天水晴那への果たし状
「どうした?」
「Q-key.333の公式チャンネルから新しい動画! 練習風景だってよ!」
噂をすればなんとやら。
あれほど自粛や中止とSNSで顰蹙と引き替えに結構した中で新しいイベントの準備を進めているとは。
なぜこのタイミングでと全員が疑問を浮かべながら、頬を寄せ会ってタブレットに注目する。
見慣れた動画サイトのページには、ビャコの言うとおりタイトルには日付と
「新衣装をフライングお披露目! ファッションランウェイ練習風景」
とある動画が新着のラベルを貼られて掲載されていた。
その新着動画をビャコが肉球でタップすると、オープニング用の短い簡易アニメーションが冒頭を飾る。
「はい、みなさんこんにちは! 『ココ・ナタデー』の久陽ケイトです!」
初っぱなから画面に映っていたのは、元メンバーなのだから当然知っているアイドルの一人。
飾り気がなく艶やかな黒い髪のロングに派手な化粧もせずとも映えた顔立ち。
簡単にいうなら清楚。
だが、独特なキャラ立ちはなく、それ以外のステータスは普通のアイドル並み。
「久陽ケイト。ランク216の……」
「『ココ・ナタデー』? 最近露出が多い派生チームのリーダーだな」
私達がいたQ-key.333も三三三人所属しているという立派なチームではあるが、運営の観点や売り方、ファン層に併せて、最上位の『ディーヴァス神姫』の7人を除いたメンバーは、ランクがバラバラで数名のユニットを組むことが多い。
もちろん、所属していた私もちゃんとチームがあって、仲間がいて、何よりもランク9に恥じぬよう、たくさんの仕事をとってきた。
「露出の多さの割には、〈エンプリス〉のオーディション戦に出現しているのを見たことないし、戦績が良いって話は聞かないけどな」
顎に手を乗せてビャコが、珍しく久陽ケイトについて疑問を口にした。
確かに、久陽ケイトたち『ココ・ナタデー』の活躍が割と多くなった話は、脱退前から聞いていた。
だが、抜けた後で無関係な側からも疑問に思われていたなんて以外だった。
「今回はですね、近日に公開するファンションランウェイに向けて、実際に着る新衣装を着ながら練習していこうと思いま~す」
他メンバーの活動が止まっている最中にイベントの練習をしている割には、随分とあざとい前振りをする。
「こいつのあざとさ鼻につくな。また後で記念にアンチコメ書いとこ。あと剥ぎコラ画像サイトのURL貼っとこ」
「あれ、あんただったんだ」
まだ何も始まってないのに私情で荒らし行為をするビャコの件は一端置いて。
それからはカメラの外でストレッチや降りの確認をしているであろうメンバーに不意打ちで撮影しながら、ほぼ素がでている『ココ・ナタデー』の面々を一人一人写しつつ、軽いメンバー紹介が始まる。
フライングお披露目とあるが、この時点ではまだ五人全員が動きやすいレッスン着のまま。
だが、いざレッスン開始になった途端、勇作Pの目の色が変わった。
「――!?」
メンバーの一人が、ある衣装を着ながら歩いている風景が映し出された場面で、勇作Pがタブレットに手を添えて顔を近づけた。
「このコスチュームはッ!」
驚愕から義憤へ。
今までずっと無表情だった勇作Pが、今までに見せなかった怒りを見せる。
「どうした勇作……あれまっ!」
「あいつら、また!」
肩の上から画面を見るビャコに続いて同じく画面にかじり付く草薙さんが、それぞれに浮かんだ不快の感情を吐露する。
「どうしたの、プロデューサー」
「俺の時と同じだ」
忌々しく画面を凝視する勇作Pとは反対に、もう目も向けられないと言わんばかりに草薙さんが額に手を当てながら画面から離れる。
「まさか、このランウェイで使われる新しい衣装ってプロデューサーの?」
「まったく彼奴等は骨の髄までしゃぶるのがうまい連中だよ」
