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新人戦2

 マインに言われるがまま新人戦の様子を観察する。

 あっという間に勝負が決まる時もあれば、なかなか決定的な一撃を加えることが出来ずにいる時もあった。

 マインの話だと最初は試合数が多いので制限時間と言うのが設けられているらしい。

 言われてよく見てみると容器の中に砂を詰めた物がおいてあり、砂が落ち切った時点で試合を終了させている。

 その場合勝ち負けは判定によるのだとか。

 そのため今日中には全員が一回戦目を終えることが出来るらしい。

 そして二回戦目も制限時間ありで三回戦目からは時間無制限になるのだとか。

 しかし、試合はともかくあの砂を詰めた容器のほうが気になる……。


「ああ、えっと……ノール君、だったね。 まあうちのマインが言い出したことだし申し訳ないとは思うんだが、悪魔のほうに専念してもらってもいいかな」


 あ、すっかり忘れてた。


「悪魔は、まだ大丈夫」


 ノールは平然と何事もなかったかのように答えた。


「そうか。 了解した。 マイン! お前も仕事をしろ」

「嫌だなー、ちゃんとしてますよー」

「まったく……」


 ノールと同じように試合に夢中になっていたマインの能天気な言葉にゲーリィードが頭を抱えていると、マインの視界に二人の人物が映る。

 ダリアスもまた、そのよく知る人物の登場に辟易しているようだ。


「これはこれは。 ダリアス学長、ご機嫌はいかがですかな。 いやあそれにしても、魔法競技会はいつ見ても盛り上がってますなあ」

「ああファズリー先生……まあ、お祭りみたいなものですからな。 生徒たちも毎年楽しみにしているぐらいですから。 それより――――」


 ダリアスはファズリーの後ろに立つもう一人の人物に視線を移す。


「失礼、ファズリー先生。 自己紹介させていただいても?」

「ヒェッヒェッ、そうでしたな」

「ダリアス学長、こうして直接お話しするのは初めてでしょうな。 私は評議会議員のロウラントです」

「評議会って魔法共生国(レイアスカント)評議会? じゃああの人この国のお偉いさんってことですか?」

「しっ、静かにしてろっ」

「ええ、お名前は存しておりますとも。 しかし、議員自らこのような場所に来るとは珍しいですな。 何か理由でも?」

「いえいえ、私も興味があっただけですよ。 ファズリー先生に無理を言って見学させていただいたというわけです」

「そうですか。 でしたら生徒たちの姿をよく見ていてあげてください。 彼らの中にはこの先この国を背負って立つ者もおりますからな。 ハハハッ」

「ええ、そのつもりです。 それはそうと、彼らは警備ですか? 幾分か物々しいようにも感じますが……」


 ロウラントは会場内にいる魔導士たちに目を向ける。


「王国内でも大捕り物があったと聞きましてな。 競技会は生徒だけの催し、外部の者が出入りすることは本来なら無いはずですがこれだけの人数になりますと紛れ込んで生徒たちに害をなすものがおるやもしれません。 その警戒と言ったところですよ」

「なるほど、最近は色々物騒ですからな。 帝国の賞金首が捕まったと言うのはどこにいても話題になっておりますよ。 お預かりしているご子息やご息女に危険があってはなりませんからな。 ところでダリアス学長、そちらが噂のお二人ですかな?」


 ギラリとロウラントの目がノールとエルビーを捕らえる。

 話題に出たことでなのか、ファズリーもノールとエルビーに視線を向けた。

 その視線を感じ取ったのか、それまで無関心っぽかったエルビーもまたファズリーたちに目を向ける。


「ひぃぃッ……」


 ファズリーが小さく悲鳴を上げた。

 どうやらエルビーと視線が合ってしまったようだ、この前の脅されたときのことを覚えていたんだろう。


「ほう、噂……ですか?」

「ああいや、これは失礼しました。 実はあの学長がお弟子さんを取られたなどと噂になっておりましてな。 いったいどのようなお弟子さんなのかと私も少々気になっておりましたので、つい言葉にしてしまいました」

「弟子などととんでもありませんよ。 昔のことではありますが彼らの村の長と少々面識がありましてな。 これも何かの縁かと思いまして。 こうして警備の協力をしてもらう代わりに多少のアドバイスならしようと言うだけのことですよ」


 面識……?

