれている。



「おお、珍しい、あいつも参加しているのか、川崎美紀だ! 普段は一流ホテルでパティシエールをしながら、泊まりに来た有名人と〈エンプリス〉の相手をして盛り上げているダブルワーカーだ。〈スイーツリパブリック〉は屈指の人気を誇るブランドでカードレパートリーの多さと反比例して面白みにかけるが、提供したスイーツと衣装デザインを掛けて対戦するというエンタメ優先の対戦が売りでな。突飛受けた切り札よりも、幾多のデッキを量産する様は、まさに料理人。そんな奴が本気になったら、マジでどうなるんだろうな?」



 〈スイーツリパブリック〉は本物のスイーツと同様に、種類もレパートリーも多く、その勝ち筋も多岐にわたる、まさに初心者から上級者まで愛されている名ブランド。


 逆に言ってしまえば素質がなければ、料理の如く味気ない戦略になってしまう難しい点も備わっているが、それを巧みに扱えるとなると個人的に少しだけ興味がわいた。



「そしてあいつは、ケセランパセラン中井! 幸福をもたらす未確認生命体ケセランパセランに愛された猛者! 奴がファーのついたジャケットを着ている時は本気の状態だ。一度本気になると、ケセランパセランの力によって幸福を必然に変える運命力の持ち主で、未だに地元では敗北という不幸を味わったことがない!」



 ここでオカルト系キャラの登場は、コメントに困る。



「おおっと! こいつはガチな有名人! 芸人になってしまった元アイドルの前川御前! 俺ファンだったんだ。Q-key.333が環境になる前まで一番人気の猫系アイドル! キャラクターに語尾、猫耳、そしてカードタクティクスにトークに歌、そして持ち芸! タレントの能力を全て持ち合わせたアイドルの理想型! 人気爆発の最中にQ-key.333の流行が痛手で、今はなんとかテレビ出演に食い下がるためにお笑い系に路線変更したのが悔やまれる神アイドル候補。流石に333人の束にはかなわなかったが、単身の能力は『ディーヴァス神姫』を上回るかもな」



 なんかだいぶ年を喰った痛いネコミミ女がいるかと思ったら、再燃を目指す不屈のキャラだったようだ。


 無理なキャラ付けで見るだけでだいぶ笑いがとれるのだから、現状維持の方がよかったのではという感想は、腹の中に留めておく。



「それから、あいつは最近の注目株! 花澤志紀! 無所属どころか無名通り越してアイドルとは無縁の生活を送っていた単なる〈エンプリス〉馬鹿だったのが、これまでにいろんな名のあるライバル達との激闘を繰り広げたことで知名度が上がった成り上がり。今では、まだ〈エンプリス〉に長けた普通の女子高生の域を抜けれてないが、このオーディションで化ける可能性はある。注意しろよ」



 今まで列挙された参加者の中で、その子は一番無垢で見た目も平凡で、それでも〈エンプリス〉に対して愛情の籠もった良い目を持った女の子だった。


 ビャコの説明を聞いて、その子にはなにか別の可能性が秘めてあるのを感じた。



「ずいぶんと詳しいのね。そんな強者達がQ-key.333以外にいるなんて、知らなかったわ」


「そりゃあそうだ。全部オレが適当に思いついた設定だから」



 この口だけ達者なマスコットは、おくびにも出さずに全部嘘だと言い切った。


 あの一二人分の意味ありげな設定が全てビャコの法螺話。


 いかにも本当ぽく紹介していたから信じてしまった私は、怒りのあまりビャコの首にチョークホールドを決めた。


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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