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チーム

09話 チーム の分割です。

 風狼の牙。

 それが俺たちのチーム名だ。

 そして今日は非常に気持ちがいい。

 なぜかって言うと、今日討伐の試験官を務めたわけだが、久しぶりに見どころのある奴がやって来た。

 試験として討伐する予定だったのは一角狼。

 Fランクの魔獣で子供でも臆すことが無ければ倒せる相手。

 しかも都合が良いことにこの魔獣は単体、もしくは2~3匹で行動し、それ以上の群れを成さない。

 ちなみにこの森には灰色狼ってのもいるんだがこいつらはかなりの数で群れを成し獲物を狩る。

 まずFランク冒険者が出会ったら逃げるべき魔獣である、逃げ切れるならの話だが。

 ただあの辺りでは見かけないし、万が一遭遇しても逃げられるだけの準備はしてきた。

 だが遭遇したのはまったく想定していなかったウェアウルフだった。

 ウェアウルフの奇襲には驚いたもんだが、それよりそんなウェアウルフを一人で倒しちまったノールにも驚きだ。

 で、その時の話をチームの連中にしたんだが信じてもらえなかった。

 魔獣が奇襲したことに関しての証明は難しい。

 だがノールの技量についてなら証明は簡単だ。

 実際にこいつらの前で戦ってもらえばいい。そうすればいやでも分かるってもんさ。

 明日、ギルドに行ってノールを探す。

 そして一時的にでも構わないからチームに入ってもらう。

 そういう感じで仲間を説得し快く承諾を得た。

 ちなみに、嘘だったら10日間飯代全部お前持ちなと言うおまけルール付きだったが。

 糞、覚えてやがれ。

 そんな話をしていたところへノールがやって来たわけだ。


「それで、ノール。明日からはどうする? 見た感じまだ一人で行動するにはいろいろ不安がある感じだしな。もし良かったら俺らと一緒に行動してみるかい?」


 少し考えているようだ。

 あれ? もしここで断られたら俺無条件で10日間飯代奢らされるのか?

