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『ディーヴァス神姫』の一天、墜ちる

 冤罪事件について雨羅刹那から聞き出せることは現状ない。


 刹那の抱きしめる四肢の力が緩んだ頃合いに、私は腕だけで立ちながら改めて刹那を見つめて次の質問に移った。



「最後にもう一つ答えて。――大葉璃玖(おおばりく)を知ってる?」


大葉璃玖(おおばりく)?」



 珍しく刹那がきょとんとオウム返しで答える。



「大葉璃玖って言えば、〈アクアクラウン〉のモデルアイドルだよね。彼女がどうしたの?」


「私達が知らない間に、Q-key.333に移籍していたようなの。ただ、それ以来消息がわからなくなってるの。『ディーヴァス神姫』達の間で何か知らない?」


「いいや、ボク達は何も聞いてないよ。そもそも、大葉璃玖がQ-key.333以外で、ちょっと有名なモデルアイドルだってのはキミも知ってるでしょ? そんなプチ有名人が軽々しく移籍なんて。そもそも、うちはランクを決めるって重要な通過儀礼があるし――」



 片眉をあげるほど怪訝そうに語るうちに、刹那は何かに感づいたのかはっと真顔になった。



「そっか……そういうことだったのか。キミに新しい衣装や曲を提供している支援者の正体がわかったよ……」



 一人納得した刹那が片方の手で襟に力強くしがみつきながら、もう片方の空けた手で自分のポケットを弄り、それをビャコに手渡した。



「やっぱりボクの勘はさえてるね。キミからこの衣装のデザイナーさんに、勝手に使ってごめんなさいって謝っといてくれる?」



 それは勇作Pが大葉璃玖の為に作った、あの唯一無二のコスチュームカード。


 未遂だが無断使用したブランドの衣装はまだ複数枚あったが、ピンポイントでそれだけを渡したということは、刹那には完全にばれてしまったようだ。



「なぁ、澄香。いくらオフレコとはいえ、ストレートに聞くのはやっぱりまずくなかったか?」



 ばれるのは勇作Pも覚悟の上だった。


 そもそも、ばれるのを前提でこのカードを取り戻すのも襲撃の理由だった。


 ただ、自分で勘が鋭いと褒めた故に、今の質問で全てを雨羅刹那に悟られてしまったことに、ビャコが今になってたじろぎ出す。



「オイお前! 今のこと、上に報告するんじゃねぇだろうな!」


「しないよ~。なんか嫌な予感がするし。ここは強制脱退に甘んじて、とんずらするよ」



 それだけ言って刹那は腕と脚を開き、やっと私を解放した。


 何だかんだですんなり尋問が終わり、二人揃って立ち上がった時、防音にも関わらず音が響きわたるほど扉がやけに騒がしくなっていた。



「刹那さぁん!」



 今度は別の意味で涙を流しながら、扉をなんとか一人で封じ込めている志帆が情けない声を上げて訴える。



「どうやら、今の生放送を見てマスコミが場所を割り出したみたいだね」


「正面からは帰れないってことね」



 モラルを欠いた者に鍵は無意味。


 それほど扉をこじ開ける勢いはすごく、いくら鍵をかけたからとはいえ、あれでは強引に開けられるのも時間の問題だ。



「志帆りん。もういいよ、ここはボクが緊急記者会見会場にするから、志帆りんは彼女を裏口まで送ってあげて」


「は、はいぃ~~」



 相変わらず負けて全てを失ったとは思えない語勢で指示する刹那に、即座に答えた志帆がパタパタと駆け足で私達の元へ戻る。



「どうぞこちらへ!」



 目の前でファンである雨羅刹那をアイドルにしてやれなくした張本人であるにも関わらず、志帆は手際よく私を裏口まで誘導しはじめた。


 名誉ファン第一号だからこそ、尊敬する刹那のお願いには絶対忠実らしいのか、特に蟠りなく案内されるのは複雑な気持ちだが、今回ばかりはお言葉に甘えるしかない。



「すみっぺ!」



 きびすを返して志帆を追いかけようとした時、刹那が懐かしいあだ名で呼び止める。



「感傷だけどさぁ。さっきの勝負、別の形でやりたかったくらい、すごく良い戦いだったよ」



 珍しく張り上げた声でそれだけを私に伝えると、刹那はひらりと手を降って、そのままマスコミが待ち構えているであろう扉の前に悠々と歩いていった。


 確かに感傷だ。


 でも、そんな余裕はない。


 こちらもマスコミの目に付く前に脱出を急ぐ。


 駆け足で志帆の案内に沿って会館の裏道を進んでいくと、トラックなどの搬入口だろう外の景色が広がっている場所にたどり着いた。


 まさかインタビューで足止めしている間に搬入口へ逃げられると思っていないのか、すっかり真っ暗になった会館の外には誰もいなかった。



「誰もいませんね。ここから出れば安全に脱出できます。気をつけてくださいね」



 志帆は案内どころか、こちらの身まで案じて丁寧に外の様子を見ながら私に脱出を促す。



「なぁ、こんな時に変な事を聞くんだけどさぁ。お前さん、雨羅刹那の名誉ファン第一号なんだろ? やっぱりアイドルでいられなくしたこいつのこと、憎いと思ってるか?」



 ちょうど、私が思っていた心中をビャコがありがたいことに代弁してくれた。


 そんな時、志帆は改まって私と真剣な顔で向き合った。



「憎くないかといえば百パーセント嘘じゃないです。でも、刹那さんはあなたと戦う前に私に約束をしました。万が一、自分が負けても彼女を絶対に恨んだらダメ。むしろ自分に勝てたすばらしい実力とQ-key.333に敢然と挑む勇気と誇りに思ってあげてほしい。そんな約束を守ってくれるから、刹那さんは私を見届け人という大役を担わせてくれました」



 勇気を誇りに思って。


 随分と刹那らしくない台詞だが、それは身内に近いファンだからこそ見せる顔から出た言葉なのだろう。


 やっぱりあの人は何を考えているのかわからない。



「それに、あなたと戦っていた刹那さん。すごく楽しそうでした。負けてもあんな風に振る舞っていたのは、きっと悔いのない試合だったからかもしれません。そんな刹那さんを見ていると、涙も早く乾きました!」


「あんたが名誉ファン一号の称号をもらっている理由、納得できたわ」



 その言葉を志帆への別れの挨拶代わりに告げて、私は改めてフードを頭に被ってからクロッシュYNを後にした。


 なんだか羨ましい存在だ。


 とても献身的というかファンの境界線を一歩越えられた存在とも言うべきか。


 負けようが何をしようが、ファンとして最後まで信じ抜いてくれる人がいる。


 アイドルとしての称号を失った私の時には、そんな人誰もいなかったのに。


 いや、今は違う。


 ありったけの力を与えつつ、そばにいてやれない故に歯がゆい思いをしながらも、私の帰りを待っている人がちゃんといるんだ。


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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