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小さな依頼と学園生活

「改めて自己紹介を。 初めまして、わたくしはシフィリアと申します。 お二人のことは教職員の間でも噂になっていたのですが、まさかそのお歳でCランク冒険者でいらっしゃるとは思いもよりませんでした。 数日の間ですがよろしくお願いしますわ」

「よろしく。 わたしはエルビーよ。 で、こっちがノール。 盗賊とは何回か戦ったことあるから任せて」


 今回の護衛対象はこの教師と御者を含めて7人。

 大きな馬車なので荷台は広々としているが、帰りには多くの荷物を載せるのでこれでもギリギリらしい。


「ええ、頼りにさせていただきますわ。 お二人は先ほど競技棟で練習なされていましたけれど、魔法競技会に参加なされるのですか?」

「それねー。 学生じゃないから参加はダメなんだって。 わたしも戦いたかったのに」

「エルビーさんは魔法が得意ですの?」

「違うわ、この剣で戦うのよ」

「まあ。 それは素晴らしいですわね。 わたくしも見てみたかったですわ」


 あれ? 魔法を使わなきゃダメな競技だったんじゃないのかな?

 そんな疑問が湧いて出たところで、他の生徒の言葉から間違いではないことが分かった。


「あの。 シフィリア先生。 横からすみません。 魔法競技ですので剣で戦うのは反則になりますけど」

「あら、そうでしたわね。 けれどそれならどこまでが反則なのかしら? 魔剣や魔法剣を使うことは認めているのですよね?」

「あ、はい。 審判がマジックアイテムを持っていまして、一定の魔力反応があれば反則にはならないのです」

「まあ、そうでしたの? わたくし知りませんでしたわ。 ホホホ」

「んー、ねえ。 魔法剣って何?」


 エルビーの疑問に先ほどの生徒が答えてくれる。


「えっと魔法剣と言うのは文字通り魔法の剣なのですが……例えば剣と言う物は世の中にたくさんありますが、そのすべてが魔法に対して高い親和性を持つわけではないのです。 そこで比較的高い親和性を持った剣を魔法剣と呼んでいるんですよ。 そういう意味では魔剣も魔法剣の一種と言えます」

「それなら事前に魔力を込めた魔法剣を使うなら反則じゃない?」

「ハッ! ノールそれだわ! 魔法が使えなくても戦える! この剣にノールが魔力込めてくれればいいのよ!」

「いい着眼点ですね。 ですが事前に魔力が込められている武器や防具は確認されるんです。 込められている魔力が自分の物なら大丈夫ですが、他人の魔力だとその時点で失格になります」

「ノール反則だって。 残念だったわね!」


 残念と言われても魔法剣の話をしただけで、エルビーが参加するための話をしたわけじゃないのだけど。

 それに以前ダリアスに同じこと言われていたのもすっかり忘れているようだ、いやそもそもついさっき自分で学生じゃないからダメだと言っているのに。

 エルビーは思ったことをすぐ口に出してしまう癖があるみたい、重要な点は気を付けるように言っておかないとダメだろうか。


「学生じゃないから戦えないけど」

「あっ……」


 そう指摘してやっと思い出したようである。


「でも実をいうと毎年いるんですよ。 それで失格になる人」

「そう言えば一年間コツコツと魔力をためて出場する先輩がいるらしいな」

「あ、それ俺も聞いたことある。 大きな魔力を使う授業なんか仮病で休んだりするらしいぜ?」

「気合入ってんなー、その先輩」

「それで優勝とまで言わなくても、いいところまで行けるならいいんだけどさ。 聞く限りじゃほぼ初戦敗退らしいけど」

「それはさすがに何がしたいのかわからないぞ?」

「その人、自分で新しい魔法剣を開発するのが夢なんだって聞いたよ。 たぶん実戦テストってところなんじゃないかな?」

「ああ技術屋さんか、それじゃ納得かも」

「それにしても、競技会楽しみだなー」

「その前に俺たちはこの課題を倒さないといけない」

「だな。 材料、全部揃えばいいけど」


 どうやら生徒たちはみな、この競技会を楽しみにしているらしい。

 そんな楽しみにしているなら、ダリアスが言うように悪魔に邪魔をさせるわけにはいかないように思う。

 ノールは他凌げな生徒たちの会話に耳を傾け、そして馬車は街道を行く。

 いつの間にか仰向けに寝転び空を見上げているエルビーの姿を見て、つられるようにノールも空を見上げた。

 一面の青空が広がっている。

 馬車の中でなぜ空が見えるのかと言うと、実はこの馬車、幌すらついていない。

 雨が降ろうものならびしょ濡れになることだろう。

 もっとも今日は降る様子もないし、幌がある馬車よりも周りの景色がよく見える。

 雨自体は嫌いじゃない、たぶんエルビーも気にしないのだろう。

 けど、せっかく持ってきたサンドイッチが濡れてフニャフニャになったり、それだけがどうしても嫌なのだ。

 そうだ、ある時急に雨に降られたことがあって、お昼に食べようとしていたサンドイッチが水に浮いているということがあった。

 水に浮いているだけなら食べられるだろうと思ったけど、それを見たビッツに「ああ、こりゃもう駄目だな」と言われたんだ。

 そんなわけ……と思い食べてみたけど、おいしさの秘訣であるソースとか流れ出してておいしくなかった。

 あれ以来、雨が降る日は気を付けるようにしているが、幌など屋根がない馬車はよくよく考えれば初めてかもしれない。

 もし雨にでも降られたら今日のサンドイッチが……ん? 今日のお昼なんだろう?

