魔法学園! ノールとエルビーが入学する?
「ここはお前たちのような奴が来るところじゃないんだ、失せろ」
唐突に罵声を浴びせられた。
今ノールたちがいるのは魔法共生国レイアスカント、そしてその中にある魔法学園の入り口だ。
街へは入口にいた門番に冒険者カードを見せたらすんなりと入れてくれた。
そのあと真っ先に訪れたこの場所だが、それは入ってすぐの出来事だった。
学園の中を観光していたわけでも、入ってはいけないと書かれた建物に入ろうとしたわけでもない。
「ちょっとレイマルク君。 外部の人相手に問題起こすのはさすがにマズいって」
「黙れ、俺に指図するな。 だいたいここは余計な人間が多すぎるんだ。 優秀だからと平民まで居やがる。 ましてや優秀でもない平民なんてどう考えても必要ないだろ。 お前だってそう思うだろ? なあアベル」
「そ……それは……」
「なんだ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「い、いや、僕もレイマルク君と同じことを思っているよ……」
「そうだろうさ。こいつらの服装、どう見ても平民だろ? そんな奴が来る場所じゃないんだよ、ここは」
そういえばラゥミーが言っていた。
これが貴族と言う存在なのだろう。
そんなところに一人の少女が割り込んでくる。
「こんなところで何の騒ぎですか?」
「何でもない。 お前には関係のないことだ。 引っ込んでろ」
少女を見る事もなくレイマルクは言い放つ。
「いいえ、関係あります。 そのお二人は私の知り合いなので」
その言葉に初めて少女を見るレイマルク。
「な……こんな奴らが?……クソ……」
そう言ってレイマルクとアベルはどこかに行ってしまった。
「お久しぶりです少年。 今日はどういったご用件で?」
「ん~…。 誰だっけ? いや、見覚えはあるのよ。 どっかで会ってる」
先に反応したのはエルビーだ。
「はい、先日クルクッカでお会いしました」
「あ、そうそうノールがぐるぐる巻きになってたときね。 で、名前なんだっけ?」
「ネリアです」
「そうそう、そんな名前だったわね。 えっとね、私たち魔法の勉強したくてここに来たのよ。 そしたらなんか絡まれたわ」
「なるほど、つまり学生になりたいと。 ちなみにお二人はどなたかからの紹介状はお持ちですか?」
「紹介状? ないわそんなの」
「ありませんか。 それですと少し難しいかも知れませんね。 もちろん紹介なしに実力を認めてもらい入学する方もいますが、貴族の後ろ盾があるのとないのとでは大きく変わってきます」
紹介状? そんなものが必要だとは知らなかった。
ここで魔法を学ぶのは難しいかも……。
「わかりました。 以前、帝国トップクラスの冒険者チーム《疾風迅雷の魔剣》の方々がお二人を人外レベルと言っておりました。 私はまだお二人の実力を直接見たことはありませんが、強者にそう言わしめるだけの実力をお持ちなのだと判断します。 ですので、微力ではありますが協力させていただきます。 そうですね、まずは私も所属している魔法応用学科のレイモンド先生に相談してみましょう。 適性試験を受ける必要はあると思いますが、うまく行けばレイモンド先生から入試課に話を通してもらえるかもしれませんので」
ネリアはそう言うと今の時間レイモンド先生はどこにいるだろうかと考えながら周囲を見渡してみる。
そんなネリアに声をかける人物が一人。
「いや、その必要はないよネリア君」
ネリアは振り返り、声の主を確認すると深く礼をするとともに挨拶をする。
「おはようございます、ダリアス学長。 しかし、どうしてこのような場所に…?」
「いや何、ちょっと上から見えたものでね。 それはそうとネリア君は授業があるのではないかね。 そちらの二人の案内は私が引き受けよう」
「しかし学長にそのようなことをしていただかなくても……」
「君は気にしなくて良い、それより自分のことを気にしなさい。 以前にも言ったがそう容易く授業を休まれても困るのだよ。 君の成績から考えれば授業の一つや二つなどとも思うが私にも立場があるのでね。 では、そこの二人、私について来てくれたまえ」
「はーい」
ノールたちはダリアスと呼ばれた人物について行く。
そしてとある部屋に案内された。
「まあ掛けなさい。 ここは学長室、私の部屋だ。 それで、君たち学生になりたいと言うことだね」
「ええそうよ。 わたしね、魔法を学びたいの。 試験とか言うの受ければ入れるのよね? 早く受けたいわ!」
「そうか、なるほど。 そういうことであれば――――」
エルビーは学長の言葉で期待に胸を膨らませていた。
「――――君たちの入学を認めるわけには行かない」
エルビーの顔から笑顔が抜けていく。
