沈黙の始まり
天水晴那 AP2180 VS 雨羅刹那 AP2310
「なにを考えているのか知んないけど、ボクからコスチュームを脱がせることはできないよ」
『〈クリムゾンガイキスカート〉のフルコーデ効果により、このスカートを着ている限りこちらのコスチュームは全て相手の効果でランドリーに送られません』
忠告を入れる【黄黙天】に合いの手を入れるように、優秀なAIマスコットから改めてコスチュームの効果と状況を説明される。
「と言うておりますぜ、晴那さん」
「……」
「ボクのターン!」
切り替わるターン。
「――今だ!」
ドローフェイズを迎えた刹那がデッキからカードを1枚引き終えた瞬間、ビャコが合図する。
「アクシデント発生! 〈獅子身中の虫〉!」
「――なッ!」
タイミングはメインフェイズ開始直後。
刹那が再び衣装を入れ替える寸前で、私は伏せていたアクシデントを起こした。
「さっきのお返しだよ~ん!」
「〈獅子身中の虫〉は、相手が着ているコスチュームの下にアンダーとして下に重ねられたコスチューム――つまり、あんたの衣装に付けられた〈シェルベッコ・チャーム・トークン〉に、衣装ごとランドリーに送られる効果を発動させる!」
「無駄だよ。ボクのコスチュームは効果でランドリーに送られない。さっき言ったじゃないか」
「相手からの効果ではなぁ~」
「へ?」
私に代わってアシストマスコットらしく説明するかと思ったら、意地悪く煽るビャコ。
それに【黄黙天】はすっとんきょうな声を上げる。
「俺様がわかりやすく説明しなおしてやるよ。〈獅子身中の虫〉の効果はな、お前のコスチュームにつけられた〈シェルベッコ・チャーム・トークン〉に、『このカードをアンダーとしてつけられたコスチュームはランドリーに送られる』効果をつけられるってこと!」
「〈シェルベッコ・チャーム・トークン〉は、あんたにつけられた時点であんたのコスチューム。つまり、相手からの効果では脱がされなくても、自分自身の効果でなら――」
関係ない。
そう言い切った時、鼈甲のチャームが発動するアクシデント効果に呼応し、つけられたトップスとボトムスが細かい布端材となって粉砕した。
下地となる上下の衣装が消えたことで、着る度にこちらの準備したカードを除去してパワーを上げる〈アイファンロードワンピ〉を出すことができず、逆に交換される度にこちらのAPをダウンさせる鉄壁の衣装もなくなった。
「いえーい! 一苦労あったがランク5のエースコスチュームが退場したぜ!」
動けないマイク形態になっても踊り出しそうなほど陽気な声をあげて、私の手の中で勝手に騒ぎ始めるビャコ。
だが、プレイヤーよりも感情をもった機器の方が確信した勝利に余裕を出し始めている最中、一気に劣性に追い込まれているはずの刹那から、すごくゆっくりだが賞賛の意が込められた拍手が送られた。
「さすがは天水晴那。登坂しおりを負かしたのも、本当にマグレじゃなかったみたいだね」
「なんだ? 要のコンボが崩れたってのに、ずいぶんと余裕だな?」
「――まだ終わってないからよ」
調子にのるビャコを醒ますつもりで、私は冷淡に答えて改めて構えをとる。
「終わってないって、マジかよ……」
「今までのは前哨戦。あいつの本番はこれからよ」
「――キミはボクについて、ずいぶんと詳しいようだねぇ」
経験者として初見のビャコに警戒を促す私達の声を聞いていたのか、【黄黙天】がこちらの会話に割り込んできた。
「有名人でしょ、実際に」
「有名人ねぇ。ここのところ仕事どころか殿堂入りのせいでまともに露出すらできてないのに」
今のは卑下なのか皮肉なのか、売れっ子ランク5の口から、嘲笑と共に妙な言葉が聞こえた。
「あいつ今なんて言った?」
