某大手サイトに投稿された、一つの動画の中には……
大手動画投稿サイト――YOUPIPE
誰もが気軽に記録した映像記録を、インターネットという水流に流すことで、全世界に記録を共有させる新しい情報の成る派川。
ある者は新たに流通された商品の評論をのべ、ある者は自ら培ったノウハウを教授させ、またある者はくだらない寸劇に心血を注ぎ、その中には自らの評判と再生数を秤に掛けた世間体との綱渡りをする過激な配信を行うものもいる。
開ききった蛇口から勢いよく流れ出る激流の如く常に新しい動画が投稿され、一秒前に開始された生配信映像ですら、土砂の如く積み重ねられる他の動画の群によって埋もれられてゆく。
そんな満ちた盆のように情報が溢れるサイトの中で、着実に再生数と傍観者を増やしつつある――所謂ホットな動画があった。
題名は――「【速報】話題の大手アイドルグループの派生メンバー、無名のアイドルに喧嘩を売られる」
ゴシップ雑誌の変に気になる煽りのような長ったらしいタイトルだが、その現在も生中継で世界にオンエアされている個人撮影の番組は、事故現場を覗く野次馬を集めるが如く、顔も知らない視聴者を集めつつあった。
実際にクリックして、その動画を覗いてみる。
撮影場所は、どこか繁華街の地下で営まれているであろうこぢんまりとしたライブハウス。
ハコという俗名通り、狭苦しい立方体めいたほの暗い空間だが、カメラというレンズを通してみると撮影者の腕なのか異様に広く感じた。
肝心の狭いステージの上には四人の少女が集っていた。
いや、あれは対峙しているというべきかもしれない立ち位置だった。
その証拠となるのがそれぞれの着ている服のデザイン。
四人のうち三人が正統派アイドルを思わせるパステルカラーで統一された衣装に対して、取り囲うように対峙している一人はゴシックファッションを身にまとい、いかにも人の手で染めたであろう藍色のボブカットが人一倍目立っていた。
どの子も見目は良い。
それもそのはず。
特に同じ衣装を身にまとっている三人組は、あのQ-Key.333という世界的に有名なグループに所属している本物のアイドルなのだから。
アイドルである証拠として、彼女達の手にはDの字の形をしたマイク型の小型仮想物体投影装置――通称スキャナーが握られている。
ついでに、ゴシックスタイルの藍色少女の手にも同じものがある。
彼女もアイドルという職に就いている者のようだが、その知名度は皆無。
動画のタイトル通りなら、無名のアイドルとは彼女のことだ。
観客もいない仄暗いライブハウスの中で、三人は近日行われるライブのリハーサルの為にここへきていたのだろう。
しかし、その割には運動性を重視した練習着ではなく、いかにも本番で着るべきだろう派手な衣装を身に纏っているのはなぜか。
その正体は仮想映像。
手に握られたスキャナーにカードの画像を読みとらせ、映写された立体映像であった。
「〈ヴァルナーガスプリングスカート〉のコスチューム効果!」
孤立していた空色髪の少女が、使役する生き物に命じるかのように声を放った。
同時に狙いを定めるかのように、ピンと伸ばした指を目の前で立ち塞がる少女達のうち一人に差し向けた。
「くっ! うあああああああああああああ!」
その声に何かが応じたのか、標的にされた一人に見えない一撃が直撃したのだろう、見た目派手で高価そうな服を無惨にも剥がされながら舞台から弾き飛ばされた。
仮想映像の産物なのに本物の衣装の如く糸屑や布片をまき散らしながら、宙に投げ出された少女が生まれたままの姿へとひん剥かれる。
やがて防音材が敷かれた黒い床の上へと落ちた頃には、肌色一色という有様となり、そのままカメラを通じて全国にその有様を放映される羽目に。
「なっ!」
「そんなっ!」
舞台から文字通り脱落された仲間の散り際に、残った二人の少女達が冷や汗と共に目を丸くする。
「そして! 〈ヴァルナーガトップス〉のコスチューム効果も続けて発動!」
間髪を入れず、藤色髪の少女が天井を指すように掲げた指先をパチンとならした途端、乾いた指の破裂音がホール中に木霊する。
「な、なんなの!? こ、これは!?」
その反響を皮切りに、生き残っている二人のうち片方が、突然見えない縄に縛られたかのように体が硬直され、そのまま床の上に倒れ込んでしまった。
火が出ようが雷が出ようが、全てマイクに搭載された映写機が、演出として大げさに表現する仮装映像。
そのはずだが、カードに描かれた魔法の衣装達は、まるで着者の意志に忠実に従うようなエフェクトを放つと共に、持ち主が狙った標的に向かって物理的な影響を与える。
一人ならず二人も己の隣で倒されるという光景を見せられたQ-Key.333側のアイドル。
たった一人だけの生存という苦境に立たされたその娘は、今まで真剣に対峙していた面もちはどこへいえたのか、あっという間に追い込まれた者特有の歪んだ顔へと代わってゆく。
「あんたは一体、何者なの!?」
裏返り掛けた声で生き残りが問い質したとき、その様子を一部始終とっていたカメラが、藍色髪の少女の顔に被写体を変えて焦点を一気に接近させる。
「Q-Key.333。あなた達をこの世の舞台に上がることは私が決して許さない」
せっかくのセリフをいっても急なズームのせいで一瞬だけピントがぼやけてしまったが、内部に搭載された賢い認識装置があっというまにぼかしを解いて改めて藍色髪の少女の顔を捉える。
「私の名は――天水晴那」
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