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新たな依頼と学園生活

 ネリアの実習訓練を見学したノールたちは再び学長室に戻ってきた。


「まあ見てもらった通り、と言ったところだな。 あれが今の彼らの実力と言うわけだ。 ドラゴンや我々悪魔からすれば人間の魔法などたかが知れている。 ところで、先ほどの言葉はどこまでが本当だったのかね。 ドラゴンの娘、魔法の腕前はそういう失敗もあり得ると言う話であっているのか?」

「なんの話だっけ?」

「失敗して厭味ったらしい男が丸焦げになるかもと言う話だ」

「いくらわたしでもそこまで下手っぴじゃないわよ。 そうね、成功1割、失敗9割ってところかしら」

「十分下手ではないか。 まあ仲間を攻撃しないだけマシと考えるか……なぜ目を逸らす?」

「いや、大したことじゃないから気にしないで」

「それで、少年のほうはどうなのだ?」

「たぶん、大丈夫」

「そうか。 ではまず人間の使う体系化された魔法、その基本的な話をしよう――――」


 個人の持つ魔力の量を魔力量と呼んでいる。

 そして魔法の使用によって消費する魔力量、つまり魔法ごとの消費量を魔法量と呼ぶらしい。

 魔法量には基礎魔法量と反応魔法量があり、基礎魔法量は最低限必要な魔力量を指す。

 ここに反応魔法量を追加することによって同じ魔法でありながらもその威力を増減させることができるのだそうだ。

 使用者の魔力量が基礎魔法量を下回っていた場合、魔法は発動しない。

 そして魔法を使う上で注意することがある。

 それが反応魔法量の不足である。

 多くの場合、基礎魔法量の時と同じくただ失敗に終わるだけ。

 しかし魔法には難易度と呼ばれるものがあり、難易度の高い魔法は反応魔法量が不足した場合に不足分を生命力などで補ってしまう危険があるのだ。

 下級魔法はその危険性が低く、また基礎魔法量も少ないので初心者向きの魔法と言える。

 そして複雑な効果を生み出す魔法や威力が強い大魔法は基礎魔法量が高く難易度も高い傾向にある。

 難易度とはつまり魔法制御の難しさでもあるため、その失敗は命の危険を伴うものであることを表してもいる。

 中級魔法も比較的容易に扱えるが、上級魔法になるとある程度の技量が要求されるのだ。


「――――ここまでは理解できたかね?」

「ふーん」

「まあそうだとは思ったが……。 ドラゴンの魔力量ならまず気にする必要はないだろう。 だが少年は気を付けるのだぞ。 その魔力量で高難易度の魔法は寿命を縮めかねない」

