最強の7人《ディーヴァス神姫》
「世界最強、無敗当然。そんなQ-key.333を打ち負かした無名のアイドル天水晴那とは、果たして何者なのでしょうか。シングル、アルバム、写真集、使用ブランド、そのほかの活動記録どころか、所属事務所がいっさい不明。今の処Q-key.333を狩る神出鬼没のアイドルキラーということしか解っていません」
平日の正午から放送されているニュース系番組で、元芸人の司会者が昨日のアリーナでおきた襲撃事件の話題を切り出す。
テレビスタッフがどのくらいの期間で作ったのかはわからないが、見出し記事をシールで隠すなどやけにこった工夫をこらしたA1の硬質パネルには、天水晴那の顔や姿を映した写真が週刊誌の見出しのように並べられていた。
「今までメディアはずっとQ-key.333一色でしたが、他の芸能事務所もただ指を咥えてみているばかりでは無かったのでしょうね。育てた事務所の執念がすごいのか、それとも天水晴那のアイドル感が一つ上の次元を言っているのか。大胆不敵に攻め込めるなんて、相当肝が据わってないとできない。かなりの訓練を積んだに違いない」
カメラが変わり画面はゲスト席へ。
この曜日にのみ顔を出すタレント側のコメンターが、何か判ったかのような仕草と口振りで天水晴那を語る。
「執念? ただの嫉妬でしょう。どうせ採用オーディションに落ちた腹いせに、安っぽい復讐を大義名分に目立ちにきただけでしょう。すぐに化けの皮が剥がれて、惨めになるのが見えているわ。もう手遅れでしょうけど」
「しかし、彼女に撒けて強制退会させられたQ-key.333のメンバーはかなり多いと聞きますよ。返り討ちにしたというケースも聞かない。ただの復讐や目立ちたがり程度で、ここまで大騒ぎをおこせますかね」
その隣には、まったく芸能界とは無関係な経歴を持つ栄養研究の博士兼実業家の女性が、低い評価で反論をする。
しかし、それに対してさらに隣のお笑い芸人が揚げ足を取って反応する。
「もしかしたら、Q-key.333が余裕綽々と胡座を掻き続けた期間が長すぎたのでしょうかね。向かうところ敵なし。故に隠れていた敵を見ることを怠った。まさに怠慢ですなぁ」
最後にコメンターがいいあんばいで占めようとしたり、顔がアップになった時、ブツンと映像が途絶えて65インチの液晶テレビが黒くなる。
「さも解ったような口で好き勝手ベラベラと!」
今にも握りしめたリモコンを投げつけたい気をぐっとこらえるほど、【紅暁天】――鞠地日祈は怒りを腹に据えた。
投げる代わりにふっと手を離され、高いところから落とされたリモコンは派手な衝突音をあげてテーブルを転がってゆく。
あれほど鈍い音を立てたにも関わらず、日祈とともに談話室にいた少女達は驚きもせず、ただ日祈と同じく鬱蒼とした空気を醸し出していた。
謎の無名アイドル――天水晴那がついにテレビ画面という一番の公の場で、Q-key.333のメンバーを負かしてからの翌日。
そのQ-key.333の最上位ランカー七人で構成された《ディーヴァス神姫》のうち3人のメンバーが、会議室として担っている寮の談話室に集わされた。
「天水晴那について解ることは本当になにもないのか?」
激変する自身の周囲についていけなくなり、頭痛に苛まれた日祈は、両肘をついて組んだ両手に額を乗せながら、ランク6の【紫智天】――葉鳥朔真に尋ねた。
アイドルにしては突飛抜けて情報に長けている朔真は、いつものように自前のノートPCと向かい合いながら、常に必要な情報を探しているのだが。
「うーん、今回ばかりは難しそうだねぇ。向こうもかなり厳重に情報隠蔽しているようだ」
苦悩する日祈とは対照的に飄々として返すが、お手上げといいながらもキーボードを操作する指は止まっていない。
「普通はマスコットを用いた物同士の対決では、何かしらログが残るもんだがね。どういう訳かそれらが全て消去されている。まるで勝負事態が存在していないようにね。だが勝敗を示すだけなら、テレビやネット動画が証拠になってログの必要がない。上手い手立てだ」
それに――と付け加えながら、タッチパッドをポンと指先でたたく。
画面内に沸いた小さいウィンドウ。
そこには先日のライブで天水晴那がスキルによって生み出したカードを使用したことで、アリーナ中が熱帯海域の海底へと一瞬で変貌させ、ウミガメの大群を使役しているという幻想的な演出が映し出されていた。
「鼈甲のチャームを駆使する謎のブランド〈RDティアーズ〉と、スキルで生成されたトゥルーワード・ミュージックの使い手……。先日の対決を見る限りでは海洋生物の中で亀がお好きなようだが、あのむき出しの敵意を出すようでは鼈と呼ぶ方がふさわしいな」
鼈。
一度かみついたら雷鳴がなるまで離さない泥川に生きる亀。
確かに、Q-key.333に敵意をむき出して勝つまで食らいつく様は狂犬というよりもスッポンの方がふさわしかった。
「SNSとかもやってないんだもんねー。撃破ナウとか書いてくれるとありがたいんだけどなぁ。唯一、証拠動画としてサイトに上がってるアカウントも捨てアカっぽいし」
二階から降りてきたランク5の【黄黙天】――雨羅刹那が、階段を降りてそうそうに葉鳥朔真と頬をつけて画面を覗き込む。
この二人は特に、こんな事態にも関わらず、お気楽でいる。
「【黄黙天】、【蒼極天】の様子はどうだ?」
「ダメ。まだ引き籠もってる。すみっぺの件の方が、よっぽどダメージが大きいみたい」
「一番仲の良かった澄香くんが追い出されてから、ずっと泣きっぱなしだからねぇ」
日祈達の言う【蒼極天】はランク3にしてQ-key.333の中で希少なハーフアイドル、古奈アーシャのこと。
朔真がいうとおり、数日前に不正を理由に強制退会させられた遊生澄香とは元チームメンバーであり、澄香の支えがあって見事《ディーヴァス神姫》入りを果たした有名な逸話があるほど。
しかし、そんな美談は全て過去の話でしかない。
「受け継いだ意思に泥を塗るような奴のことなど知るか」
「そうだと決めつけるのは早計じゃあないかしら。あなたらしくないわ」
ここ最近連続で起きる問題に頭を抱える日祈の元にハーブティーの入ったティーカップが置かれる。
ランク7の【堅翠天】――愛染碧が、これから長引くであろう会議用にと、寮のキッチンからお茶を入れてくれたのだ。
「私らしくない……か。すまない、色々ありすぎて気が動転していた」
「ひーちゃん、気負いすぎだよ。何でもかんでも自分のせいにするのは悪い癖だよ」
「確かにグループの総合練習担当の指揮責任者は君だが、君一人で333人を管理するのは無理がある。なによりも天水晴那という無名に負けてしまった結果は、全て当人達の自己責任でしかないさ」
「わかっている、わかっているんだが……」
仲間達から励まされ、自身の頭では理解しているのだが、難儀なことに易々と自責を捨てきれない日祈が迷いを口にする。
「戻りましたわ」
会話を遮断するように、談話室の扉が開けられてさらに二人のメンバーが戻ってきた。
「おかえりー、阿国ちゃん、詩弓ちゃん」
気安く刹那が出迎えたのは、《ディーヴァス神姫》のランク2【赤滅天】の神伊吹阿国。
そしてランク1、【煌閃天】の蓁原詩弓だ。
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