「ええーー! なんで!? 今のは入学ってのを許可する流れじゃないの!?」
「ふむ。少し誤解があるようだが。 ここは、魔法共生国。 人や亜人が魔法を学ぶ国なのだよ」
「知ってるわ。 だから入学したいって言ってるじゃないの」
「いやいや。 さすがにドラゴンは対象外なのだよ。 人間とでは力の差が大きすぎる、危険だ」
「ふぇっ!? ああ……え……えーと、ドラゴンって、あの、何のことか……わたしにはちょっとわからないかなー……」
「ドラゴンの娘よ、私の目はごまかせないのだよ。 下でやたらに妙な魔力を放っている者がいると思い見てみれば人化したドラゴンがいるではないか。 しかも何やら揉めているようだったしな」
どうやらさっきの出来事をここから見ていたようだ。
それであのタイミングで出てきたわけなのか。
「いや……ちょっと……何かの勘違い……だとね……思うわよ……」
そう言いながら冷や汗を垂らすエルビー。
ああ、そうか。
エルビーの様子がおかしい、その理由が分かった気がする。
「エルビー、大丈夫だよ」
「な……何が大丈夫なのよ……わたしがドラゴンだってこと、長老様にバレちゃダメだって言われて……」
「人間にバレちゃダメと言っていた、けどこの人は悪魔だからバレても平気」
「へっ? 悪魔って……」
「なんと? フハハハハハッ! これは驚いた! どうやって見破った!?」
「悪魔とは戦ったことある。 雰囲気が同じ」
「ほう。 倒したのか?」
「うん」
「正直ドラゴンの娘しか脅威と感じていなかったのだが……いやいや真の脅威は少年のほうだったか? しかし吾輩から見ても少年の魔力は並みの人間程度しか感じられんのだがな? 勇者? いや違う、一体何者だ? う~む、ただの人間ごときにこの吾輩が見破られるとは……」
「ノールはそういうのピン来るらしいのよ、わたしはあんまりよくわからないんだけど」
「ん……? ノール、と言ったか?」
「そうよ、わたしがエルビーでこの子はノール。 だからさ、ねえ入学させてよー」
「何がだからなのかわからぬが……そうか……少年はノールと言うのか……。 ンフフフフフ… ふむ、しかし……これは面白いな。 何という巡りあわせか……。 いいだろう、お前たち二人を――」
「ほんと!? いいの!? 入学いいの!?」
「落ち着けドラゴンの娘よ。 入学はダメだ」
「だから何でよ?!」
「さっきから言っているであろう。 人間とドラゴンでは力に差がありすぎるのだ。 試験には魔力を測定するものもある。 それこそ英雄を凌駕する実力と評価されてしまうだろう。 場合によってはドラゴンと言うことがバレてしまうかも知れぬぞ? 良いのか?」
「うっ、それはちょっと困るわ……」
「で、あろう。 だいたいドラゴンの魔力を持ちながら何故人間の魔法など学びたがる。 必要ないだろう?」
「この格好見れば分かるでしょ? 今のわたしは人間の冒険者なのよ。 けどドラゴンの時に教わった魔法しか知らないわ。 唱え方も知らない。 ノールとか無詠唱じゃいろいろ問題があるってゲインたちにも言われたのよ。 それじゃ困るでしょ? だから知りたいのよ」
「ふむ。 ドラゴンが人間の真似事とは。 いやそれは吾輩も同じか。 だが入学となれば教えるのはこの学園の教師でありそれは人間なのだ。 ドラゴン相手に教えられるほどの逸材はいないのだよ」
「いいわよそれでも。 人間の魔法が知りたいのだから。 なんで入学させてくれないのよ」
「だから娘よ、話は最後まで聞け。 そもそもお前たちの目的は魔法を使っていても正体がバレないように人間の使う魔法を真似したいと言うことであろう? 学園生活を送りたいわけでもこの学園の卒業資格が欲しいわけでもない。 なら入学に拘らなくてもいいはず。 基本的な魔法ぐらいならこの吾輩が教えてやる。 それで我慢しろと言っているのだ」
「え? じゃあ魔法教えてくれるの?」
「そう言っているつもりだが?」
「なんだ! 悪魔ってねちっこい嫌な奴ばかりかと思っていたけど、意外にいいやつもいるのね。 見直したわ!」
「君は悪魔に何か恨みでもあるのかね。 いや、まあ悪魔だしあっても仕方がないか……。 それで? 少年の目的も同じでいいのかね?」
「そう。 同じ」
「そうか分かった。 一人教えるのも二人教えるのも同じだ。 まずは修練所で君たちの実力のほどを見せてもらおうか」
「わかったわ。 けどそれって……威力を?」
「娘、この国を焦土に変える気か?」
「違うわよ。 なら何を見るの? 私たち本当に人間の使う魔法って知らないのよ」
「わかった。 なら座学からと言うことだな。 ん、いや、この時間なら実習中か。 ならまずは学園内を案内するとしよう。 それから娘、お前の正体は明かさずにおいてやる故、吾輩の正体も秘密にしておくのだぞ」




