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【紫智天】による緊急記者会見

「おい、『ディーヴァス神姫』の一天が生放送で緊急記者会見をしてるぞ!」



 つきっぱなしのテレビに目を向けていたビャコが私の耳元で叫ぶ。


 突然の報告に、私達はさっきまで会話していた話の内容が停止どころか消し飛び、全員でテレビを囲うように注目する。


 この時間は、元お笑い芸人が司会と勤める情報ワイド番組を放送している頃。


 画面の右上に設置されたテロップのロゴやフォントデザインをみる限りでは、会見はその番組として放送されているようだが、カラフルなスタジオでの報道を止めるほど急を要して開かれたのか、カメラが写している無編集の映像をそのままお茶の間に流されている。


 テロップにもビャコの言うとおり記者会見と言あるが、群青色の艶やかなカーテンを背景に、ご丁寧にもQ-key.333のロゴが刻印された木製の講演台が設置されている様は、アイドルによる会見用の舞台というよりも、まるで政治家が使っている物をそれらしく模したような厳格な会場に仕立て上げられていた。



「さすがはQ-key.333。変なところに使う金の掛け方が違うなぁ」


「これアイドルの記者会見だよな?」


「そうらしい。俺達が解散会見する時はかなり質素だったが」



 恐らく特注であろう講演台に向かって会見を開いているのは、Q-key.333の一桁ランク『ディーヴァス神姫』の一天――【紫智天(しちてん)】の葉鳥朔真(はとりさくま)


 紫色のベレット帽をダークブラウンのショートの上に被っている少女。


 クールな切れ長の目をしているように見えるが、キャラ作りなのか性格故なのかわざとそう振る舞っているだけで、本来はぱっちりと大きくて可愛らしい目をしている。


【紫智天】の名前の通り知性に優れているのは言うまでもなく、彼女の顔もまた凡人に読み解かれにくいほくそ笑むだけの仮面を被っている。


黄黙天(こうもくてん)】が飄々として捕らえ所がないなら、【紫智天】は全てを見透かしている余裕の笑みか、あるいは人を食ったかのような傲慢さを感じる。



「全国のQ-key.333のファンの諸君、特にアイドル候補生を目指している夢見る少女達の皆さん、ごきげんよう。もうご存じかと思うが、私は『ディーヴァス神姫』【紫智天】の葉鳥朔真だ」



 画面の中の【紫智天】がカメラに向かって鷹揚な振る舞いで切り出した。



「本来この時間は、ゲストで出演している他メンバーが同チャンネルのゴールデン帯に放送される番組の宣伝に使うコーナーのようだが、諸々の事情があって予定変更となった。まずは、こんな会見に時間を使っていただいたことに感謝を申し上げたい」



 お決まりの挨拶に加えて関係者への謝辞を先に述べるが、いかにも何か企んでいそうな顔で言われては、口だけの感謝でしかない感が否めない。


 だが、そういう慇懃無礼な振る舞いが【紫智天】の人気を支える魅力であったりする。



「さてだ。私、葉鳥朔真は、昨今の他事務所アイドルである天水晴那の襲撃騒ぎによる人員不足解消のため、運営より人事担当を承ることになった。つまりは、新しいメンバーを私の意思や企画によって、自由な方法で補充することができるというわけだ」



 本題からいきなり爆弾級の発言をする【紫智天】の言葉に、私を含め全員が顔をしかめた。



「いくら上位ランカーだからって、一介のアイドルに人事権を与えたのか? なにを考えているんだ、アートマンストラは」


「おいおい勘弁してくれよ! せっかくめでたくランク5をしとめたってのに、ここで穴埋めなんて鼬ごっこじゃねえか!」


「別に穴埋めのための人員補充は珍しくないわ。私が引きずりおろしたランクの椅子を、運営がそのまま空席にするはずがないじゃない。私に濡れ衣を着せて蹴落としたランク9の席に、こっそり座る奴が決まっているのを忘れたの?」



