業務内容 ~天水晴那の抹殺命令~
会議で集合される前に、本題や資料などを粟久プロデューサーから言付かれていた事を、ようやく持って帰ったのだ。
「プロデューサー君のご機嫌はどうかね?」
頑なに想像がつくことを、朔真はニヤニヤしながら訪ねた。
「だいぶご機嫌でしたわ。まさか社長やら専務までやってきて、ちょっとしたパーティー状態。あんなに興奮しているプロデューサー達をみるのは初めてですわ」
談話室で自分の定位置まで足を運びながら、阿国が皮肉で返した。
それに併せて【煌閃天】の蓁原詩弓も、日祈のすぐ隣に腰掛ける。
しゃらんと音がしそうな仕草に併せて、白銀色の長髪が揺れる。
三三三人のアイドル達の頂点に立つリーダーとしての風格。
これまで同じ最上位ランクアイドルとして、または同じユニットとして創世記からずっと一緒にいたが、本当に同じ年の人間かと思うような美貌というか雰囲気が漂う。
蓁原が中心に座り初めてから、それまで好き勝手にはなしていた《ディーヴァス神姫》六人が一斉に口を噤んで、リーダーに注目する。
「蓁原、その社長達も来ていたと行っていたが、プロデューサーからは何と言われたんだ?」
しんと静まる状態で始まった会議に、日祈が静寂を裂くように切り出した。
「みんなもすでに感づいていると思うだろうが……」
進行を促す日祈に答える前に、蓁原は一呼吸置いてから口を開けた。
「あの無名アイドル天水晴那を潰せ、と指示を受けた」
誰しもが歌うために天からもたらされた声だと持て囃された蓁原の美声から、まさか物騒な言葉がでる日が来るとは思わなかった。
やはりというか案の定ともいうか、改めて指示、いや命令として下された途端、残る面々は緊張するどころか返って溶けたようにだれた。
「久々に、プロデューサー君から直々の仕事がきたかと思えば、まさかの鼈狩りとはねぇ」
一気にやる気を失った全員を代表して、朔真が蔑称で呼び始めた鼈とあやかって狩りだと的を射た表現で吐露する。
べらべらと暢気に皮肉を添えて、何か企んでいるような笑みを浮かべているが、皆と同じように言いたくてもいえない悲壮が隠れている。
「ただ潰すだけではダメですわ。《ディーヴァス神姫》の名に駆けて、ひいてはQ-key.333の威信にかけて、公のステージ上で実力行使を以て彼女を負かせるように言われましたわ」
指示内容に補足する阿国が、カップが並ぶテーブルの上にぶっきらぼうに薄い紙束の資料を投げた。
「ただし、方法は問わないそうです。天水晴那が〈エンプリス〉での勝負を公に晒されるのであれば、いかなる手段を用いても良いそうですわ。例えば、番組やイベントの企画とか、餌のために特別なカードを持ち出すのも、わたくしたちの自由にしても良い、とのこと」
最初に資料に手を着けた朔真が、ペラペラと流し読みで目を通す。
「彼女がしてきたように、今度はこちらが人目につくステージで返り討ちにしろということか。まぁ、当然のことだねぇ。どうする? 今度の生放送にサプライズとして我々七人で待ち伏せるというのは?」
「それは、さすがに怪しんでこないんじゃない? 罠だってばれちゃうよ。向こうは無謀でもバカじゃなさそうだから、昨日みたいにすんなりテレビ出演とかさせてもらえないって思ってるよ。少なくとも、劇場支配人たちは今回の件で警備にテコ入れそうだし」
資料、というよりも作戦の概要書なる用紙を朔真がまじまじ目を通している間に、刹那も肩を寄せて一緒に眺めていた。
「仮に罠番組をセットにようにもコストはともかく準備や日付確定に時間をとられてしまいますわ。プロデューサー達は早めの撃退をご所望ですわ」
プロデューサーに用件と一緒に何を言われたのか用意に想像できるほど、神伊吹阿国が忌々しげな顔をしていった。
「悠長に罠番組や囮イベントを準備している間にも、奴は他のメンバーを潰しかねん。そうなる前に、我々で彼女を止めないといけない」
感情を顔に出すランク2とは対照的に、唯一冷静を保って会議の進行を真顔のまま続けるランク1の蓁原詩弓。
だが、そう語る表情には鉄の掟のせいで散る羽目に陥ってしまったかつての仲間達への憂いと悲しみが隠れていた。
「ねぇねぇ、もし天水晴那の撃破に成功できたら、ボク達のお仕事増やしてもらえるかな?」
