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女神と呪われた者の結末

「そんなわけで、着いた」

「ふむ。 着いたのはいいが、そろそろ説明してくれても良いのではないかのう」


 神域と呼ばれる場所。

 ノールはドラゴンの長老ヴァルアヴィアルスを伴いやって来た。

 ヴァルアヴィアルスは見たことのない場所に少しだけ戸惑っている様子。


「ヴィアスでさえ連れていけぬ場所と言うのでお主を信用して、わしも聞かずにここまでついて来てしまったが……」

「えっと、実は君に会わせたい人がいる」

「わしに? ふむ誰かの?」

「今、来た」


 ノールは視線を前に戻す。

 するとその方向から一人の女性が姿を現した。


「やっと来てくれたのね。 ノール。 ずっと待っていたわ」

「あの呪いの文字はなんて書いてあったの?」

「久しぶりに会った挨拶がそれなのね……。 まあいいわ。 というかノールはあの文字読めなかったの? それは知らなかったわ、ごめんなさい。 文字ことは後で教えてあげるけど、その前に一つ聞かせて」


 その女性は神妙な面持ちでノールを見つめる。


「その方はどなた?」

「この人はヴァルアヴィアルス」

「えーと、んー、ああ、なるほど、ドラゴンね。 ってここ連れてきちゃったのね……」

「ダメ……だった?」

「いえ、ダメかと聞かれると別にダメと決まっているわけではないのだけど。 ただちょっと驚いただけと言うか。 普通は世界に住む者を連れてきたりはしないから」

「ふむ、すまぬがノールよ。 わしにも分かるように説明してもらえるかのう。 わしを一目でドラゴンと見抜くとは……。 こちらのお嬢さんやこの不思議な場所のこと。 何やらわしの目にも理解が及ばぬようでな……」

「ここは神のいる場所、この女性ひとはリスティアーナ。 君が以前、会いたいと言っていたから。 ついでだから連れてきた」

「ほう…………神…?…神?! リスティアーナ…!? ま……まさか……いや、しかしこのお力は……!? いや、どういうことじゃ?」


 ヴァルアヴィアルスは突然の告白に酷く動揺する。

 数千年と言う長い時を生きた中で神を直接この目で見たことなどないし、そんな話は聞いたこともないからだ。


「ノール、あなた何の説明をせずに連れてきたの? まったく、ホウレンソウは大事なことよ」

「うん、知ってる。 体にいい。 僕は好き。 エルビーは――――」

「野菜のことじゃないわよ。 報告、連絡、相談。 この3つをまとめてホウレンソウと言うのよ。 人間の世界では常識的な言葉なのよ、覚えておきなさい」

「そう、うん、覚えた」

「あ、ごめんなさい、ドラゴン族の方。 私はこの世界を管理する神、リスティアーナと申します。 どうぞ、よろしくお願いしますわ」

「ハッ……わしとしたことがあまりの出来事に意識が飛んでおったわ……」


 ヴァルアヴィアルスは思い出したかのようにリスティアーナの前に膝まづく。


「神リスティアーナ。 お会いできて光栄でございます。 まさか、このような日が来るとは夢にも思っておりませんでした」

「そんな硬くならなくても構いませんよ。 ノールがいろいろ世話をかけたことでしょう。 ここは神域、あなたたちのいる世界とは隔絶した神のいる領域よ」

「神域……では、やはりノールも……」

「ええ、ノールも私と同じ神です」

「では、あの時の言葉は真実であったのか……」

「僕は神だって言ったのだけど」

「も、申し訳ありませぬ。 わしは、勇者であることを隠されているのではないかと思っていたのです。 まさか、本当に神であらせられるとは思いもせず……」

「フフッ、ノール、信じられないのも無理はありませんよ。 私は一度も姿を見せたことありませんからね。 この世界にとって神とは勇者や巫女を通して感じることが出来る存在でしかなかったのです。 ヴァルアヴィアルス様も勇者に会ったことがあるのではありませんか?」

