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小さな依頼と学園生活2

 出発の日。

 帰路の注意点や予定などを話し合うために一度全員でシフィリアの部屋に集まった。


「皆さん、おはようございます。 それでは、これから学園に帰ることとしますが、くれぐれも気を抜かないように。 これは授業なのです。 魔獣や盗賊など危険はいっぱいあります。 帰りの馬車の中はせっかく集めた素材もありますわね。 ですがそれらを奪われまいと無理な抵抗は絶対にしてはいけません。 護衛してくれるノールさんやエルビーさんの言うことをしっかり聞くこと。 もう一度言います。 これは授業なのです。 何より大事なのは皆さんの命。 それを肝に銘じてください」

「「はい!」」


 皆が一斉に返事をする。


「では、皆さん忘れ物などありませんね? いざ出発して、あれ忘れたと言ってももう戻れませんよ? もう一度、部屋の確認を怠らないように。 それでは――――」

「あ! ちょっと待って!」

「エルビーさん、どうかしましたか?」

「うん、えっとね。 えーと……ノールが言うわ」

「え? ああ、うん分かった。 えっと、昨日、知り合いに聞いてみた。 そしたらいっぱいくれた、シュトープの実」

「はい?」


 シフィリアの間の抜けた返事を聞き流し、ノールは手に持っていた麻袋を差し出す。

 そこには袋いっぱいにシュトープの実がこれでもかと詰め込まれていた。


「こっ! これ本当にシュトープの実じゃありませんの! しかもこれほどの量を……! これ、いったいどうされたのですか!?」

「知り合いに言ったらくれた」

「え、言ったらってくれたってそんな簡単に……。 いやでもこんなに貰ってしまってよろしいのですか? この量だと相当な額になると思うのですが。 その、お知り合いの方にもお礼をさせていただいたほうが良いのかもしれませんわね」

「えっと相手は、その、秘密。 お金も気にしなくていい」

「ノールが言うように気にしなくても大丈夫よ。 本当に貰ってきただけだから」

「そうなのですか。 ええ、わかりました。 皆さんもそれぞれ思うところがあると思います。 ですがそういうものだと納得してください。 大人になるとそういった秘密の人脈と言うものを手に入れることもありますの。 ノールさんたちはおそらく冒険者としての貴重な人脈を使ってくださったのだと思いますわ。 ここはノールさんたちにお礼を言うだけに留めて、ありがたくいただくとしましょう」



   ◇ ◇ ◇



 ――――時間は遡ること昨日の夕食の後。

 エルフの森に自生していると聞いて自分も考えてはいた。

 エルビーも同じだったようで今から取りに行けないかと戻った部屋で聞かれたのだ。

 じゃあ、取りに行こうということになったわけである。

 ゲートの魔法で行けばすぐだし。

 ノールはサティナの家へとゲートを繋げる。


「あ、サティナだ。 メイフィもいるじゃん。 久しぶりー」


 サティナの家、テーブルにはサティナ以外にメイフィもいて二人でハーブティを飲んでいたらしく、二人そろってこちらを見たまま動かなくなっていた。


「あれ? これ置き物?」

「ブバァッ! ゲホッ! ゲホッ!」


 その置き物は盛大にハーブティを吹き出した。


「な!? お、おまえたち! 事前に連絡もなく人の家の中に直接転移してくる奴があるか!?」

「他に人間……じゃなくてエルフに見られるとまずいかなと思って……」

「なら離れたところに転移してから歩いてくればいいだろ!」

「んー……目標が定まらないから失敗すると思う」

「こっ……! はぁ……もう、いい。 だいたい何しに来たんだ?」

「ハーブティを飲みに来た」

「違うわよ! えっとね――――」


 エルビーが事の経緯を説明している。


「あのなエルビー。 つまりシュトープの実が欲しいと言うことだろ? 最初の変な奴に絡まれたとか食事がおいしいとかお前の持つ剣が聖剣だとかの話は必要だったか?」

「そっちは近況報告よ。 久しぶりに会ったんだから必要でしょ? わたしの聖剣、見たい? ねぇ、ねぇ」

「要らん。 それより……あ、そうだ。 シュトープの実なら分けてやるぞ。 その代わりお前たちも私に協力しろ」


 そういうとサティナは薄ら笑みを浮かべた。


「ええええええ……」

「お前な、いきなり来て図々しい頼み事しておいてなんでそんな態度取れるんだ。 全く、これだから人間は……ってお前はドラゴンだったか……クソッ」

「それで何すればいい?」

「くっ、人間のほうが物分かりが良いとは……何、ちょっとユエンファミルに用事があるのだが歩いて行けば数日以上とかかる。 だが転移ならあっと言う間だからな。 転移できるか?」

