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王座陥落の兆候~その頃のアクアクランでは~

「なーんか納得いかねぇな」


 毎週の正午に放送されては曜日ごとにゲストコメンテーターを変えるワイドショーと一緒にプレッツェルに齧り付きながら、ビャコがテーブルの上で腑に落ちないとヤジを飛ばす。


 勝手に優勝賞品として無断使用されかかった草薙(くさなぎ)さんの曲を取り戻すついでに、ソロ新曲を駆けた大会で優勝した登坂しおりを公で撃破してから一日がたった。


 この騒動はよほど世間を騒がせたのか、どのチャンネルもこのニュースで持ちきりだ。



「何に納得してないんだ?」



 なみなみとぬるま湯が注がれた紙コップを回してインスタントコーヒーを溶かしながら、草薙さんがビャコに尋ねる。



「襲撃の口実にしたとはいえ、元はといえばあいつらが草薙の曲を勝手に賞品にしたからお灸を据えにやってきたのに。あいつらの非の部分がまるで報じられてない。これじゃあ、澄香が一方的に悪者扱いのままだぜ」



 ビャコの言うとおり、新聞やネットニュースを覗いても、天水晴那が襲撃&優勝者を撃破した記事ばかりが憎まれるように報道されているが、一方の草薙さんの曲を公然で無断使用した方の問題は一言も触れられていなかった。


 こちらは人としての何かを問われる立場だが、Q-key.333の方は業界人としてはかなり致命的なやらかしをしているのも事実。



「そりゃあ、相手はあのQ-key.333だぞ。金や視聴率しか頭にないテレビ局やメディア風情が、今やテレビやエンタメ業界を支える重鎮が不利になる記事を迂闊に口に出すわけがないだろ」



 カップから白湯気が立っているコーヒーをぐいっと呷ってから草薙さんが答える。


 報じれば一大ニュースにはなるが、その代償にQ-key.333の出演を運営側から拒否させるのは目に見えている。



「そういえば少し前だが、あるSNSゲームで著作権を巡る訴訟事件の時も、テレビで大々的に報じられなかったことがあったな。流石に新聞では記事になっていたが、それでも三面記事の隅のほうに小さく目立たないくらい簡素な程度だった」



 スケッチブックに鉛筆を走らせながら勇作(ゆうさく)P(プロデューサー)がそんな思い出話を挟んだ。



「なんで?」


「当時のSNS会社は、CM広告料を奮発してくれる大事なスポンサー様だったから」



 不快と苦悩。


 私は鼻で短くため息をつく。


 アイドルという一番メディアと切り離せない業種についていたとはいえ、一番民衆に知る権利で得た事実を報じなければいけないマスコミが、大人でありながら誠実さを欠いて社会を担っていることに、子供としてうんざりさせられる。


 人の不正が疑惑どころかやった前提で報じていたくせに、組織の確実な不正事実に関しては、業績悪化を恐れて真実をあえて隠す。知る権利を行使する中立で公平な第三者が聞いて呆れる。



