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【黄黙天】の鋭い勘と奇抜なブランド〈トニトルス〉

 天水晴那 AP1100 VS 雨羅刹那 AP2250



「ボクのターン、ドロー!」



 刹那に二度目のターンが訪れ、開始のドローフェイズを迎える。


 ドローしても依然少ない手札を一瞥し、そのままステージ上のカード達に目を向けた。



「こちらのAPに気圧されず、低レアのAPで場を低いまま揃えてくるなんて……。うーん」



 状況は相手の方が断然有利だが、刹那はいつものように余裕めいた笑みを浮かべ続けるかと思いきや、逆に悩んでいるような難しい表情で独り言をつぶやく。



「ま! こっちが優勢のままだから、難しく考えなくていいかな」



 独り解決できたようで、いつもの捕らえ所のない顔に戻り、改めて手札の一枚を掴む。



「ボクは〈クリムゾンガイキ〉のトップスとスカートを脱衣!」


「ええ! せっかく三着も揃えたカードを脱いじゃうの!」



 ビャコが驚くのもつかの間、刹那の体にまとわれていた二着の真っ赤なコスチュームが、あっという間に光の粒子になって消えた。



「さぁ、ごらんあれ! 〈トニトルス アイファンロードワンピ〉!」



 一瞬の裸体になる刹那を包む様に、虹色の光がマントの用に覆い被される。


 スキャナーの映写が完了すると光が弾け、推参した衣装が姿を現す。


 その登場する様は開花というよりも鷹揚。


 刹那が新しく呼んだ衣装は、鋼鉄色の尾羽を広げたクジャクを思わせる。



「なんだ? さっきまでのセクシー路線から、一気にオールドチャイナっぽい衣装になったな」


「オールドチャイナ?」


「西遊記とか封神演技とかに出そうなの」



 今まで単に「似合ってる」とか「可愛い」とか、「そんでもって戦ってみるとアホみたいに強い」とかばかり思って見ていたが、こうして言われてみると〈トニトルス〉のデザインコンセプトに発見があった。


