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新たな依頼と学園生活2

 中央管理棟にある一室でノールは目が覚める。

 エルビーはまだ寝息を立てて寝ていた。

 昨日の食事はとてもおいしかった、街の食堂とはまったく違った料理の数々を思い出すだけで食欲を刺激されお腹が鳴りそうになる。

 いや、実際鳴っていたけど。

 エルビーを起こしてすぐにでも食堂に向かいたいところではあったが、それをノールはグッと堪える。

 昨日ネリアとの別れ際、朝食は呼びに行くのでそれまで部屋で待つようにと言われてしまったのだ。

 そもそも街の食堂と違い、朝早くから開けているわけではないのだと言う。

 ネリアが来るのを待つしかない。

 今エルビーを起こしてもお腹が空いたと騒ぐだけなのでそのまま寝かせておこう。

 いや、待って。

 ネリアが来たらすぐにでも食堂に行けるようにエルビーを起こしておくべきだろうか。

 ここに来て大きな問題が立ちはだかる。

 そんなことで悩んでいるうちにネリアが来てしまった。

 正確にはまだこちらに向かっているところ。

 ともかくすぐ食堂へ行けるようにエルビーを起こす。

 体を揺すったり、起きてと声をかけて見るが一向に起きる気配がしない。

 ノールがどうしようかと迷っているうちに、ネリアは扉をノックすると扉越しに声をかけた。


「ネリアです。 時間ですので食堂に行きましょう」


 エルビーが飛び起きた。


「お腹空いたわ! ノール何してるの? 遅れるわよ?」


 納得がいかない。

 ノールの気持ちなどお構いなしにエルビーはスタスタと扉まで向かい、そして扉を開けるとそこにいるネリアに声をかける。


「おはよーネリア。 今日もいっぱい食べるわよ!」

「え? 朝からですか?」

「ネリアおはよう」

「あ、おはようございます、少年」


    ◇


 すでに多くの生徒が朝食を取っている食堂は騒がしいと言うほどではないがざわざわとしていた。

 ノールたちが食堂に入るとそんなざわざわとした雰囲気がピタッと止まる。

 と、同時にそこにいたほぼすべての者の視線がノールたちに刺さった。

 おそらくまたエルビーが何かしたんだろう、殺意も敵意もない、ただ少し悪意のある視線をノールはそう思うことにして無視した。

 エルビーは最初から視線など気にした様子もなく昨日と同じように注文して席に着き、ネリアは視線に気づいているのか、まるでその視線から逃れるように俯くだけだった。


「やっぱりここの料理おいしいわね。 ところで、この後って何するのかしら? どこ行けばいいの? ネリア知ってる?」

「あ、そうでした。 食事が終わり次第学長室へ来るようにと言付かっています。 昨日の続きだとか。 私はそのまま授業に向かいますが」

「そう。 ずっと話ばかりで飽きてきちゃうのよね、こうドカァ~ンとすごーい魔法撃ってみたいわ」

「基礎を学ぶと言うのはとても大事なことです。 魔法はひとたび間違えれば多くの人命を奪う結果にもなります」

「うげぇ……長老様と同じこと言うのね」

「それだけ大切と言うことなのです」

「ノールだって早く魔法撃ちたいわよね?」

「僕は知らないこと色々知れて楽しいから話も好き」

「裏切り者」


 それからも食事をしながらどうということもない会話を続けていた。

 ここの食事はおいしい。

 それはいいんだけど飲み物が水しかないと言う点がとても残念だ。

 たまには、そう、サティナやメイフィの淹れてくれたハーブティが飲みたい。

 せめて、街の食堂のように果実を絞った飲み物があれば良かったのに……。

 エルビーたちの話声と食器のカチャカチャと言う音が響く食堂には時折ヒソヒソとした話声が聞こえてくる。

 ノールとエルビーは昨日と同じように何度か注文と食事を繰り返し料理のうまさに満足していた。


「ああ、いっぱい食べたぁー」

「では……もういいですね。 学長室へ向かいましょう」


 食器を片付け食堂を出ると、それまで静かだった食堂には入る前のような騒がしさが戻っていった。


    ◇


「では二人とも、昨日の続きだが……。 その前に、ネリアが少し落ち込んでいるようにも見えたが何かあったのかね?」

「さあ? わたしは何も気づかなかったけど……ノールはどうだった?」

「食堂でネリアの話をしているのが聞こえていた。 それかも?」

「ネリアの話か。 ふむ。 学年首席に対するやっかみと言うものだろうか。 まあ、人も悪魔も力を持つと言うのは総じて面倒なことであるな。 ところで、昨日の実習訓練を見てお前たちはどう思った?」