 しかも本当だった場合の条件を俺は指定していないことに気づいたがもう遅い。

 だがノールは小さく頷き、明日からは行動を共にすることとなった。

 せっかくのチャンスをふいにしてしまったが本来の目的ではなかったし良しとしよう。

 明日はもともと洞窟調査ということでここから東、ドラゴンズ・ピークから伸びる山々にある洞窟の一つに向かう予定だった。

 ノールにはその洞窟調査に同行してもらう。

 ノールにとっては初の仕事となるわけだな。

 さぞ緊張していることだろう、とノールを見やるが黙々と出された料理を食べている。

 緊張感の欠片も感じない。

 食事もひと段落し、ノールを部屋に案内する。一人部屋だ。

 俺たちは4人チームなので2人部屋を2つ取っているがノールの寝るスペースはない。なので新しく部屋を借りた。

 ノールは物珍しそうに中を見渡している。

 宿は初めてなんだろうか? 今までずっと野宿だったのかな? 大変だっただろうに。

 そんなことを考えながら俺たちも部屋へと戻り明日の準備をした後、眠りについた。

 明日は7時起き。

 ノールには起こしに来てやるなんて言ったが実のところ俺のほうが心配ではある。

 ま、まあ大丈夫だろ…。



 翌朝。

 ああちゃんと起きられたさ。7時過ぎに。

 ささっと支度をしてノールの部屋に向かうと扉の前で準備を済ませて待っていた。


「おっ、おう、早いな。ちゃんと起きられたか?」


 小さく頷くノール。


「そ、そうか、それは良かった」


 そんな目で見ないでくれ。まだ酒が残っているんだ。

 気持ちを切り替えて他のメンバーの部屋に。

 ルドーの野郎、まだ寝てやがった。

 ゲインも起こそうとしたんだが変な返事をするだけでまったく起きてくれなかったと証言する。

 というかダーンもしれっと自分だけ支度済ませてないで起こしてくれても良かったんじゃないですかね? まったく。

 さて、これで準備万端時間通りってことで。

 洞窟調査と言う依頼だが未発見の洞窟だとか今まで封印されていた洞窟がとかそんな面白い展開ではない。

 魔獣発生の確認がメインで、おまけな感じで未発見な通路があればいいなというところだ。それでも領主からの継続調査依頼なのでそれなりのものだ。

 遺跡ではなく洞窟なので変なトラップなどはないが、極まれに強い魔獣が生まれてしまっている場合がある。

 そういうのが森に出てくる前にその場で討伐、あるいはそれが無理なら確実に情報を持ち帰り大規模な討伐作戦が行われる。

 なので普通は新人を連れていくことはない。

 とその前にまずは朝食だ。

 そのことを伝えるとノールはさっさと階段を下りる。

 どこの席に座るの?そんな感じでこちらを見てくる。

 俺がテーブルを指さすとノールはここが自分の席と言わんばかりに座り、すかさずメニューを見始める。

 作戦の概要についてはここでノールにも軽く触れておく。

 いざとなったら後ろに隠れること。ただし一人で逃げてはだめだ。

 復路で待ち伏せなんてのは存外よく聞く話だ。

 とはいえ、洞窟以前にまず森を抜けなければ話にならない。

 でだ、さっき話した灰色狼ってのがこっちを縄張りに生息してやがる。

 肉食で獰猛、そして群れで狩りをするから厄介と来た。

 だがBランク冒険者である俺らならまあ大丈夫だろうけど。

 朝食を食べ終え、一緒に頼んでいた昼用のサンドイッチを受け取ると俺たちは目的となる洞窟を目指して街を出た。

 所々で魔獣や獣と遭遇したが散発的であったり、中にはこちらに気づいた時点で逃げ出すものが多かったのでほぼ戦闘と呼べるものは起こっていない。

 俺としては昨日のウェアウルフの件もあったし、灰色狼のこともあるので若干緊張しているのを感じる。

 こういう場所で敵を警戒する役目であるダーンやもともとそういう気配に敏感なゲインもまたいつも以上に気を引き締めているようだった。

 おい、そこの脳筋、お前も周囲警戒しろ。

 ルドーを見てそう思う。

 で、肝心のノールだが、こっちはピクニックに行くような感じで付いてくる。

 さっきのサンドイッチがいけなかったか?

 従業員から受け取る時、小さな声でシャキシャキと言っているのが聞こえていた。

 気に入ったのだろうか。

 時折空を、いや太陽の位置を確認している。

 たぶんあれだな、昼のサンドイッチが待ち遠しいのだろう。



 ダーンが何かを嗅ぎつける。

 魔獣の気配か?