「ユエンファミル? ユエンファミル……」

「どこだっけ? それ。 いっぱいあって覚えてないわ」

「エルビーさん、ほら、樹の上に家がある集落ですよ」

「そうだったわね、さすがメイフィだわ」

「メイフィがさすがというより、お前たちの記憶力に問題があるだけではないか」

「ノールどぉ?」

「うぅ~ん。 ちょっと自信ないけど、たぶん大丈夫」

「自信ないって……。 なあ、転移魔法で失敗した場合ってどうなるんだ? 普通に発動しないだけだよな?」

「失敗したことないからわからない」

「そうか。 失敗したことないのか」

「うん。 何度か違う場所に出たことぐらいで失敗はない」

「そうか、ノールよく覚えておけ。 それを失敗と言うんだ」

「…………」

「お、おいなんか言っ――――」


 ノールは静かに魔法を発動した。

 ゲートではなく転移による強制移動。


「――――ってええええええって、オイ! 話している最中に転移させるな!」

「着いた。 失敗していない」

「そうだけども! 失敗したら嫌だねって話で、失敗じゃないから良かったねってことじゃないんだぞ!?」

「もう、サティナは細かいのよ。 メイフィを見習ったら? さっきから一言も喋らずに落ち着いているじゃない」

「いや、顔をよく見ろ。 ただ放心しているだけだ」

「へぇ器用なことしているのね」

「私は用事を済ませてくるからメイフィのこと頼んだぞ。 あとすぐ戻ってくるからここを離れるなよ」


 そう言って別れたサティナだったが本当にすぐに戻ってきた。


「これで私の用事は済んだぞ。 じゃ戻ろうか。 メイフィもいい加減戻って来い」

「ハッ……すみません。 なんていうか転移魔法って怖いですね。 私の意思とは関係なく私の体があちこちを移動しているなんて。 あっ、ノールさん、今度はゲートの魔法でお願いします。 お願いします」


 要望通りにゲートを展開させみんなで潜り抜ける。

 潜った先はサティナの家の中、つまり元の場所だ。

 

「私はこっちの魔法のほうが好きですね。 なんて言うか自分の意思が介在していることに少しだけ安心感があります。 あの、ノールさん。 私を移動させるときはぜひともこっちの魔法でお願いします」

「まったく。 あまりメイフィを虐めないでくれよ。 二人ともそこ座って待ってろ」


 椅子に座れと言う。

 つまりハーブティをご馳走してくれると言うことだろう。

 しばらくすると麻袋を持ったサティナが戻ってきた。


「え? なんだノール、その顔は……」

「ハーブティは?」

「あれ冗談とかじゃなく本当に飲みたかったのか?」

「うん」

「はぁ……まあ、じゃあ待ってろ。 あとこれ、シュトープの実な」

「わっ、こんなにいっぱい。 いいの? みんな貴重だって言ってたけど」

「そんなもの森の中をいくらか歩けばあっという間に集まるぞ。 貴重なのは人間の国ではってだけだろ」

「ふーん。 そうなんだ」


 サティナはまた奥に引っ込んでいくとしばらくして戻ってきた、今度はハーブティと一緒だ。

 香りといい味といいやはり良い。

 実をいうとハーブを貰って自分でも入れてみたりもしたがなぜか同じ味にならなかった。

 エルビーは違いが分からないと言っていたけど、やっぱりちょっと違う。

 もちろん教えてもらったやり方のはずなのだが何が違うんだろうか。

 そんなことを考えながらハーブティをすする、このひと時はとても気分がいい。


「しかしそうか。 シュトープの実は人間の国では高く売れるのか。 そうか……そうか」


 何やらサティナがまた企んでいる予感がするが放っておこう。


「エルビー。 そろそろ帰ろう」

「そうね。 ハーブティおいしかったわ、ありがとうサティナ。 それとメイフィもね」

「まったく、本当に騒がしい連中だな。 まあハーブティが飲みたければいつでも来ていいが、転移場所はちゃんと考えておいてくれ。 真っ当な客としてなら歓迎してやる」

「サティナ、ちょっと顔赤い……ふふふ」

「ウルサイ! 用が済んだらさっさと帰れ」

「はいはい。 なんかね、わたしサティナが頭目っていうの、なんとなくわかった気がする」

「ん? なんだ? やっと私の素晴らしさに気付いたのか?」

「んー、サティナって順応性高いわよね、図太いっていうか。 あ、そうだわ。 雰囲気が長老様に似ているのよね。 ひとつひとつにわざとらしく驚いているけど本心じゃないみたいな?」

「いや私は本心から驚いているんだが?」

「そう見えるって話よ。 気ままな長老様に振り回されるヴィアス様って、ちょうどサティナとメイフィにそっくりだもの」

「そうか。 まあエルビーがそう言っていたと長老殿には伝えておいてやるから安心しろ」

「へっ?」

「やっぱり知らないようだな。 長老殿も時々ハーブティを飲みに遊びに来ているぞ」

「げっ……いやー! 違うの! 今の無し! 忘れ――――」


 そしてノールは静かに転移魔法を発動した。

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