「う~ん、前見た冒険者のほうが強かったと思うわ。 Aランク冒険者ね。 ここには行ったことがないって言ってた気がするけど」

「研鑽を積んだ冒険者と同列に語ることは出来ぬだろう。 特に戦場と言う場において経験の有無は生死を分けるほどに重要だ。 そしてお前たちが昨日見たのも下級や中級魔法の一部、上位ランクの冒険者ならば上級魔法ぐらいは使いこなせるであろうからな。 学長である吾輩が言うことではないが学園を卒業せずとも高位の魔法使いとなるものは多くいる」

「じゃあ、みんなはなんでここにいるの?」

「ふむ。 それまで魔法とは誰かに師事して受け継がれていくものだったのだ。 とは言えすべての者が良き師に出会えるわけでもない。 学園とはそういう者でも等しく学べるようにとあるのだよ。 最高の師に会えるのであればそれに越したことは無いがね」

「ここを卒業すれば、みんな強くなれるってこと?」

「まあ、人間種の基準で言えばだいたいその通りである。 もちろんその後の研鑽こそが重要だがな――――」


 それでも学園で教えていることは高ランクの魔法使いにとっては基礎と言える部分に過ぎないのだそうだ。

 学園ですべてを教えないのにも理由がある。

 この学園の設立の目的、それは魔法使い対する忌避感を払拭し多くの人間が魔法を使えるようにすること。

 誰もが魔法を使えればそれは日常の景色となる。

 食材を切る包丁や魔獣を狩る戦士が持つ剣を見て、それだけで恐怖する者はいないだろう。

 それと同じで魔獣を狩る魔法や生活に馴染んだ魔法を見ても恐怖しない、そんな日常を作り出す。

 そのため学園は多少魔法が使えて金さえ払えば誰でも教えを乞うことが出来るのだ。

 そう、悪意の有無など関係なく……。

 では悪意を持つ者が大きな力を得たらどうなるか。

 悪意ある者が強大な魔法を覚えては世界に混乱を招くだろう。

 剣一本で国を亡ぼすことは出来ないが、強大な魔法一つで国を堕とすことはできる。

 悪意の有無などただの人間に見抜く力はない。

 その昔、魔女と呼ばれ迫害されていた魔法使いたちがいた。

 彼らは何かしたわけでもない、ただ魔法が使えるというだけで迫害されていたのだ。

 この国はそんな魔法使いたちを救うために生まれたのに、そんな国から世界に混乱を招くようなものを生み出すわけには行かなかったのである。

 だからそこ魔法使いとして高い志を持つ者以外には多くを教えないでいるのだ。

 

「――――とまあ、どこまでが基礎的な魔法なのかなど人間のさじ加減に過ぎぬがな。 上級魔法とて国は落とせなくとも小さな村なら容易に堕とせよう。 ただ、そういった悪意あるものに対する抑止力としても多くの魔法使いがいるわけだ。 学園ですべてを教えないのは突出した力を持つ者を不用意に輩出させないためでもあるのだよ」

「ふ~ん。 でもそれだと人間側が弱くなるんじゃない? 悪魔とか魔獣でも強い相手はいくらでもいるのに。 今度の、えーと、魔法競技会だって悪魔が出てくるんでしょ?  勝てるの?」

「無論だ。 いくら人間でもその程度が上限というわけではない。 冒険者ならば上級魔法でも十分通用するが国家の戦力としては脆弱すぎるであろう? 上級魔法以上の技術を持った魔法使いとして魔術師と言う者がいるのだよ」