 ゲインは首を横に振る。

 ルドーは邪魔な木の枝を折りながら驀進する。

 ノールは太陽の位置を確認する。

 なんかものすごく心配になってきた。

 ダーンはなおも気配を探りつつ先へ進む。

 正直自分たちがここで迎え撃つメリットと言うのは少ない。

 目的である洞窟調査を優先するなら迂回してでも戦闘は避けるべきだ。

 だが本当にそれでいいのだろうか。

 もしこれが凶悪な魔獣だった場合、Bランク冒険者である自分たちが見逃せば他の低ランク冒険者が相手をすることになるかもしれない。

 それどころか街が襲われるかもしれない。

 そんなリスクは放置できない。

 それに強力な魔獣ならそれなりの魔石も持っているはずだ。

 それを手土産とすれば文句も言われまい。

 ダーンとゲインの気配を察知する能力、似ているようで実は別物だったりする。

 ダーンのほうはスキルによるもの。

 スキルと言うのは今とある場所で研究が行われている。

 スキルはその人が持つ魔力に関係していることは分かっている。

 魔力は人間ならまず誰もが持っている。

 ただし魔法やスキルが使えるかどうかは別。

 魔力があっても魔力量0なんてこともある。

 実際には0ではなく計測不可能なほど微弱ということらしいが。

 魔法と違いスキルの中には魔力量を消費しないものもあるのでそういうスキルならば使える。

 そんな魔力は人それぞれで異なり、今のところ同一の魔力持ちは二人といない、とまで言われている。

 冒険者カードの身分証はこの特性を利用している。

 スキルによる気配を察知する能力は自然的な干渉を受けない。

 魔力以外の干渉を受けないのでいろんな場所で有効なのだそうだ。

 ただ、その代わりと言うべきか、相手の強さや数など細かいところまではダーンの場合分からないと言っていた。

 上位者になれば分かるようになるのだろうか。

 これに対してゲインのほうはたぶん純粋な五感に頼っていると言うことらしい。

 一部では神から与えてもらった恩恵のようなものじゃないか、とも言われているとか。

 そしてダーンのスキルとは違い、相手の強さや数もある程度は分かるとのこと。

 ただし自然的な干渉を受ける。

 例えば木の枝を折る音や落ち葉の上をガサガサ歩く音や突然歌いだした声などのノイズでその精度や効果範囲などが著しく低下するのだそうだ。

 だから静かにしろ、脳筋。

 と、ここへ来てやっとゲインも何かを感じ取ったようだ。

 数は1体、ただランクはAからB。

 迷う。どうするべきか。

 いやさっきも言ったが放置は出来ない。

 倒せないにしても確認は必要だ。

 いろいろ逃走に便利なアイテムは持って来ている。

 全員に最悪の場合は逃げることを周知し可能な限り接近する。

 脳筋のルドーでさえ、こういうときは慎重になるようだ。

 まあ腐ってもBランク冒険者だしな。

 ダーン、そしてゲインの指示で注意深く進む。


 見えたっ!!


 そこにいたのは巨大な蜘蛛“グラブススパイダー”だった。

 ああ言いたいことは分かるさ。

 魔獣の特徴から名前を付けるのが普通ではないのか?

 そういうことだろ?

 俺もそう思う。

 グラブスってどういうことだと。

 じゃあどういう魔獣かというとだな。

 素手で触ると手がかぶれる。

 んなもんで触る時はグラブしてなってことでグラブスなんだとよ。

 手のかぶれ以外にもっと特徴的なところがあると思うんだがね。

 まあいい。ともあれ、あれは獰猛な肉食。

 しかも長いリーチ、それに触れるとかぶれるから接近戦は不利だ。

 まあ順当に考えてここは撤退だな。

 脳筋のルドーでさえこれは撤退だろうな、と言う表情をしている。


「倒すの?」


 ふとノールが聞いてきた。


「ああ。倒せる者なら倒したいな。だが、不利を押しのけて無理に戦う必要もないだろうさ。ここはまず撤退をして……」


 なんとなく、そんな予兆はしていた。

 いきなり攻撃するんだろうなと。

 ウェアウルフ戦で見た氷の矢を思い出す。

 ウェアウルフ相手には十分な威力であったが、あのグラブススパイダーにも通用するだろうか。

 でかいだけでなく、あのでかさを維持するだけの強度も備えている。

 ノールが手を前にかざす。

 全員の視線がノールに集中する……。


―――ドスッ!―――


 あれ?氷の矢が出てこなかった。

 音のしたほうを見ると、氷の槍、いや違うな、そう、まるで氷の大樹のようなものが地面から天に突き出しグラブススパイダーを貫いていた。

 あんな状態でももがいているグラブススパイダー恐るべし。

 氷の大樹は貫いただけでなく、周辺やグラブススパイダーを凍らせていく。

 Aランクの魔獣さえ一撃か……。な? 言っただろ?

