閉口してしまうほどの真実
天水晴那 AP2580 VS 雨羅刹那 AP750
ランク5【黄黙天】、雨羅刹那――撃破。
周りに観客がいないのが悔やまれるほど激しい戦い故に、決着を告げるブザーすら鳴り響かないが、演出を担っていたプリズムストリームが解けたことでこの激闘は静かに幕を閉じた。
完敗した刹那は、大の字のまま立ち上がる様子がない。
私も私で、本当に実力であの【黄黙天】を討ったのかと思うと、今までの緊張が緩んだのか、それとも勝利への興奮がどうにも冷めないのか、まるで夢の中にでもいるようなフワフワとした感覚が頭の中で靄となって膝を崩させる。
「やった! やったな、晴那! いきなりランク5を撃破だ!」
まるでマラソンを完走しきったかのような疲労が押し寄せて肩で息をする私に、マイク形態からいつものマスコット形態に戻ったビャコが足下で祝う。
路頭に迷っていた元ランク9が、今まで勝ったことがない相手に、しかも最強アイドルグループの中で五番目に強い奴を討った。
この快挙は、ビャコにとっても大きな一歩のようで、まるで私の心を映しているかのように、ビャコの喜びようもいつもより騒がしくなっている。
勝者を祝いながら敗者を煽る勝利のバブリーダンスを舞っているビャコを私は強引に捕まえ、ぎゅっと少しだけ強く抱きしめた。
「ありがとう、あんたのおかげで勝てたわ」
「お、おう……おやすいご用だ」
ストレートにお礼を言われてきたことに戸惑っているのか、抱きしめられたビャコは急に大人しくなった。
勝利の余韻はここまで。
改めて大きく深呼吸をして、ビャコを肩に乗せて私は立ち上がり、未だに仰向けで天井を仰ぐ刹那の元に歩み寄った。
「いやぁ~、『ディーヴァス神姫』以外の子に負けたの久しぶりだなぁ。ボクも潮時だったのかなぁ、それともボクらが気づかない間に周りのレベルが上がったからなのかなぁ」
公で他事務所のアイドルに負けてしまえば即強制脱退。
しかも、ランク5なんて並大抵の努力ではなれない強者の証。
そんな勲章が全て砂上の楼閣になってしまったというのに、雨羅刹那はいつも通りであった。
「でも、負けたってなるとちょっぴり悲しいなぁ。ちょっとショックで立てなくなったから手を貸しておくれよぉ」
覗いた顔は相変わらずだが、その顔の裏では失った物に思うところがあったのか、そう訴えながらこちらに腕を伸ばして手を差し向けた。
刹那の手を握り、強引に立たせようと引っ張りかける。
ところが、ぐっと力を入れる間もなく逆に刹那に引っ張られ、バランスを崩した私はそのまま刹那の上に覆い被さる形で倒れた。
反射的にすぐに起きようとしたが、刹那はそのまま自分の両腕と両脚を身体に絡ませ、文字通り羽交い締めにして私に絡まった。
この期に及んで悪足掻きかと、私はなんとか逃れようともがく。
そんな時、刹那が耳元で囁き始めた。
「いやぁ、まさか抜けてからここまで強くなっているなんて思わなかったよ。
天水晴那、いや元ランク9の遊生澄香」
雨羅刹那の口から自分の本名が耳朶に触れた途端、私は凍り付いて刹那の顔をみる。
鼻先同士がくっつきあう寸前まで近くなったまま見る刹那の顔は、相変わらず何を考えているかわからないようで、何かを悟ったような澄んだ目をしている。
「やっぱりバレてたか……」
「いつから気づいていたの?」
「んー、キミのトゥルーワードミュージック? それを体感してからかなぁ。自分は罪を擦り付けられただけでホントは無罪だなんて、訴えを起こす奴なんてボクの周りではキミぐらいしか心当たりがないしね」
トゥルーワードミュージックが起点と言った瞬間に、私はとっさにビャコを睨む。
ビャコは丸く開いた目を無理矢理潤まして許しをこう。
迂闊だった。
カードを生成するための原料が、自分の思いや伝えたいこととは説明を受けていたが、その思いが対戦者どころか、あの演出を体感した者にも伝わってしまうなんて。
「まぁ、それ以前になんか見たことがある顔だなぁって既視感もあったよ。髪型や色どろこか顔つきまで随分と別人になったもんだから、確信が持てるまで時間がかかったけどね」
「ほ、ほら! こいつもそう言ってるわけだから全員に伝わったわけじゃないぞ! こいつの勘が人並み鋭かっただけだぞ! 伊達にランク5やってたわけじゃないんだから!」
せっかくフォローを入れてくれた刹那を褒めながらも自然に貶すビャコに、私も刹那ももはや渋々感心するしかなかった。
「録音とかの心配はしなくてもいいよ。志帆りんには、どちらかが負けたタイミングで配信を切るようにちゃんと伝えてあるから」
ちらりと横を見ると、確かに撮影者であった志帆の隣にたっていたはずの三脚やカメラはすでに片づけられていた。
その代わり、あれだけ健気に撮影に挑んでいた志帆が、刹那の敗北によって膝を崩して泣いているが。
相手が用意してくれたからとはいえ、これで私が望む尋問の状況になったわけだ。
「あんたに聞きたいことがいくつかある」
「何かなぁ? 遊生澄香ちゃん。いや、今は天水晴那って呼ぶ方がいいかな?」
「好きにして。そのかわり、質問だけにはちゃんと答えて」
「むー。なんか、しばらく見ないうちに随分と可愛げもなくなったね。卒業しちゃった大好きな先輩から笑顔になる魔法を教えてもらって、それを後輩達やアーシャに上手にかけられるようになったんじゃあなかったの?」
「悪いけど、Q-key.333にいたときみたいに悠長なアイドル活動をしている暇はないの」
「まぁ、今のキミを見ているとそうなるのも当然か。――だったら、先に欲しがってそうな答えを先に言っておこうかな」
負けた腹いせなのか今まで煽るように話を進めてきた刹那が、ここにきて間髪を入れずに続きを口にする。
「遊生澄香が不正をしたという事実はでっちあげだよ。キミはQ-key.333運営の仕組まれた自作自演によって、意図的に追い出されたんだ」
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