その台詞はビャコの耳にも入ったのか代理で聞き返そうとするも、答える間もなく【黄黙天】が手札の一枚を動かした。
「それじゃあ、研究熱心なキミにサービスだ。特別にボクの二つ名がなんで【黄黙天】と呼ばれているか、これからじっくり教えてあげよう」
壮絶な序章が終わり、これより本気の【黄黙天】雨羅刹那との戦いとなる。
「ボクは〈トニトルス マドゥラースカート〉をコーデ!」
鮮血色のスカートに次いで新たに出現したのは、紫色のショートパンツを、オレンジ色の細いラインが入った薄黄色の布地で囲ったカバースカートだ。
「このカードはコーデされた時、相手から受ける効果を無効にするプラズマカウンターを、ステージ上のトニトルスブランドの数だけ出すことができる」
フワリとカバースカートがはためき、刹那の腰回りにバチバチと音を立てて青白い光球が衛生のごとく漂い始めた。
現在の刹那の場には、今出したスカートとシューズを含めて二つ。
よって、相手の効果から身を守るプラズマは二つ発生する。
「さらにミュージックカード〈アーチボルトの憂鬱〉を発動!」
次いで出したのは、雨羅刹那の持ち歌であるソロ曲のCDジャケットが描かれたミュージックカードだ。
『手札のトニトルスブランドのカードを捨てることで、デッキから別のトニトルスブランドのコスチュームを追加コーデさせます』
「ボクは手札の〈アイファンロードワンピ〉を捨てて、デッキから〈ラヴァーナトップス〉を追加コーデする!」
わざわざこちらに見せるように掲げた手札の〈アイファンロードワンピ〉が、刹那の手の中で塵となって退場する。
それと入れ替わるように、刹那の上半身に新たな衣装が纏われる。
「なんだ? 名前が違うのに同じデザインの衣装が出てきたぞ?」
相変わらず妙なところに目がいくビャコ。
だが、さっきの肌面積が少な目だった路線とは変わって正当なアイドル衣装らしいデザインのコスチュームではあるが、それは紫色の下地の上にオレンジ色のラインが走る薄黄色のトップスという、下半身のスカートと同じデザインをしていた。
「このコスチュームがコーデされたとき、相手プレイヤーの沈黙レベルを1つあげる」
両プレイヤーの状況を俯瞰で見せるスキャナーの画面に、沈黙レベル1という文字が私の方に記される。
「沈黙レベル?」
表示された文字とレベルを見るたびに、顔に出てしまうほど嫌な記憶がよみがえる。
「この沈黙レベルはね、レベルが高ければ高くなるほど、相手は発動できるカードの種類が減らされるの。キミの沈黙レベルは1。よって、キミはまずアクシデントカードを発動することができなくなる!」
「できなくなるって……そんなんありかよ! つーことはレベルが3まであがったら全部のカードが仕えないってことじゃないか!」
徐々に相手の口を黙らせ、無理矢理にでも静かにさせて葬る。
それが雨羅刹那に与えられた二つ名、【黄黙天】の由来。
初めて【黄黙天】の本物のエースをお目にかかったビャコが騒ぐのももっとも。
私がどうしても勝てなかった最大の要因は、この沈黙という効果に為す術がなかったからだ。
「だいたい沈黙レベルなんて本来のルールにないことを無理矢理追加させて、その上カード効果を封じるなんて反則だろ! オーマイガー! インチキ効果もいい加減にしろよ!」
よっぽど効果に不満があるのか、本来は邪魔な観客がいなくてがらんどうになっているはずのホールに、スキャナーから喧しいヤジが無駄に響き渡る。
「ねぇ、先にこいつの口を黙らせて貰っていい?」
「んー無理かなぁ」
ビャコの騒がしさは【黄黙天】をもってしてもお手上げレベルらしい。
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