 3人ともそれぞれ驚愕の表情を浮かべていた。

 そうそう、それそれ。

 ともあれ倒せたのは良かった。

 グラブススパイダーから魔石を回収したがウエアウルフなどに比べて一回り程度大きいぐらいだった。体のサイズに比べてあまり大きくないのだな。

 先に進むべきかどうか検討する。

 今回の戦闘に自分たちはまったく参加していない。

 消耗したのはノールだけ。

 もともと自分たちだけで行く予定だったのだから、ここは進むことを選択する。

 驚きの表情を見せてくれたゲインだが、今は何か浮かない顔をしている。

 何か考え事をしているようだ。


「おい、ゲイン。どうした? 秘密は無しだぜ?」

「んあっ?ああ、済まない」


 心ここにあらずってところか。


「何かあるのか? 言ってみろよ」


 しばし考えること数秒ぐらいか、そして周りには聞こえないように注意をして話し始める。


「いや、まあ大したことではない、と思うんだがちょっと気になることがあってな」

「あ? 気になること?」

「ああ。いやノールの魔法だが詠唱してたか?」

「詠唱? してねぇな。それがどうかしたのか?」

「あぁ……。俺が知る限り普通は詠唱するもんだ。魔法ってのはだいたい誰かに師事して覚えるのが一般的で俺もそうだった。そこで詠唱を教わる。その詠唱ってのも元素魔法と精霊魔法とじゃ変わってくるんだがな。俺の場合、精霊魔法の素質は無いようだ。あいつらは気まぐれだからな。うまくやれば元素魔法より威力を出せるらしいが。あ、あと俺は治療魔法も使えるがこれは元素魔法と基本的な部分で同じだ」

「へぇー。そういや前にもそういう話聞いた覚えあるな」

「ああ、チーム組み始めたぐらいのころにな。実をいうと絶対に詠唱が必要ってわけでもない。例えば魔法陣を使うことで詠唱と同じ効果、いや詠唱以上の効果を引き出すことも可能と聞く。で、これはまだ噂話だが、アイテムを使うことでもっと簡単に無詠唱で魔法を使えるようになるって話もある。これに関しては眉唾だな。ただ、これらはあくまで普通なら……だ」

「へぇ。知らなかったな。なるほど。つまりノールはやっぱりただ者じゃないってことか。」

「そうだな、かつての伝説にある勇者ってのも詠唱もせずに魔法を使っていたらしい。で、聖王国や魔法共生国でもその勇者に倣って無詠唱で魔法を使う(すべ)を研究しているんだと」

「つまり、ノールは勇者?」

「どうだかな。エルフとか亜人種にも無詠唱で魔法を扱う者がいると聞く。彼らは声とは違う方法で魔法を使うから、人間からすれば無詠唱に見えるってことらしいが」

「じゃあ、ノールはエルフなのか?」

「さあな」


 ふぅーん。分からんな。

 こういうのって大概考えても答えが出るもんじゃないんだよな。

 分かったところでノールはノールのまんまだろうしよ。

 とは言え、変に広まって聖王国とかに目を付けられても厄介だろうな。

 研究材料にされたり、とか?…まさかな。

 一応釘は刺しておくか。

 おっと、本人だけじゃなくてルドーとダーンにもだな。

 さてと、どうやって切り出したものか。


「ああ、なあノール、ちょっといいか?」


 こちらを振り返るノール。


「まあ別に大したことじゃない……らしいんだが、ウェアウルフの時もそうだし、さっきもそうだったけど、魔法使うとき詠唱してなかっただろ? あれやめた方がいいらしいぞ。特に人間の前では。普通の人間は詠唱するもんなんだとよ。そうだな、まあお前がどうやって詠唱せずに魔法使っているかは知らないが、今後魔法使うときは気を付けたほうがいい。俺たちの前なら今更な感じだけど、ボロが出ないように普段から気を付ける癖を付けたほうがいいかもだな」


 ノールは俺の言葉を聞き、何やら考えているようだ。


「わかった」


 あ、分かったんだ。理解速いなあ。ともかく、これでいいだろう。

 さて、そろそろ頃合いかな。ビッツは空を見上げた。



   ――◇◇◇――



 さあ、ノール。

 昼飯の時間だぞっと。

 俺の言葉を聞いたノールのテンションが、若干上がった気がした。

 それ、あれだよな、サンドイッチがうれしいのであって断じてピクニック気分なわけじゃないよな?