 そうか、以前ダリアスは悪魔にとってドラゴンは天敵と言っていた。

 種族的な意味だけじゃなくて、ダリアス本人もドラゴンと戦ったことがあるのかもしれない。

 そしてその中にドラゴンの長、ヴァルアヴィアルスもいたんだろう。


「そういうことでしたか。 それは早とちりしてしまいましたかな、お恥ずかしい限りです。 しかしまだ幼く見えますがなるほど、冒険者然とした佇まい、只者とは違うオーラを感じますぞ」

「ハハハッ、彼らも一人前の冒険者として活躍されているようですからな。 しかし只者と違うとは彼らも気恥ずかしいのではないですかな、まだ魔法もうまく使えぬ駆け出しの冒険者ですから。 それはそうとロウラント議員、せっかくの生徒たちの試合ですから見逃しては勿体ないのではないですかな?」

「おっとっと、これはこれは度重ねて失礼を。 私のせいでダリアス学長まで見逃してしまったとあっては生徒たちに申し訳が立ちませんな。 ファズリー先生、そろそろ」

「ヒェッヒェッ、ええ、そうですな。 ではロウラント議員、こちらへどうぞ」


 ロウラントはファズリーと共に上の方に歩いて行った。

 おそらく別の貴賓室へ向かったのだろう、招待された人間それぞれ決まった席があるようだ。


「なんか、いやぁな感じのする人でしたねー。 誰が悪魔かなんて私には分からないから、逆に全部の人が怪しく見えちゃいますよ」

「さすがにロウラント議員は違うだろ。 昔からいる人だぞ」

「まあそうですよね、だいたい悪魔だったらノール君が教えてくれるはずだし」

「そういうことだな」


 結局のところ悪魔の警戒をしつつ試合を観戦すると言う状況に落ち着き、エルビーはと言うと悪魔とか気にする様子もなく試合に夢中になっていた。


「ああ! 今のすごい惜しかったわね。 なんであそこで避けなかったのかしら。 バッて来たらサッて避けなきゃだめよね」


 身振り手振りを付けて言っているんだけど、そんな場面あったかな?


「あれは魔法剣? 魔剣? どっち?」

「あれは魔法剣」


 エルビーの疑問にノールが答える。


「ねぇ、そもそも魔法剣と魔剣って何が違うの?」

「魔剣は魔石から作られた剣で、魔法剣は魔力との親和性が高い鉱物から作った剣」

「へぇ……ノール君、よく知っているわね。 私なんて学園に入るまで全然知らなかったわよ」

「えっと、魔剣は魔石が持つ魔力によって剣そのものが魔法を発動させている、だっけ?」

「そう、それで魔法剣は魔力を持たないから使用者が魔法を付与して使う。 エルビーの持っている剣が魔法剣」

「なるほどね、魔法剣と魔剣ってどっちが強いの?」


 どちらが強いか……。

 聖剣の存在を考えれば魔法剣のほうが上じゃないかと思うけど……。

 しかしその疑問に答えたのはダリアスだった。


「それは物にもよるな。 ただ最上位で比べるなら今のところ魔法剣のほうが上であろう。 なんせ聖剣があるからな」

「そう言えば、聖剣とか伝説となるような武器は全部魔法剣なんですよねえ」

「強力な魔剣を作るためには強力な魔石、つまりそれだけ強い魔獣や魔物を倒さなくてはならぬ。 聖剣も十分イレギュラーな製法ではあるが、そんな魔獣共をほいほい倒せる人間はおらぬからな」