 魔術師という者たちの歴史はさほど古いものではない。

 彼らが使う魔法自体は昔からあったが、その威力から世界情勢を考慮し門外不出としていた。

 それが冒険者として魔法使いの知名度が上がったことや、帝国や聖王国の要請などもあり、ほどなくして魔術ギルドの設立となったのである。

 魔術ギルドに所属するのは魔術師と呼ばれ魔法使いの上級職とも言える存在となる。

 魔術師になるためにはその魔術ギルドで認定された学校を卒業した後に他の魔術師に師事し、その師から認められた者しかなれないというほどに厳しいものである。


「自己申告の魔法使いとは違って魔術師は魔術ギルドが保証する分その実力は本物だ。 魔法競技会の警備には魔術師やその見習いが当たるのだよ。 下等な悪魔程度なら問題ではない」

「魔術師なんて初めて聞いたわ。 ノール知ってた?」

「知らない」

「まあ魔術ギルド自体設立から100年にも満たないし魔術師の絶対数も少ないから知名度も低い。 だが聖王国ではすでに重用されているぐらいにはなっているぞ」


 その後もダリアスは魔術師について熱く語る。

 エルビーは心地よさそうに寝ている。

 そしてノールはと言うと、最初の魔術師はどうやって魔術師になったのかと考え込んでいた。


「ふむ。 そろそろいいか」


 ダリアスの言葉にふと我に返るノール。

 エルビーはまだ寝ているかと思ったが、いつの間にか起きていた。


「正直なところ、どうするか迷っていたのだよ。 手っ取り早く人間の魔法を覚えるなら実際に使ってみるのが一番なのだ。 しかしドラゴンの娘よ、お前の存在が実に厄介だ」

「むっ……何よそれ、ひどくない?」

「ひどくはない。 悪魔共に警戒されぬように魔法競技会が終わるまでは座学で乗り切ろうとも思ったほどだぞ。 だが吾輩なりにいろいろ考えてな、良いアイデアが浮かんだのだ」

「ほう、聞こうじゃないの?」

「なぜそう偉そうなのか……。 まあいい。 昨日見ただろう? 人間にとっては反応魔法量を上げることでさえ容易ではないのだ。 つまり下級魔法程度ならどれほど失敗しても被害が出ることはあり得ぬ。 それがドラゴンだとどうだ? ちょっとさじ加減を間違えただけで膨大な反応魔法量を供給してしまいかねない。 たかだか下級魔法程度で街ひとつぐらいなら消滅しかねないのだ」

「ん? ん~なるほど?」


 ダリアスは席を立つと後ろの棚に向かって歩き出す。


「そこで、これを使うことにした」


 そう言って手に取ったのは棚の上に置かれていたきれいに装飾された鞘に収まっている短剣だ。


「見ての通り短剣だが、ただの短剣ではないぞ」


 ダリアスは席に座ると鞘から剣を抜き、そしてエルビーに見せる。


「これは魔剣だ。 魔剣の中で能力の小さいものだがな。 ドラゴンの娘にはこの魔剣を使って、まずは魔力を込める練習をしてもらう」

「何よ、そんなの簡単よ? そんなので練習になるの?」

「そうか? まあ魔剣を使うメリットはあるぞ。 先ほども言ったが普通に下級魔法を使おうとした場合、魔力の過剰な供給は最悪な被害をもたらしかねない。 だが魔剣の場合、過剰な供給をしても魔法が暴発することはないのだ。 その魔力に耐えきれず魔剣が先に崩壊するからな」

「なんと! それは素晴らしいわね!」

「ふんっ! そう甘いものではないぞ。 この魔剣、いくらすると思っている?」

「へっ?」

「これ一本で、同程度の普通の短剣の数百倍の値段だ。 その意味、わかるな?」

「えっと……。 魔法の練習は急がなくてもいいんじゃないかなって思ってみたり……」

「今ならば競技棟が開いているはずだ。 これからそこに行って訓練する。 さあ行くぞ。 魔剣は10本あるからなんとかなるだろう。 急げ」

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