 まあ今回はそれほど急いではいないからどっちでもいいけどさ。

 と言うのも急いだところで洞窟に入るのが夜になってしまうからだ。

 どうせ暗いんだからいいんじゃないの? って思うかもだが、この洞窟はところどころ外に通じる穴があってそこから日の光が若干だが入り込む。

 そんなところに夜入り込むと穴があることに気づかずに通り過ぎようとして魔獣が穴からバァッと飛び出してくることがある。

 あれは心臓に悪い。

 ダーンやゲインなら事前に察知できるだろうけど、そこまで強行する理由もない。

 そもそも洞窟内の地図もあるからペース配分を読みやすい。

 というわけで今晩は野宿だ。

 ここから約3日にかけて出たり入ったりを繰り返す。

 この間食料は現地調達が基本となる。

 この時期は獣も多いし大丈夫だろう。

 最悪の時は、魔獣でも。

 それから睡眠時の見張りは一人ずつ交代で。

 ノールもやると言うので、ここはやらせてみよう。

 野営地は洞窟入り口からちょっとずれた場所。

 比較的開けていて山を背にして扇状に広がる地形だ。

 おそらく最初に調査した連中が野営地を組みやすいようにしたんだろう。



 探索1日目。

 まずは一番時間がかかるルートを選択する。

 やはり弱い魔獣はそれなりにいるがそれだけのようだ。

 そもそも弱肉強食の世界。

 弱い魔獣がこれだけ平和に人を襲っているなら強い魔獣などいないのではないだろうか。



 探索2日目。

 距離からするともっとも最短なんだが、最も深く潜るルート。

 魔獣の姿が見つからない。

 昨日のことを思い出すと嫌な予感しかしない。

 ただしダーン、ゲイン共に怪しげな気配はしないとのこと。

 ルドーはなぜか静か。

 ノールは、人間の倍の背丈はあるかと言う変な植物とじゃれあっている。

 っていうかこいつが原因だな。

 食肉植物。

 ノールには倒しちゃだめだぞーと警告しておく。

 間抜けな者も餌になってしまう可能性はあるが、それ以上に魔獣を餌として生きているようだ。

 足が生えて動き回るなら警戒するべきだが根を張って動かないなら人間にとって脅威ではない。

 なので放置。

 とりあえず、ギルドに報告は入れておく方向で。



 探索3日目、最終日。

 まず、探索の前に、昨夜に問題発生だ。

 いやまだ問題と言うほどのことでもないか。

 ダーンからゲインに見張りを交代するとき、ゲインが遠くの方で30匹近い魔獣の気配を感じたらしい。

 そしてちょっと探るとそこから少し近い場所に2匹ほど。

 おそらく斥候だろう。

 条件さえよければダーンよりゲインの感知能力のほうが高いようだ。

 そんな魔獣は襲ってくるかどうか。

 こればかりはどうしようもない。

 こちらから藪を突いて蛇を出すわけにもいくまい。

 さて、気を取り直して洞窟探索。

 しかしここへ来て何も見つからない。

 森であったグラブススパイダーのほうが厄介まであるほどに。

 昨日の食肉植物とグラブススパイダーどっちが強いんだろうな。

 若干興味はある。

 ルドーはいまだに静かだ。

 ノールは昨日の食肉植物をまた見たいらしい。

 当然却下だ。

 そんな時間はない。

 


