破壊の執行服〈メイガナードワンピ〉
その一方、感情がないだけ羨ましいほど静かに握られている刹那のマイク型スキャナーが、稲妻を帯びながら画面を青白く光らせる。
「そしてボクのスキル〈雷轟沈鳴〉を発動! 手札を全部捨てることで、〈トニトルス〉ブランドのコスチュームカードを一枚手札に加える!」
バチバチと弾ける音を立てながら刹那の左腕に電撃が巻きつく。
その電流は、刹那の手に握られた二枚のカードを瞬く間に灰にする。
やがて空になった手を刹那が改めて広げると、腕に巻き付いた電撃が生き物のように手の上に集まり、一枚のカードへと形を変えてゆく。
「もうフルコーデなのに、さらにコスチュームカードを手札に持ってくる。この流れは……」
前哨戦から嫌と言うほど味あわされたビャコも、この次に刹那がなにを仕掛けてくるのか理解できたようだ。
「ボクは〈ラヴァーナトップス〉と〈マドゥラースカート〉を脱衣!」
防御と制圧の二つを兼ね備えた二着が、あっさりと退場する。
しかし、その消え方は先ほどのような塵になる生易しいものではなく、スキルで消したカードの様に走る雷電で灰にする無慈悲なもの。
「曇天を裂き雷鳴を轟かせ! 〈トニトルス メイガナードワンピ〉!」
下地の衣装を生け贄に食らった紫電がそれを糧にしたのか、刹那の裸体に電撃の衣となって多い被さり、望みの形になったとき閃光を放って電流は一着のワンピースに変わっていた。
ベースカラーはもちろん黄色。
相変わらず本人の趣味なのかワンピースと言うよりも、ギリギリ水着というか古代の民族衣装を思わせる布面積の少ないデザイン。
背面に延びるやけにでかい深緑色のスカーフが紫電と共にバチバチと電気を弾けさせながらはためいているが、それはスカーフというよりも一対の雷の翼を思わせる。
「コーデされた〈メイガナードワンピ〉の効果!」
派手なコーデ演出を得た割にはあっさりとしている刹那が淡々と効果処理に入る。
再び空になった手を掲げると、ワンピースから発せられた電流が再び集まり、一本の大剣となる。
「そ、その剣というのはあまりに大きすぎる鉄塊でなにをする気ですか!」
「〈メイガナードワンピ〉はコーデされたとき、相手のコスチューム一着をランドリーに送る。この剣はそういう効果の演出に使うんだよ」
見た目は物騒な剣だが、プリズムストリームによる立体映像で重みはないらしく、刹那の細い腕でも軽々と振り回される。
華奢な体躯と不釣り合いなほど大差がある大剣を小さい肩に乗せる様は似合っているというか、ブロマイドで飽きるほどみてきた定番の格好だ。
「これはアイドル同士のお淑やかなバトルだろ! なんで大きく分厚く重くそして大ざっぱすぎた獲物をぶん回す必要があんだよ!」
「これで断罪するとファンが盛り上がるんだ。――こんな風にねッ」
言下に刹那が踏み込み、一呼吸も置かずに肉薄される。
刹那との距離が人一人分まで近くなったかと思えば、刹那はそのまま跳躍し、落下と同時に大剣を振りかぶって斬りかかった。
「ライトニング・ジット!」
刀身に紫電を帯びている以外に他に凝った演出もない、シンプルな空竹割。
それを避ける間もなく、私は脳天からそれを受ける。
「ぐわーッ! 晴那入刀ッ!」
「人をケーキみたいに言わないで」
幸い肝心の大剣は実体がないため私の体が真っ二つになることはなく、ただ頭頂部から通り抜けるだけ。
だが、同じ映像による素材でできた〈ヴァルナーガワンピ〉は、演出に沿って無惨にも真っ二つにされてしまった。
「いやー、〈メイガナードワンピ〉を身内以外の前で着たのずいぶんと久しぶりだよぉ。ボクはこれでターンチェンジだよ」
本気モードに切り替わったとはいえ、謎の覚醒もしなければ狂った本性もさらけ出さず、ただいつも通り本心が読めない飄々としたまま。
いや、偽物でもあの得物を握った感覚に何かを感じていたのか、心なしか浮かべている笑みが、余裕というよりも満足しているようだった。
Q-key.333を離れて初めて感じる『ディーヴァス神姫』の一天が放つ強大な存在感。
それは、過去に同じメンバーだったが故に何度も対戦していた頃とは比べものにならないほどのプレッシャーが、首根を掴むように纏わり付く。
戦略も切り札も全て知っているはずなのに、まるで初めて対面しているかのような不安と緊張が心臓の鼓動を早める。
先ほどの前哨戦といったコンボは、遊生澄香だった時には、何度も突破してきた。
しかし、ここから先は手も足も出せず何度も負けてきた。
現役時代からの越えられない壁を、無理矢理にでも越えなければいけない。
これは昇格戦やオーディションみたいに「負けても大丈夫」な状況じゃあない。
絶対に勝たないと、もう前に進めない。
「おい! おい、晴那! お前手汗やばいぞ」
頭の中で悶々としている最中にビャコが茶化すように声をかけられて、私は我に返った。
ビャコに言われてマイク型スキャナーを握る手に意識を向けると、グリップを握る掌が異様なほど湿っていた。
「もしかしてビビってるのか?」
「だいぶね」
「否定しないんだな」
今の心境を素直に答えると、ビャコは盤上状況を写す円形モニターの画面を勝手に自身の顔に切り替え、露骨にため息をついて続けた。
「怖がる必要はないぞ。お前には草薙や勇作、そして俺がついてるんだ!」
「応援どうも」
「応援じゃねぇ、事実だよ! お前の為に誠心誠意を込めて作った草薙の曲や勇作のコスチュームが、あんな小娘に負けるわけがねぇ!」
「どうしたのよ、あんた。いつになく勝ち気じゃない?」
「んふふ~わかる?」
憎たらしくにやけた顔で得意げに語ると、円形モニターがビャコの顔から再び盤面状況を写す画面に戻る。
「実はさ、なんかあいつに弱点とかないかなぁと思ってこっそり分析させてもらったんだ」
画面の中で雨羅刹那のランドリーのゾーンに注目させるように、ビャコが赤く点滅させる。
相手のカードのうち非公開情報として対戦中に閲覧を許されないのは手札とデッキの中身。
それに対して両プレイヤーに等しく情報の公開を許されている場所は、着者であるプレイヤーがたつステージと、もう一つがランドリー。
本来はプレイヤー本人が指を使って操作するのだが、ビャコは親切にも自動でランドリーの中におかれた一着のコスチュームをピックアップして私に見せた。
「――! これって、そういうことなの?」
「解釈違いもクソもない。思った以上に単純。マジでそういうことだ!」
「……。分析に期待してないって言って悪かったわ」
「あぁんだって?」
わざとらしく難聴を装って調子に乗るビャコに会心のチョップを食らわせる。
死んでも口に出したくないが、流石は白波勇作を伝説のアイドルまで共にしてきた優秀なマスコット。
今ので希望の光が見えてきた。
「ねぇねぇ。ボク、ターン変わったよ」
「わかってる!」
天水晴那 AP750 雨羅刹那 AP2600
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