4 新しい家族
おもちゃ屋さんで生まれたボクは袋の中で身動き一つせず、その日が来るのをじっと待っていた。
「ユリカ、ユウリ。袋を開けてごらん」
「なにがはいってるんだろう?」
「たのしみだね! ユウリ!」
袋の外からはお父さんと子供たちが、楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてくる。
おもちゃ屋さんでピカピカにしてもらったボクが袋の中でじっと息を潜めていると、袋の外から賑やかな声が聞こえてくる。
「おかあさん! うまくあかないよ~」
「あら、しょうがないわね」
くすくすと笑いながらお母さんが袋に手をかけると、袋の外から光が差し込んでくる。
小さな二つの手が袋の中に入ってくるとボクのことを優しく抱き上げる。
「わあ! くまきちだ!」
「おかあさん! これほんとうにもらっていいの!?」
ボクを見た子供達がきゃあきゃあと華やいだ声を上げると、お母さんがいつものように満面の笑みを浮かべる。
「ええ。くまきちもユリカ達に可愛がってもらった方が嬉しいって言ってるわよ」
「そうなの、くまきち?」
ユリカちゃんが難しい顔をしてボクのことをじっと見つめてくる。
そうだよ。だからボクのことをいっぱい可愛がってね。
ボクがそんな言葉を思い浮かべていると、ユウリくんがユリカちゃんに話しかける。
「くまきちもそうだっていってるよ」
「すごい! なんでユウリはくまきちのいってることがわかるの?」
「ぼくのほうがおにいちゃんだからね。くまきちのいってることもわかるんだ」
「そんなことないよ! わたしたちはおなじひにうまれたんだから、わたしのほうがおねえちゃんだもん!」
懐かしい二人のやり取りを見ながら、お父さんとお母さんもくすくすと笑う。
「さあ、今日は二人の誕生日だからね。二人が好きなものをたくさん用意してあるよ」
「ええ。ご飯が終わったらケーキも食べましょうね」
「けーき!!」
ケーキと聞いた双子は目を輝かせて立ち上がる。
その衝撃でユリカちゃんの膝の上に乗っていたボクはころんと床に転がってしまった。
「あ、ごめんね。くまきち」
ユリカちゃんが慌ててボクを抱き上げると、ユウリくんがユリカちゃんを睨みつける。
「だめだよ、ゆうり! くまきちをだいじにしないならぼくがもらう!」
「やだ! くまきちだってわたしのほうがすきだっていってるもん!」
「いってない!」
「いってる!」
二人が喧嘩を始めると、お母さんがしゃがみこんで二人の頭を優しく撫でる。
「二人とも喧嘩しちゃダメよ。二人が喧嘩するならくまきちは私のものになります!」
「えー! やだ!」
「おかあさんばっかりずるい! ぼくもくまきちすきなのに!」
二人に責められたお母さんはいつものように満面の笑顔でボクの頭も優しく撫でる。
「ちゃんと大事にするのよ。お母さんとの約束だからね」
「はあい!」
二人は元気のいい返事をするとお母さんは立ち上がり、食卓へと向かう。
「それじゃあ、二人とも。ご飯にしましょう」
「ケーキもあるからな」
お母さんとお父さんがそう言うと、双子は顔を見合わせてお母さんに尋ねる。
「ねえ、お母さん。くまきちのぶんのケーキはあるの?」
「もちろんあるわよ」
そう言ってお母さんが取り出したのは、見覚えのあるプラスチックで出来たおもちゃのケーキだ。
「やったあ!」
「くまきちもあとでいっしょにたべようね!」
こうしてリカちゃんの誕生日に贈られたボクは、リカちゃんの新しい家族と一緒にこれから先も楽しく過ごしていくのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
くまきちの物語、少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。
くまきちは本編中で動いているような描写がありますが、動いていませんし話してもいません。
ぬいぐるみとしてただそこにいるだけです。
そうして人に寄り添っているのが、ぬいぐるみのあるべき姿だと私は思います。
普段は病弱だった女の子が元気になって楽しく過ごすファンタジーを書いています。
気が向いたらそちらも読んでもらえると嬉しいです。
最後に面白かったと少しでも思っていただけたら、感想、評価を貰えるととても嬉しいです。