「わかった」


 その後も魔法についていろいろと教えてもらった。

 魔法にはそれぞれ固有の詠唱があること。

 ここ数百年の間、無詠唱で魔法を使う人間(・・)にダリアスは出会ったことがないこと。

 ただしそれは魔法が体系化されたことによって失われた技術とも言えるもので、体系化以前の人間は無詠唱で魔法を使っていたらしい。

 2000年ほど前ならむしろ普通のことであったのだと。

 もっとも今のように誰でも魔法を使えるのではなく、ほんの一握りの者しか魔法を使えなかった。

 魔法の体系化はそれによって失われた技術も多くあるが、同時に人間たちが得たものも多くあるのだと言う。

 そしてその得たものの中には短縮詠唱と呼ばれる技術がある。

 どの程度短縮できるかは人それぞれらしいが、無詠唱とは違い高位の魔法使いの中には短縮詠唱を会得している者も少なくないのだそうだ。

 短縮詠唱の基本は、より長い詠唱呪文の意味を崩さないようにして呪文を部分的に省略していくと言うもの。

 最も省略した形と言うのは魔法名だけを唱えると言う感じらしい。

 ちなみにここまで熟達した魔法使いは言わば名の知れた大魔法使い、と言うレベルなのだそうだ。

 いなくはないがかなり珍しい存在。


「ふむ。 しかし吾輩が悪魔だとバレているのに、その吾輩がタダで教えると言うのも何か勿体ない感じがするものだな」

「何よ、いまさらになってなんか要求する気? 人間狩って持って来いとかそんな面倒なことは嫌よ、わたし」

「そんなことわざわざお前たちなどに頼まん。 うーんそうだな。 そう言えばお前たちは冒険者だったな。 今のランクは何だ?」

「Cランクよ、二人とも」

「ほう、ならば……。 よし実はな、近々大きなイベントがあるのだ。 その見張りをしてもらおう」

「見張り? 護衛じゃなくて?」

「そうだ、見張りで良い。 特定の誰かを守って欲しいわけでもないし、何かあった時に率先してそれを阻止してほしいわけでもない」

「ふ~ん。 どういうこと?」

「最近になってこの魔法共生国(レイアスカント)の中でも見知らぬ悪魔の姿を見かけるようになったのだ。 それでその悪魔たちが何を企んでいるのか知りたいのだよ」

「それこそ自分で調べればいいんじゃないの?」

「できるならそうしている。 吾輩は正体を隠してこの地にいるのだ。 だと言うのに吾輩が自ら動けばさすがの下等悪魔相手と言えど正体がバレてしまう危険がある。 それは避けたい」

「ふ~ん。 なんでバレちゃダメなの? 怒られちゃう?」

「ふん、吾輩は高位の悪魔であるぞ。 わざわざ気に掛けなくてはならぬ者などおらん。 ただな、いや正体がバレることで上位悪魔が支配する地に手を出す者は減るだろう。 だがそれ以上に面倒な輩を呼びかねぬのだ」

「へぇ。 よく今までバレなかったわね」

「吾輩ともなればその程度は造作もない。 この国に入り込んでいる下等な悪魔共程度に見破られるはずもないぞ。 だからこそ少年にバレたのが不可解でならんのだがな。 お前たちもその点くれぐれも気を付けてくれ。 部屋の外ではただの学長でありただの人間だ」


 この部屋自体も結界が張ってあって、そういった悪魔からの監視や侵入を防いでいるのだそうだ。

 もちろんダリアス自身が出入りできなくなっては困るので、本人は除外するようにしてあるらしい。


「つまり、他の悪魔に自分が悪魔だとバレないようにしたいから僕たちに見張りをさせると言うこと?」

「まあ概ねそういうことだ、吾輩を悪魔だと見破った少年ならば有象無象の下等悪魔など容易に見破れようぞ」

「悪魔が悪魔とバレないように悪魔を見張れって……なんかややこしいわね。 それでそのイベントって何?」


 魔法競技会。

 それがイベントの名前らしい。

 魔法を使って戦い、魔法技術を競い合うイベントなのだそうだ。


「何それ! 面白そうね! わたしも参加したいわ!」

「言っておくが物理攻撃は反則となるぞ? 魔法を習いたいドラゴンの娘が魔法で戦えるのか?」

「うぐぅっ……ノールに魔法をかけてもらってそれで戦えばいいんじゃないかしら?」

「それも反則に決まっているだろう。 そもそも学生のためのイベントだ。 生徒でないお前に参加資格はないのである」

「ケチッ! あくまッ! だから入学させてって言ってるのに!」

「ダメと言っているだろうが」

「悪魔がそのイベントで何かしようとしている?」

「ふむ。 良い質問だ少年よ。 現時点でそうはっきりと決まったわけではない。 だがここ最近の活発な動きを見ているとその可能性は高いと言えよう。 何もなければそれに越したことは無いが、万が一にも馬鹿な悪魔どもに暴れられては非常に迷惑と言うものだ」

「それで見つけたらどうすればいい?」

「魔法競技会は学園の中にある競技場と呼ばれる場所で行われる。 その際、別の者たちが会場の警備をすることとなっておるのだ。 悪魔を見つけたらその者たちに報告するだけで良い。 後は彼らがなんとかするであろう」