「結局自分可愛さにこっちばっかり悪者扱いして、お偉い様には被害者面をさせるのかよ」



 舌打ちして悪態をつくビャコが、八つ当たりをするようにプレッツェルを荒くかみ砕く。


 面というか、実際に被害者だが。



「確かにこうしてどでかく報道されるほど奴らの面目を潰せる段階まで踏み込めた。だが次はどうするかだな」



 半分まで減ったコーヒーカップをデスクに置き、その隣に置いていたタブレット端末を持ち上げて私たちのいる応接の間に近づいた。


 指先で軽く操作してから、タブレットの画面を私たちに見えるようにテーブルに置く。


 開いたのは、某単文投稿のSNSのページだ。



「見ろ、昨日の試合を中継したテレビ局の謝罪投稿。俺たちが優勝者の登坂しおりを脱退させたせいで、後に出演予定として控えていた番組やイベントが全て中止になった」


「他局だと今後の生放送が中止になったどころか、下級ランクのメンバーが地道に開催しているライブやイベントも自粛しているらしいぞ。こりゃあ払い戻しが大変だな」



 お菓子を食べた肉球でスクロールする度に、番組や劇場、ホールを運営する公式アカウントからの謝罪が次々と画面の下から沸いてくる。


 爪を研ぐ猫の用に、油や唾のついたビャコの小さい虎の手が画面上に油の筋を伸ばす度に、草薙さんが明らかに嫌な顔を浮かべる。



「天下のQ-key.333様が守りの姿勢に入るとはな。それまでは最強の象徴として、普通に乱入ウェルカムで挑むもの拒まずの姿勢をとり続けていたくせになぁ」



 スクロールする度に天水晴那の批判やQ-key.333の中止する消極的な姿勢に異議や難を唱えるアカウントの呟きを皮肉に笑うビャコからタブレットをひったくる草薙さん。


 ポケットから取り出したハンカチで画面を磨く。



「元Q-key.333のランク9遊生澄香(あそうすみか)さんは、彼らの動向の意図はなんと詠みますか?」



 テーブルの上に横たわる菓子袋から一本のプレッツェルを手に取ったビャコが、それをマイクみたいに私に向けて訪ねた。



「乱入した素人に負けた事例は今までなかったわけじゃない。だけど、それは昔の話。活動の全部に影響がでるほど規模が大きくなった今頃に、強い挑戦者が現れたという怠慢と不測の事態に混乱しているともとれるわ。でも……」



 私はビャコがわざわざ差し向けたプレッツェルに齧り付いた。



「常勝無敗、芸能界最強、トレンド総なめ。そんな伝説に泥を塗って大損害を与えた私を、このまま野放しにするような連中じゃないのは確か」



 今のQ-key.333は、「向かうところ敵なし」ではなく「挑んでくる敵なし」という姿勢で運営していたと言うのがふさわしい。


 抜けさせられた今となって客観的に古巣を見ている私の目には、それがより顕著になっていると感じた。


 そもそも当初のコンセプトが「挑戦できる身近なアイドルグループ」が売りだったのに、それが有名になりすぎて、今や爆弾どころか抜けた歯車のように機能が停止してしまうなんて、なんとも皮肉だ。


 いや、そもそもあの鉄の掟やコンセプトそのものが、所属アイドルにかける発破どころか、自らの首を絞めている足枷になってしまっているのは言うまでもない。



「確かに運営共が俺達――もとい天水晴那に負けたまま逃げるわけがない。だが、あそこまで自粛や中止をされると、次の襲撃は難しくなるだろうな。仮にイベント復活したとしても、コンセプト無視を宣言して警備の厳重強化なんてされれば、もう突撃が難しくなるぞ」



 油脂を拭き終えた草薙さんが、タブレットをテーブルに置き直してから呟いた。


 それに対して勇作Pがスケッチブックについた消しゴムのカスを払ってから答える。



「予想はしてなかったわけじゃない。やるとしても、罠のイベントや生放送を用意して「上位ランクを集めての集中攻撃」か「プライドを無視して捕獲」の2択だろうな。もっとも、ファンやマスコミが見ている前で、汚名が返上できずにこの騒動を沈められるとは思えないがな」


「ファンねぇ」



 追い出されてから、ここに拾われて名前を変えて、アイドルを名乗っているけどほど遠い活動をしている今の自分にとって、もう縁のない懐かしい言葉に反駁する私。



「ファンの手前か……。確かに良い意味でも悪い意味でも、現時点で世間のトレンドは「天水晴那」なのは確実だ。連中が自分達にとって一番の顧客の期待に答えるエンターテイナー魂を持っていることを願おう」


「ちょい待ち!」


 次の作戦をどうするのか手をこまねいている時、帰ってきたタブレットをいじっていたはずのビャコの声が割り込む。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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