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2 迷子になったボクと君

ボクはいま、一人ぼっちだ。


いつも一緒にいてくれるリカちゃんもお父さんもお母さんもいない。


どうやらボクは迷子になってしまったようだ。


デパートの屋上にあるベンチに座り一人空を見上げていると、なんだかとても寂しくなってきた。


リカちゃんに会いたい。


リカちゃんと一緒に遊びたい。


いつものようにリカちゃんの笑顔が見たい。


そう思っても一人ぼっちであることに変わりはない。


もしこのままリカちゃんが迎えに来てくれなかったらどうしよう。


もう二度とリカちゃんに会うことはできないかもしれない。


そんなことを考えていると段々と涙が出そうになってくる。


ボクは涙を流すことはできないけど、悲しい気持ちになることはあるのだ。


「きみ、こんなところでどうしたの?」


そんなことを考えていると、リカちゃんと同じ年頃の優しそうな男の子がボクの目を覗き込んできた。


「もしかして、きみもひとりなの?」


男の子の顔はよく見ると泣いた跡が残っており、目も真っ赤になっている。


男の子は恐る恐るボクのことを手に取るとぎゅっと両手で抱きしめる。


「ぼくもひとりになっちゃった……」


どうやらこの男の子もボクと同じように迷子になってしまったようだ。


「たのしいものがいっぱいあって、きがついたらおかあさんがいなくなってたんだ」


そう言いながら男の子はボクのことを抱きしめる両手に力を込める。


お母さんがいなくなった時のことを思い出したのか、男の子は今にも泣きそうな顔でボクを見つめてくる。


そんな男の子の顔をボクが見つめ返すと、男の子は泣くのをぐっとこらえて前を向く。


「きみだってひとりなんだから、ぼくがないてちゃだめだよね」


男の子はそう言うとボクのことを抱きしめたまま立ち上がる。


「ぼくがきみのもちぬしをさがしてあげるからね」


男の子は自分だって泣き出しそうな癖にそんなことを口にすると、ボクを連れて屋上の扉を開ける。


デパートの中はガヤガヤと騒がしく、色々な音が聞こえてくる。


子供の楽しそうにはしゃぐ声。


頭の上から聞こえてくる館内放送。


ゲームコーナーから聞こえてくる楽しそうな電子音。


音の種類は違うけれど、皆楽しそうにしているのがよく分かる。


男の子に連れられてデパートの中を歩いていると、遠くから女の子の泣いている声が聞こえてきた。


「うわーん! くまきちー! くまきちー!」


大きな声で泣きながらきょろきょろと周りを見回しているのは、ボクの良く知っているリカちゃんだ。


お母さんも傍でリカちゃんの背中を優しく撫でているのが見える。


リカちゃん! ボクはここだよ!


そう思っていてもボクの声はリカちゃんには届かない。


そのまま男の子もリカちゃんには気が付かず、きょろきょろと周りを見回しながら歩き続ける。


このままだともう二度とリカちゃんに会えなくなってしまう。


そう思ったボクは男の子に向かって一生懸命呼びかける。


ボクの持ち主はあそこにいるリカちゃんだよ!


しかし、ボクの声は男の子にも届かない。


何とか男の子に気づいてもらおうとボクが気持ちを瞳に込めると、男の子が何かに気が付いたように立ち止まる。


「どうしたの? くまさん。目がキラキラしてるよ?」


きっとキラキラしていたのは天井にぶら下がっている蛍光灯の明かりだろう。


そんな風に男の子がボクに話しかけていると、リカちゃんもこちらに気が付いたようで慌てて駆け寄ってくる。


「くまきち!」


ボクはリカちゃんを安心させるため、悠然とした佇まいでリカちゃんを待ち受ける。


「このこはきみのくまさん?」


男の子は駆け寄ってきたリカちゃんに驚きながらも、ボクを優しくリカちゃんへ差し出す。


「そう! わたしのぬいぐるみでなまえはくまきちっていうの!」


男の子がリカちゃんにボクを優しく手渡すと、リカちゃんはボクの体が潰れるくらいぎゅーっと抱きしめてくれた。


「もう! かってにどこかにいったらだめだよ!」


泣きべそでぐしゃぐしゃの顔でリカちゃんはボクを一瞬睨みつけると、いつものように笑ってくれた。


「ごめんなさいね、うちのリカが。くまきちをここまで連れてきてくれてありがとう」

「ありがとう!」


お母さんとリカちゃんが男の子に話しかけると、男の子は少し照れくさそうにはにかむ。


「ぼくもくまさんのもちぬしをみつけられてよかったです」


男の子がそう言うと、リカちゃんが満面の笑顔で男の子に話しかける。


「あなたのなまえはなんていうの? くまきちもおれいがいいたいって!」


リカちゃんはボクを抱きしめたまま、ボクの手を取りピコピコと動かす。


「ぼくのなまえはユウだよ」

「ユウくん! くまきちをつれてきてくれてありがとう!」


リカちゃんはボクの手を使ってユウくんと握手をする。


お母さんは辺りを見回してユウくんの保護者が近くにいないことに気が付くと、しゃがみ込んでユウくんに話しかける。


「ユウくん、あなたのお父さんやお母さんはどこにいるの? くまきちを届けてくれたお礼がしたいんだけど……」

「ぼく、ひとりになっちゃって……きづいたらおかあさんもおとうさんもいなくて……」


両親について尋ねられたユウくんは今にも泣きだしそうな顔で下を向いてしまった。


そんなユウくんを見て、リカちゃんはユウくんの手をぎゅっと握りしめる。


「なかないで! わたしもいっしょにさがしてあげるから!」

「いいの?」


ユウくんは涙が溢れそうになるのをぐっと堪えてリカちゃんの顔を見つめる。


「もちろんだよ! だってユウくんはくまきちをつれてきてくれたんだから! こんどはわたしがゆうくんのおとうさんとおかあさんをさがしてあげる!」


リカちゃんがいつものように笑顔を見せるとユウくんもそれにつられてニコリと笑う。


「ありがとう、りかちゃん!」


笑顔を交わして仲良くなった二人は、手をつないで一緒に歩き出した。

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