「ふ~ん。 その人たちって悪魔に勝てるの?」

「上位の悪魔を除くなら勝てる者は少なくないぞ。 ただその悪魔を見つけるのが大変なのだ。 下級悪魔なら放つ力も弱すぎて気付かぬし、ある程度力のある悪魔ならうまく隠匿するためやはり気付かぬと言うわけだ。 かと言ってそれっぽい者を片っ端から拘束させるわけにも行くまい」

「なるほどね。 確かに簡単そうだわ。 ノールなら」

「ドラゴンの娘、お前は悪魔かどうか判別できぬのか?」

「んん~、言われたらそうかもって思えるぐらいね」

「そうか。 少年には期待しているぞ。 それからこの件は当日まであまり口外しないようにしてくれ。 悪魔に警戒されても面倒なのでな」

「わかった」

「そう言えば、滞在期間中、寝泊まりする場所が必要だな。 まああそこでいいか。 本来、生徒には学生寮と言うのがあるがお前たちは生徒ではない。 中央管理棟に来客用の部屋があるのだ。 しばらくはそこで過ごすと良かろう。 他に何か質問はあるかね」

「ねぇ、食事はもちろんタダよね?」

「生徒たちも食堂の利用は有料なのだが?」

「わたしたちは生徒じゃないもの」

「…………。 はぁ……よかろう、それについては何とかしよう。 その代わり他にも雑用を頼ませてもらうからな」


 悪魔の見張りと雑用をすると言う仕事を受け、代わりに食事を貰えることになった。

 あ、あとついでに魔法を教えてもらう。

 食堂と言う場所で出る料理がどんなものなのか気になって仕方がない。

 ちょうどお腹も空いてきたし早速食堂に行きたい。

 その気持ちを言葉にしようとした瞬間、扉をノックする音がした。


「ネリアです」


 このタイミングで……食堂が遠ざかっていく……。


「ああ、入りなさい」

「失礼します」

「ネリア君、授業のほうはもういいのかね?」

「はい、学長。 本日受ける授業はすべて終わりました」

「ふむ。 では君に頼みたいことがあるのだが構わないかな?」

「はい」

「実は彼ら二人に少しばかり雑用を依頼することとなったのだ。 その対価に私が魔法についていろいろ教えることでね。 彼らは学生ではないため学生寮は使えないが、代わりに中央管理棟の客室を利用してもらおうと思っている。 すまないがこの二人を案内してもらえないかね」

「はい、承知しました」

「待って! わたし、先に食堂に行きたいわ! お腹空いたの」

「食堂も中央管理棟にある。 すまないがネリア君。 頼めるかね」

「はい、私もこれから食事をしようと思っていましたので問題ありません」

「そうか、それではよろしく頼む」


 ダリアスがネリアに何か渡すと、ノールたちはネリアに連れられ学長室を後にした。


「にっくにっくー。 にっくがたべたいなー」


 エルビーは上機嫌なようで歌っている。

 その気持ちはとてもよくわかる。

 しばらく我慢かと思えた食事がまたすぐ近くにやって来たのだ、誰だって嬉しいはず。

 一人歌うエルビーを見てすれ違う生徒がクスクスと笑っているが本人もネリアも意に介した様子はない。

 三人は会話もすることなく食堂へとやって来たのだった。


「ここが食堂です。 ここにあるメニューからお好きな料理を選んでください。 決まったらあそこで注文しお金を渡します。 料理が出来たらあっちで受け取り、好きな席で食べます。 食べ終わったら食器を向こうに持って行ってください。 よろしいですか?」

「へえ、街の食堂とは違うのね。 街じゃお店の人が持ってきてくれてたけど」

「街の食堂と違い、生徒の数に対して働く人の数が圧倒的に少ないですから。 学園では自分たちでできることは自分たちでやると言うのが基本になります」

「ふーん。 いっぱい食べたいときに一度じゃ持てないわよね。 何回か並ばないとダメね」

「えっと、どれだけ食べる気でいますか?」

「いっぱい」


 エルビーの言葉にネリアは視線を落とす。


「これ、足りるのでしょうか……」


 革袋の中の金を見ながらポツリと呟いたネリアの声は、残念ながらノールたちには聞こえていなかったのだった。

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