 というわけで無事探索は終了した。

 ギルドへは異常なし、と報告できるだろう。

 だがもう夜なので今日はここで最後の野宿をして明日の早朝出発する。

 食事を済ませ少し早いが休むことにする。

 あとは昨晩の魔獣がどう動くかだが。

 いつ襲ってくるか分からない以上、ゲインとダーンどちらも寝ていると言う状況は避けたい。

 そこで今夜は安全重視と言うことで2名による見張りに変更する。

 ゲインと俺、ダーンとルドーの組み合わせだ。

 ゲインの能力を十全に引き出すためにはルドーには寝ていてもらったほうが良い。

 さらにダーンならばルドーの影響を受けない、というのが理由だ。

 もっともここしばらくのルドーはやけに静かだが。

 むしろそっちの方が不気味。

 ノールに関してはまあ好きにしていいと言ってある。

 まずは俺とゲインが見張り番。

 しかしもし襲ってくるとなると夜戦と言うことになるわけだな。

 睡眠の邪魔にならない程度の声でゲインに話しかける。


「なあゲイン。その魔獣襲ってくると思うか?」

「どうかな。相手はかなり慎重派のようだぞ。定期的に斥候を出してこちらの動きを探ってる。今日は襲ってこない可能性も十分ある。襲って来た場合のことはあまり考えたくないな。あの数だ。消耗戦になることは避けられないだろう」

「それで。あれは何の魔獣かは分かるか?」

「個体を識別することは出来ないさ。知ってるだろ?だがあの数でDランクだ。察しがつく」

「灰色狼か。またこんな時に」

「グラブススパイダー。あれを倒した影響かもな。あれがいなくなったことで行動しやすくなった、とか」


 はぁ…。

 俺はため息をついた。


「グラブススパイダーがこの辺りの主だったのかもしれないな。俺たちがそれを倒したことでその構造が壊れた」


 よくあることだ。

 一体の強いやつが抑止力となる。

 遭遇してしまえばどちらも危険だが一匹だけのグラブススパイダーと数十匹いる灰色狼では遭遇する確率に差が出てくるわけだ。


「無理して倒さないほうが良かったのかねぇ?」


 俺はそんなことを思った。


「そんなのは結果論だろ?どちらにせよ被害は避けられないはずだ。あれらが街を襲った場合、脅威となるのはグラブススパイダーの方だろうしな」


 それは確かに。

 そんな雑談をしながらでもゲインは警戒を緩めない。

 まだ魔獣に目立った動きは無いようだ。

 このまま朝を迎えてくれればいいのに、そう思っていると交代の時間となったようだ。

 ダーンとルドーが起きてきた。


「交代の時間か。ノールはまだ?」

「ああ、よく眠っているぞ。」


 俺の疑問にダーンが答える。


「そうか。」


 無理して起こす必要はない。

 好きにしていいと言ったのは俺たちだ。


「じゃ。俺たちは休ませてもらうぜ。」


 ダーンとルドーはどんな会話をしてるんだろうな?

 ふとそんなことを考える。


「ビッツ。ビッツ。おい、起きろ」


 声がする。

 いや寝たばかりじゃねーか。

 寝ぼけた頭でそんなことを考えながら起きる。

 声の主はゲインだった。

 俺としてはさっき寝たばかりだったはずなんだが実は普通に眠り込んでいたらしい。

 じゃあ交代の時間か?

 そう思ったが近くにダーンがいる。

 あとノールが起きていた。


「魔獣に動きがあった。おそらく仕掛けてくるぞ。準備しろ」


 ゲインの言葉が脳に染み渡る。

 おわっ!

 状況を理解し交戦の準備を始める。

 枕もとの短剣を取って腰に差し、一本だけ鞘から抜いただけだけどな。

 ゲイン曰く全体を取り囲むようにゆっくり接近してくると。

 後ろは洞窟なので後ろからは来ないと思うんだが、前回の失敗もあるし俺は後ろにも警戒を向ける。

 均一に距離を詰めてくるのかとも思ったがどうやら両サイドの距離の詰め方が速いらしい。

 となるとまず両サイドから仕掛けてきてそっちに気を取られてると正面から本命がってとこか?