「はい、神リスティアーナよ。 2000年前、わしは勇者に会っております」

「アレからは私の力を感じ取ることが出来たはずです。 ですがノール、人化した今のあなたはその神の力を完全に隠しているように思います。 もし人化前に出会っていなければ私でも気付かなかったかもしれませんね。 神の力を隠すあなたを神と信じるのは難しいことと思いますよ」


 リスティアーナの言葉を聞き、ヴァルアヴィアルスはノールに頭を垂れる。


「ああ、神ノールよ、我らの無礼な振る舞い、どうかお許しを。 どうか……」


 しかしノールはと言うとヴァルアヴィアルスの謝罪に困惑していた。

 正直ノールにとって神と思われていなかったことはどうでも良いのだ。

 言葉を信じて貰えていなかったことをちょっとだけ残念に思っただけだった。

 そんなノールを見て悟ったのかリスティアーナは声をかける。


「ヴァルアヴィアルス様、どうかお気になさらずに。 それでノール、私もあなたに用事があったのだけど。 その前にこの方をここに連れてきた理由を聞かせてもらえるかしら?」

「えっと、ドラゴンの呪いを解いてほしい。 あと、もう許してあげて」

「な、なんとっ!?」


 ノールの言葉に驚きの声を上げるヴァルアヴィアルス。

 ドラゴンの呪い、それを解くと言う使命をヴァルアヴィアルスはエルビーに託したつもりでいた。

 それがまさか自らが直談判することになるとは思いもよらなかったのだ。


「うーん。 えっとね、ノール。 それ、いったい何の話なの?」

「…………あれ?」


 リスティアーナはドラゴンの呪いなどに心当たりがないような感じだ。

 これはいったいどういうことなのだろうか。

 ノールはひとまず経緯を説明することにした。


「ああ……ごめんなさい。 えっとね、違うのよ。 別に罰とかそういう意図でしたわけではないの。 ただまた増えすぎると生息域の問題で人間と戦争になっちゃうかもしれないからちょっと制限しておこうって思って……。 ほんとごめんなさい」

「じゃあ呪い解いてくれる?」

「だから呪いじゃないのだけど……って、まあドラゴン族からすれば呪いよね、これは。 ええ、もちろん解くわ。 ただ、そうね、約束はして欲しいかしら。 人間に危害は加えないと。 神として、立場的にもそれを見過ごすことはできないの。 とは言っても万が一の時に一方的にやられるだけじゃあなた方も納得できないでしょうし。 多少のことは目を瞑るつもりではいます」


 ヴァルアヴィアルスはリスティアーナの言葉を聞き、その言葉が体に、魂に染み込んでいく。

 ヴァルアヴィアルスは涙していた。

 2000年にも亘る長き呪いに終止符を打つことが出来たのだ。

 滅ぶことを運命づけられているのではないかと悩む日から解放される。


「ああ、女神リスティアーナよ感謝を。 我らドラゴン族、あなた様に永遠の忠誠を誓いましょうぞ」

「あ、うん、それはありがとう」

「そして神ノールよ。 この老いぼれにこのような機会を与えてくださり感謝の言葉もありませぬ。 我らはあなた様にも、決して逆らわぬことをお約束したします。 そうじゃ、エルビーにも、あなた様を主として絶対的な忠誠を誓うように言い聞かせましょう。 どうか下部しもべとして存分に使ってやって――――」