次なる妙案が出ず二度目の沈黙に会議が滞り駆けたとき、刹那がそう切り出した。
「おい、【黄黙天】! 仲間の仇討ちに見返りなんて求めるなどッ!」
「落ち着くんだ、鞠地。気持ちは分かるが……」
ただでさえ一緒に頑張ってきたメンバーが敗北によって去り続けていることに誰よりも悔いている鞠地日祈にとって、この命令は同時に敵討ちでもある。
それなのに、面子よりも自己の利益を優先する刹那の身勝手さに日祈が乗り出す。
「ええ、もちろん交渉してきましたわ。でも、只の口約束ですので成功しても増える確証はありませんが」
日祈を宥める蓁原代わって、阿国がぶっきらぼうに答えた。
顔を顰める日祈と真剣な面もちで見つける蓁原の顔が向き合う。
小さく頷く蓁原の仕草から何かを読みとった日祈は、諦めたかのように溜息をついて座り直した。
一方の刹那は、指示か仇討ちとか一切気にしてない気楽そうな顔で、カップを呷って中のお茶を飲み干した。
「頑張ったら前みたいにお仕事もらえるのかぁ。じゃあ、頑張らないとねぇ」
空になったカップを残して、刹那はそれだけ言って「よいしょ」とかけ声とともにゆっくりと立ち上がって背伸びをする。
「とりあえず、公の前で負けをさらせばいいんだったら、まずは彼女がテレビデビューする前にコツコツとやっていた動画配信での公開処刑の線からやってみましょうかね。誰かアイドルチーム一組とコスチューム何着か借りるって、プロデューサーとかに言っといてくれない?」
下手をすればこちらも敗北してすべてを失ってしまうかもしれない任務に就かされ、なおかつ討伐対象の正体も掴めておらず、しかし上層部からは迅速な処理を任されているという板挟みによって重苦しい雰囲気の会議になっているはずだったが、一番に引導を渡す役を担った刹那の足取りは、まるでその空気が読めておらず遊びに行くかのように軽かった。
「やーやー待ちたまえ、【黄黙天】の雨羅刹那くん。鼈狩りの心得があるとは初耳だが?」
踵を返して談話室から抜け出そうとする刹那に、朔真が手に取った資料をポンとテーブルの上に投げ捨てながら声をかけた。
「まぁね~~」
それに対して刹那の返事はたったそれだけ。
その途端に静聴していた朔真を除く四人がざわつく。
ただでさえ天水晴那に関する情報は、処刑を任された《ディーヴァス神姫》以上に運営する上層部の方が、喉から手がでるほど欲しい手掛かりのはず。
そんな貴重な手掛かりとなる情報を、【黄黙天】は持っているというのだ。
「食いついてくれそうな餌に、心当たりがあるんだよねぇ。これで引っかかってくれるならマジかもしれないよ~~」
心当たりが本当にあるのか定かではなかったが、刹那は最後までそれを仲間にすら打ち明けることなく談話室を抜け駆ける。
「刹那」
自室のある二階へと向かっているであろうその途中で、詩弓が刹那を呼び止めた。
至高の竪琴よりも麗しい声で呼ばれた刹那は、足をとめて蓁原と向き合った。
「頼んだぞ」
刹那の背中に送られていた視線の感情を代表するように、リーダーが言葉を贈る。
絶対に負けるはずがないと信じている。
だが万が一、僅かに感じる心配と不安の目に晒された刹那だが、特に気にもしない素振りでひらりと笑顔を返す。
「何かあったらまた報告するよぉ」
それだけ言って、戻って早々に自室で昼寝にでもするのか、後頭部に両手を組みながら、わざとらしい欠伸と共に階段を上っていった。
「Q-key.333ランク5、【黄黙天】の雨羅刹那。処刑人を担う彼女が負けるとは思ってないが、万が一のことを考えて置かないとなぁ。刹那が勝っても良いように素敵な兼用イベントを同時進行で企画させてもらおうか」
誰しもが仲間の生還を祈って見送ったつもりだったが、ランク6の葉鳥朔真はそんな雰囲気をぶち壊すように不吉なことを口に出しながら、「万が一」を計画するためにノートPCを立ち上げた。
もはや目先の紅茶の味が不味くなるほど、《ディーヴァス神姫》達から怪訝な眼差しが朔真に集うが、彼女は気にしないどころか
「私らにはもう話し合いは無用だ。ミーティングならさっさと終わらしてもかまわないぞ」
とだけ言って、PC画面から離れようともしなかった。
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