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3 ユウくんとの別れ

小学生になったリカちゃんは小さかった頃のお転婆さんではなく、優しい女の子に成長していた。


「行ってきます! くまきち!」


ソファに座っているボクに向かっていつもの笑顔を輝かせるリカちゃん。


昔ほどお転婆じゃなくなったけど元気がいいのは相変わらずだ。


小学生になったリカちゃんは学校での友達も増えて、食事の時にはいつも楽しそうに学校の出来事をお父さんとお母さんに話している。


そんなリカちゃんが一番仲良くしているのは以前デパートで出会ったユウくんだ。


あの後、ユウくんの両親に無事合流することが出来たのだけど、話を聞くとどうやらリカちゃんの家の近所に住んでいることが分かった。


それからというものリカちゃんはユウくんとよく遊び、まるできょうだいのように二人で過ごしてきた。


リカちゃんは自分の方がお姉さんだと思っているが、ユウくんは自分の方がお兄さんだと思っている。


ボクとしてはどちらがお兄さん、お姉さんでも構わないのだけど、たまに二人がボクに向かって聞いてくるんだ。


「くまきち! わたしの方がお姉さんだよね!?」

「僕の方がお兄さんだよ! そうだよね、くまきち!」


そうしてしばらく二人でどちらがお兄さん、お姉さんなのかで言い争っているのだけど、お母さんがお菓子を持ってくると、二人は喧嘩していたことも忘れてニコニコとお菓子を頬張るんだ。


そんな二人の仲の良さを見ながら過ごしてきたボクだったけど、その時はある日突然やって来た。


「ただいま……」


元気がない声で帰宅の挨拶をするリカちゃん。


いつもなら元気良く挨拶をしてボクのことを撫で回してくれるのに、その日のリカちゃんは様子がおかしかった。


どうかしたの? リカちゃん。


ボクは声にならない声を出して、プラスチックの瞳をリカちゃんに向ける。


「くまきち……」


リカちゃんは今にも泣きだしそうな声でボクのことをぎゅっと抱きしめる。


「あのね、ユウくんがいなくなっちゃうんだって……」


そこからリカちゃんはぽつりぽつりと学校であったことを話してくれた。


どうやらユウくんは両親の転勤で遠くに引っ越すことになってしまったらしい。


それを聞いたリカちゃんはどうして教えてくれなかったのかとユウくんに迫り、喧嘩になってしまったようだ。


「どうしよう、くまきち……ユウくんともう会えないなんていやだよ……」


リカちゃんはボクを抱きしめながらポロポロと涙を流す。


「喧嘩もしちゃったし、ユウくん許してくれないかもしれない……」


リカちゃんは声を震わせながら不安を押しつぶすように、ボクのことをぎゅっと強く抱きしめる。


そんなことないよ。ユウくんはきっと許してくれるよ。


ボクはそんな言葉を思い浮かべながら、リカちゃんをプラスチックの瞳で優しく見つめた。


翌朝、学校に行く時間になっても起きて来ないリカちゃんを起こすため、お母さんがリカちゃんの部屋へと向かう。


お母さんに連れられてきたリカちゃんは昨日と同じように元気がないようだ。


「リカちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だよ、お母さん」


リカちゃんはそう言いながらニコリと微笑んでいるけど、いつもの満面の笑みではない。


それを見たお母さんも心配そうにリカちゃんの頭を撫でる。


「それならいいけど……何かあったらお母さんに相談するのよ」

「うん。ありがとう、お母さん」


リカちゃんは優しく微笑んで学校に行く支度を始める。


「行ってきます、くまきち」


行ってらっしゃい、リカちゃん。ちゃんとユウくんと仲直りできると良いね。


ボクは心の中で手を振ってリカちゃんを学校へと送り出す。


「ねえ、くまきち。リカは大丈夫かしら……」


リカちゃんが学校に行った後、お母さんがボクに話しかけてくる。


「リカは私に相談できないこともあなたには相談できるみたいだから、あなたはずっとリカの傍にいてあげてね」


任せてよ、お母さん。ボクがずっとリカちゃんの傍にいるよ。


お母さんが優しくボクの頭を撫でるのを感じて、ボクはそんな言葉を胸にしまった。


それからしばらくすると、リカちゃんが学校から帰ってきたようだ。


玄関の扉ががちゃりと開く音が聞こえる。


「ただいま」

「おかえり、リカ」

「お邪魔します」

「あら、ユウくんもいらっしゃい」


どうやらリカちゃんはユウくんと仲直りできたようだ。


リカちゃんがユウくんを連れてボクの元へとやってくる。


「くまきちも一緒に部屋に行こうね」


ボクはリカちゃんに抱きかかえられると、リビングのソファからリカちゃんの部屋へと移動する。


リカちゃんの部屋には小さなテーブルが置かれていて、それを挟んでユウくんと向かい合わせにリカちゃんが座る。


リカちゃんは何かを堪えるようにボクを強く抱きしめながらユウくんと話し始める。


「ねえ、ユウくん。この部屋でいっぱい遊んだよね」

「うん」


リカちゃんは優しい声で今までの思い出を語り始める。


「初めて会った時はこんなに仲良くなれるなんて思ってなかった」

「僕もだよ」

「あの時はくまきちを連れてきてくれてありがとうね」

「どういたしまして」


ユウくんが寂しそうな表情でリカちゃんの言葉に相槌を打つ。


「くまきちともいっぱい遊んだよね」

「楽しかったね」


ボクのこともリカちゃんは忘れずに話してくれた。


「ユウくん……引っ越しなんていやだよ……もっといっぱい遊びたかったよ……」

「僕ももっと遊びたかったよ、リカちゃん」


段々とリカちゃんの声が震えてくる。


今までの楽しかった日々を思い出して、堪えきれなくなったのだろう。


目から滴が溢れてきて、抱きかかえられたボクの瞳にぽたりと落ちる。


「ユウくん……お手紙いっぱい書くからね。私のこと忘れないでね」

「うん、僕もたくさん書くよ。リカちゃんよりもたくさん書くから」


そう言ったユウくんの目にも涙が浮かんでいる。


それからしばらく二人は話して、一緒に遊んで、お菓子を食べて。


まるでいつものように二人で過ごした。


「くまきち、私の方がお姉さんだよね」

「僕だよね、くまきち」


そんなことを言われてもボクには答えられないよ。


ボクが少し困った顔をすると、それを見た二人が顔を見合わせて笑いあう。


それを見たボクは心の中で一人つぶやく。


こんな毎日がずっと続けば良いのにな。

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