草薙さんの件も含めて二度も死体蹴りのごとく侮辱される有様に、さすがのビャコもおどけてはいるが、噛みしめる歯の音が聞こえるほど腹に据えかねていた。
「ところで勇作Pさんよ。ちょっとまずいんじゃないの?」
「何がだ?」
警告を含んで声をかけるビャコに、勇作Pは落ち着いたのかいつもの顔に戻って返す。
「この動画は練習風景撮影に見せかけた、こちらへの果たし状だ。他のメンバーが公式に匿われた最中に、公然と練習風景の撮影までしてくるなんて、こちらに襲撃してくださいといってるようなもんだな」
毎回大しておもしろくない冗談しか言わないビャコが、珍しく鋭い推理をする。
確かにこんな騒ぎが起きている最中に、なおかつ勇作Pの怒りを煽る様を見せつけられたら、そう考えるのも納得できる。
「勇作の作ったあの衣装をわざわざ見せつけたってことは、天水晴那の協力者が半分ばれてねぇか? お前が草薙と仲睦まじく仕事してるってのは、芸能界じゃあ周知の事実だぜ」
協力者がばれているかも、というビャコの推測は確かにあり得る。
あの人の曲を無断で使われたことで感情からとはいえ、権利者として当然の申告を行政機関に委託した。
ただし、それを直接執行したのが、噂の天敵である天水晴那であるなら、運営側が草薙さんかプリズム協会のどちらかを疑うのは当然だろう。
何よりも、草薙さんの曲を無断使用した件は報じられず強引にもみ消されたとはいえ、観客まで集めて、おまけに生放送というリアルタイムで見ていた視聴者の記憶には残り続けている。
一方的に天水晴那を批判するテレビとは対照的に、ネット側では、その件を持ち出して不信感を露わにするものも出始めた。
中にはQ-key.333の全てが正しいと信じて疑わず、余計な正義を振りかざしたプリズム協会に批判をはく狂信者もいれば、ストレートに草薙さんが依頼した、もしくは雇ったと的を射た推理をする猛者だっているし。
「いや、まだそうだとも限らない」
勇作Pは冷静に言い切った。
「あいつらがランウェイで使用する予定の衣装は、現在確認できる段階で八つ。本番になるともっと多い。確かにあれは璃玖のために俺が用意した世界で一つしかない衣装だ。残りの七つはどれも市販されてない各ブランドの完全特注製。おそらく彼らの目的は練習風景を装って、無断使用に業を煮やした天水晴那の協力者を釣る、いわゆる二度目の泥鰌を狙った蒔絵だ。実際に草薙さんの曲の無断使用の件で、天水晴那がやってきたのだからな」
改めてタブレットに向き直った勇作Pが指先でスクロールバーを動かして、衣装が注目されたシーンを見せて説明する。
「果たし状を公表するのが目的なら、そんな面倒くさい練習風景を装ってまで回りくどいことをする必要があるか? 直接決闘を申し込む動画の方が色んな意味で効果があると思うぞ」
「奴らが、こんな方法で俺達を誘うのに、三つの考えがある」
推測に疑問を投げるビャコに、勇作Pが順序を説きながら指をたてる。
「一つ、あまりに直接的でコストがかかる大がかりな挑戦状だと、こちらが罠だと認識されて近づかない可能性があると踏んだから。
二つ、当てずっぽうとはいえ俺の衣装を無断で使用したのは、草薙さんの件を元に、例え罠であっても行かせる要因を作らせるため。
三つ、練習風景を装うことで観客、野次馬、マスコミが見ても騒がれず、そして実際の対決時に邪魔もされることなく天水晴那を招待しやすい状況を作るため」
三本の指を立てて勇作Pの推理が終わった時、私たちの中にQ-key.333の当面の目的がはっきりと思い浮かんだ。
アイドル界最強の威信に懸けて、天水晴那を総出でぶっ潰す。尻尾を巻いて守りの体制に入りつつも、完全にこちらの望む臨戦態勢にも入っていたということだそうな。
