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それぞれの選択、それぞれの進む道

「やっと帰って来られたわね。 ゲインたちいるかしら?」


 グリムハイドに戻ってきたノールとエルビーはいつもの宿屋に向かう。

 この時間だともしかしたらいないかもしれないがその場合は待っていればいいだろう。

 そう思いつつ店内の様子を伺ってみると、いつもの席にいつもの4人は座っていた。

 テーブルには食べ物は置かれてなく酒だけがある。

 これから食事なのかもう終わったところなのか、それとも今日は酒だけなのか。

 そんなことを考えつつ近づくとダーンが最初に気付きわずかに頬を緩ませる。

 そんなダーンの視線に気づいたのだろう他の3人もノールたちに視線を向けた。


「おう? なんだノールとエルビーじゃねえか! いつ戻って来たんだ? 元気にしてたか?」


 最初に声をかけてきたのは相変わらずのビッツだった。

 そしてビッツが言い終わるのを待ってゲインが声をかける。


「ほんと久しぶりだな。 あ、俺たちこれから食事にするところだったんだ。 ノールたちも食べるか?」


 これから食事するところだったのか。

 ノールたちは軽く返事をすると普段座り慣れた席に当たり前のように腰かけ、あまり多くないメニューの中からいつもの料理を注文した。

 テーブルは普段4人用らしく、どのテーブルにも4つの椅子しか置かれていない。

 しかしノールとエルビーが風狼の牙のメンバーと行動を共にするようになってからは、このテーブルだけ普段から6つの椅子が置かれるようになっていた。

 もしかしたら店員が戻していないだけなのかもしれないが、利用者の少なさもあってか風狼の牙の指定席のようになっているのだった。


「それで? どこ行ってたんだ? クラインのやつから帝国の冒険者チームと一緒に行ったって聞いたけどさ」


 ゲインの疑問にノールとエルビーは今までの経緯を話した。

 もちろんドラゴンの話は秘密にしている。


「アハハハハハハ!! お前らエルフの森まで行ったのかよ! しかも御前会議に乱入とか! やること派手だなー」

「いや笑い話じゃないだろ、ビッツ。 最悪捕まっても不思議じゃなかったんだぞ?」

「帝国の使者相手に手を出せる貴族なんて王国にはいないだろう?」

「そういえば港のほうでも何やら話題になっていたな。 深海の王とか言う化け物を子供二人が倒したって。 まさかと思っていたがやはりノールとエルビーだったか」


 ダーンは思い出したたように港で聞いたことを話す。

 そんな話にビッツは感嘆とも呆れともとれる表情を溢しながら言う。


「もうお前らが勇者か英雄って言われても納得しそうな俺がいる。 しっかし深海の王ねぇ。 あの海にそんな化け物が住んでいたとは……」

「船乗りの間ではかなり有名な話だったようだぞ。 まあ被害が数十年に一度とかいう頻度だし、そんな噂を聞いたことがある程度のものらしいが」

「俺らも帝国に行くことは何度かあったけどさ、その時に襲われなくてよかったな、マジで。 って、お前らの話しているのに当人は飯に夢中とかどういうことだよ」

「ほえ? ちゃんと聞いてるわよ。 あのウネウネしていた生き物でしょ? 味はまあまあだったわ。 けどやっぱりわたしは肉のほうが好きね」

「味って……食ったのかよ……。 いや、それより聖王国のミハラムって奴。 捕まってないんだろ? まだ王国内にいるのかね? まあ時間の問題か」

「ん? それどういう意味だ? ビッツ」

「いや、だってよゲイン。 奴が主犯の一人ってことは確定だろ? なら捕まるのも時間の問題だろ」

「それはどうかな。 ノールたちの話じゃ実行犯の一人って印象しかない。 もっと大きな組織の後ろに控えているとみるべきだろう」

「そう言えば、ノールを誘拐した女もまだ捕まってないんだっけか。 そうなるとそいつの報告からノールが目を付けられている可能性もあるってわけか」

「だな。 まったく……。 しかし、エルフ誘拐や商会の馬車襲撃、それだけじゃなくて魔獣の悪魔憑きにまで聖王国が絡んでる可能性あるのか……そうなると厄介だな……どうしようか」