 言われるがままに付いてきただけなので自分たちでは用意していなかったのを思い出した。

 これはまずい、そんなことを思っていると、何か気がかりでもあったのだろうかシフィリアが不意に生徒へ話しかける。

 

「ふーん。 もう一度必要な素材のリスト、見せていただけますか?」

「これです、どうぞ、先生」


 話しかけられた生徒も特に思うこともなかったようで何やら書かれた紙をシフィリアに渡す。

 受け取ったリストを眺めるシフィリアに、なぜか興味を持ったらしいエルビーが近づきリストを覗き込んだ。


「これ全部買うの?」

「そうですわね、クルクッカに行けばほとんど揃うと思いますわ。 ただこのシュトープの実は、ちょっと難しいかもしれません」

「え? そうなんですか? もしなかったらどうしよう……」

「この実をつける植物は栽培も難しく、自生している場所も遠くですのでなかなか手に入らないのです。 貴重なものですからクルクッカでも難しいかもしれませんわ」


 さきほどまであった明るい雰囲気がどこかに行ってしまった。

 ノールを含め皆が暗い顔をしている、エルビー一人を除いて。


「ともかく、今悩んでも仕方がありませんわ。 まずは皆さん、クルクッカで手に入れられるものは手に入れる。 そのため効率的にお店を回ることも考えてください。 適当に回るだけでは時間がかかりすぎますわ。 どの素材がどこに売っているか見当をつけるのです。 そして担当者を決める。 もしクルクッカにもなかった場合は学園内で持っていそうな人に譲ってもらうことも考えましょう」

「はい、先生。 あ、一応、それぞれが担当するものは決めてきていたんです。 えっと、こっちのリストです。 見てもらえますか?」

「ええ、確認しますわ」


 シフィリアはしばしリストを眺める。

 エルビーはまたリストを覗き込んでいた。


「これで大丈夫と思います。 ただそうですね、シュトープの実と、あとケミケの羽。 これについては担当ではない子たちも有無を確認すること。 見つけ次第購入するようにしましょう。 もし運よく余らせても問題いりません。 いいですか皆さん。 これは授業であると言うことを決して忘れないでください。 貴重な素材を手に入れることが出来ない可能性もあります。 それでも、ここでの経験は将来のあなたたちにとって無駄になることはありませんわ。 今、もっとも重要なことは恐れず、諦めずに最善を尽くすことです。 頑張りましょう」


 シフィリアの言葉にうつむいていた生徒たちが皆顔を上げた。


「はい! ありがとうございます! シフィリア先生!」

「みんな、頑張ろうな!」

「もちろんだ!」


 明るくなった雰囲気の中なぜか御者の人が泣いていたんだけど……そっとしておこう。

 それよりも今日のお昼が気になって仕方がない。



    ◇



 日が暮れひとつふたつと村に滞在しクルクッカを目指す。

 気になっていたお昼はシフィリアが人数分を用意してくれているらしく、お昼抜きという残酷すぎる展開にはならずに済んだ。

 初日の日にもっと食べたいと言うエルビーに合わせて、以降は多めに用意してくれている。

 クルクッカに着いた後は拠点として宿を借り、各自素材集めに動き出す。

 集めた素材は盗難防止の意味も含めて一度、シフィリアが使う部屋に置いておく。

 シフィリアはと言うと集めた素材を生徒が持ってくるので部屋に誰か居なければならずお留守番。

 その間自分たちはすることもないし自由時間となる、と思ったのだけどその予想は外れた。

 さっきの話に出ていたシュトープの実、シフィリアも当てを探すと言うことにしたようだ。

 そうなるとお留守番係が居なくなるわけでその係を頼まれてしまった。

 エルビーが遊びに行きたいと騒ぎだすと思ったのだけど、いつになく大人しくしている。

 エルビーがいるなら自分は外に出ていてもいいのではないかと思ったが、逆に自分を置き去りにしてエルビーだけで遊びに行ってしまうことになる気がして提案することはできずにいた。

 仕方がないのでエルビーと一緒にお留守番。

 こうして素材集めは、一部を除けば順調に進んだ。

 素材集めのために滞在して数日が過ぎ、夕食となる食事をみんなで取っている時のこと。


「ケミケの羽はなんとか手に入れることが出来ましたが、やはりシュトープの実は難しいですわね」

「もっと早くに準備していればよかったかな……」

「今回ばかりはそうとも言い切れませんわね。 聞くとここしばらくは全く入ってきていないそうですわ。 さて、皆さん。 学園に戻るのは明後日なのでまだ明日一日あります。 ですがその一日、皆さんはどういたしますか?」

「え? 明日もここで探すんじゃないんですか?」

「それもひとつの選択肢です。 ですが予定を切り上げて明日には学園に戻る、と言う案もあると思います。 そしてその一日を使って魔法共生国(レイアスカント)中を探す。 ただクルクッカでこの状態ですと学園に戻っても持っている人は見つけられないかもしれません。 皆さんはどう判断されますか?」

「あの、持っていたとして貴重な素材を分けてくれるのでしょうか」

「そうですわね、持っていたのなら交渉はわたくしが行いますわ。 まずは探す。 皆さんはそこに集中してください」

「わかりました。 みんなもそれでいいよな?」

「うん」

「いいよ、それで」


 そんな重苦しい雰囲気の中、エルビーが声をかける。


「ねえ。 その何とかの実ってどこにあるの? 遠いって言ってたけど、今から取りに行くのは無理なの?」

「ええ、わたくしが知る限りシュトープの実はエルフの森にしか自生していないのですわ。 取りに行くにも数か月以上はかかるでしょうね。 ですので現実的ではありませんの」

「エルフの森かあ」


 それぞれ食事を終え、生徒たちは明日に出発に備えて準備することとなった。

 ノールたちは……もちろん特にすることもないので暇である。

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