「それは嫌。 エルビーは冒険者の仲間。 エルビーに言ってはダメ」

「はっ? しかし……あの子は重ねてあなた様に非礼な振る舞いを……」

「構わない」

「ヴァルアヴィアルス様、この子が神なのは秘密に。 関係性も今まで通りでお願いしますわ。 これは女神としての命令だと思っていただいても構いません」

「はっははぁ!……お命じとあらばそのように」

「あと、ノール、あなたも自分が神であることを公言してはダメよ。 ここは私が管理する世界です。 ほら、えーと、世界の管理に影響を与えてしまうかもしれないでしょ?」

「わかった」

「それとヴァルアヴィアルス様。 先ほどの話にもあったことですが、ドラゴンの領域から出てはいけないというのは勇者との約束なのですよね? 私はその件に関わっていないので何とも言えません。 とは言っても勇者はもういませんし、2000年もあれば人の記憶も薄れていることでしょう。 あなた方ドラゴン族は十分にその罪を償ったのだと私は思います。 いいのではないですか、もう世界に出ても」


 リスティアーナが許可してくれた。

 これでドラゴンの憂い思いはなくなるだろう。


「ただそうですね、突然ドラゴン族が自由に空を飛び交うようになれば、人間はまた恐怖し果ては争いになるかもしれません。 ですので、今しばらくは自重をお願いしたいと思います。 もちろんヴァルアヴィアルス様のように人の姿で、と言うことであれば制限を課したりしませんので。 けどそうですね、さっきは多少のことは目を瞑ると言いましたが、人間関係で困ったことがあったらまずはノールに相談してあげて。 あなた方も神と約束する以上、手を出しにくいでしょうから」


 ヴァルアヴィアルスはいまだ跪いたままの姿勢を維持しリスティアーナの言葉を聞いていた。


「ハッ、仰せのままに。 もし我らドラゴンにできることがございましたらいつでもお命じください。 我ら一同、身命を賭してその恩義に報いたいと思います」

「え、ええ、その時はお願いしますわ」


 若干リスティアーナが引いているように見えるが気のせいだろう。


「あ、そうだったわ。 私のほうの用事を忘れるところだった。 ねえノール、ちょっと来て」


 いつもの笑顔なのだが、目が笑っていないように見えた。

 ノールは仕方なしにリスティアーナについて行く。


「さて、ノール。 これ、何?」


 リスティアーナはノールが転移させたアイテムの数々を指さして言う。


「道具」

「それは見れば分かるの。 どうしてここにあるのかを聞いているの」


 何と言えばいいのか迷っているとリスティアーナは続けて言う。


「ノールだって神なんだから自分の世界、そこに自分の神域があるはずよ。 そこに転移させればいいのではないかしら?」

「ああ、そうだった……」

「本気で忘れていたのね……」

「けどリスティアーナ、このハーブティものすごくおいしいよ」


 そういうとノールはどこから取り出したのか、ティカップから何までをさっと準備すると温かいハーブティを差し出す。


「あのね……ノール、私がこういうもので買収されるわけが――――

 っておいしいわね、これ。 へぇ人間ってこんなおいしいもの飲んでるんだ、知らなかったわ」

「このハーブティはエルフのサティナからもらった。 あとおいしい料理もいっぱいある」

「ま、まあ、そうね。 多少のものなら置いてもいいわ。 ただこのハーブティを切らさないようにしてね。 あとこのティセットも置いておくように」

「うん、わかった」

「あ、あとお客用にもう2つか3つぐらいカップを用意しておいて」

「はい」


 斯くして、ヴァルアヴィアルスとの約束を果たすことが出来たノール。

 この場所を発って以降の再会でもあり、リスティアーナには自分がこれまでに体験したことを話すこともできた。

 それとここに荷物を置くことを許してもらえた。

 ちなみにその後、獣の死体などリスティアーナに怒られそうなものは自分の神域に送ったりしたのだが。

 いざ取り出した時、その獣の死体は不気味な謎生物に変貌を遂げていた。

 たぶんだが、自分がいないことでちょっと埃(穢れ)が溜まってしまっているのだろう。

 自分の神域を使う前に一度清掃が必要だなとノールは思うのだった。

 そういうわけで自分の神域は今のところ使用していない。

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[一言] 放り込んだ獣の死体が化物になる神域とは? まあ自分の世界を管理せずに滅ぼしたある意味汚部屋の主だから仕方無いけど
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