新たな称号〈神姫殺し〉
「なるほど、【黄黙天】がそんなことを」
沈黙は破られた。
クロッシュYNで『ディーヴァス神姫』が一天【黄黙天】の雨羅刹那を討った翌日。
私は改めて雨羅刹那から得た情報を勇作Pと草薙さんに伝えた。
「真実に一歩進んだとはいえ、『もしも』がただ『確実』になっただけか」
決死の思いで得た物が薄かったことに溜息をついて、草薙さんは握っていた新聞を一瞥してからデスクに放った。
その一面には、昨日撮影された戦いの配信映像からピックアップしたであろう【黄黙天】と天水晴那が写っている画像と、煽るように被せられた見出しを被せたスポーツ新聞らしい表紙で、あの戦いが記事として記録されていた。
全局のニュースやその新聞美よると、前人未踏の『ディーヴァス神姫』討伐を果たしたことで、天水晴那の評判も「巷のアイドルキラー」から「神姫殺し」と、褒めているのか畏怖からつけたのか、よくわからないグレードアップを遂げていた。
激闘の末、誰にも邪魔されない念願の尋問までこぎ着けられたが、勇作P達〈アクラクラウン〉が最も欲しがっていた大葉璃玖の情報に至っては、本来リーダー格に等しい『ディーヴァス神姫』ですら知らなかった。
「まったく、こっちは正体ばらし損だよ!」
「いや、そうでもない」
努力と割に合わない成果に不満を漏らすビャコを宥めながら、勇作Pは【黄黙天】を経由してQ-key.333から取り返した大葉璃空のコスチュームカードを硬質ケースにしまう。
パチンと磁石同士がくっついて封をされたカード入りのケースを、これまでに取り返した草薙さんの曲のカードと大葉璃玖の顔写真が並ぶサイドボードの上にそれを並べた。
「まぁ、璃玖のコスチュームがちゃんと戻ってきたしな」
「それだけじゃない。澄香の不正疑惑問題も、俺達が予想していた以上にかなり深刻なようだ。それまではメンバー同士による怨恨からの足の引っ張り合いを想定していたのが、運営ぐるみによる自演になると、とても他人事のように思えない」
ただでさえ大葉璃玖の情報が得られず解決の糸口が見えてない状態にもかかわらず、勇作Pは私の方に増えてしまった問題にも冷静に目を向けてくれた。
辛勝の末に、なんとか手に入った情報は三つ。
一つ、遊生澄香の不正は、運営によって仕組まれた自作自演。
二つ、それによって空席になったランク9の位に、着席が確定されたナガタマホの登場。
三つ、それをOGである艶井鼎の書く推薦状一枚で、極秘に済ませようとする運営の指示。
昨晩だけでこれだけの情報を一気に与えられて、まだ頭の中で混乱が続く。
だが、一番の謎であるナガタマホの正体について、心当たりがあると言っていた後の雨羅刹那のセリフを思い出す。
「キミがQ-key.333にもっとダメージを与えられたら話をしてあげるよ。そのころには、心当たりが確証になっているとおもうけどね」
雨羅刹那が【黄黙天】の名を得られるほど強かった最大の要因は、相手に沈黙を強いるコスチュームの魔力や突飛抜けた戦略に加えて、僅かな情報だけでピンと閃く鋭い直感力にある。
実際、彼女の勘によって天水晴那の正体どころか、協力者まで判明されてしまったのだ。
そんな雨羅刹那のことだ。
逆にこちらが与えてしまった情報を基に、こっそりと芋の苗を引くように、いつの間にか秘密か答えを引っこ抜いている可能性がある。
「そういえば、雨羅刹那は『ディーヴァス神姫』にいながら運営のことを快く思って無かったらしいな。抜けさせられたとはいえ、古巣への損失拡大を条件に、自分の持っている秘密を提供させるということは、【黄黙天】は最初から裏切る目論見があって合法的かつ確実で誰にも文句を言われない方法でQ-key.333から脱退するためにわざと負けたってことか?」
三つ折りにして放った新聞を一瞥した草薙さんが、一面の見出しに敗北する決定的瞬間を撮られていた【黄黙天】を見て、この勝負に臨んでいたときの真意を疑っていた。
「最初から裏切るつもりだったというのはありえないな。自発的な敗北も、ビャコや澄香の記録と矛盾する。おそらくだが、雨羅刹那にとって脱退を駆けた勝敗はどうでもよかったんだ。勝てば窓際で現状維持、負ければ無事独立。運命がどっちに転んでも得になるように、敗北した方には天水晴那というでかい保険をかけていたんだ」
その結果、雨羅刹那は天水晴那と本気で戦って【黄黙天】の名と所属する事務所を失った。
念願だったかどうかは別にしても、独立できた雨羅刹那が私たちよりも先に秘密を探るためにQ-key.333と敵対するアイドルへ転向するなら、事務所すらない野良アイドル一人で無謀な暴れ方をするほど彼女も馬鹿じゃないはず。
「彼女への心証はともかく、元ランク5がもしかしたら遊軍になってくれるのは心強いな。これで、ずっと単身で挑んでいた澄香の負荷が軽くなりそうでなによりだ」
肩の荷が少し軽くなったな、と労るように草薙さんが私の肩を叩く。
「――いや、参戦は無理だな。あいつはもう〈エンプリス〉で戦えない」
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