「ああ? なんだ? どうかしたのかゲイン」

「もしや、例の話か?」

「え? なんだよルドー。 例の話ってなんだ?」

「ああ、あのなビッツ。 そうだな、ちょうどいいか。 ルドーには前もって相談していたことではあるんだが、冒険者ギルドからAランクとBランク冒険者に対して依頼が出されてるんだ」

「上位ランク冒険者限定の依頼? それどんな厄介ごとだよ」

「聖王国への応援って依頼」

「応援?」

「聖王国領内で悪魔付きと思われる魔獣が複数発見されているんだよ。 ここ最近はその被害も増えてきているだとさ」

「それは王国でも同じだろ? それでも聖王国に手を貸すほどってことなのか?」

「なんか聖王国領内の冒険者ギルドから連名で各国冒険者ギルド宛てに要請が出されたらしい。 話を聞く限り聖王国じゃ冒険者だけでなく神殿騎士もその対応に追われているそうだ。 が、それでも討伐が回らなくなっているって話さ」

「それで、なんで上位冒険者限定なんだ?」

「言っても相手は悪魔付きだぞ? その脅威度はよくわかるだろ。 王国内だって仕事がないわけじゃないから何チームも送るわけには行かない。 今度は王国内が回らなくなるからさ。 だから王国からの応援は高ランクチームを厳選して一つか二つってギルドは考えているらしい」

「ああ、それはまあ下位ランクの冒険者にも薬草採集とかやることはあるしな。 下位ランクを数多く送るより、上位ランクを厳選してってことか」

「そういうことだ。 もちろん俺たちは冒険者。 誰も行きたがらないならそれだけのことでもある。 ただほら、聖王国はルドーの出身国だろ? それでルドーはどうしたいかって相談していたわけだよ」

「なるほどな。 状況は分かった。 それでどうすんだ?」

「選考の期限はまだ少しあるから返事を急ぐ必要はないが。 ダーンとビッツはどうする? 俺は行っても構わないと考えているが……」

「待ってくれ。 確かに俺は聖王国の出身だ。 国境付近の片田舎だが、魔獣の被害も増えているとは聞いている。 だから俺は、俺一人でも行くつもりだ。 俺一人戻ったところで何が出来るかなんてわからないが、それでも故郷を放っておきたくはないのでな。 だがこれは俺個人の問題だ。 もし、聖王国が正常に戻ったら、その時はまた風狼の牙のメンバーに迎えてくれ」

「とまあルドーはこの調子なわけだよ。 それで二人はどうするかって相談さ」

「ルドー、お前一人でって……お前それ本気で言ってるのか?」

「当然だ、これは俺の問題だからな。 お前たちに迷惑をかけるつもりはない。 以前お前たちも言っていたではないか。 自分たちのホームはここだと、離れることは無いと」


 ルドーの言葉にビッツはやれやれと首を振りつつ返す。


「はあ。まったくわかってねえな。 聖王国に行って人々を助けたい。 そんだけのことだろ。 俺たちはチームだ。 チーム風狼の牙。 なら全員で行くのが筋ってもんだろが」

「いや、待て、これは俺の問題だと――――」


「俺はどちらでも構わんさ。 俺たちは冒険者だからな、別にグリムハイドだけに拘る理由はない、チームとして……どうするかだ」


 ダーンもまた、チームの意思を優先するのだと言う。


「メンバーの問題はチームの問題だな」


 なぜか勝ち誇ったかのようにゲインも答える。


「だから悩むことなんてないだろって。 一時的に活動拠点が変わるだけだ。 エルビーが望むような世界を旅するなんてのはさすがに無理だが、お隣の国に行くぐらいわけないさ。 いつでも帰れるじゃねぇか。 それにあの時だって仕事で行く分には構わないって言ったはずだぜ?」


