勝利の笑顔を忘れた悲しいアイドル
天水晴那 AP2830 VS 登坂しおり AP1450
相互終宣。
予定外の乱入戦にも関わらず、アリーナ中の音響設備から律儀にも決着のブザーが吠えた。
アリーナ級の会場から鳴るブザーが耳につんざく。
「あんた達に、あの曲を歌う資格はない!」
無名どころか悪い意味で有名になっている野良アイドルに敗北し、場外どころかQ-key.333にすらいられなくなってしまった登坂しおりに向かって私は冷淡に言い放った。
本日の主役であり勝者であったアイドルが敗北し、ブザーが止まった後で一瞬の沈黙が起こる。
改まってよりいっそうひどいブーイングが起こるか、このまま白け続けるかのどちらかを予想していた。
だが、無名が有名に敢然と立ち向かい、そして勝った姿に何人の心に響いたのか、拍手と歓声がまばらに起こる。
しかし、それを良しとしない残りのファン達も、思い出したかのようにブーイングを起こし、アリーナ中が文字通り喜怒哀楽の混沌に包まれていた。
「ひえー! まるで野球スタジアムだな! 文化系のおいらにやあ理解できない空間だぜ」
「アイドルにも試合の概念があるんだから、文化系も体育会系もないでしょ」
「それもそうだな。それより、今は早めに脱出したほうが良さそうだな」
ビャコが促す頃には、アリーナ中に設置された全部のカメラが私を移し、全部のモニターどころか全国のお茶の間にも、私のアップが映し出されていることだろう。
試合も勝負も天水晴那が制した。
しかし、その勝利の喜びを噛み締める瞬間や観客に迎えられる資格は、この場への入場チケットと併せて持ち合わせていない。
ステージの上へ三々五々と守衛が上ってくる。
今の天水晴那はアイドル以前に、乱入のために侵入した無法者なのは間違いない。
「ビャコ、どうする? 今までみたいにあっさり返してはくれそうにないけど」
「手は打ってある。会場に入る前に渡した三枚のカードを出してみろ」
珍しく冷静にかついたずら小僧みたいに答えるビャコの言うとおりに、私はポケットにしまっていたエンプリスのカードを出す。
この三枚はデッキに入れてない、いわゆる無関係のカードだ。
「なるほどね。三枚のお札ならぬ、三枚のカードってとこね」
改めて絵柄と効果を見ると、私はここにきて納得した。
「アクシデントカード〈調光設定ミス〉!」
一枚目のスポットライトが眩く光るカードをビャコに読みとらせると、私はとっさに左腕で顔を覆う。
その直後、ビャコから真っ白な閃光が放たれて私の周りを一瞬だけ白く包んだ。
効果は「一回だけ相手のカードを無効にするが、再度効果は発動できる」という使いどころに悩むカードだが、ビャコを通してプリズムストリームで投影させると、閃光による目眩ましを起こす。
とっさに防いだおかげで難を逃れた一方で囲いにきた守衛が、劈く光をもろに食らったことで目の痛みに悶えている。
「アクシデントカード〈湯煙○○事件〉!」
湯気で白んだ温泉旅館の絵柄の二枚目を発動させると、今度はビャコから加湿しているとは言い難いほど灰色の煙が盛大に吹き出された。
効果は「このターン、お互いにカードを発動できなくなる」というこれまた使いにくいカードだが、閃光に次いで忍者の煙玉みたいになって、このステージを淀んだ白煙に包ませた。
天水晴那どころか取り囲んでいた守衛達まで見えなくなるほど煙を充満させてから、私は最後のカードをこっそりとビャコに読みとらせて、私は姿を眩ませたままステージを突破した。
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