 俺たちが戦うときの陣形はだいたい決まっていた。

 ルドーが先頭で敵の攻撃を防ぎつつ、俺がその周りで敵を攻撃する。

 ゲインはもっとも後ろで指示を出したり弓で牽制攻撃をしたり回復したり。

 ダーンはそんなルドーとゲインの間、ちょっとゲイン寄りだな、そこでゲインを守りつつ遊撃する。

 これが基本パターン。

 ただ今回はノールがいる。

 なのでこのパターンでダーンが少し前に出てダーンとゲインの間にノールが立つ位置取りにした。

 ノールがゲインを守るのではなく、ダーンがノールとゲインを守る。

 ノールもまた魔法で遊撃に参加する。


「正面から来る!!」


 ゲインが声を上げる。

 どうやら一番近づいていた両サイドではなく正面の魔獣が一気に間合いを詰める作戦だったようだ。

 獣でもいろいろ考えてるんだなぁ。

 数匹がルドーに飛び掛かる。

 1匹が盾に弾かれ、もう1匹が大剣に切り伏せられる。

 盾に弾かれた1匹を俺が仕留め、すかさずルドーの近くにいるもう1匹も仕留めた。

 ルドーのやつ、足に犬っころが噛みついているけど痛くないのかね?

 そんな1匹をルドーは上から振り下ろした大剣でまさに叩き潰した。

 ほんとこいつは、こと戦闘になるとびっくりする。

 間髪入れずに襲い掛かる灰色狼。

 おっと今度は俺狙いのようだ。

 だがあまい。

 向かってくる灰色狼にこちらから距離を詰め相手の攻撃タイミングを外す。

 そして喉元に右手の短剣を突き立てた。

 短剣を引き抜きながら右手を振り払い、左手でもう1本短剣を抜くとさらに接近してくる灰色狼に正対する。

 こちらの戦い方を読んでいるのか飛び掛かろうとせずに低い位置から攻撃を仕掛けようとする。

 これに対し俺は後ろに飛んだ。

 そこに後方から弓の一撃。

 命中だ、焚火の明かりぐらいしかないのにさすがだね。

 両サイドからも迫ってくる。

 位置的に俺やルドーでは対応しづらいが、ちょっと視界に入った限りではノールが淡々と氷の矢を飛ばしていた。

 1本ずつだったり2~3本同時だったりと器用に氷の矢を出現させ当てている。

 ここまで全部で十数匹ほど。

 そして灰色狼の遠吠え。

 おそらく戦闘終了の合図だろう。

 戦略的撤退ってやつだろうか。

 それまでこちらに攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっていた灰色狼たちが一斉に引いていった。

 もう少し苦戦するかとも思ったが意外に楽勝だったな。

 ダーンの活躍無しかよ!そう思われた方、ご安心を。

 俺やルドーを抜けていった灰色狼をちゃんとやっていたよ。

 これだけ手痛いしっぺ返しを食らったんだ、リベンジはさすがにないだろう。

 念のためゲインが気配を探る。

 大丈夫。

 とりあえず俺たちに被害は無し。

 と、足噛まれてたやつがいたっけ。

 ゲインが魔法で治療する。

 ふぅ。

 まだ夜明けまで時間があるし寝るか。



 翌朝。

 やっと帰路につく。

 道中、幾度か魔獣には遭遇した。

 だが弱いのばかりだ。

 サクッと倒して魔石を回収しておく。

 このペースなら昼を過ぎたあたりには帰れるだろう。

 そんなことを言ったらノールが昼飯は無いのか?とばかりに視線を向けてくる。

 着いたら飯屋に連れて行ってやるよ。

 そういやこれから暑くなるか。

 日除けのローブでも買ってやるかな。


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