 ビッツは迷うことなく言い切った。


「いやそれ言ったの俺だけどな」


 と、ゲインもツッコミを忘れない。


 そしてルドーも思い出す、自分は英雄や勇者でもなくただの冒険者なのだと。


「ああ……そうだったな……」

「んじゃ、聖王国に行くことに決定だな。 しかし、俺たちだけで内務局を相手に渡り合えるかどうか……だな」

「いや待てビッツ。 俺はそんな大それたこと思ってなかったぞ? ただ魔獣の被害が出ているから俺の手で討伐したいと言う話であって……」

「えっ? マジ……?」


 そう言って少しばかり顔が赤くなっているビッツ。

 そこにダーンが追い打ちをかける。


「ノールたちの話を聞いて英雄願望でも芽生えてしまったのか?」


 さらに顔が赤くなるビッツは酒のせいだと言い訳している。

 そんな三人をよそ目にゲインはノールとエルビーに向き直り尋ねる。


「ところでノールやエルビーはこの後どうするんだ?」

「え? あ? わたしたち? えーと、実はね、ちょっと考えていることがあって……」

「おっ? なんだエルビー悩み事か? ならこのビッツに相談するといいぞ。 今ならタダで聞いてやる」

「どうせ聞くだけで回答は他人任せだろ」


 先ほどのことをうやむやにしたいのかわざとらしく会話に混ざろうとするビッツと、そんなビッツにツッコミを入れるゲイン。


「わたし、魔法をちゃんと学んでみたいの。だから魔法共生国(レイアスカント)ってところに行ってみたいかなって……。あ、でも、みんなと聖王国に行くのでも……いいかなって……。だからわたしは……どっちでも……」

「どっちでもじゃないだろ。 俺たちは俺たちのやりたいことをする。 お前もお前のやりたいことをやれ。 冒険者ってのはそういうものだぞ。 俺たちに気を使う必要はない」


 ビッツが断言する。


「それで、ノールもついて行くのか?」


 ゲインはノールに尋ねる。


「うん。僕とエルビーはチームだから」

「おっ! なんだノールも冒険者らしくなったじゃねーか」


 そう言ってうれしそうな顔をするビッツ。


「まあいいんじゃないか。 あ、一応言っておくけど、明日の依頼はちゃんと済ませてからだからな。 俺たちが聖王国に行くのは」

「まったく雰囲気ぶち壊しだな、ゲインは」


 やれやれと言った表情を浮かべるビッツを尻目に、ゲインはノールたちに尋ねる。


「なあ、ノールたちも明日の依頼参加しないか? すぐには出発しないんだろ?」

「僕は、ちょっと用事がある。 エルビーは参加してくると良いと思う」

「ほっ? 用事? あまり主体性を感じさせないノールが珍しいな」

「用事って、ノールどこか行くの?」

「うん、でも僕一人のほうがいいから」

「そう、わかったわ。 じゃあわたしはゲインたちと行くわね」


 翌日、エルビーたちは依頼者のもとに向かった。

 それで自分はと言うと……。

 事の発端はつい先日のことだ。

 ドラゴンの長老から教えてもらったアイテムの収納。

 ノールは転移魔法を使って必要のないアイテムを収納することを思いついた。

 それが先日、収納したものを取り出すと何やら文字のようなものが書かれている時があることにエルビーが気付いたのだ。

 当初エルビーが「これ、呪いだ!」と騒いでいたが……。

 けどこれってたぶんリスティアーナからのメッセージなんだと思う。

 それで、何か用事があるのだろうと思い今度会いに行くというメッセージを添えて送ったところ、謎の呪いのメッセージは止んだので正解だったようだ。

 そんなわけで、時機を見て一度会いに行く予定ではいた。

 しかしリスティアーナのもとにエルビーを連れて行くわけにも行かないから後回しにしていたのだけど。

 今日一人になる時間もできたわけだしこれから会いに行こうと思う。

 さてと、まず初めに何の話をしようか、話したい事でいっぱいなんだ。

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