「この動画が本当に果たし状なのは良いとしてだ。肝心の場所は? 時間は? こちらへの煽りは十分に伝わったがそれ以外の場所がさっぱりだ」
九割方は本当に果たし状だと信じている草薙さんだが、一番安全を考える立場としてさらに疑問を積めてくる。
「場所なら、オレが分析済みだぜ」
なんと情報収集作業に乏しかったビャコが、再び珍しくさえた返事をする。
「このランウェイの練習だけで使っている会場、場所は隣の県にあるクロッシュYNだぞ」
「なに? もうわかったのか?」
「この壁の作りや天井の証明、な~んか見覚えあるな~と思ったら、日曜朝にやってる特撮のロケ地にもなった場所だったのを思い出した」
口で説明しながら、両方の肉球で爪を研ぐようにタブレットを操作しながら、そのロケ地に使われた場所を検索した。
「日曜日だけ早起きのぐうたらも使いようね」
「たまに口を開けたと思ったら辛辣なこと言うのやめろよ!」
画像を見ると確かに練習風景に使われた施設の構造とまったく一緒だった。
「それに時間に関しても動画の末尾で、今日から五日間、夕方に練習すると明言していた。つまりタイムリミットが今から五日間というわけだ」
「それまでに今連中がごり押しで売り出し中の『ココ・ナタデー』も潰せば、さらなる痛手を負わせることができるってわけだ!」
相手から仕掛けてきたとはいえ、次に挑む相手の場所も時間も全て判明した。
これが反撃のさらなる狼煙になるか、全面戦争の切っ掛けになるか、勇作Pとビャコの士気が上がっているのがわかる。
「待て、二人とも!」
やる気になった二人の興奮を冷ますように、草薙さんが一喝入れた。
「次の目的が判明したのは良いが、実際に挑むのはお前たちじゃない。回りくどい挑発をしてきたとはいえ、相手の誘いに乗って危ない橋を渡りに行くのは澄香だ。ビャコがついているとはいえ、前みたいに無事で戻れる確率が百パーセントじゃない」
危険に晒す。
草薙さんからその一言がでたとき、同じ鉄を踏みかけた勇作Pは冷や水をかぶせられたように目を伏せた。
「澄香。最後はお前が決めろ。実際に彼女たちと対決するのは、お前だけなんだからな」
草薙さんはまだあの果たし状動画に罠の可能性を感じているのか、いつになく慎重にことを運ばせようとしてくる。
前々からQ-key.333を運営するアートマンストラに、専属アイドルだった大葉瑠奈がどれほど悲惨な目に遭わされたのか聞かされていたか忘れたわけじゃあない。
そして、一時的な協力関係とはいえ私は事実上専属になったのだから、敵の誘いにわざわざ向かわされる私を心配するのも無理はない。
最終的に向かうかどうかの決断を私にゆだねられたが、私は返事を出す前にビャコの頭をつかんでぬいぐるみのように抱き寄せた。
「もしプロデューサーの推理通り、向こうが人目に付かない場所での決闘がお望みなら、聞き出せる余裕も時間もあるはず。特に運営に目を掛けられている『ココ・ナタデー』なら、何か知っているかもしれない」
こちらの正体を極限に隠すために、私がほぼ一人で敵地に向かわされている。
その危険性に草薙さんが心配するのはごもっとも。
だけど、私には〈アクアクラウン〉の抱える復讐とは別に戦う理由がある。
「倒すだけが目的じゃない。真実を探すのが、私達の反逆と復讐の本当の目的だから」
臆せず攻める決意を固めて真摯に二人を見つめ返す。
その視線から受け止めてくれた勇作P、そして草薙さんが鼓舞するように頷いて返した。
「襲撃は早くても明日の夕方だ。すぐに行きたいだろうが、少し時間をくれ。俺の方で、必ずお前を勝たせる準備をするからな」
勝たせる準備といって勇作Pが私に見せたのは、先ほどまで何度も鉛筆と消しゴムを走らせていたスケッチブックだった。
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