 だからって別にゲームへの影響が変わるわけじゃないが。



「〈アイファンロードワンピ〉は、自分が着ている〈トニトルス〉ブランドのコスチュームを二着脱衣することで追加コーデできる!」


「だからって、呼び出したのがAP1230なんて平均的なワンピの数値だぞ。割にあわねぇよ!」



 確かに単純な計算だけで見たら、手間暇を駆けて合計AP1450だった二着をコストに、たったAP1230を出すのは旗から見れば利点がない呼び出し方だ。


 ただ、【黄黙天】がそうする事情があり、逆に今のところそれを知らないのは、この場ではビャコだけだが。



「ふーん、君たちって不思議な関係だね。アイドルの方はなんでもお見通しって顔をしているのに、肝心のマスコット君は初見さんみたいなリアクションを取るなんて」



 何でもお見通しと言われた瞬間、私は嫌な汗が顔に浮かんだ。



「形にとらわれないスタイルがオレ達なのさ」


「正直、私もこいつの分析能力だけはあてにしてない」


「マスコットにだって適材適所があるんだ!」


「得意と不得意が両立してるのってアシストマスコットとしては、かなり致命的じゃない?」



 ばれたかと思ったが、咄嗟にビャコが口を挟んだことで、刹那の注目はマスコットとしてはだいぶダメな方のビャコにずれてくれた。



「じゃあ、モフモフ毛皮とおもしろくないジョークが取り柄のマスコット君のために、ちゃんと教えてあげようかな」



 ワンピースの裾をつかみ上げ、【黄黙天】が改めてビャコのために、そのコスチューム効果の説明を始めようとしたとき、鈍い色の風が背後から首筋、そして頬をなでた。



「〈アイファンロードワンピ〉が場に出るとね、お互いのステージに伏せられたカードは全てランドリーに送られるんだよ」



 その言葉を最後に、裾を放した直後、入れ替わるようにクジャク模様の装飾達が立ち上がり、かき集める用に刹那の周りを囲う。


 鉛よりも曇色な風も本来は立体映像による演出のはずだが、目を閉じてしまうほどの激しい気流は本物だ。



「一掃効果でこちらの妨害を除去するつもりだろけど、お前の伏せカードも道連れだぞ!」


「まぁ待ちなよ。まだボクは効果があるって言っただけで完全に発動させるとは言ってないよ。物事にはね、順番があるんだから」



 溜めている必殺技みたいに掌に風の玉を作り出しながら、刹那はスキャナーを握っているもう片方の腕を振り下ろして、伏せているカードに起きあがるよう命じた。



「アクシデントカード〈穀砕の銀米〉発動。自分が着ている〈トニトルス〉ブランドの数だけデッキからカードをドローできる!」


「なにッ!」


「ここで手札増強!?」



 手が塞がっている刹那の代わりに、賢いスキャナーは自動でデッキから二枚のカードを排出し、それを刹那の手札へと送った。



「自分の着ているコスチュームの数に応じてドローができる効果だったら、あのワンピースを出す前の三着揃った状態で発動すれば一枚多く引けるのに、なんでだ?」



 たった一枚、されど一枚。


 カードゲームにおける一枚のドローは下手をすれば状況を逆転させる可能性を秘めた利点中の利点。


 ビャコの目には、そんなチャンスを減らしてまで、強引に発動させる刹那の戦術が明らかに悪手に見えていた。



「それは君のパートナーの方が、よーくわかってることじゃないかな?」


「え? 晴那の方に」



 そう、やはり読まれていた。


 こうしている間にも徐々に風力が増している中、どのみち発動を余儀なくされた私も続いて伏せたカードをあける。



「……アクシデント発生〈均衡の謝肉祭〉」


「あー! そういうことか! そのカードは相手がドローフェイズ以外でデッキからカードをドローした場合、その引いた枚数と同じ数だけドローできる返しの手札増強!」



 今になってビャコが気付いたとおり。


 あれほど手札を消費していた【黄黙天】の次なる行動を手札増強だと踏んで、それを逆手に取ろうとしたところは計画通りだった。


 しかし、まさか【黄黙天】にそれを読まれて一掃されかかったあげく、中途半端な使われ方をされてしまったのは痛手だった。


 仕方なしにこちらもデッキから二枚のカードを引く。


 お互いに割り込んで使えるカードがなくなったところで、ニヤリとはにかんだ【黄黙天】が手の中に集めた風の塊をボールのごとく放り投げた。



「〈アイファンロードワンピ〉の効果発動。お互いの場にあるミュージック・アクシデントカードゾーンにあるカードをすべてランドリーに送る!」



 投げられた風の塊が私と刹那の丁度中間地点の位置で落ちると、それまでバスケのボールほどのサイズがあったそれが、無理矢理膨らまされたシャボン玉のごとく表面を震わせながら膨張し、狭いホールの中で竜巻を起こしながら弾けた。



「バッショー・タイフーン!」



 体全体で浴びる乱流の勢いはもはや警報レベル。


 あまりの強風に立続けるのが困難になるほど。


 プレイヤー自身の方がすさまじい風圧に押されそうになる中、本来の対象であるアクシデントカードは、野晒しにされた看板のごとく風に飛ばされ、天井スレスレのところで粉砕する代わりに粒子となって消えた。



「そして、この効果によってランドリーに送られたカードの枚数だけ、ボク自身のAPを一枚につき150ポイントアップする」



 効果を使用した張本人だからなのか、あれほどの強風に晒されながらも、刹那自身は何ともないと言わんばかりに、涼しい顔で追加の効果を告げていた。


 数秒の嵐が一瞬で止んだ後、雨羅刹那の姿は乱れているどころか、むしろ少しばかり艶やかになっていた。



「アドバンテージの減少に成功どころか、バンプアップに転じるとは。こちらの手や読みは全てお見通しかよ!」


「そうみたいね」



【黄黙天】の二つ名を持つランク5の階級は伊達ではなく、こちらの二枚も三枚も上手なのは認めざるを得ないだろう。



「予想通りとはいえ、やっぱり手札増強かぁ~。次のドローを入れると七枚……。こりゃあ、安易なスタンバイはしない方がいいかもねぇ。ボクはこれでチェンジだよ」



 天水晴那 AP1100 VS 雨羅刹那 AP2310


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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