新しいランク9のアイドル
「キミが不正をしたという事実はでっちあげだよ。キミはQ-key.333運営の仕組まれた自作自演によって、意図的に追い出された」
私の目が思わず大きくなった。
確かに求めていた答えだったが、スケールが大きくなっていた。
最初は三三三人もいるメンバーの誰かが、私に対する何かしらの感情が爆発して、単独で仕組んでいたのだとばかり思っていたのに。
「それは真実? それともそう信じているだけ?」
「真実だよ」
刹那はもったいぶることなく無く即答した。
「根拠は?」
「キミが抜けた直後、ランク9の席に入る子がもう決定したらしい。しかも、全くのド新人だよ。そいつが、オーディションも昇格戦も経由しないで、いきなりランク9入りが確定しているっぽい」
「そんな話、公開されてないわ」
「当然だよ。だってこれ、本来は口外無用の極秘情報だもん」
もう強制脱退させられたのだから懲戒免職におびえる必要がなくなったのか、厳重の意味をもつ語句が重なる度に漏洩に対する危険度が高くなってゆく秘匿情報だろうと、開き直った刹那はお構いなしに淡々と口を走らせる。
「その極秘情報とやらを、どこで仕入れたの?」
「君もよく知ってる人物――艶井鼎からだよ」
「カナ先輩が!」
「お、おい! 艶井鼎といえば、Q-key.333を卒業した『ナインボール』の元リーダーじゃないか!」
その人の名前を忘れるはずがない。
元ランク9の艶井鼎。
故郷から旅だって右も左もわからなかった田舎者の私をチームに迎えてくれて、私に芸能界での〈エンプリス〉の戦い方、そしてアイドルにとって一番大切な笑顔の重要性と、自分や他人が笑顔になれる魔法を教えてくれた偉大な先輩だ。
「どうしてカナ先輩が……」
「どうも粟久が直々に、その子をランク9入りさせるから推薦状を書けと願いされたみたいなんだ。当の本人は、そんな話を急に古巣から持ってこられたことでかなりビックリしたみたい。それで動転のあまり、ついうっかりボク達に相談した、という流れなんだけどね」
多すぎる情報が一度に入ってきたせいで頭が痛くなってきた。
「ビックリして、ついうっかり秘密を漏らすなんてカナ先輩らしくないわ」
「原因は、冤罪とはいえキミだよ。何しろ、カナッぺに依頼が舞い込んだのはキミが不正で脱退させられた直後だ。ランク9の座とチームを託せるほど手塩にかけて可愛がった愛弟子のキミが、しょうもない不祥事で追い出されただけでも混乱の元なのに、八百長で決められた後釜の育成を頼まれるなんて、いくらカナッペでも冷静じゃあいられない」
確かに思い返せば、あの騒動はかなりの祭りになっていた。
炎上した、とも言うべきか。
あの艶井鼎が、不正によって犯罪者みたいに報道された弟子のあられもない姿を見せられて、どんな顔をして慌てていたのか、想像はしたくなかった。
卒業や不祥事、療養、家庭の事情などの脱退によって空いてしまったランクに、補充として新入りを加入させることはなんら不思議ではない。
だが、加入先であるQ-key.333は、実力主義社会そのもの。
新入りだろうと、〈エンプリス〉の実力にあった相応のランクが与えられる。
つまり、〈エンプリス〉によるオーディション戦は決して避けて通れない道なのだ。
だが肝心の行程を全部すっ飛ばして、OGからの推薦状一枚だけで全メンバーに知られせることなくランク入りを認定するなんて、確かに妙な裏を感じる。
それが、自分が抜けた直後という丁度のタイミングで、そんな密談がOGと交わされていたと聞かされれば尚更だ。
「確かに、遊生澄香を追い出したジャストタイミングで、その話が艶井鼎に舞い込んだってのが妙に引っかかるな。加入からランク確定までの手際があまりにも不自然すぎる。ただ、お前を含む『ディーヴァス神姫』の面々は、こいつが運営の自作自演で無実の罪を擦り付けられたのを、これで知ったってわけだな」
今までは直接関係者でなかった勇作Pや草薙さんの推測で、自分がメンバーによってはめられたかもしれない可能性だけを抱いて、この戦いに臨んでいた。
しかし、当の現役メンバー本人から、実はメンバーではなく運営そのものとスケールが上がったが――それが改めて真実であると聞かされたとき、もしかしたら違うかもしれないという可能性に対する一握の不満が完全にかき消された。
「でも、お前達『ディーヴァス神姫』は今や影響力がバカみたいにでかい超有名人だろ? 仲間が冤罪かけられて汚名を着せられたまま脱退させられたと思うなら、お前達で待ったをかければいいんじゃないか?」
「そうしたいのは山々なんだけど、残念ながらボク達の存在はQ-key.333内で影響力どころかほとんど価値がなくなったんだ……」
まるで他人に弱められてしまったと言わんばかりに、刹那の笑顔から明るさが消えた。
「実はボク達、運営から随分と煮え湯を飲まされてね。最近はキミを討つ案以外の企画発言なんか聞き入れてもらえないどころか、冷遇がひどくてさぁ」
ビャコが余計な横やりを入れたせいで話が脱線しかける。
私は動かしにくい腕を無理矢理動かして、刹那の胸倉を掴んだ。
「あんたの愚痴なんてどうでもいいの。それで、カナ先輩に推薦状を書かせてまで私の後釜になったアイドルってのは誰なの?」
「おー怖いねぇ。確かナガタマホって言ってたよ」
「ナガタマホ? 聞いたことないわ」
「ボクもね。ランクなしの研修生に最近入ったって聞かないし、肝心のかなっぺも、粟久プロデューサーから詳しくは教えてくれなかったらしいよ。でも、心当たりはある」
「心当たり?」
「おおっと、悪いけどそれ以上は今教える訳にはいかないよ。時が来れば――そうだね、キミがQ-key.333にもっとダメージを与えられたら話をしてあげるよ。その頃には、心当たりが確証になっていると思うけどね」
この人の胸倉は掴めても、真意だけは本当に掴み所がない。
共闘の勧誘や協力を申し出ないところを見ると、刹那も刹那でまだこちらを完全に信じているわけではないようだ。
それは人間性ではなく、実力面としての信頼を。
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