「そっかぁ。 あ、でもそれじゃドラゴンの魔石から剣を作ったら聖剣超えたりしないですかね?」

「ヒィッ……」


 エルビーのことを知っていて言ったわけではないだろうが、マインの狙いすませたかのような言葉にエルビーが身を怯ませる。


「あれ? エルビーさんどうかしました?」

「いやっ、なんでもないわ……」

「ハハハッ! ドラゴンの魔石か、それは試してみる価値がありそうだな。 そうは思わんか? エルビー君」


 ダリアスは言いながらエルビーを見る、その視線にエルビーはさらにブルッと身震いしていた。


「冗談はさておき、聖剣を超える魔剣などなかろう。 それと、そもそもドラゴンに魔石はないとされているからな」

「え? そうなんですか!? うわ、知らなかった……」

「勉強不足だな、マイン君」


 マインは呻き、エルビーはホッとしているようだった。

 試合は何事もなく進んでいく。

 そして残り数試合となった。


「ああ、疲れましたね。 今日は何事もなく終わりそうで良かったですよ」

「全くだな。 正直言うと多くの悪魔が入り込んでいるのかもしれないと思っていたんだが、これじゃ肩透かしもいいところだ」

「君たち、だからと言って気を抜くのではないぞ? 今日はまだ初日だ。 いつ、どのようなタイミングで襲ってくるかなど分からんのだからな」

「ハッ、警戒を厳にします」


 それから一回戦目は何事もなく終了した。

 あとは待ちに待った食事を残すだけだ。



    ◇



 翌日。

 新人戦二日目、朝食を食べ全員で競技棟へと向かう。

 また昨日のようにファズリーやロウラントが現れるかとも思ったが、貴賓室にはまったく姿を見せることは無かった。

 そして二回戦目は淡々と進み三回戦目、その第二試合にとうとう不穏な悪魔が現れる。


「あの悪魔、気を付けたほうが良い」

「え? 悪魔? どれだ?」

「あの紫の子」


 言葉と共にノールは指差す。


「ま、まさか出場選手に紛れ込んでいたのか!?」


 その紫の悪魔は鞘から剣を抜き、剣に纏うその力をさらに高める。

 紫の悪魔がこちらをちらりと見た。

 と同時にエルビーが駆け出す。


「あ、あれ!? エルビーさん?」


 突然駆け出したエルビーの姿にマインは困惑していた。

 そんなマインと同じようにエルビーの姿を目で追うダリアスは少し思考を巡らせた後に諦め交じりに嘆息していた。


「ふむ、まあいいか。 ゲーリィード君、指示を」

「あ、すみません。 二班に連絡、紫髪の少女は悪魔だ。 至急拘束せよ」

「りょ、了解!」


 ダリアスの言葉で我に返ったのかゲーリィードは部下に指示を出す。

 ちょうどのそのタイミングで紫の悪魔は対戦相手に向き直ると距離を詰め剣を振るう。

 だがその剣は対戦している生徒に届くこともなく、エルビーの剣によって阻まれたのだった。

 エルビーと悪魔の少女、幾度かの攻防の末、打ち倒すことも出来ずにエルビーが後方に飛び退く。

 あとは警備の魔術師たちが結界を展開して悪魔を拘束していた。

 突然の事態に騒めき立つ会場に監督している教師たちが落ち着くように指示をしていた。


「うぅ……」


 戻ってきたエルビーがなぜか唸っているので、とりあえず聞いてみる。


「どうしたの?」

「魔法、使えなかった」

「?」

「あのね、訓練の時みたいに魔法を剣に掛けたかったのよ。 けどそれやろうとするとあの悪魔の子が攻撃してくるから全然できなかった」

「魔法、使おうとしてたんだ」

「当然でしょ! せっかくのチャンスだったんだから」

「そう」


 いつものように飛び出しいつものように切りかかっていたのでまさか魔法を使うつもりだったとは気づかなかった。

 とは言え、相手の悪魔だってそんな簡単に隙を与えてくれるわけもないだろうけど。

 悪魔に切られそうになった生徒はと言うと、しばらく座り込んだままだったがほどなくして立ち上がる。

 顔を上げた彼の表情は今のエルビーとは対照的にとても晴れやかになっていた。

 試合は若干の中断を余儀なくされたものの、大きな被害もなく無事に取り押さえられてこともありそのまま継続された。


「しかし、まさか出場選手に紛れ込んでいたとは……君たちのおかげで大事にならず良かったよ」

「けど、何のためにそんなことしたんでしょうか? フレスベリアに繋がるとは思えないんですけど」

「さあな。 だがすべての悪魔がフレスベリアを狙っていると考えるのは早計だろう。 別の目的をもって潜入してる可能性もある。 まあどっちにしても悪魔は悪魔、捕らえるだけだがな」

「でもあの時はヒヤッとしましたよ。 目の前で生徒が!ってね、いやほんとよく動けましたよね、エルビーさん。 やっぱりこう、冒険者としての勘?みたいなのがビビッと働いたって感じなんですかね?」

「ん? 別にそんなんじゃないわ。 目が合って、あっこれ挑発されてる?って思ったから受けて立ったまでよ。 悪魔なんかにわたしたちは負けたりしないわ」

「へぇ~……あの攻撃を受けてそう思えるのって逆にすごいですよね。 私はこう、切りかかられて弓がバキッと行く光景が脳裏に浮かんで……ノール君もエルビーさんもすごいなぁ」


 悪魔にとってドラゴンは天敵、エルビーの言うわたしたち(・・・・・)と言うのはたぶんドラゴンたちって意味だろう。


「いや、ちょっと待てマイン。 お前が言っているのは弓の話か悪魔と対峙する話かどっちだ?」

「弓の話に決まってるじゃないですか!」

「やはりそっちか。 あのな、剣士が相手の攻撃を剣で受けるのは普通だろう」

「弓使いにとって弓で剣の攻撃防ぐのは普通じゃないですよ!」

「わかったわかった。 なら今の弓は大切にしてやってくれ」

「もちろんですよ!」

「ねぇノール。 この剣、本当に折れたりしないのよね?」

「大丈夫。 でも同じような武器だと魔力を込めている方が有利になるから気を付けて」

「えっ……ちょっとぉ! そういうのは先に言って!」

「あの紫の悪魔の攻撃ぐらいならそのままでも大丈夫」

「危ない時は絶対先に言ってね」

「わかった」


 エルビーが持つ聖剣クラウソラスは女神リスティアーナが作った武器だ。

 それに匹敵する武器となるのは同じくリスティアーナが作った物か、あるいはあるのか分からないけど同様の力を持つはずの魔王が作る武器ぐらいになるだろう。

 魔王が武器を作ることなんてあるんだろうか。

 そんなことを考えながら、二日目も終わりに近づく。

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