 補充されては一向に崩壊の兆しが遠ざかる心配をするビャコ。


 それとは別に、私や草薙さんが怪訝に思うのは、人事権という運営と同等の力を託された【紫智天】が企む意向の方にあった。



「先日、『ディーヴァス神姫』のメンバーである【黄黙天】の雨羅刹那がQ-key.333を脱退した件について、私は一番の親友を失ったことに悲しみを禁じ得ない。惨敗した者への涙は無意味だと揶揄されるかもしれないが、今までずっと共に互いを育んできた親友が隣からいなくなってしまったこの悲壮感と虚無感は、とても口で説明できない」



 口元こそはつり上がったままだが、【黄黙天】が去った事実を悲しく思っていることは本当なのか、あの【紫智天】が珍しく寂しそうな目で雨羅刹那について言及した。



「しかし、私はQ-key.333のアイドルにしてランク6に座する【紫智天】。今は固唾を飲んで、負けてしまった彼女から得られた情報を元に、新たに対策を練る使命を果たさねばならない。


 彼女が抜けた最大の要因は何か。それはもちろん、我々Q-key.333が我一強という世間からの風潮に胡座を掻いていたことにある。


 アイドルは我々だけではない。そしてアイドルを夢見る乙女達は星の数ほどいる。その願いを叶える場所や大人達も存在する。そして、かの天水晴那のように、日陰で爪や牙を研ぎ、我々の天下を転覆されるために出現した挑戦者も。


 我々は運営共々、自らの怠慢によって井の中の蛙に成り果てたというわけだ」



 身振りこそは温和しめだが、その語調は力説だと言わんばかりに力強かった。


 まるで米国の大統領選挙でアメリカ人議員共による選挙演説という名のショーを思わせる。



「人事権を貰って居丈高に振る舞っている割には、随分と謙虚な演説だな」



 謙虚といえば聞こえはいいが、私の耳には自分が席を置いているQ-key.333のメンバーや運営そのものを貶しているようにも聞こえた。



「我々は知らなかった。世間には、天水晴那のように、まだ我々が出会ったことのない強敵がいたことに。我々に憧れる乙女達の中に、自分たちを超える可能性を秘めた才女が平凡の中に隠れていたことに。そのチャンスと可能性を逃すのはとても惜しいことだ。だからこそ、Q-key.333の各ランクが空席であり続ける状況を放置しながら、迎えるべき期待の星がただ意味も無く流れてしまう様を見逃すわけにはいかないのだ」



 一頻り言いたいことを言い終えた【紫智天】が、ここで深く息を吸いながら、改めて演説台に向かって起立し直す。



「この会見を以て私は宣言する! 数日後、中止してしまった運動会イベントで使用する予定だった新帝都競技場にて、新メンバー加入目的のオーディション大会の開催をする!」



 その宣言を言い切った後で、カメラのフラッシュが拍手のように断続的に瞬き、【紫智天】を照らし続ける。



「参加条件は女の子であるなら老若問わない。参加人数の制限も特殊な条件も設けない。Q-key.333に憧れを持つ者、単に名声が欲しい者など、とにかく加入したい意欲がある者は是非とも参加して欲しい。ついでに敗北して脱退した元メンバーの参加も可能にしよう。ただし、大勢の中で勝ち残り続けられるほどのタクティクスがあればの話だがね」



 なるほど、運営を貶していたのは謙虚による卑下ではなく、外部の人間を可能性云々で持ち上げて参加意欲をあげるためだったのか。



「方式は勝ち残り戦――トーナメント形式だ。ただし、負けたら即失格という措置は執らないので安心してほしい。最終戦績次第で、空いているランクに入れることもある。悲しいことに、今は我が親友が固持していたランク5が空いてしまっている。つまり、このトーナメントに優勝した最後の勝者になれば、そのまま『ディーヴァス神姫』入りも叶うというわけだ」



 参加人数という分母を考慮しれば狭き門であるには変わらないが、最も狭い時の門を一度くぐり抜けた経験者である私から言わせると、【紫智天】の企画したオーディションは、ずいぶんと温情をかけているようだ。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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